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【12】 次元の魔王は紺碧の君を想う


挿絵(By みてみん)



 ボクは修羅の王の1人として超魔王会議の円卓を前にしている。


 それぞれ定位置に堂々と座するのは修羅の王達の錚々(そうそう)たる顔ぶれ。

会議に同席する七人の魔王達には特筆するような序列は何も存在しないのだけど、その実力の差だけが歴然かつ確然とした格付けを各々に与えていた。




 特に凄まじいのは修羅の世界最強と言われ『第一の万象』と称される魔王コルトゥ。

彼女が放つ強者の威風は無意識レベルで他者を圧倒する。

どちらかというと自由奔放な気質を備えているこのボクでさえ、彼女の強大な力には一目置いて気兼ねしなければならないくらいだ。


 そんな彼女が会議の場に遅れて来て魔王全員を半刻以上も待たせたからといっても、彼女を咎める度胸のある魔王は1人もいなかった。



「みんな、おつかれさまぁ~! 遅くなってごめんねぇ。 彼氏が駄々捏ねて家出るのが遅くなっちゃってさぁ~」



 小娘感溢れる彼女の台詞だけど、これがいつもの『第一の万象の魔王』コルトゥちゃんだ。

世界最強の実力と発言からそこはかとなく漂う女の子女の子した雰囲気が、まったくもって相反しているのも彼女の大きな特徴の一つ。


 まさに彼女は情緒豊かな修羅の王を象徴するような存在だった。


 この事はボクも魔王になるまではまったく知る由もなかった事実。

修羅の世界の民の前では恐ろしい雰囲気とそれっぽい台詞を多用して話す事が王達の暗黙の了解である。

だから民は本当の王の姿を知らないのだ。


 そうでもなければ王の威厳が無くなってしまうし民に対する強固な圧政を維持するのもまま成らない。

これも修羅の世界を神の真理の絶対者アルマ・アブソリュート・ゼロから守るためには必要な事なんだ。



 コルトゥの言う『駄々を捏ねる恋人』というのは、別の次元の粛然たる王ベルグバウ。


 ベルグバウは世界的にも名誉ある至高の王として、己の絶大な地位を望むがままにしている。

だけどもコルトゥが話す王の日常と言えば、彼が世界から評されている名声とはまったくと言っていい程に咬み合わなかった。


 コルトゥ曰く、ベルグバウは大変な甘えん坊さん。コルトゥの事を溺愛して止まない彼は一時(ひととき)でさえも彼女から離れようとしないらしい。

それでコルトゥも毎日困ってるらしいけど、ボクには未だにベルグバウがどんな人物なのか想像も付かなかった。


 だけど、そんな甘えん坊な彼氏の事を幸せそうに話すコルトゥを少し羨ましく思う事もある。

彼女の日常を聞いているだけでもボクの修羅の王としてのモチベーションも高まるというもの。



(ボクもいつか素敵なご主人様を見つけてイチャイチャしたい……)



