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プロローグ

挿絵(By みてみん)



 とある勇者パーティーは、とある次元の魔王と激しい戦いを繰り広げていた。


 次元の魔王は既存の魔王達とは比べ物にならない力を持っていた。まさにそれは『次元』の違う戦闘能力だった。


だが、とある勇者パーティーも既存の概念から大きく逸脱した力を持っていた。


 今まで幾多にも及んで魔王達を打ち破ってきた勇者らは、その度に能力の限界を突破してきた。

紛れもなく世界最高峰の力を持つ世界最強のパーティーだった。


 それでも勇者達の力は次元の魔王には遠く及ばない。


 勇者ソーマの必殺の魔法剣はいとも容易く弾かれ、戦士ヴェインの魔神の如き一撃にも次元の魔王は難なく耐えてみせた。

僧侶シロナの神の力を付与する祝福、強力無比なバフもすべて即座に打ち消された。


 対して次元の魔王の放つ、時空の衝裂が僧侶の防御障壁を難なく破壊し、その掌から生じた煉獄が勇者を焼き尽くし、無慈悲に振るわれる魔王の拳が突貫する戦士を何度も弾き返した。



「ならこれでどうだ! 碧猛き迸る閃雷(ギガルディア・レギオ)!!」



 勇者の掌から(ほとばし)る究極の極大電撃呪文。碧色の(いかずち)が次元の魔王を裂甚の渦に包み込んだ。



「閃雷のダメージ値は……547……か。 まあまあ強力だけど、でもそれじゃダメだね」



 後方で何もせずに待機している女魔法使いがポツリと呟いた。



Fushruuuuuuu――!



 彼女の言葉通り。

次元の魔王は勇者の究極呪文にも微動だにせず荒い吐息を吐き出した。



「嘘だろ……。 最強クラスの魔物でも一撃で葬り、魔王でも膝を付く威力だぞ……?」



 『蒼の勇者』の異名どおりに彼が誇るのは蒼き電撃、『レギオ系』に分類される呪文。

レギオ系の呪文は精鋭魔法使いが操る爆裂呪文『プロド系』の威力さえも上回ると言われる。

 

 だがそれも次元の魔王には全く通用しなかった。


絶望の表情を浮かべる勇者ソーマを嘲笑する次元の魔王が、掌から闇の十字を放ち勇者達を吹き飛ばした。



 既に大半のライフを失い、満身創痍の勇者パーティー。 


 だがここで次元の魔王に敗れる訳にはいかない。次元魔王との戦いによる敗北は、即ち世界の消滅を意味する。

次元の魔王は我々の次元を破壊するために現れた未知の存在なのだ。


たとえその身が砕けようとも、命を失おうとも勇者達は退く訳には行かなかった。


 『竜戦士』の名を持つヴェインが呟いた。



「どうやらコイツに普通の手は一切通用しないようだ。 ならもう奥の手を使うしかねえ」


「奥の手ってまさかお前……竜の力を解放する気か!?」


「ダメよ、ヴェイン! 死ぬ気ですか!? たとえ死ななくても二度と人間に戻れなくなりますっ!」



 勇者ソーマと僧侶シロナが叫んだ。



「……ここでコイツを倒せなければどっちみち世界は終いさ。 だったら俺の命と引き換えにしてでもヤツを地獄に引きずり落とす」



 そう言って戦士ヴェインが竜の魂を即座に解放する。胸に亀裂が走り紅の光が溢れる。


筋骨隆々の肉体が更に膨れ上がり、頭部には鋭角が現れ、その顔が爬虫類の如く変形して――。




「うッ!? のわあぁぁっ!?」



 突然、女魔法使いが乱入して来てヴェインを後ろから思いっきり蹴飛ばした。


竜化は中断されヴェインの姿が人に戻っていく。



「てめえ! なにしやがる!? クリムゾナ!」



「やめなって。 あんたの安い命なんか誰も欲しがらないっての。 それにそんな雑魚い力じゃ次元の魔王は倒せないわ」



 ヴェインを見下すようにして立つ、クリムゾナと呼ばれた女魔法使い。

艶のある赤髪に紅の瞳、端麗な容姿に均衡の取れた長身細身。


 とても勇者一行のメンバーとは思えない邪で妖艶な雰囲気を纏った彼女を人は『紅蓮の魔女・クリムゾナ』と呼んだ。

 

 かつては『恐怖の魔王』の背後に潜む黒幕であった彼女は、今では勇者パーティーに加わりその中でも随一の超火力を誇るアタッカーである。


ただし世界を救うとかそんな事には一切興味が無い。ただ究極のカンストダメージを叩き出す事にのみ執着を見せる、常識の狂った女魔法使い。



「ヴェインさん。 ごめんね。 でも私もヴェインさんには死んで欲しくないな……」



 クリムゾナの背後から怯えるようにして出てきたのは彼女の妹のナナハ。

ヴェインは彼女の言葉に何も答えずに目を逸らす。別に彼女の事が嫌いという訳ではない。彼女の姉のクリムゾナが大の苦手なのだ。



 ナナハは特筆したスキルもなく、その能力も一般市民と大差ないレベル。

本来ならとても最終決戦に参加していいような人間ではないのだが。

 

