12 龍を継ぐ者
冬休みが終わり、スターター達の鍛錬は、日に日に苛烈さを増していった。
裏山の頂上は遮るものがなく、キンと冷えた北風に、爆発音が炸裂する。
「爆弾使いの、中野さん!生成から爆発までの躊躇いのない動きは完璧です!でも爆弾生成に速さが足りません!イメージを正しく速く!」
ドリートが両掌をパチンと合わせ、一瞬で、手榴弾が出現。爆発。
ユウは防弾シャツで防ぎ、好戦的に笑った。
「刃使い、金森さん!動きの精度がいいですが、投擲から殺陣に移るときの隙が大きすぎます!
銃火器の吉本さん!集中力はピカイチですが、玉の充填が遅い!」
6班に稽古をつけるドリート。
その表情は、いつもより疲れ、余裕がなさそうだ。
「ねー、ドリート、私とスズの相手はぁ?」
「立花さんはスタミナの分配と増強のため、基礎トレをしてください!高屋敷さんは殺意が足りません、相手を親の仇だと思って!」
「た、確かにガチギレしてるときのスズはめちゃくちゃ強いわ…」
そのとき、
ざん、と、木々を揺らし、跳躍する影。
飛びかかってきた、砲弾のようなそれ。ドリートは、寸前で避けた。
勇は、舌打ちし、笑う。
「木々原さん、移動スピードは段違いに伸びましたが、そんなに音を立てては意味がありません!もっと省エネに!スマートに!」
「無茶言うな!」
勇は勝気に笑うと、ドリートに向き合って、その顔を見上げた。
「なぁドリート。勝負してくれよ。俺が負けたら夕飯奢るから。」
「僕との勝負は、そんなに安くありませんよ。」
「俺に負けるのが怖いか?」
勇を見下ろす余裕の笑みが、崩れる。
「…分かりました。叩きのめして差し上げます。」
2人は、裏山の頂上の頂上に立つ。
木々は少なく、岩肌が冷たく覗く。
クラスメイトが、見守る。
「さあ。いつでもどうぞ。」
「おう。遠慮なく、いくぜ!」
冷たい風に、喉が焼ける。
四肢が燃えるように痺れる。
筋肉一本一本が、導火線。火がつけば、一瞬で、弾ける。
瞬発。弾丸のように、
その強者に飛びかかった。
「いい、速さです!」
飛び退いたドリート。
左手をかざすと、大地が割れて、土の壁が迫り上がる。
「助言は、要らねえ!これは特訓じゃねえ、勝負だ!」
勇の右ストレートが、土の壁を粉砕する。
土煙に紛れたドリートが、刃を振るう。咄嗟、身を低く。寸前で、避ける。
四つん這いから、逆立ちのように脚を蹴り上げ、ドリートに叩き込む。
カポエイラのような技だ。
当たった手応え、の次の瞬間に、パチン、手の鳴る音と、硝煙の臭い。
「やべ!」
勇が飛び退くと、
ドン、という爆発がひとつ。
音と煙と刺激臭。
ドリートを見失う。
「見えないのは、あっちも、同じはず…なら、上か!」
勇が飛び上がると、ちょうど、空中でドリートが両手を広げて、攻撃を繰り出すところだった。
「させるか!」
重心をずらして、空中で蹴り。当たったが、受け身を取られた。たいしたダメージは、ない。
両者、ドサリと着地。
再度飛びかかるドリートに、砂利を投げる。目を守ろうとした隙をついて、アッパー。あと少しのところで、避けられる。
一歩も譲らない、互角の戦い。
稀有な能力で、戦うたび相手の能力を記憶し、レパートリーを増やすドリート。
生来の喧嘩センスと場数、親に叩き込まれた格闘技の術を、最大限活かす勇。
見るものを魅了する、頂点の戦い。
しばらくすると、両者、息が上がる。よく見ると、この寒さの中汗だくで、手足の末端が震えている。