 そうは言っても現実はそんなに上手くいかない。


 今のところ表の世界の意中の相手に玉砕しまくりなボクは母を捜す事に専念するしかなかった。

だから一旦は恋に焦るのを止めて、秘かに思いを寄せる相手にも磯に打ち揚げられた魔王の如くせつない片想いを続けるしかないのだ。


 そんな事を考えながらボクは本日8個目になるドーナツを手に取る。



「ちょっとウルスラ。 会議中にドーナツを食べるのは止めなさい」



「えっ?」



「えっ? ……じゃないでしょ。 ドーナツを食うなって言ってるの。 なんであなたはいつもそんなにお菓子ばっかり食べてるんですか……」



「だって……食べたいんだもん」



 どっかの誰かさんにも言われた事のあるような台詞で、ドーナツを貪るボクを嗜めたのは『第二の調停の魔王』と評されるイーサリサ。

『第三の闘争の魔王』であるボクとイーサリサとの間にはそこまでの実力の差は無い。


 だけどもボクらの間にある影響力の差というのは歴然。

というか実質、修羅の世界の権力の最上位に君臨するのはこのイーサリサちゃんなのだ。


 何も世界最強の戦闘能力を誇るコルトゥが、政治の分野でも最高峰にいるという訳ではない。

それは彼女の賢智がお世辞にも優れているとは言えないからだ。


 彼女は修羅の世界の最たる王の象徴であって、世界を厳粛に管理するのには激しく向かない。

向かないというか、このボク以上に奔放な気質を持つコルトゥには世界の管理なんて、そもそも無理な話だろう。


 それにすっかり彼氏とのラブラブ生活に浸りきっているコルトゥは、修羅の世界に対しては蚊ほどにも興味を抱いてくれない。

それも彼女が世界の管理に向かない理由。あまりにもモチベーションが低すぎる。


 でもボクには彼女の気持ちが手に取るように分かる。こんなつまんない世界を管理するなんて、それは単なる苦行でしかないからだ。

そんな事頼まれたってやりたくない。そんな不自由を強いられるのなら修羅の王になった意味がない。


 だから世界で二番目の才力兼備で尚且つ、他者を管理する事が大好きなイーサリサが修羅の世界の管理に大抜擢されたのだ。



「まったく……百歩譲って会議中のドーナツを許すにしても、せめて10個までにしなさい。

ウルスラ、あなただって一応は修羅の王なのですから自己管理くらいきちんとしなくてはダメですよ?」



「分かったよぉ。 じゃあ少し食べるスピードを緩めてゆっくりとかじる事にする……」



「えっと……。 あなたは常に何かを食べ続けてないと死んじゃう病気か何かなのですか……?」



 かつてのボクのお母さんみたいな事を言うイーサリサだった。

ボクを管理させても彼女はその才を存分に発揮する事だろう。そんな窮屈な生活は絶対にお断りだけど。



 野良猫みたいに自由気ままな魔王生活を送るボクとは違って、イーサリサは自分専用の表の世界だって幾つか所有している。

それも彼女の絶対的賢智が成せる賜物。しかも彼女に管理させた世界は驚くほどの発展を遂げるんだ。


 自身の世界で絶対神として崇められているイーサリサは、世界の名の由来にまでなってしまう程。

『マザーアース』だとか『エヴァーグリーン』と呼ばれる美しいその世界は、ボクらのよく知る表の世界とは全く異なる高度な文明を誇るという。


 自分の世界そのものに神として愛され、世界の人間全ての為に尽くし続けるなんて、なんだか相思相愛みたいな話で少し羨ましかった。


 だけどもボクには、まるっと星一つから愛されてしまうくらいの並外れた器量なんて皆無。

そんなに重すぎる愛には耐えられる自信が1ミリもないから、ボクは普通の女の子として普通の女の子相手に普通の恋愛をするべきなのだ。





「ウルちゃん……その怪我どうしたの? とっても痛そう……。 かわいそう」



「えっと。 これはその……色々あって」



 ボクを優しい言葉で心配してくれるのは『第四の異形の魔王』アルカナちゃんだ。

アルカナの実力に関しては、彼女自身の力よりも彼女に仕える配下の方が有名だった。


 『異形の姫君』とも呼ばれるアルカナはすべての『モンスター』を生み出したと言われる魔物の始祖のような存在。


 女の子に一定間隔で訪れるお月様の日の度にアルカナは魔物を産み落とす。

自身の体内に両性を備えると噂される彼女には、生殖に関して異性を介する必要も無かった。


 だけども噂に寄ればこっそりと何処かの魔王と蜜月な関係にあるらしい。それが誰なのかボクには知る由もないけれど。



「どうせまた表の世界の人間に殺されかけたのでしょう? いつも油断するなとあれほど言ってますのに。 禁忌を容易く侵すような人間は、私達を傷つける力も十分に備えているのですから……」



