第一話 今日から高校生です!
春、それは出会いの季節。ある人は社会人一年目として、希望に満ちた未来を思い描き、またある人は学生として新学期を迎え、友好関係に一喜一憂する。
僕、花見詩織もその中の一人です。というのも、僕は今年から晴れて私立冷涼高校に通い始めます。この学校は僕の家から少し遠いけど、とある理由から進学を決意したのです。冷涼高校は県内の高校の中でも頭の良い学校の部類に入る、いわゆる進学校でもあり、また、制服にも力を入れているため、男女問わず人気のある学校なのだ。入学できたのが夢みたいだよぉ。
今日は入学式があるため、同じ学校に通うことになったとある人と僕の家の前で集合する約束をしていたんだけど、なかなか来ないんだよなぁ。すると、待ち合わせ時間を10分ほど過ぎたとき、聞きなれた声がした。お、やっときたかな?
「ごめーん、詩織っ!待った...よね?」
黒髪の長髪を一つに結んだ明るい女の子、幼馴染の斎藤雅だ。彼女が朝に弱いのはいつものことであるため、僕は笑いながら、
「大丈夫、なれてるよー、いこ?」
と返すと、雅はニコニコしながら片手でごめんとポーズした。いつものパターンなので気にしない気にしないっ。それから、僕たちは最寄り駅に向かいそこから電車で五駅またいで高校の最寄り駅に移動した。電車の時刻と雅の寝坊を加味した集合時間にしていたため、電車には余裕で間に合った。ふふ、我ながら完璧な計画ですっ!駅から出ると同じ制服の学生が大勢一緒の方向に歩いていて、その流れに僕と雅ものって目的地を目指す。すると、雅が僕の格好をまじまじと見ながら、
「しっかし、よく学校側も女子の制服着るの許してくれたよねー」
と笑いながらいった。そう、雅の言う通り僕は今、女子の制服を着ているんです!と、言うのも、僕は女装男子、いわゆる男の娘なのです。この学校の制服は女性服がとてもかわいいと評判であり、その可愛さに僕も魅了されてしまい、ダメもとで学校に訊いてみたところ、あっさりと許可してくれたのだ!実はこの学校を志望した一番の理由はこの制服だったりします。僕は両親の影響もあって、かわいいものに目がないのだ。因みに、僕の父は女装を、母は男装を常にしています。
「なんか普通に許可してくれたよー。僕のほかにも女性の方だけど男性の格好している人もいるみたいだし。」
「へー、んじゃ許してくれるわけか。ただ、あんた気をつけなさいよ?」
「ん、なにを?」
僕がそういうと、雅は目で周りを見ろと合図した。指示された通り周囲に目をやるとなぜか多くの人が僕らを見ている。
「ねえ、雅、なんか見られてるよ、僕変かなぁ?」
「はぁ、ちがうって、その逆!詩織がその恰好あまりにも似合うからみんな見ちゃうのよ」
と嘆息ぎみに言った。僕はそんなこと思っていなっかたので、言われて恥ずかしくなった。
「それに、そのせいで前みたいなことだって...」
「ん?なんて言ったの?」
「んーん、なんでもない。ただ、可愛いからモテそうだなーってね」
「そ、そんなことないよ!雅のほうがかわいいよ!」
「はいはい、どーも」
なぜでしょう、雅がふてくされてしまいました。うぅ、ごめんなさい。
そんな風に何気ない会話をして歩いていると、いつの間にか校門についていた。校門には縦書きで入学式と書かれた看板が立っていて、その横には会場の案内があった。
「詩織ー、入学式体育館だってー。いこー」
そういうと雅は先に進んでいき、僕はそのあとに続いて体育館に向かった。
体育館に入るとすでに大勢の人であふれかえっていた。
「しおりー、席自由だってー、どこ座るー?」
「んー、目立ちたくないからなー、後ろのほう?」
「もう目立ってるけどねー、んじゃあそこは?」
そういって雅は後ろの席を指さした。
「そこにしよー」
