【15】 その姉妹と清浄の白、未知の脅威と対峙する
「…………。」
黒煙が晴れた後に姿を現わしたのは手傷を負った黒騎士達。やはり7体もいればダメージは分散してしまうのでしょう。
クリムゾナとソーマの怒涛の連携呪文攻撃にも耐え、ゆらりと音も無く立ち上がる七つの黒い影。
「くっ……。 これでもダメか……。いくらなんでも数が多すぎる。 魔王級の力を相手に、7体同時とか……ふざけてる……!」
「んでも、まあやるしかねえだろ……! おら、もうヤツラが向かって来るぞ、構えろッ!」
動揺するソーマとヴェインを意にも介さない黙示録の黒騎士達は何の言葉を告げる事も無く。
ヴェインの宣告通りに四方に散開した。
シロナちゃんはただちに次なる魔法の詠唱を。それよりも早く完成するクリムゾナの呪詛。さすがのクリムゾナ。目ざとい。抜かりない。
だけどもまだ彼女は呪文を発動しない。彼女の呟く呪詛にまだまだ終わりは見えない。
それは今度もまた多重詠唱からなる呪文の連続、同時発動を狙っての事でしょう。
それも黒騎士達をギリギリまで引き付けてベストな状態と位置取りで、華麗に、暴虐的に愚か者を捻じ伏せるために。
「うがあああああああああ!!」
裂帛の気合と共にヴェインとソーマが迫り来る七つの影を迎撃する。
そこはさすがの黒騎士達だった。さっきのしょうもない布陣は誰がどう見ても愚策だったけれど、それを何度も繰り返すほど愚かではないみたい。
ヴェインとソーマにそれぞれ2体ずつの黒騎士が分散して襲い掛かった。交差するヴェインの巨大な刃と黒の双刃、突き付けられる黒の鉄塊。
敵を迎撃する勇者の碧き迸る閃雷の呪文。電撃に対抗するかのように放たれる黒騎士の顕成す混沌。
電撃を回避しつつも上空から振り下ろされる十字の黒の甲冑が一影。電撃を放ちながらも片手でそれを受けるソーマ。
まばたきをする暇も許さない程の激しい討ち合い。不毛な応酬と砂塵が常に纏い付く嵐のような闘争を繰り広げる前衛勢。
ソーマとヴェイン、さすがのこの2人でも全ての黒騎士に対応する余裕は無さそうね。
案の定、前衛の騒乱の影から飛び出したのは残り3体の黒い影。
黒い鉄の仮面から覗く双瞳の真紅が狙い澄ますのは私ことシロナちゃんの姿か。それとも麗しのクリムゾナか。その背に隠れている妹のナナハか。
黒騎士達と私達勇者パーティーとの争いは敵味方入り乱れる大混戦へと突入した。
何の言葉も発しない沈黙の騎士達だけど、それでも愚か者が何を考えているかくらいは鋭敏で聡明なシロナちゃんには手に取るように分かるのです。
こいつらは私達後衛の女の子勢の事を『近接戦闘が不得意で、のろまで愚かな鈍亀の後衛ども』とでも思っているのでしょう。
だけどそれもまた愚考。過ちの解法を繰り返すとは何と愚かな。
どうやら愚か者には後悔という名の答酬を与えてやらねばならないようですね……。
私は迫り来る敵性を眼中に捉えたまま、確信を以って三体の黒騎士の前に毅然と立ち塞がった。
振り下ろされる無数の黒の刃が私の視界に飛び込んで来る。だけどもそれを避ける気はない。そんな必要もない。
私が並程度の実力を持つ聖職者、僧侶であるなら、今の私の地位は確立し得ない。崇高な称号だって与えられはしない。
『清浄たる白のブリュンヒルド』の名は、最強の防御ソースの呼声は伊達じゃないの。
だからこの私がいる限り、絶対にクリムゾナには手出しなんてさせない。
クリムゾナ専用の肉壁の座はこのシロナちゃんのものよ。既に強力な切り札である魔法の詠唱だって完成しているの。
私は大きく息を吸って、両手をかざしてその名を呼び唱えた――。