 ボクの行動パターンにも恐ろしく察しが効くイーサリサが、ボクの不肖が原因の負傷を的確に言い当てて見せた。

彼女の指摘に返す言葉が何も思い浮かばなかった。表の人間に甘すぎるボクは確かによく殺されかける。


 これも初めての話ではなくて毎度の事なのだけど、今回だけはいつもと違う事が一つだけあった。



「ウルちゃんの……いつも一緒の彼氏さん……ル・グウェインはどうしたの……? 今日は見かけないけど」



「彼氏じゃないし。 あいつはタダの従者だし……。 それにもういないよ。 従者をクビにしたからね」



「えっ……? そんな、あんなに仲良しだったのに……。 どうして……?」




 何も言わずに目線を外したボクを心配そうに見つめるアルカナの眼差しがボクの心には痛い。

それでもその事を話すのも、思い出す事でさえも嫌だった。


 ボクはル・グウェインをボクの目の届かない領域へと容赦なく追放した。それは彼がボクの逆鱗に触れたからだ。

それにあいつはボクにとっては単なる『体温を備えているだけの抱き枕』であってそれ以上でも以下でもない。

ル・グウェインなんていなくても代わりの従者はいくらでもいるんだ。



 そんなあいつがボクの彼氏だって?

 

 いくら心優しいアルカナちゃんの言葉でも、バカな事を言わないで欲しいと思った。

このボクが心のない修羅の世界の人間に恋愛感情を抱く訳がない。

いつも甘えていたのだって単に肉体的に寂しかっただけ。そこに特別な感情なんて微塵も存在してない。


 最近は少し心まで許してしまっている節もあったけど、それだって気のせいだった。

やっぱりあいつはどこまでいっても修羅の世界の機械人間だったんだ。



「あの……。 あたしでよかったらいつでも聞くからね。 無理しないでねウルちゃん」



 俯いてる表情に影を宿らせるボクを見てのアルカナの言葉。



(無理をしている? このボクが……?)



