【限定投稿】 ウルスラとアルカナ ※※
また番外です。もう番外だけで一章作れそうです
アルカナちゃんは私の友人からのキャラ提供です。ありがとうございます。
超魔王会議の合間に暇を持て余したウルスラとアルカナ。
女3人と言わずとも、2人揃っているだけでも十分に姦しかった。
「そんでさぁ~。 靴を揃えるのとかはまだ分かるんだけど。 歯ブラシの向きとかコップの位置までいつも同じにされてんの」
「へぇ。 そうなんだぁ」
「だからね、試しにわざと全部バラバラの向きにしてみたんだけど。 気付いたらまた全部完璧に揃えられててね。 なのに揃えてるとこなんて一度も見たことないし。
何回バラバラにしてやっても絶対元に戻されてるし、なのに何も言ってこないし。 おかしいよねぇ」
「うんうん。 グウェインさんっぽいね。 なんか拘りとかあるのかなぁ?」
「そうなのかな。 あっ! ゴハンの時もすっごいんだよぉ。 お皿の位置なんて必ず決まった位置に定まってるし。 ボクのお皿がずれてたら無言で調整してくるし。 あと食べる時も一切音立てないの!」
「へえ。 そこまで……? なんか女の人より几帳面っぽい~」
「そうかも! なんかボクの方がガサツなのかなぁってちょっと凹んじゃうくらいだし。 ボクがお皿カチャカチャさせてると、こっちをチラッとだけ見てくるんだけど、なのに何も言わないの」
「ふふ。 そなんだぁ。 音が気になるのかなぁ……?」
「かな? でもそんだけ気にしてるのに何も言ってこないって、逆にお前なんだよ!ってならない?」
「なるかも……。 むしろ言ってほしいよね」
「でしょでしょ! チラ見だけってすっごい気になる。 なんか言えよって」
「ふふ。 でも実際はグウェインさんは何とも思ってなさそうだよね……。 チラっと見てくるのも無意識かも?」
「ああ~。 あいつそういうトコあるからなぁ。 悪気はないんだけど本能だけで人の事窘めてくるトコある」
「うんうん。 あそこまで几帳面でキッチリしすぎてると女の子の方が気を使っちゃうよね……。 でも他の雑な男の人に比べたら、いい旦那さんになりそうだけど……」
「うーん……? あいつが所帯じみてるとかなんか想像したくないな。 ってか、その前に女の子自体に興味なさそうだよ。 暇さえあれば家事してるか鍛錬。 そればっかだし」
「え? ウルちゃんの世話焼いてる時とか、すっごい楽しそうに見えるけどなぁ」
「そうなの? 余計なお世話ばっかりな気がするんだけど……。 小姑より小姑してるよ。 あいつは」
「ふふふ。 ウルちゃんの事が気になってしょうがないって感じだよ。 それにあの人ウルちゃんのためにドーナツだって……ね」
「えっ? ドーナツ……?」
「あっ。 何でもないよぉ」
「え? なに? ドーナツがなに? 気になる」
「ごめん、内緒だよぉ。」
「ええっ!? すっごい気になる。 ドーナツがなに!?」
「うふふ……。 言わなーい。 ってかウルちゃんの話って、いっつもグウェインさんの事ばっかりだよねぇ」
「はえっ!? んなこと……。 ないない。 ってかボクはあいつをクビにしたんだった。 しかもあいつに心底ムカついてたんだった」
「ふふ。 その事も忘れてたの? もう許してあげたらいいのに……」
「絶対許さないよ。 謝ってきたって許さないし。 それにボクはミスティカちゃんの看病で忙しいんだから、あんなヤツに構ってる暇ないんだ」
「表の世界の女の子かぁ……。 少しは元気になったの?」
「うーん。 まだほとんど眠ってばかりだよ。 起きてる時も何も喋ってくれないし。 もう泣いたりはしなくなったけど、何か精神的なものがあるのかなぁ」
「そうかもね。 たぶん能力を奪われた影響なのかな? でもホントならあたし達に殺されても何も文句を言えない立場の子なんだけどね……」
「ええ? 殺すなんて……。 そんなのかわいそうだよ」
「ふふ……ウルちゃんは優しいからねぇ。 アタシなら……その子殺してるかなぁ。 それがアタシ達の修羅の王としての役目だし。 世界全体をゼロから守るためでもあるし」
「うーん……。 やっぱりアルカナちゃんでもそうなんだ。 ボクにはちょっと無理だなぁ……。 修羅の世界の人間なら容赦なく殺れるんだけどなぁ」
「えぇ? ウルちゃんって変わってるよねぇ。 なんだか表の世界の側の人みたい」
「そうかも。 ボクって実は表の世界の生まれなのかも。 そんでもって橋の下に捨てられていたのを拾われてきた子なのかも……」
「ふふ。 ウルちゃんの纏っている波動はちゃんと修羅の世界のものだから大丈夫だよ。 でもそう考えたらグウェインさんがミスティカを殺さなかったのも『優しさ』だよねぇ」
「うーん……」
アルカナの言葉に思わず会話を止め、小首を傾げて思慮深くなってしまうウルスラ。
確かにそう言われてみれば、ル・グウェインの愚行はミスティカに対する最大限の譲歩だったようにも思えてくる。
ウルスラの我侭を無碍にする事も無くウルスラの身を守り抜いた彼の称賛だとも言える。
それでも結果論だけで簡単に割り切れるほどウルスラの心は成熟していない。
どうしてもミスティカの瞳から零れ落ちる涙に自身の感情と思考を奪われて、そればかりに捉われてしまうのだ。
だが、いつも明るかった自室に暗がりが生まれた事はウルスラの心にも底の見えない影を生み出した。
今も部屋に残された多くの従者の痕跡が、彼女の心の隙間を押し広げ続けているのも事実。
あんなヤツでもいなくなるのは寂しい。かといって他の従者で代わりが利く訳というでもない。それはもう十分に自覚していた。
普通に端的に言ってしまえば、ウルスラは寂しくてしょうがなかった。
それなのに事後になってしまえば、破壊された関係をどう修復していいか分からない。
解雇した側であるウルスラが一体どの面を下げて、どんな声を掛ければ元に戻るのか。それも女の側から言うのは酷く因循がある。
ミスティカの事だって放置する事はできない。未だ心癒えぬ彼女の前には絶対にル・グウェインを連れて行くわけにはいかない。
だが彼女の事ばかりに感けている訳にはいかないのも事実。
ウルスラはどうしていいか分からなくなっていた。
一意専心するウルスラの眼前に、急にアルカナのかわいらしい顔が飛び込んできた。
「ウルちゃん……?」
「あっ……ごめん。 色々考え込んじゃって」
アルカナはウルスラの事を心から案じている。それも理解している。これが表の世界の女の子からの感情であれば狂喜乱舞してしまうところだろう。
最近はどこか影を帯びていたウルスラの面貌が、アルカナの思いやりによって呆気と穏やかさを内包する不思議な表情に変わっていた。
「少しは楽になった……のかな?」
「うん……。 かな? アルカナちゃん、ありがとう」
もう少しほとぼりが冷めたら、しれっと顔でも見にいってみるかな――。
なんだか胸のつかえが少しだけ解消され、溜飲の下がる気がするウルスラなのであった。