僕は雅とともにその席に座った。席についてぼーっとしていると、周りの男子からひそひそ聞こえてくる。
「あの子かわいくね?」
「それな!めっさタイプだわー」
「俺狙ってみようかな!w」
「やめとけ、お前なんか玉砕するのが関の山だw」
雅も聞こえたようで、僕に不満げな顔で呟いた。
「やっぱ男子は詩織みたいなかわいい子がタイプなのよねぇ、ほんと男子ってどうしてみんなそうなのかしら」
「僕のこと言ってるわけじゃないと思うけどなぁ」
「はぁ!?そこまでいくと嫌味よ?さっきも言ったでしょ!あんたは憎たらしいくらい可愛いの!いい加減自覚なさい!」
なぜか怒られてしまいました。僕なんかより雅のほうがよっぽどかわいいと思うんだけどなぁ。しかし、これを口に出すと余計怒らせそうだったので、雅に伝えるのはまた今度にします。そうこうしているうちに周囲が暗転し、式が始まった。
入学式も無事に終わり、クラス分けが掲示されている生徒玄関まで向かう。僕は人付き合いが得意ではないので、雅と一緒がいいんだけど、というか、そうじゃなかったらどうしよう!などと考えながら掲示板を確認すると、C組と書かれたボードに僕の名前があり、その近くに雅の名前もあった。やった!一緒のクラスです!
「詩織、一緒のクラスじゃん!保育園のころからずっと一緒だねー!」
「よかったぁ、雅が一緒じゃなかったらどうしよーって思ってたけど、ダイジョブだー」
「もー、一緒はうれしいけどさー、ちょっとは他の人とも話す努力しなさいよねー」
そうげんなりしながら雅は言った。そういわれても無理なんだけどなーと思いつつ、僕は返事をした。僕らはC組の下駄箱に靴を入れ、上履きに履き替えてから自分たちのクラスに向かった。
クラスに入ると黒板に座席が掲示されていた。どうやら、出席番号で席が決まっているわけではないらしい。
「さすがに座席は違うみたいねー、詩織はどこの席?」
「僕は真ん中の後ろだよー、雅は?」
「私は廊下側の真ん中だよん。結構離れたねー」
「どうしよう、周りの人と仲良くできるかなぁ」
「人と喋るいい機会じゃない、がんばー」
そういうとさっさと自分の席に行ってしまった。さみしいなぁと感じつつ、僕も自分の席についた。
席に着くと隣の席の男子と目があったため、軽く会釈した。うぅ、知らない人と僕ができるのはこれくらいだよぉ。あぁ、隣の人が何思ってるか分からないよ、辛い。雅のほうを見ると、雅は既に周りの人たちと話している。やっぱり雅はすごいなぁ。僕はこの先不安でしかないです。そんな風に考えていると、教室の扉があいて、声がした。
「みんな席についてるー?」
そういうと声の主は教卓に立つ。長髪の綺麗な女性だなぁ。
「んじゃとりあえず自己紹介ねー。このクラスの担任になった阿部燐花です。燐花先生ってよんでねー。これからよろしくお願いしまーす。」
わー、緩い感じの先生だー。怖い先生だったらどうしようと思ってたけど優しそうだし、少し安心した。燐花先生はクラスを見渡して頷くと、話し出した。
「今日の予定はHRをしたら、みんなで部活・サークル紹介を見るために体育館に行きます。んで、その後教室に戻ってきて、明日の連絡事項伝えて解散ってかんじなんで、よろしくねー。はい、んじゃとりあえずみんなの親睦を深めるためにも自己紹介をしてもらいます!とりあえず名前と、趣味、あとは好きなものかなー、ベタだけど。出席番号1番の相川玲菜さんからお願いします。はい、どうぞ!」
そういうと、指名された玲奈さんは立ち上がって、話し出す。まずい、とてもまずいです!僕は人前で話すことが昔から下手だから、こういうイベントが一番苦手なんだよぉ。助けを求めて雅のほうを見るが、雅は親指立てて、口パクでガンバと言うだけだった。困ったと考えていると、ついに僕の番がきてしまった!仕方がないので渋々立ち上がる。うぅ、みんなが見てる。やめてください、僕なんか見ても楽しくないですよ。そう思いながら僕は口を開く。