スターター能力の発動には、スタミナの限界がある。もはや、勝負は佳境。引き分けかもしれない。
「強く、なりましたね、」
「そりゃ、おうむ返しと、対策練りながら戦うの、どっちが上達するかってんだ、」
息を切らせた勇の挑発が、ドリートに刺さる。ドリートの表情が、凍てつく。
「…そう、ですね。
おうむ返しでは、強くなんて、なれません。
僕の力は、相手を映す鏡。オリジナルを超える、優美なる虚像。僕はオウムなんかじゃない、鏡の、王だ!」
ドリートが両手を広げる。
ぶわ、と、空気が変わる。
「空気使いの技か、窒息する前に、勝負を、つけないと…」
しかし勇には、もはや、そんなスタミナが残っていない。
「…!」
木の根が足に絡みつく。動けない。あいつの間合いから、逃げられない。
「おま、え、一気に、2つの能力を…」
息が、苦しい。
意識が、飛びそうだ。
「ぐっ!?」
ドリートの蹴りで、木の根から解放される。
倒れ込み、肩がザリザリと地面を削る。
ストレングス・スターターの能力を込めたつもりのようだが、その脚は震え、もはや、ただの細身な若者のキックだった。
「僕こそ、が、王、強者、です!」
ドリートが、吠え、歯を食いしばる。
再度、渾身のキック。ほんの少しだけ強化されたキックは、勇を吹き飛ばす。
勝負あった、はずだった。
ただ1つの誤算は、
その勢いで、
勇が負けを認める前に、
崖から落下したことだ。
「勇!?」
「いっちゃん!?大変!!」
崖下に救助に向かおうとする、クラスメイト達。
「…あ」
咲が、引っ張られるように足を止める。
風使いにしか分からない、
微かな、生命の熱風が、
上昇気流のように、吹き上がった。
(相手がチタンを使うなら、力を伸ばし、チタンを破れと、あいつは言った。
俺が崖から落ちてるってなら、死なずに着地して、崖を這い上がるしかない。
こんなところで、死んでたまるか。
イメージしろ。
登竜門。俺は龍になるんだ。ムキムキの龍に。
龍に翼なんてない。でも、翔べるじゃないか。
俺には、力がある。同じように、翔べるはず!
翔ぶんだ!強く、なるんだ!!)
落下から、何秒も経たず。
その熱風は、ようやくドリートにも届く。
「な…っ!?」
崖下から、熱風を伴って昇ってくるもの。
紅い陽炎を尾のようにたなびかせて、
赤いパーカーは羽のように広がり、
「紅い、龍…」
勇は、どうやったのか、空を駆けるように舞い戻ってきたのだ。
「いっちゃん!良かった!」
「まぁ、こんなことでくたばると思ってなかったけどね。」
クラスメイトの、安堵。
「いくぞ!ドリート!仕切り直しだ!」
燃えるような陽炎が、勇の右腕に集中する。
筋繊維の、ピンと張った弓弦のような音。
ドリートは、両手を挙げて、衝撃に備えて目を閉じた。
「…え?降参?」
勇の拳は、寸止めの体勢で止まった。
降参の姿勢に、気づいたようだ。
「…はい。あなたの、勝ちです。」
スタミナ切れで防御も出来ず、ストレングス・スターターの右ストレートをそのまま喰らったら、大怪我では済まないかもしれない。
そう覚悟していたドリートが、ほっと安心して息をつく。
「その陽炎は、スターター能力の源になるエネルギーが溢れたものでしょう。規格外の、跳躍でしたね。
何故、スタミナ切れだったはずのあなたに、そんな芸当が出来たのか。
…導き出せる結果は、1つ。
強い予感はしていましたが、あなたは、ただのストレングス・スターターではありません。」
ドリートが、体位を整え、跪く。恭しく勇に頭を下げた。