「清浄の白の名を知るものぞ……! 来たれっ!! 召聖の封神の水晶機兵!!」
私の詠唱が呼んだのは巨大な六光芒、銀の光の紋様。敵性の正面に座する光の紋様から現れたのは巨大な水晶の塊。
それは清浄たる白の聖女である私に、忠実に付き従う機神の腕。ブリュンヒルドの持つ粛厳を力として分かり易く具現化したそのもの。
まだ全容を現わさない機神の腕は、それだけても有無を言わさず黒騎士達を殴り打ち、激しく吹き飛ばした。
『――――ッ!?』
唐突な暴虐をその身に受けて、まとまって地に叩き付けられる黒騎士達。
複数で迫る敵性を爽快な暴力で迎撃してみせた水晶。ドズムゥンと轟音を立てながら地に足を下ろした封神の水晶機兵がその全容を現わした。
イージスは全身を水晶の甲冑のみで構成する巨大な神聖生物。特別な思考を持たない生ける機神。だから言葉は必要もなく介さない。
黒鉄の甲冑を身に纏う沈黙の黒騎士達の相手としては誂え向きで、寡黙で暴虐的なかわいい我が子。
(……おお……、カッコいい……スーパー……、ロボット?)
(……さすが私の推し……、シロナちゃん……愛でたい……)
(……MVP……571ポイント……、第2位……)
ん……?またどこからともなく変な歓声が聞こえてきた気がする……。目に見えない外野がいるとでも?
天界の神々がこの戦闘を見ているのならば、それは私にはすぐに分かる事なのだけど、どうやらこの声は天界の神々が発してるものではない。
何か得体の知れない未知の存在なの……?
でも未知の存在の事は気にはしない事にした。
だってそれはシロナちゃんの眼精疲労や精神的疲労からくる単なる幻聴かもしれないし。
いくら気にしてもこっちからは干渉できないからしょーがないし。
私が逡巡を重ねる間にも愚かな黒騎士達はしつこく強襲を仕掛けていた。
だが、封神の水晶機兵の単なる拳による鉄壁の防御がそれを許さない。
何度向かって来ても諸共に弾き返される黒騎士達。
「てめえ……そんな力を隠して……」
「シロナさん、すごいっ!」
「ふふふ……。 本当の切り札というモノはこういう時まで隠して取っておくものなのですよ。 さあ! 私に歯向かう愚か者を撃ち滅ぼしなさい! イージス!!」
シロナの名を賞賛するヴェインとナナハの驚嘆に気分を良くした私は、それっぽい決めポーズを取りながら決め台詞をそれっぽく叫んだ。
調子に乗って大きな声を出しすぎてちょっと喉が痛くなったけど何とか咳き込まずに我慢できた。醜態を晒さずにすんだ。
シロナちゃんの命令を即座に認識したイージス。ただちに振り上げられる大岩とも見紛う巨大な拳。
巨影が黒騎士達の姿を覆い尽くし、罪状を告げる事もなく執行される粛清の力。
『――――!!?』
上空から何度も何度も振り下ろされる破壊の衝撃。轟く鳴動、激しい破砕の音。巻き上がる夥しい量の砂塵、地に走る巨大な亀裂。
ミシミシという音と共に、軟い特殊金属かのように変形する、かつては強靭であったはずの黒い甲冑。声も無く叩き潰される黒騎士。
暴虐の後に遺されたのは手足を在らぬ方向へと捻じ曲げられ、地中に半身を埋まらせる黒騎士の姿――。
これがシロナちゃんの秘めたる慢心の証。スーパーシロナちゃんの力の片鱗。
私の事を舐めくさる愚か者に聖職の鉄槌を。決して抗う事のできない暴力という名の粛厳たる蹂躙を。
たまには他者をバッキバキに殴り潰すのも享楽。クリムゾナには蹴り飛ばされ、投擲されるのは至福の快感。
でもあんまり圧倒的にシロナちゃんのスーパーな力を行使しすぎると、愛しのクリムゾナの活躍の場を奪ってしまうから程々にしなきゃなの。
それにこの封神の水晶機兵は強大な力を持っているだけあって、その維持には莫大な【MP】と【神力】を必要とするの。