「えっと、花見詩織です。趣味は読書で、好きなものは甘いものと可愛いもの...です。よ、よろしくお願いしますっ!」
噛みました、恥ずかしいです、緊張で心臓とれちゃうかと思いました。あぁ、自分でも顔が赤くなってるってわかります。でも僕にしては頑張ったと思う!ナイスファイトだ、僕!などと自分を励ましているうちに全員の自己紹介が終わった。はぁ、我ながら情けない...。
部活見学までまだ時間があるらしく、燐花先生が再度呼びに来るまで教室で待機となった。先生は去り際に、
「この時間で仲良くなれるね!」
などとウィンクしながら言いていたけど、僕には人と話すこと自体出来ないので、友達なんてできるのだろうかなどと考えていたら、いつの間にか僕の机の周りが女子に占拠されていた。え、なにこれ、僕なんか悪いことしたっけ?と思ったらその中に雅もいた。どうやら雅が連れてきたらしい。
「しおりー、あんたにこの子たち紹介しようと思ってつれてきたの。」
雅はそういうと、ひとりひとり紹介していく。
「このショートヘアの子が木村夏樹、んでそっちのセミロングの子が小野寺陽菜、んで、こっちのボブの子が北島明美ねー。」
「「「よろしくー」」」
三人は声をそろえてそういった。仲良くしてくれるのはありがたいが、僕は一つ聞きたいことがあった。それは、僕は男だということ。以前も男であるために敬遠されたことがある。だから、それでも仲良くしてくれるのだろうかと僕は疑問でならなかった。
「仲良くしてくれるのはうれしいけど、僕、男だよ?それでもいいの?」
僕が三人にそう訊くと、三人はきょとんとした後、顔を見合わせてから頷いた。そして夏樹さんが口を開く。
「そうならそうと早く言ってよ!」
やっぱり女子じゃないから駄目だよね。そう思って謝ろうとしたら、明美さんがテンション高く言った。
「私たち、中学から一緒なんだけど、そのころから三人で生男の娘見みてたいって言ってたのよ!だからね、詩織...ちゃん?が男の娘って聞いて、三人とも絶対友達になりたいって思ったの!だから、これからよろしくね!」
明美さんがしゃべっている横で夏樹さんと陽菜さんはふたりでうなずいていた。それを聞いて僕はうれしくなってありがとうと言いながらみんなと握手した。そっか、この学校には僕を認めてくれる人がいるんだ!そう思うと、これからの学校生活が楽しみになってきました!と、いきなりクラスの男性陣が崩れ落ち、各々しゃべりだした。何事ですかっ!?
「し、詩織ちゃんが、男...だと!?」
「さよなら、俺の初恋...」
「詩織ちゃん...くん?」
僕はどうしていいのかわからず困惑するしかできなかったが、雅が助けてくれた。
「ほら、男ども、詩織が困惑してるでしょーが!そんなことしてないで詩織と普通に接してあげなさい!」
そういうと、さっきまでうなだれていた男子たちも僕の周りに集まってくる。雅はすごいなぁ。そして、いつの間にかクラス全員が僕の周りに集まっていた!緊張する!心臓とれちゃう!
「詩織ちゃんって男だったのかー!でも寧ろそっちのほうが親しみやすいなw」
「さっきはびっくりしたけど、男友達として仲良くしようぜ!」
「どうしてそんなに声も見た目もかわいいの!?」
「私たちとも友達になろーよ!」
僕があたふたしていると、雅が微笑みながら耳元でささやく。
「よかったじゃない、詩織を嫌がる人なんてここにはいないのよ。あんた自信持ちなさい?ここのみんなはあんたを認めてくれるのよ」
あぁ、そうなんだ、僕はここに居てもいいんだ。そう思ったとたん今まであった不安がなくなり、心が晴れた気がした。
「こんな僕でもよければよろしくお願いしますっ!」
僕は満面の笑みでそう答えたのだった。