【限定投稿】 次元の魔王はバレンタインに備える ※※
ちょっと気が早い魔王。本編とは関係ないお話です。
第三の闘争の魔王ウルスラ。彼女のいつもの居場所は従者ル・グゥエインの身体の上。
彼の膝上にチョコンと座ってドーナツを貪り食しながら、今日も黙々と表の世界の観測を続けていた。
「ねえ知ってる? グゥエイン。 表の世界ではこの時期になるとみんな揃ってお菓子を作るんだって」
「ええ。 存じております。 確か発祥は女神の祈願祭だったと思いますが」
「それは知らないけど。 でもボクらも表の世界のお祭りに参加して、もっとこの世界への賢智を広げるべきだと思うんだ。
だからボクは王として素晴らしく美味しいチョコを作らなきゃいけないの。それがボクの次元の魔王としての使命」
「はい。 賢智を広げるのとチョコ作りが私の中ではどうにも結び付きませんが。 それでも私は魔王様の命令に従うのみです」
「うん。 ボクもそれがいいと思う。 じゃあ早速材料を買いに行こぉ。 ほら。 なにボーっとしてるの。 グゥエインも行くんだよぉ!」
「はい……。 私もですか?」
ル・グゥエインの手を引いて表の世界に繰り出す魔王。
2人はたくさんの人で賑わう繁華街へやって来た。
その一角に大きな看板が目を引く商店があった。店の名は『オンドゥル・ラギッタン』
店内には男性客はほとんどいない。客のほとんどが女性だった。
「ここは雑貨店ですね。 えっと、魔王様……? ここにはチョコの材料は置いていないのでは……?」
「それが最近の雑貨屋はお菓子の材料も売ってるんだよ。 それにここならチョコを包むための箱と包装だって買えるんだから」
「ぬ……? どっちみち魔王様はすぐに作ったチョコを食べてしまうのに、わざわざ包む必要があるのですか?」
「ボクがチョコに飢えてる子みたく言わないでくれる? ……あのね。 こういうのは包装にも拘らなきゃダメなんだよぉ。 ほらグゥエインも早くそれっぽいヤツ選んで来て」
「は、はい……。 それっぽいもの? 善処します……」
店内を物色する魔王と従者。
魔王が選んだのは小豆色と渋紙の色調を持つ二段重ねの箱と、薄紅と藍白が交互に織り成す配色の包装紙。それとチェックのリボン。
対して従者が選んできた材料は黒一色。徹底的なまでの漆黒。それに加えて折りは純白。
それはとりあえず黒と白で統一しとけばセンスがあるように見せれるのではないか、という貧相な色感を周囲から見透かされている事に気付かない若人が犯す愚行。
その過ちを数千年も生きているはずの修羅の世界の人間が犯すなんて。いや、修羅の世界の人間だからこそかもしれない。
魔王の表情が分かり易いほどに怪訝だった。
「あの……。 ダメですか?」
「うん。 ダメ。 ってかこれは葬儀用……? 即却下だよ、こんなの」
「申し訳ありません」
「まあ、お前に選ばせたボクがバカだった」
結局従者の分も選ぶ事にする魔王。だが従者に似合う色がなかなか決まらない。
ウルスラの従者ル・グウェィンといえば、その従順すぎる生き様には何の面白みもないし何の情緒もない。
だから彼の性質をイメージさせるパーソナルカラーがまったく思い浮かばない。陳列棚の前で苦慮する魔王。
それを見兼ねたのか、店員が近付いて来た。
「お客様、何かお探しですかぁ?」
「あ……うん。 この人にあった雰囲気のお菓子作り用の箱を探してるの」
「あら。 お父様のですか?」
「いや。 パパじゃないけど……」
魔王は1700歳。従者は1800歳。修羅の世界基準でいけば実はあまり歳の変わらない2人。
表の世界でいえば17才と18才程度の差しかない。
だが第三者目線だと2人は親子のような関係に見えるようだ。
苦笑いを浮かべる店員。
朗かに10代の様相を持つ女の子と、それとはひとまわり以上にも歳が離れていそうな礼装の男性。
何となく2人の如何わしい関係を察してしまう店員。深堀して聞ける類の話でもない。三人の間に妙に気まずい雰囲気が漂う。
店員の表情から何かを察したル・グゥエインが口を開いた。
「おい人間、下衆な勘繰りは控えよ。 このお方は私の敬うべき主人。 そして私は魔王様の一従者。 ただそれだけの関係なのだからな」
「え……? ご主人さまと従者さん……ですか?」
「うん。 こいつはボクの従者だよぉ。 そんでボクは次元の魔王のウルスラ。」
「はあ……」
それは聞く人によっては余計に如何わしい関係性を連想させてしまうような単語の組み合わせだった。
そのうえ二人揃って何か中二病的なものを激しく患っている。
(ヒソヒソ……あの2人……ご主人様とその下僕なんですって。 一体どういうプレイなのかしら)
(しかもあんなに歳が離れてるのに? 女の子なんてボクっ子だし…… 怪しすぎるよね……。 あの2人、絶対いやらしい関係よ)
周りの女性客達の猜疑の視線が2人に突き刺さった。
ただし当の本人らにその認識はなく、周囲の噂話の真意を推し量ることもできない。
表の世界の人間に対しては飢えた狼のような反応を見せる魔王ウルスラも、修羅の世界の人間相手となると途端に反応が淡白になる。
同じ世界の人種なのに、彼女の瞳には修羅の世界の人間は恋愛対象として映らないのだろう。
店員の巧みな案内によって従者用の無難な配色の包装紙と適当な小箱を手に入れた魔王。
そのままチョコ製作用の板チョコと生クリーム、ココアパウダーも合わせて購入。
経緯はどうあれ欲しいものを手中に収めた彼女の心の中は喜びでいっぱいに溢れた。
にこやかな笑みを浮かべながら弾むような足どりで意気揚々と雑貨店を後にする。
「うふふ……表の世界のお買い物って、こんなに楽しいんだねぇ。 また一緒に買いに来よおね」
「はい。 私は常に魔王様のお傍におりますゆえ」
幼い風貌の少女。その少女の命令に忠実に従い、荷物を両手一杯に抱える執事風の男。
そんな2人の風貌はやはりどうにも目立つ。店の外に出てからも周囲の人間の猜疑の視線を一挙に集める2人。
だがそんな事は意にも介さない魔王と修羅の従者なのであった。