【MP】に関する説明はいまさら必要はないでしょうけど、私の中に貯積されている【神力】。これはいわば神への忠誠心を示す値。
表向きは忠誠心とか言っちゃってるこの【神力】なのだけど、とりあえず毎日決まった祈りを捧げていればそれなりには貯まっていく数値。
ぶっちゃけると神々への忠誠心なんて私の中には微塵も存在してないからね。
むしろ神々を無能だと言って散々バカにしている。こき下ろしている。
神の声を世に伝える役割を担う『清浄たる白のブリュンヒルド』な私だけど、一部の神とは面識だってある。
そんな面識ある神相手だと普通に面と向かってバカにしたりすらする。それでも普通に勤まっちゃう聖職の最高峰。
いえ。むしろそんな明朗っぷりが神々に評価されているのかもしれないわね。
そんな私だけど、こっそりと神々へ賄賂を送ったりしてるから全然大丈夫だったりする。
賄賂が主たる『清浄たる白のブリュンヒルド』の功績だとしたらちょっと泣けるけど……。
何が大丈夫なのか?本当にそれで大丈夫なのか?とか細かく言及されると少しだけ耳が痛い。
でもそれでも世の中は神の名の元に上手く回ってるから全然大丈夫なの。
この世には知らなければ幸せなままでいられるような真実だって無数に存在しているのだから。
こんな神々のしょうもない真実が一般の真面目な僧侶の子達に知れたら大変だから、これはナイショのヒミツごと……なんだけどね。
迫る黒騎士のうち1体を即座に葬った封神の水晶機兵。
さすがの黒騎士軍団も突如現れた巨大な神性には最上級の警戒心を抱いているようね。
前方で今も戦闘中のソーマとヴェインも黒騎士達と力拮抗しつつも優勢のよう。
封神の水晶機兵の力があれば残りの騎士達も瞬く間に蹂躙できそうなものだけど、一旦は『待て』をさせている。
意志無き忠実なイージスは決して私の命令に逆らう事は無い。『お手』と命じても、ちゃんとかわいくお手をしてくれる事でしょう。
まあ、小さな手しか持っていない私にはイージスの巨大で豪胆すぎる『お手』を受けるのは土台無理な話なのだけども。
後衛で無言の睨み合いを続けるイージスと黒騎士達。敢えてイージスからの攻撃は控えさせている。
だって、私はクリムゾナの活躍を心待ちにしているのだから。最後の決めシーンはやっぱり彼女の暴虐でなければいけないの。
それなのに何も行動を起こさず、今も呪文の詠唱を重ね続けているクリムゾナ。
決してシロナちゃんの活躍を称える事のない彼女の綺麗な紅蓮の瞳は、今も警戒心を緩めてはいなかったのだ。
(まさか。 クリムゾナはまだ何かが起こる事を危惧している……とでも?)
一体だけでも魔王以上の強さを持つ黒騎士が唐突に7体に増殖した事。それだけでも十分な脅威だったのに。
これ以上のイベントなんて起こり得るの?まさか次はその倍の14体の黒騎士が現れるとか言わないでよね?そんなバカな話なんてないわ。
だけど、今までもクリムゾナの第六感は素晴らしい的中率を誇ってきた。彼女の警戒心が無駄になるなんて事はほとんど無かった。
どんな場面でも、どれだけ他のメンバーが勝利を早とちりしている状況でも、彼女だけは絶対に『油断』をした事はなかったのだ。
それが何度も私達勇者パーティーを救ってきたのも事実。
私は心密かな慕情と共に、クリムゾナとナナハが持つ不思議な力にも絶対的信頼を寄せている。
(クリムゾナの警戒に間違いは無い。 つまり……。 今私がやるべき事は。)
それはクリムゾナの紅蓮の瞳が顕す感情の色彩と彼女の第六感を信じて、この黒騎士という名の愚か者どもを即座にぶっ潰すこと――!