「龍を継ぐ者。あなたこそ、我々キャンが崇拝し求める存在。始まりの力を司る…スターターパワー・スターターです。」
「…は?」
何のことか、とフリーズする勇と、6班のメンバー達。
「キャン族に伝わる伝承があります。
…我々の故郷には、聖なる滝があります。そこには龍が棲むとされ、我々はその龍と契約した。
龍は人の知恵と、心と、人の血の色の、鱗を。
我々は、龍と繋がる力と、滝の色の髪を、得た。
…始まりのスターターは、その龍から力を得た。我々普通のスターターと違い、その力は無尽蔵で、人々を守り救ったという。
それからも。スターターの危機が訪れるとき。その力を継ぐ者が現れるという。
…そうです。龍を継ぐ者は、無限の力をもつというのです。今の、木々原さんのように。」
「はぁ…」
実感は湧かなかったが、しっくりくることはある。
…あの永訣の日の夢。赤い龍。
悪夢を見た日。登竜門の、話。
つぼみが、龍と俺を引き合わせてくれた。俺の力は、そういうものだというのだ。
疲れた。暑くて、寒い。身体中が痛い。
夢うつつの意識で、つぼみの笑顔を反芻する。
「あ、ちょっと待って。ねぇ、いっちゃんが勝ったってことは、いっちゃんがスターターマスターになったってこと?」
「!!」
まじか、やばい、と顔を見合わせる一行。
しかし、ドリートは首を横に振った。
「すいません。僕はもう、マスターじゃないんです。」
「へ!?」
「先日。恥ずかしながら…
僕は、死神に負けてしまったんです。今のマスターは、死神です。」
「何だって!?」
驚愕している一行。
一方、勇は、
「俺が、死神を倒す。守るんだ、絶対…」
疲れ切った表情で、熱に浮かされたように呟いた。
「勇?」
糸が切れるように、
勇は膝から崩れ落ちた。
地面の硬さと冷たさに驚きながら、その意識は闇へ沈んでいった。
「勇!あんた大丈夫なの?」
咲が医務室を開けると、そこに勇の姿はなく。
校長と、学校医が話し込んでいた。
「…あぁ、2年の立花だな?あいつは、大事をとって市立病院に入院させた。風邪をこじらせて、肺炎になってたからな。」
入院というワードに、びくりとする。
その感情を隠すように、咲は腕を組んだ。
「あーあ、馬鹿は風邪ひかないんじゃなくて、こじらせるんだから!そういえば年始からずっと咳してたし。ああもう、全く!ドリート戦の後すぐ倒れるから、驚いたなんてもんじゃない!」
可愛らしいキレっぷりに、校長と学校医がクスクス笑う。
咲は、市立病院に向かおうとして、
立ち止まった。
「校長先生。ドリートが言ってたんですけど、勇って特別なスターターなんですか?」
「…ああ」
「…そうですか」
咲は振り返らず、そのまま医務室を出て行った。
沈黙が再来する。
それを破ったのは、学校医の声。
「…入院前にデータは取った。お前やドリートの読み通り、あいつは大当たりだ。だからこそ、まずい。こういうのこそ、龍を継ぐ者の大弱点だ。」
「ああ。そうだろうな。至急、キャンの里に…族長のレオに連絡を取る。ついでに、死神のことも話しておく。」
その焦りは、咲にはまだ、届かなかった。
「無菌室?面会謝絶!?どういうことですか!?」
咲の見舞いは、叶わなかった。
「ごめんなさいね。今ちょっと免疫が落ちてるから。また来てね。」
「はぁ…」
ナースステーションを通り過ぎようとした咲は、
「あの木々原さんって子、気の毒ね…」
「うん、助からないんでしょ?」
「…!?」
看護師の信じがたい言葉に、足を止めた。