 そんな彼女がこの場にいる理由。それは姉のクリムゾナと妹ナナハの間に『奇妙な誓約』があるため。


 それは『姉妹間で10メートル以上離れられない』という誓約。

仮に離れようとしてもどちらか一方が離れた分だけ、もう片方が引き寄せられてしまう。


その誓約自体が代償なのかクリムゾナには『搾取する絆』、ナナハには『授与する絆』というスキルがあった。


 それはクリムゾナがナナハから様々な能力を奪い取って吸収する、という不思議な能力だった。

この能力はステイタス、特殊スキル、さらには妹の美貌、本来訪れるはずだった幸運や、恋愛フラグでさえも根こそぎ奪い取ってしまう。


 なので、これまで姉のクリムゾナに搾取され続けた妹のナナハには何の能力もない。いくら必死にレベルを上げてもそれはすべて姉の能力として還元されてしまう。

見た目もみすぼらしく、恋の一つも叶った事のないような平凡以下の女の子だった。


 そんな人間2人分の容量を持つクリムゾナの力は絶大だった。


 ただし性格には少々問題があった。



「チッ。 さっきから次元の眷属どもがあたしの魔素紡ぎの妨害ばっかしてるっつーの。 ちょっとヴェイン、シロナ。 あんたらちゃんと仕事なさいなっ!」


「なっ……! 私は一生懸命やってますしっ!」


「こっちだって魔王を抑えるのに精一杯なんだぞ! しかも俺の竜化も邪魔しやがって! てめえこそさっきから棒立ちなだけじゃねえかっ!」


 叫ぶ2人を一瞥して傍に歩み寄るクリムゾナ。


「ふん。 このクリムゾナ様の言う事が聞けないってのなら、こうするだけよ……!」


 その細腕のどこにそんな力があるのか。

むんず、と戦士と僧侶の身体を掴むと『ずおりゃああああああ!』と叫んでそのまま次元魔物の群れの中へ放り投げた。



「おわあああああ!!」


「きゃああああああああ!?」



 突如眼前に飛び込んできた人間2名に驚き慄く次元の魔王と魔物達。

だがすぐに冷静さを取り戻すと2人をこれでもか、これでもか、と言わんばかりに袋叩きにするのだった。


 戦慄するヴェイン。泣き叫ぶシロナ。



「あーっはっはっ! これぞ投擲のプロヴォーク! せいぜいマシな肉壁になって少しでもあたしに貢献しなさい!」



「おねーちゃん……」



「まあ、いつも通りといえばいつも通りのクリムゾナなんだけどねぇ……ハハハ」



 クリムゾナの暴虐を見て思わず溜め息をつく勇者ソーマとナナハ。


今までもクリムゾナの様々な暴虐に耐えてきた勇者パーティーだが、彼女の持つ絶大な力はパーティーの戦力として欠かせなかったため、これまでも渋々パーティーに同行させてきた。


それほどまでに彼女の力は逸脱していた。



「ふふん。 なにはともあれ魔力充填完了ね。 ウフフフ……。 次元の魔王さん。 あんたは己の力の強大さによってアタシに敗れるのよ!」



 彼女にはある有用なスキルがあった。

それは『宿命の怨嗟』というレジェンドスキル。


 これは対峙する敵性の能力が高ければ高いほど、自身の攻撃力にブーストが掛かるという能力を持っていた。


次元の魔王は確かに常識外れの強さを持っていたが、それがかえってクリムゾナに力を与えてしまうのだ。



「さあ、受けてみなさい! あたしの究極を超えた究極、禁忌の四重呪殺を! そして叩き出せ! カンストダメージ!」



 クリムゾナは人が行使する事の許されていない禁呪の詠唱を開始した。




『畏怖の羽音は囁く者達の奏、呼び覚ませし異形の使徒――。畏れこそ安寧、穢れこそ至福――。


純潔の地よ、穢れなき羊達よ。深淵の贄となれ! さあ喰らい尽くしなさいっ! 禁忌の深淵の禍き触アバドン・アビスウォーム!!』




 深淵より現れたのは『黙示録の滅び(カタストロフィ)』にも等しい(いにしえ)の魔物アビスウォーム。

それと同時に大量に出現したイナゴの大群。


 具現化した暗闇の雲と化した蟲達は、次元の魔王とその眷属を覆い肉を喰らい尽くす。



UGYAAAAAAAAAA――!?