「よし……! イージス!! 愚か者をすべて光の力で蹂躙なさいっ!」
『――――!!』
私の声に反応する封神の水晶機兵。迎撃の構えを見せる黒騎士達。
だけど黒騎士達の警戒はもはや無駄。シロナちゃんが齎す勝利は確定したの。
私は残り大半の力をイージスへと送り込んで莫大な量の【MP】と【神力】を消耗させた。
それと同時に眩いばかりの光を放つイージス。シロナとイージスの収束させた神力からなる裁きの力は甚大だろう。
その分、暫くはまともな力を行使する事が出来なくなるかもしれない。
きっとその後にもまだ急な展開が待ち受けているのだろうけど……。でもそれは愛しのクリムゾナがなんとかしてくれる事でしょう。
「……放てっ!! 偽りし水晶裁きの光輝!!」
封神の水晶機兵の胸部の開口部から現れた巨大な砲身が刹那の光の音と共に煌いた。
周囲の視界全てを奪い去る程に眩い閃光が、虹色に輝く無数の粒子を纏った超巨大な光線が。
神の力の如き巨大な光の裁きが、眼前にいる黒騎士達を一瞬で吹き飛ばし、蒸発させ掻き消した。
「うおお……。 黒騎士2体が一瞬で……」
驚嘆のヴェイン。でもまだ偽りし水晶裁きの光輝は終わりじゃない。まだ黒騎士は4体も残っているのだ。
続け様にイージスの全身のあらゆる箇所から姿を現わす小さな砲身。
「まだですっ! ソーマ! ヴェインっ!」
私の呼び掛けにイージスの次なる行動を察したのか、即座にその場から退避する前衛2人。
封神の水晶機兵に現れた無数の砲身から放たれるのは、数える事も不可能な程の甚大な量の小さな光線。
それは何も物量を誇るだけではない。優秀な追尾性能を持つ光は標的を逃す事無く捉え続けるホーミングレーザー。
しかもエネルギーが尽きるまで決して止まる事を知らないフルオープンアタックでもある。
『――――!?』
断続的に放出され続ける小さな光の裁きが黒騎士達を貫いた。
十とも百とも、千とも数えられる程に穿たれた甲冑、全身から硝煙を立ち昇らせガラガラと崩れ落ちていく黒騎士達。
全エネルギーを使い果たし、黒騎士全てを撃破すると同時に天界へと帰還していく封神の水晶機兵。
へたへたとその場に倒れ込むシロナちゃん。これは別にクリムゾナ宛に狙った演技ではないから。ただ全力を出し尽くした結果だから。
そんな私を介抱するのは――。
「だ、大丈夫ですか!? シロナさん!」
普通にナナハだった。私を抱くのはクリムゾナの細腕が理想なのだけど、暴虐こそが魅力の彼女にそれを望むのもいささかの矛盾とも言えるか。
まあヴェインやソーマに抱かれるよりは、ナナハに抱かれていた方が100倍はマシなのだけどね。
「大丈夫です……。 ちょっと力を使いすぎちゃっただけですから。 ありがとう」
「そうなんだ。 よかったぁ……。 だけど、さっきの大きなロボット、凄かったですねえ!」
「いや、ロボではないんですけどね。 あれは天界から借りてるリースの神性生物……」
「いやあ、まさかシロナがあんなすげえ力隠してたなんてなぁ。 今度でいいからまたさっきのロボ呼び出してくれよ!」
「だからロボじゃなくてリースしてる神性……」
「ねえ、さっきのロボ、名前はなんていうんだ?」
「んー……。 シロナのロボだからスーパーメカシロナとかじゃねえか?」
「ちょっと待って。 あんな無骨な子に勝手にシロナちゃんの名前を付けないで下さい。 ってか全然シロナって顔してなかったでしょーが!」
封神の水晶機兵は天界でリースしてる神性生物であって、決してロボではないのに。
だけども、愚か者達にその事を理解させるのは難しい気がした私は、とりあえずイージスに『スーパーメカシロナ』とか変な名前を付けられる事だけを阻止していく事を決心する。
そんな私達を余所に唯一人、今も呪文の力を紡ぐ事を止めないクリムゾナ。
(あっ……。 そうだった。 まだ油断してはダメなのでした……!)