「何で?さっき若い看護師のパンツ覗いたり、点滴で絶叫したり騒々しかったのに。」
「何でだか、体力と免疫力がほぼゼロなんだって。肺とリンパが雑菌にやられて、このまま段々弱って…」
「う…そ…」
咲が立ち聞きしていることには、誰も気づかなかった。
病院の入り口前のベンチ。
背中には、病院の玄関から流れる生温い暖房の風。それを打ち消す、キンと冷えたギロチンのような北風。
咲は1人、歯を食いしばって涙を流していた。
嘘だ。嘘に決まってる。
悪い夢だ。
どんなに自分に言い聞かせても、涙は止まらなかった。
「どうしたの。泣かないで。」
ふわり、と、花の匂いに顔を上げる。
そこにいたのは、可愛らしいピエロのような格好をした幼い少年だった。
どこか、生身の少年ではない、妖精のような、おかしな雰囲気がある。
少年から小さな花束を受け取ると、彼は優しく笑った。
「ぼく、マックっていうんだ。人を笑顔にする不思議な術が使えるよ。ねぇ、ぼくに何かできる?」
「…っ本当、なら、あいつを、助けたい……」
少年…マックが、咲の額に触れる。
手袋越しの、やけに、冷たい手。
「…わかった。ねぇ、きみ。願いを叶えてあげるかわりに、大切なものを失うかもしれないよ。その覚悟は、ある?」
咲は、頷いた。
「…なら、教えてあげる。彼は特別なスターター。その力は、自分の生命力を削って発揮される。使い過ぎれば、死…。その生命力を補う妙薬は、キャンの族長しか、持っていない…」
「…!?」
信じられない、という顔でマックを見る咲。マックは、無垢に微笑んだ。
「ぼくが分かるのは、そこまで。じゃあ、またね、立花さん。」
マックが立ち去った後、我に帰った咲は、急いで帰路に着いた。
「キャンの族長、ですか?」
溶けた霜柱で、ぬかるむ寮の中庭。
クラーヌは、何事かと首を傾げた。
仲のいい先輩である咲が、泡食って説明するのを聞き、彼女は神妙に頷いた。
「なるほど、妙薬が要るんですね。いいでしょう、族長は私と兄ドリートの父です。」
「なら…」
「では、キャンの掟に従い、先輩、あなたに決闘を挑みます。」
ミシミシと、大地の鳴る音。
「妙薬を渡せるのは、族長一族が決闘によって認めた場合のみ、です!」
ひび割れた地面が、レンガのようにバラバラと持ち上がる。溶けた霜の糸を引いて、浮き上がる。
「さすが、スターター始まりの民族…なら、力尽くで認めさせるまで!」
ヒョウ、と口笛のような音を立てて、北風が集まってくる。
砂の弾丸が襲う。咲の突風がそれを散らす。刃となった風が、迫り出した大地の壁をざっくり裂く。
1年生最強といわれるサンド・スターターのクラーヌ。2年最強といわれるウインド・スターターの咲。
その決闘は、苛烈を極めた。
「クラーヌちゃん!」
寮の入り口付近から、声。
「次、僕からも決闘お願いするからね!」
ユウが、両手を振っていた。
「マックから聞いたよ!クラーヌちゃんを倒さないと、いっちゃんが死んじゃうって!」
そこには、ユウだけではなく、6班のメンバーが勢揃いしていた。
「…さすがに、どう頑張っても、上級生7人抜きは無理です。」
クラーヌは苦笑し、両手を挙げて降参を示した。
「始まりの、導く龍よ。その人望、確かに見届けました。すぐ、兄と父に連絡を取ります。至急、薬を送ってもらいますよ。」
咲たちの表情も、ようやく緩んだ。
ー…そこは、爽やかで。寒くも暑くもなかった。
ザアザアと飛沫を落とす、小さな滝。
見たことのない、日本と違う草木。
ここは、どこだ?
