表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

【限定投稿】 魔王のチョコは誰のもの? ※※

番外編その3




挿絵(By みてみん)




 魔王のチョコはついに完成した。


 チョコはとても素人レベルとは思えない程の品質を誇っていた。

周囲にキラキラと眩いばかりの輝輪を纏い、まるで巧みなグロー演出の様相を醸し出していた。


 チョコが内包する魔王のイメージとはかけ離れたそこはかとないガーリー感。

食するまでもなく、まず視覚からして少女の心を掴んで離さないその小さな四角形は、ウルスラの心を未知の愉楽で一杯に包んだ。


 これも従者ル・グウェインの全面監修によって生み出された賜物。


 今も己の背後に立つル・グウェインと密着したままで、チョコを適度な大きさに切り分けていくウルスラ。

もし彼がいなければその魔王の激甚なる腕力で、チョコ下の机どころか地底の岩盤までも微塵に切り分けてしまうだろう。


 バレンタインというイベントにはチョコのキューブが必要不可欠だが、岩盤のキューブはまったく必要ない。

やはり魔王にはこの従者の補助が必須のようであった。



 正方形に切り分けたチョコのそれぞれにココアパウダーと金箔、シナモン、それとミントリキュールを振り掛けるウルスラ。

はち切れんばかりの彼女の笑顔に思わず視界を奪われるル・グウェイン。斜め後ろから彼女を眺めているので、その様子を気取られる心配はない。


 だが彼の脳裏には何の感情も浮かんでこない。何故視界を奪われているのかも彼には理解できていない。

それなのに、眩しいばかりの感情豊かなウルスラの表情から視線を外す事ができない。


それは機械のような彼の心の中に僅かに生まれた、通常の感性では認識できない程の小さな慕情なのか。

ル・グゥエイン本人でさえ知る由もしない事ではあるが。



 かわいらしくデコレーションされたチョコは、踊るような軌道を描くウルスラの小さな指によって小豆色の小箱に綺麗に敷き詰めていった。

その様子を眺めていたル・グゥエインの心に、いつものウルスラの姿をよく知るが故の疑念が生まれた。



「ぬ……すぐに食べないのですか?」



「だから人を食いしん坊みたいに言わないで。 これは大切な人にプレゼントするために作ったものなの。 だから食べちゃダメなの。」



 意外だった。他人に甘える事ばかりを常日頃欲している彼女が誰かのために労を尽くすなんて。

てっきりこのチョコだって自分が食するためのものだとばかりに従者は思っていた。


 それに大切な人……とは。


 特に理由は無いのに意図せずして意味ありげな表情を浮かべてたまま沈黙してしまうル・グゥエイン。



「ん……。 誰にあげるか気になるの?」



 ウルスラが小首を掲げて従者に尋ねた。


 平素のル・グゥエインからすれば沈黙なんてものは、ごく自然的に繰り返しているいつもの様相。

だがこの状況ではかえってそれが妙な雰囲気を醸し出してしまうのだった。


 2人はお互いに両者間には恋愛フラグなどは絶対に生まれないと信じている。

そもそもこの修羅の世界の従者には恋愛感情など微塵も存在していない。


 存在していないはずなのだが、妙にそれっぽい意志の探り合いを交らせているのも事実。

慌てて平常の装いを取り戻そうとするル・グゥエイン。




「いえ……。 魔王様に大切な人がいたという事実に少し驚いてしまっただけです。 恋人どころかご友人さえほとんどいらっしゃらないというのに。」



「……うるさいよ。 確かに恋人なんていないし友達もいないし全然モテないけどさ。 ボクだって片想いする相手くらいいるの!」



「はあ……。」



 片想いだって――?


 自分でいうのもなんだが、従者ル・グゥエインは常に魔王の傍にベッタリだった。


 まず生活している居住スペースが別々ではない。部屋も別々ではない。寝床はさすがに別々だがそれも魔王のすぐ隣。

いちいち呼びつけるのが面倒だ、という理由で魔王と従者は生活を共にしているのだった。


 時に寝ぼけた魔王が自分の布団の中に潜り込んでくる事もあったりする。

そんな彼女を渋々と抱えて元のベッドへ戻す従者なのだが、従者に抱きついたまま決して離れようとしない魔王のせいで、そのまま寝床を共にせざるを得ない事だってある。


 ウルスラの貞操観念が薄いせいか、お風呂上りの布切れ一糸のみを纏った全裸に近い姿を拝まされる事だってある。

その逆もまた然りだ。それは生活空間を共にするが為に生まれた、2人の性別を蔑ろにしている弊害。


 表の世界の基準でいえば蜜月な同棲関係にあると言っても何ら差し支えない2人なのだが、修羅の世界で育った2人にそういう認識はない。

だから変な間違いも決して起こらない。たまたま性別の異なる同種族の人間が、主従関係を理由にして一緒に暮らしているだけの話なのだ。



 そのはずなのに、慕情とかそんなものは存在しないはずなのに。従者の心には何かモヤモヤとしたものが渦巻いていた。

何も慕情とは限らない。絶対に独占欲の類ではない。それは親が娘に対して抱く老婆心に近いものなのかもしれない。



「うふふ……」



 頬を染めて意味深な微笑を浮かべるウルスラ。

寵愛の意を多分に込めた眼差しで表の世界の観測映像を眺めている。




(ああ……。 片想いの相手が誰か分かりました。 やれやれ今度はそっちか……)



 ル・グゥエインが心の中だけで溜め息を吐いた。


ウルスラの片想いの相手とは――。それはバレンタインの日になれば分かる事だろう。


いったん本編に戻ります。このお話の続きはバレンタインで

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
惰眠を貪る作者の更新を急がす場合はこちらのボタンを押して下さい
小説家になろう 勝手にランキング
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