クリムゾナが決して解く事もなく見せる警戒心によって、慌てて我に返った私は他の全員のしょうもない雑談をすぐに制した。
私達の集まる視線の先。紅蓮の警鐘通りに新たな虚空が生まれ、虚空はまた未知の何かを生み出そうとしていた。
「うッ……!?」
「……まだ何か来るのか……!? まさかまた黒騎士……!?」
それもあり得る。さっきは7体出現だったから、もしかすると次はその倍かもしれない。
いや、それもワンパターンが過ぎるか。次は黒騎士以上の驚異的な未知の何かであるかもしれない。
「うう……ッ! みんな警戒を弛めるなよ!」
紅蓮の魔女は今更ソーマに言われずもがな。
満を持して虚空から現れたのは――。
『ンナァ……』
それは小さなトラ猫だった。
猫は虚空からヌッと現れた後、すぐにペタンと座って『ンナァ』とひと声鳴いた。
全身に纏う虎模様の毛並みが目を引いた。とても可愛かった。そうして私達の警戒心は最大限に……なる訳なんて無かった。
「あっ。 かわいい……猫ちゃんだぁ……」
「ホント。 とってもかわいい猫ちゃんですね。 撫でたいですねぇ」
「いやでも……猫って……? 虚空から現れたのが猫って……」
確かにちょっと意味が分からなかった。私の無駄な逡巡の数々に費やした時間を返して欲しかった。
魔王を倒して、その次に現れたのが魔王以上の力を持つ黒騎士で、その次に現れたのが黒騎士を乗算する事の7で、その次が普通のトラ猫って。
ふと、横目でクリムゾナを見ると彼女は未だに警戒心を解いていないように見えた。
トラ猫に対して最大級の警戒の構えを見せるクリムゾナ。そんなバカな……。
「おお。 かわいい猫だな。 どれ。 少し撫でてやるか」
マイペースに毛づくろいを始めるトラ猫に近寄るヴェイン。
「そいつに近寄っちゃダメ!!」
クリムゾナが声を荒げて叫んだ。驚愕してクリムゾナを見る一同。
言葉の意味が理解できずに視線を元の猫の位置に戻すが、既にそこにヴェインの姿は無かった。
ただトラ猫だけが何も言わずにペタンと座っているだけ。
「あれ……? ヴェインさんは……?」
遅れて聞こえてくる激しい轟音。何かが砕けて崩れ落ちる音。その場にいる全員を包み込む衝撃破。
慌ててその方角に視線を移すと、巨大な岩に打ち付けられ、ガクリと崩れ落ちるヴェインの姿が。
「は……!?」
予想外の事態に状況がまったく飲み込めない勇者パーティーのメンバー達。
複数の黒騎士を相手に抑えるほどの豪胆さを見せていた戦士が一撃でやられるなんて……!?
そんなバカな事が……一体……誰が。
クリムゾナのさっきの台詞を思い返す。今も警戒心を解かない彼女の敵意の先にあるのは……かわいいトラ猫。まさか。
『ンナァ……』
トラ猫はもうひと声だけ鳴くとゆっくりと立ち上がった。