「あ…」
滝壺の池の中に、小さな影がある。
水遊び中の、子どもだ。髪が青い。キャン族の子なんだ。
顔が飛沫で濡れていて分かりにくかったが、彼は、泣いていた。
「どうしたんだ、お前。大丈夫か?」
勇が池の前まで行くと、
少年は、くしゃっと顔を歪ませる。
スイッチが入ったように、しゃくりあげて泣きながら、近づいてきた。
…たすけて。とめて。おねがい。
「止めて?あぁ、涙を止めたいのか?なら、腹式呼吸してみろ。鼻で吸って、止めて、口から吐いて…」
勇は、少年の頭を優しく撫でてやる。
「大丈夫だから。ほら、もう話せるだろ?どうしたんだよ、一体…」
少し落ち着いた少年が、濡れた上半身を勇に寄せる。
まるで、抱きつくみたいに。
「おいおい…」
その手を握りしめると、少年は泣き顔のまま笑った。
…ありがとう 会えてよかった。
ねぇ もし また ぼくに会ったら そう伝えて。
町内放送みたいに、聴き取りにくいエコーのかかった声で、
少年はそう言った。
目を覚ますと、真っ白な天井。差し込む朝日は、鋭くて痛いくらい。
あぁ、病院だ。
あの日と、同じ……
「うお!?」
握り締めた、細身で小さな手のひら。
その先を目で辿ると、ベッドの勇にもたれるように、寝入っている咲。
どうして、こんなことに。
「寝かしといてやれ。」
その声に、はっと、我に帰る。
入り口に、小柄な人影。
叶中の学校医、宍原先生だ。
叶中には、保健室・養護教諭とは別に、医務室があって、医師が常駐している。設備も、その辺の医院に引けを取らない。
宍原先生は、毎度毎度、咲にやられた傷をあっという間に跡形もなく縫合してしまう、凄腕の医師だ。
その上、本人が言うには、スターター研究の第一人者だとか。
見た目は少年みたいなのに、訳の分からないハイスペック超人。
「覚えてるか?お前、ドリートに勝ってすぐ、肺炎で倒れたの。でもって、今ようやく、一命を取り留めたとこ。」
「え…」
なんだそれ、と、周囲を見回す。
物々しい、なんかの機械。点滴。
「立花は、キャンの連中からお前の特効薬をぶん取ってきた上、生死の境を彷徨ってるお前の手を握って、ずっと付き添ってくれたんだぜ。後でケーキでも奢ってやれよ。」
その寝顔は、いつもの凶暴性と天邪鬼さを感じさせない、慈愛に満ちたものだった。
「さて、問題です。
普通の中学生や普通のスターターは、風邪こじらせたくらいでは、そうそう命に関わることなんてない。でも、お前の場合は、まぁ有り得ること。なーんでだ?」
勇とて、その辺にいる中学生だ。
普通と違うのは、どうやら「特別なスターター」だということくらい。
よく、意味はわかっていないが。
「正解を発表しまーす。
龍を継ぐ者は、ガチバトルすると、病気にめっちゃ弱くなる体質だからでーす。」
このマッドな医師、さらりと簡潔に言いやがった。
「…お前は、スターターの中でも特異体質なの。ドリートに言われたろ?何の掛け値もない天才がいるわけねーじゃん。
無限に近い戦闘スタミナの代償は、自分の生命力ってわけ。
ちなみに、先代の龍を継ぐ者は、戦いすぎて病死した。二十歳にもならないうちに、オレの目の前でな。
…どうだ?戦うの、怖くなったか?」
「へ?」
きょとんとした声が出てしまう。
怖い?そんなこと、考えもしなかった。
「何で?普通のスターターだって、戦えばケガするし、たまには命だって危なくなるだろ?何が違うんだ?」
「ははっ。それでこそスターターの鑑だ。その様子なら、大丈夫だな。」
安心したように、宍原先生は立ち上がり、
立花が起きたらよろしくな、
なんて言い残して、病室を出て行った。
「…お、賢人。お前も見舞いか?」
病室の前で、上司兼旧友の叶に遭遇した。
「…そうか。木々原はもう大丈夫なんだな。」
「あ、また読みやがったな。やめろって言ってるだろ。」
叶校長は、生徒に会うことなく、踵を返した。宍原も、それを追う。
「…なぁ。今の体制と医療技術なら、あいつらを救えたと思うか?」
「へっ?」
校長の、唐突な質問。
宍原は、しばし考え込んで、
「コウなら、救えたと思う。キャンの特効薬も完成してるし、あいつの病気は、今の時代なら不治の病じゃない。
でも、クラウンは…正直、分からない。」
「そうか。」
校長は、ため息をついた。
かつて救えなかった、2人の友を想って。