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こ、この剣は!?

 ――コトッ。


 とりあえずこの近くにある井戸から水を汲み少し年季が入ったコップに水を入れネルに渡す。

 

 ちなみに井戸は誰も使っていなくて水が濁っていたが使っていくうちに段々飲めるようになっていった。

 初めのころは汚い水を飲んでしまって腹を下していたのは言うまでもない。


「さて。そろそろ何で君がここに居るのか教えてもらおうか」


 んぐんぐと水を飲むネル。


「ぷはぁー!」


 喉が渇いていたのか一気に水を飲み干した。


 そしてじっとこちらを見つめるネル。

 その姿に少し緊張した。

 

 ここに居る理由をそこまで言いたくないのか。

 さては重大な理由があるのか。

 もしかして僕は聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないのか?


 彼女が口を開くのを今か今かと待っていたらついに動きがあった。


「――水のおかわりを貰っていい?」


「僕の心配を返せぇ!」


 こちらをじっと見つめていたのは水のおかわりを訴えていたらしい。

 彼女の発言に身構えていた僕は裏切られた気持ちだ。


「何で水のおかわりを貰うだけでこんなに怒られるの!?」


 確かにこれで怒るのは流石に短気か。


 僕は何だかやるせない気持ちで水を汲んできてネルに渡す。


「ほら。お望みのお水だ。で、何でここに居るの?」


 ネルは僕が差しだしたコップを受け取った。

 そしてさっきと同じように、んぐんぐと水を飲む。


 僕はその光景を見守っていた。


「ぷはぁー」


 飲み終わったようだ。


「ソラ。寝る場所はどこ?」

「いいから来た理由を言え!」


 ダメだコイツ。 

 僕が言ったことすべてを忘れる能力を持っている。


「まあまぁ。そんなに慌てないくても。これから一緒なんですし」


 なるほどな。

 確かにそれは焦る理由なんて――


「え? 待って。君これからここに住むの?」

「え? 言ってませんでしたっけ?」


 今むしょうにネルをぶん殴りたくなったがまだ我慢だ。

 このくらいは慣れているだろう。


 すーはー……すーはー……

 

 いったん深呼吸を挟んでから再度聞いてみた。


「何で君はここに居るのかな?」

 

 出来るだけ自分のストレスを覆い隠すような笑顔で聞いてみる。


「え……何ですかその獲物の前に捕食するのを悟られないように出来るだけ平然としようとした結果、狂気がにじみ出てしまったその笑顔は」


 うるさい。

 てか分かってるんだったらさっさと喋れ。


「あ、すみません。えっとですね。ことの発端は今から数時間前になります」


 そりゃそうだろう。

 遺跡から逃げかえって来たのはそのくらいの時間帯だ。

 そっから何かしらあってここに来たのだろうから。


「で、そのまま家に帰ったんですよ」

「まあ君が寄り道するとは考えられないしね」


 基本ネルは外に出たくない、働きたくない、運動したくない人種だ。


 そのくせに華奢な体系は親の食事管理がいいのか太らないタイプの人間なのか。


「そしたら鍵が閉まっていて一枚の張り紙があったの」

「ほう」


 張り紙が貼ってあったのか。

 その張り紙とやらに心当たりはないが嫌な予感がする。


「確か内容は、冒険者になったのだから一人で自立していきなさいママ、パパは貴方を応援しています。そんなことが書かれてあったわ」


 あ……。

 それってつまり。


 僕は無言でネルの元に歩いていきギュッと抱きしめた。


「ソ、ソラ!? どうしたの!? そんな大胆に!?」


 コイツは。

 ネルは親に追いだされたのだ。


 働かない! 働きたくない!


 これが口癖と言っても過言ではなかったネルはいつか追い出されるだろうなぁと思っていたがついに追い出されたようだ。

 

 僕が親だったら間違いなくそうするもの。

 

 恐らくネルの将来の事を考えて心を鬼にして追い出したんだろうなぁ。


 可哀そうに。


「で。張り紙には続きがありまして」


 ん?


「困ったことがあればソラに頼りなさい。きっと何とかしてくれる。いえ、何とかしてもらいなさいって」


 前言撤回。


 つまりは私たちじゃ成人して面倒見れなくなったからソラくん、君が何とかしてね!


