も、漏れちゃう!
と、言う訳で僕らは閉じ込められてしまったって訳だ。
この部屋の扉は一つだけで全くびくともしない。
「これからどうするの?」
この部屋の隅っこで三角座りをしながら声のトーンを落としてネルがぽつりと言う。
「そうだなぁ……。とりあえずこの部屋を探索するしかないんじゃないか?」
一通り見た所この部屋は立方体の部屋だ。
ここに来るまでの壁同様にひび割れた隙間から日光が差し、苔が生えツタがポツポツと壁を覆っている。
そしてその真ん中にネルが作動させたトラップ(宝箱)が置いてある。
「なぁ。この宝箱から何かめぼしい物はあったか?」
僕の声を無視してトラップに引っかかったネルに聞いてみた。
「この全然切れない剣だけ。こんなの役に立たないからソラにあげるわ」
そう言ってポイっとこちらに茶色い物体を投げてくる。
カランカランと音がして足元に転がってきたそれはさびた剣だった。
それは肘から手首くらいの大きさしかない小剣だ。
試しに剣先を触ってみると指にさびが付くくらいでネルの言う通り全然役に立ちそうにない。
箱にこの小剣を戻してみたら閉ざされた扉が開くのでは?
そう思って試してみたけど何も起こらない。
「困ったなぁ……」
「そうね。凄く困ったわね」
僕の独り言を律義に拾って返してくれるネルさん。
「あの……君がこのトラップを作動させたって理解してる?」
「だって! 仕方ないじゃない! 宝箱よ!? 宝箱!! そんなの飛びつくに決まってるじゃない!」
この女開き直りやがった。
「お前! 冒険者登録の時に言われただろ! 宝箱を見つけてもトラップかどうか警戒しろって!」
「そんなの覚えている訳ないじゃない! この私を誰だと思ってるの!?」
「あぁ……ごめん。僕が悪かったよ」
「え。待って。納得しないで」
そうだ。
あのネルだった。
人の話を聞かずに勝手に行動する子なのだ。
一人じゃ寂しいからと言ってネルを連れてきたのは間違いだったか?
後ろでキャンキャン吠えているネルを無視してそんなことを考える。
「あ。ソラ。ちょっとやばい」
さっきと全く違う声色で話すネル。
「そりゃな。閉じ込められているからな。やばいよ」
そのくらい分かっている。
助けを待つにしても食料も水もないから何日もここに居れないし、そもそも人が来るのかも分からない。
「そうじゃなくて」
「何だよ。他に何がやばいんだよ」
どう考えてもこのまま餓死する方がやばいと思う。
「……おしっこ」
少しの間思考が止まった。
そしてネルの方を見ると少し顔色を悪くして股を押さえている。
「……確かにそれはやばいな」
飲食の心配をしていたけどトイレの心配はしていなかった。
この閉ざされた空間にまき散らすのは控えたい。
どうしようかとこの部屋を見渡すと真ん中に宝箱が目についた。
よし。
「なぁ。ネル――」
「ぶっ飛ばすわよ」
俺は何も言ってないんだけど。
「君が人の話を聞かないってことは知っているがここは一つ、僕の案を聞いてくれないか?」
「分かったわ。確かに私も早とちりだったわね。ソラの意見を聞いてみましょうか」
ネルの確認も取れたことだし僕の素晴らしい案を説明するとこにした。
「この宝箱で用を足したらどうかな?」
「だからぶっ飛ばすわよ!?」
怒られた。
「麗しき乙女にこんな所で用を足せって言っているわけ?」
「うん」
「なんでそんな真顔で言えるのよ」
ならどんな顔をして言えばいいのだ。
「じゃあどうするんだ? まだ耐えられそうか?」
「……分かったわよ」
僕は出来る子だ。
今の一言で彼女の行動を察した。
「じゃ、後ろ向いとくな」
「あ、待って。私がいいって言うまで何か音を出しててちょうだい」
なるほどね。
音を聞かれたくないって事か。
「わかったよ。用が済んだら声をかけてくれ。
そう言って俺はさっきネルから受け取った小剣で壁を叩く。
それはガスッガスッといって壁に少し深い傷を付けていった。
「ん?」
もう一回叩いてみる。
ガスッ!
……もう一度。
ガコッ!
古い遺跡で壁がもろくなっているのか指くらいの大きさの穴が開いた。
「おぉ!!」
「え!? 何!? あ……」
恐らくこのまま叩き続けばこの壁を壊して脱出できるだろう。
俺はそんな希望を抱いで壁を叩き続けた。
背後から微かな声で「こぼしちゃった……」と聞こえたが触れないようにしてあげよう。
僕は紳士だ。
それからしばらく壁を叩き続けて人が頑張れば出れるような穴を作ることに成功した。
「ネル! ここから出られるぞ!」
「やっとなのソラ? もっと早く穴を作っときなさいよ」
「トラップに引っかかって巻き込まれたのは僕なんだけど」
「流石ねソラ! 私はあなたを信じていたわ!」
手のひらを綺麗に返してきたネル。
「先に僕が出るね」
「分かったわ」
体を横にしてトラップ部屋から出る。
ようやくここから脱出出来るのが嬉しい。
少しの間、達成感に浸っていたら少し異変を感じた。
「どうしたのソラ」
急に立ち止まった僕を見て不思議そうに声をかけてくるネル。
「いや……。なんか臭いんだ」
僕がそう言った瞬間に背後から危険な気配がする。
「あぶねぇ!」
そう言ってギリギリのところでネルの攻撃をかわした。
「し、失礼な! 緊急事態だからしょうがないじゃない!」
「違う! 君のこぼしたおしっこの話じゃない! ほら何か感じないか?」
よく観察してみると僕らが来た時の足跡の他に一本の道が出来ていた。
その一本道は言うまでもなく埃が全くない。
まるで何かを引きずって埃がすべてからめとられたかの様だ。
「ネル。僕らの方かに何かがいるぞ」
「え? 他に冒険者がいる感じ?」
そうだったらいい。
このクエストを受けるときに魔物とか一切出ないと言われた。
でもこの遺跡は見つかって間もないらしい。
なので報告とは多少違うことが起きるかもしれない。
例えば魔物が出るとか。
「かもしれないな。でも用心にこしたことはない。帰ろうか」
そう言って来た道を戻ろうとした。
その時、さらに強く異臭を感じることが出来た。
生ごみみたいな臭いだった。
鼻につく嫌な臭いでそして微かに甘さを感じた。
隣にいるネルも顔をしかめている。