 ボクは何も悪い事をしていないはずなのに何故だか胸が痛くなった。

それはアルカナの健気な言葉のせいなのか、ル・グウェインのせいなのか。分からないけれど。



 それでもやっぱりあいつが悪いんだ。あいつがあんな事をするから……。 


躊躇いながらもあの日の記憶がボクの脳裏に甦ってくるのだった。







 ■□■□■□■□■□■□■□■□







 朦朧とする意識の中でウルスラが見ていたもの――。


 それは己に従順過ぎたる故の従者による蛮行の一部始終だった。



 ル・グウェインは『紺碧の麗姫』ミスティカの首を掴んだまま、静かな怒りを湛えるようにして立ち尽くしていた。




『お前はボクとミスティカのやり取りには絶対に手を出すな』



 これはウルスラが従者ル・グウェインに下した命令だ。修羅の世界においての王の命令は絶対。

例えそれに従う者が命を落とす事になるとしても遵守されなければならない必然たる律格。


 それなのにル・グウェインは絶対的な王の命令に背いてしまった。

彼自身もどうして命令に背いてまで、ミスティカを制したのかよく分かっていなかった。


 ウルスラが傷つく姿を見守る只中、己の内に秘めたる未知の感情によって行動が抑制不能に陥ってしまい、気付いたら身体が勝手にミスティカを制していたのだ。


 だが犯してしまった過ちを省みても何も現状が本筋に回帰する等という事は無い。次の一手こそどうあるべきか。

それを一番に思慮する必要がある。それに己の主が愛する表の世界の人間をどう処断するべきか――。


 ル・グウェインは悩んでいた。



「あぐっ……は、離せ……ッ! みんな……助……けて……!」 



 こんな状況になっても決して敵意を抑えることの無いミスティカ。

彼女の敵意に反応したのか、人工精霊スイドリームとアクアレンティカが鋭い輝きをル・グウェインに向けて放った。


 だが彼女と精霊達の反逆の意思をみすみす望むがままにさせるル・グウェインではない。


 目にも止まらぬ速度で人工精霊達を自身の手中に掴み取ったル・グウェインは、そのまま精霊を握り潰してしまう。

精霊は細かい光の粒子となって彼の手の中に掻き消えていった。



「ああっ! そんな……。 私の可愛い精霊達を……よくも……!」



 急速にミスティカの手の内で膨大な量の魔素が収束していた。眩い紺碧の輝きがまるで彼女の激情を静かに表しているかのようだった。

このままこの危険な女を放置する訳にはいかない。自分の身の安全のためにも。敬うべき我が主ウルスラのためにも。



 刹那の逡巡で決断したル・グウェインには、もはや一切の躊躇いも無かった。



「あう……っ!!」


 ミスティカが悲痛な声を上げた。ル・グウェインの手刀が彼女の心の臓の辺りを貫いていたのだ。

だがそれは彼女の命を奪うための手段ではない。


 修羅の王、もしくは修羅の王に直接の主従関係で従う者は、星の力によって与えられた特殊な能力を備えていた。

それは表の世界の人間の力を奪い取り、消し去ってしまう力だった。



「うっ……。 くふう……」



 みるみる力を失っていくミスティカ。それと同時に敵意も無理矢理に奪われていく。


 ミスティカの体内を彼女の同意を得る事もなく無断で掻き回した従者は、やがてその目的を遂げるとミスティカの身体を離して地に放った。

ル・グウェインによってほとんどの【MP】を奪われたミスティカはこれ以上呪文の力を行使する事ができなかった。

それは一時的なものではない。おそらくミスティカは二度とまともに呪文を唱えることはできないだろう。


 だがル・グウェインの能力が彼女に与えた影響はそれだけではなかった。


 少なからず能力を奪われるという事は彼女自身の肉体にも精神にも大きな負担となるのだろう。

遺伝子に傷が付いてしまったかもしれない。魂自体が汚染されてしまったかもしれない。

もっと分かりやすい影響といえば、彼女にはもう二度と女性としての時が流れないかもしれない。

愛すべき相手と子を成す事さえできないかもしれない。


 体の中を無断で掻き回されるというのはそういう事なのだ。それは女性にとっては耐え難い苦痛。

彼女は目を大きく見開いて痙攣したまま、何も言葉を発する事もできなかった。息をする事でさえもやっとという様相。


 身体を小刻みに震わせるミスティカの両目から、静かに音も無く一筋の涙がこぼれ落ちた。




 僅かに意識を取り戻したウルスラ。その光景を眺めている事しか出来なかった自分に歯がゆいばかりの念を抱いていた。

見知らぬ男に体内を掻き回される事が女性にとってどういう苦痛に相当するものか、それはウルスラには痛い程に理解できる。



「お前……なんて酷い事を……」



 ウルスラはル・グウェインの行為がとても信じられなかった。

何故そんな酷い事をさらっとやってのけるのか?まったく理解できなかった。


 彼も修羅の世界の人間だからそれは当たり前の事なのかもしれない。

禁忌を侵した表の世界の人間に対する処断としてはそれが適切なのかもしれない。


 それでもウルスラはミスティカと同じ女性として、そんな彼の蛮行を絶対に許す訳にはいかなかった。

これは修羅の世界がどうという話ではなく、ウルスラ自身の信念の話である。元々だって彼女は修羅の世界の理に反する生き方をしてきたのだ。



 ル・グウェインに心を開きつつあったウルスラだからこそ、彼に対して『信じられない』という気持ちを如実に感じ取って絶望してしまったのかもしれない。