 恐らくそんな所だろう。

 いや、恐らくじゃなくて完璧にこれだろう。

 

 少しでも感動したのにすぐ裏切られる。

 いつも僕の気持ちを裏切ることが起きている気がする。


 そんなことを考えているとなんだか疲れがどっと来た。

 

 抱きしめたネルをぬいぐるみの様に放り投げ今日は寝ることにした。


 背後からぷぎょ!?っと声をしたが気にしない。

 

 廃墟の2階に適当にワラを敷き詰め少し小汚い毛布でくるんだ簡易ベットに寝転がった。


 ボフッ。


 少しワラが毛布を貫いて肌にチクチク刺さるがまあ、床で寝て体の節々が痛い痛いなるよりはましだ。

 そして目をつぶって今後の事を考える。


 とりあえずお金稼ぎだな。


 お金がないと装備を整えることが出来ない。

 食料は適当に街を出て取ってこれるので多少は問題ない。

 

 そんな今後の事を考えながら眠りについた。



 *



 暗い中強い光で頭がぼやぼや起き始める。


 僕は朝が弱い訳じゃないが強い訳じゃない。

 あいまいな表現だが何となくそんな感じなのだ。


 チクチクするベッドがら身を起こす。


「う~ん……」


 僕が身を起こした小さな揺れを感じたのか隣に寝てるネルが軽く唸る。

 何故こいつが隣に居るのか理解するのに少し時間がかかった。


 そうだ。

 昨日はこの廃墟にネルが来ていただった。


 何で僕の横で寝てるのだと起こして文句を言ってやろうと思ったけど、このベッドより柔らかい場所は他にはない。

 流石にネルに床で寝てろと言う訳にはいかないし。


 仕方ないか。


 そう思って寝ているネルの姿をじっと見つめる。


 彼女は無防備だ。

 安心しきったようにぐーぐー寝ている。


 色々いたずらしても起きないんだろうなぁ。

 ま、やるつもりなどないが。


 僕は彼女が起きたときようにコップを二つ持って井戸へ向かった。


 ちなみに僕が起きる前から起きていたらしいんだけどその時の僕はそんなことは知らなかった。


 廃墟にコップを持って戻ってきた。


「あ、おはようソラ」


 堂々と、長年ずっといたような雰囲気をかもしだすネル。


「おはよう。飲むだろ?」


 そう言って僕はコップをネルに渡す。


「ぷはぁーっ! ありがと。なら私は寝てくるね」


 そう言ってベッドの位置まで戻ろうとするネルの服を掴む。


「おい。働かないとお前にやる飯などないぞ」


 コイツは何で追い出されたのか理解していないのか。

 それとも理解したうえで僕を新たな寄生先だと思っているのか。


「何よ! 昨日私頑張ったよね!? 少しくらい休憩してもいいじゃない!」


 僕が止めたことに腹を立てたのかヒステリックにわめいてきた。


「例えば何頑張ったの?」

 

 無理やり冒険者にさせようと連れ出した僕が言うのも何だけどこれは素朴な疑問だ。


「え? ほら。えっと……」


 そう言って必死に言葉を探そうとしているネルは表情に焦りが見える。

 恐らく昨日の事を思い出して特に何もしていないと気付いたのだろう。


「今日は頑張ろうか」


 僕は彼女の肩に手を置く。

 

 ネルの顔を除くと抵抗する様子はなさそうだ。


「分かったわよ! 今日はうーんと稼いで楽な暮らしをしてやるわ!」

 

 開き直ったのか、急にやる気を出すネル。


「その意気だ」


 この様子なら後数日はやる気が持ちそうだ。


 僕らはこの拠点を出て朝というのに賑やかな通りに足を踏み入れる。


「あら? ギルドはそっちじゃないわよ?」


 僕が少し逸れた道を歩いてるからかネルが不思議そうな顔をしてこっちを見た。


「あぁ、少し武器屋に用事があるんだ」


 その用事とは昨日頼んでいた小剣の研磨だ。

 あの武器屋の男が言うには今日には出来上がっているらしい。

 なのでギルドに行き前にそれを取りに行く。


「何だ、てっきり道を間違えたのかと思ったわ。ギルドはあっちなのに」


 そう言って彼女の思うギルドの方向は間違えていた。


 僕は心の中で彼女を信用するのは絶対にやめよう。

 そう決意したのであった。


 それから少し歩いて、さっきの通りよりは比較的屈強な男が多い通りに付いた。


 そして昨日覗いた武器屋を探す。


「お! いらっしゃい!」


 そう威勢のいい声を共に出迎えてくれたのは昨日の男だ。


「ねぇ、昨日10ゴールドで研磨を頼んでいたんだけど」


 そう言って僕はお金の準備をする。

 懐から軽い財布を取り出した。


「おぉ、昨日の兄ちゃんか。待ってな。持ってきてやるよ」


 そして彼は後ろから所々赤みが残る小剣を持ってきた。

 

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