 自身を貫いていた岩を自らの手で抜き取ると、ふらふらと立ち上がるウルスラ。

大量の血を流出させながらもゆっくりとミスティカの傍に近付いて行く。



「ま、魔王様……!? 傷に触ります! ……どうかご自愛を」



「うるさい! ボクに近寄るな……このケダモノめ」



「………!」



 ウルスラは自分の身を案じる従者を冷たい言葉で突き放した。

自分に対する彼の忠義は知っている。信頼もしている。それでもウルスラは自分の内に渦巻く黒い感情に抗えなかった。


 どういう反応をしていいか分からないル・グウェインは何も言う事が出来ずに黙するだけであった。



「ああ……ボクのせいでこんな酷い目に……ごめんね……本当にごめんね」



 ウルスラはミスティカの身体を抱いたまま陳謝を繰り返し大粒の涙を流した。

ミスティカの頬に小さな魔王の涙が、何度も何度も滴り落ちる。


 今も震えたまま硬直するミスティカはウルスラの言葉に何も応える事ができない。

許してくれているのか。恨まれているのか。それとは全く異なる感情なのか。それさえも推し測る事が出来なかった。



「その人間を助けましょう。 私も手を貸します……」



 何かの意を決したような表情の従者が二人の傍に寄って声を掛けた。

だが主の表情は冴えない。それどころか憎悪にも似た眼差しを従者へ向ける。



「……お前はボクに近寄るなって言ってるだろう!」



 魔王の言葉にル・グウェインの表情が歪んだ。それは今までに見たことも無いような悲しい表情だった。

ウルスラは激しい怒りの中にも胸がチクッと痛むような何かを感じた。それでもウルスラはル・グウェインを許す事ができなかった。




「第三の闘争の魔王に仕える従者、ル・グウェインに命じる。 ……今すぐボクの前から消えるんだ」



「は……い……? それは一体……。 どういう……」



「お前はクビだって言ってるのっ!! 今すぐ目の前から消えて……! 二度とボクの前に現れるなっ!」



 一瞬驚いた表情を見せるル・グウェイン。


 だが彼は魔王の言葉に素直に首肯するしかない忠実な従者なのだ。

ル・グウェインは即座にこの場から立ち去る事を決めた。それが今の自分に許される唯一の贖罪。


 ウルスラとミスティカを背にするル・グウェイン。一度だけ振り返ってウルスラを一瞥した。

だが魔王はもうミスティカしか見ていない。従者の様子を気に掛けることもない。


 そんな魔王の姿を一目だけ確認すると、ル・グウェインはそのまま何も言わずに修羅の世界へと帰還していった。







 ウルスラの心の中は様々な感情で支配されていた。


 それはミスティカに対する想いなのか、再び芽生えた修羅の世界の理に対する疑念なのか。

それともル・グウェインへの想いなのか。


 どれだけ考えても何も答えは見つからない。この状況に相応しい結論も存在していないのかもしれない。

それなら自身の脳裏に居座る無駄な苦悩なんて追い払ってしまおう。


 ただちに考える事を放棄したウルスラは、傷ついて力を失ったミスティカを近くの村へと運んだ。

そうして彼女に謝り続けながら自身も修羅の世界へと帰るのであった。







 ■□■□■□■□■□■□■□■□







「ウルちゃん……大丈夫?」



「えっ? ああ、うん。 ボクは大丈夫だよ」




 第四の魔王アルカナがウルスラの心境の重きを察して深く案じていた。

それはウルスラが今にも泣き出しそうな表情を浮かべていたせいだろう。


 慌てて平静を装うウルスラ。それだって周りから見れば十分に不自然な装いだが。



「本当に無理しないでね……」



「うん。 ありがとう。 ボクは大丈夫だから」



 いつもの爛漫な笑みでアルカナに答えるウルスラ。彼女も少し安心したかのように優しい微笑みを返してきた。





 ウルスラは視線を自身の自然な定位置に戻すと、己の膝の上にいる修羅のトラ猫を優しく撫でた。


 ル・グウェインが現れてからは何かを察するかのように姿を消していたトラ猫。

それが従者が姿を消した途端にまたウルスラの元へと現れるようになったのだ。


 幼少の頃からウルスラをずっと見守ってきたトラ猫。

ウルスラと猫は直接の言葉は交わせないが、このトラ猫は彼女も知れぬ様な不思議な意志を持っているのかもしれない。



(お前はあの時どうするべきだったと思う……?)



 言葉で問い掛けても理解できないかもしれないのに、心で問い掛けたら尚更猫は分からない。



「ンナァ……」



 トラ猫はひと声だけ鳴いた。いつのまにか猫の【レベル】が8000になっていた。







「みんな待たせたね~。 それじゃ、超魔王会議を始めるよ~! まず最初の議題は例の姉妹から」




 コルトゥの開会の宣言で会議が始まった。


 いつもであれば参加するのも億劫な超魔王会議を惰性の感情で流してしまうのが常のウルスラだが、今日の会議だけは特別。

最初の議題にも挙げられた『例の姉妹』はウルスラにとっても重要な意味を持つ人物なのだ。


 しかも魔王全員がその姉妹に着目している。もっと分かりやすく言えば各々が姉妹を狙っているという事。

それほどに重要な2人なのだ。だから今は余計な事を考えている余裕はウルスラには無い。




 ミスティカの事、ル・グウェインの事。それはやっぱり気にかかるけど。

気持ちを切り替えて超魔王会議に臨むウルスラなのであった。




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