 次元の魔王が初めて苦悶の雄叫びを上げた。



「んー。 ダメージは……8356かっ! って……ダメじゃん。こんなんじゃ全然ダメ!」


 『深淵の禍き触アバドン・アビスウォーム』は十分すぎる働きを見せていたが、それでもクリムゾナは不満そうだった。


続けて次なる禁呪を解き放つ。




『星霜の氷棺、其は永久に目覚めぬ夢幻の回廊――。 我は此度命ずる。哀れなる贄を以って古の契鎖にて顕在せよと。


是こそ絶対顕現、是こそ無限氷獄! 二度と覚めぬ夢を見るがいい――! 禁忌の絶対氷獄の霊棺(コキュートス・カイン)!!』




 クリムゾナによって強制的に現世へ呼び出された氷獄の領域が、次元の魔王をその魂ごと凍らさんとその周囲に絶対零度を顕現する。


次元の魔王は叫び声一つもあげれずに瞬時に凍りついた。




「よっし! ダメージは……9469! ああああああああっ!! あともうちょいじゃん!」



 何故クリムゾナはこんなにもダメージに拘るのか。


 ダメージ値は特殊なアイテムや魔法を使わなければ視認できるものではないのだが、彼女は可視の方眼鏡モノクローム・モノクルというアイテムを使ってそれを測定していた。

それを元に彼女の脳内では緻密なダメージ演算が行われていた。


 例を挙げるなら勇者の究極電撃呪文、『碧猛き迸る閃雷(ギガルディア・レギオ)』。


 これは【基本ダメージ:200】の威力を持つ強力無比な全体攻撃呪文。

これにソーマの【INT:227】の補正値分、計267パーセントが掛かってダメージ534へと変化する。


 ここから敵の抵抗値が引かれた値が実際のダメージなのだが、通常の魔物なら最強クラスでもライフ300が関の山。

そう考えるとダメージ500代でもその威力は絶大だった。


 ちなみに【HP】や【MP】を覗く【ステイタス】の限界値は本来は99まで。

勇者達は神の祝福からなる限界突破を経てこれを255まで成長させる事ができる。


 対してクリムゾナの【INT値】は、というと破格の718。これを補正値に換算すると実に844パーセント増となる。


彼女は数多の魔法を自らに使用することで【ステイタス】を無理矢理に限界突破させ続け『神の祝福』の更に先の先をひた進んでいたのだ。


 勿論これも人智を超えた神の領域に至るべく『禁呪』なのであるが。

これがひとたびでも審問官に知れれば、すぐに異端として裁かれるし、神々にも目を付けられるような忌むべき行為。


 それでも彼女は神の領域を侵す事に全く躊躇いが無かった。



 禁忌の深淵の禍き触アバドン・アビスウォームは【基本ダメージ:450】を持つ。この呪文自体も普通に禁呪。一瞬詠唱しただけでも天使が裁かんと降臨するレベル。

初期ダメージ値でも極大魔法を余裕で凌駕する程の破滅的な威力だが、さらにそこにクリムゾナの【INT】補正を加えるとダメージ値は3798に至る。


 この時点で大概の威力だが。


 さらに次元の魔王を対象とした『宿命の怨嗟』のスキル効果が乗ると最終的にダメージは8356まで膨れ上がる。

禁忌の絶対氷獄の霊棺(コキュートス・カイン)だと【基本ダメージ:510】なので、最終計算後は9469となり更に逸脱。


 ちなみに以前勇者達が討ち倒した『恐怖の魔王』の【HP】は3000である。

クリムゾナの放つ禁呪は魔王も真っ青のオーバーキル。こんな次元を凌駕するようなダメージ値など、本来は必要ないのだが――。



 彼女はとにかく『9999』に拘っていた。


 

 とある数学者は言った。『9999』の先に世界の真理があると。

その数字の先に究極の学問、全知に至る何かがあるという。

それは神の次元への扉を開く鍵なのか。はたまたアカシックレコードを現世に開示してしまう程の正体不明の何かなのか。


 今までにも『9999』ダメージを出した者はいた。

ではその者らによって世界の真理は解明されたか?というと答えはノーだった。


 それもそのはず。『9999』を出した者はその瞬間に跡形もなく消えてしまうのだ。

それは犯されざる神の領域に至ろうとした、愚かな人間への贖罪だと言われていた。


 だがクリムゾナの認識はそうではなかった。



 彼らは『9999』に至る事で新たに旅立ったのだ。

その先にある未知の世界へと。




 クリムゾナはこれまでずっと世界の真理を追いかけていた。幼少期にアイリィと名乗っていた頃からずっと。


 何故世界は存在するのか?神が世界を生み出したですって?ならばその神は誰が作ったの?

全知全能だから世界を生み出すのも自分自身を生み出すのも可能?もうその言葉自体が激しく矛盾しているじゃない。


 宇宙が『創生の歪みの光』から生まれたという説を唱える学者もいるけど、実際に見たことも無いタダの推測でしかないでしょう。

無から創生の光が生まれた?無より神が生まれた?


 ならば無はいつから其処にあったの?何故唐突に無が生まれたの?

ならばその無を生み出したのは誰なの?その誰かを生み出したのは誰なの?


 元々無がそこにあった?仮にそうだったとして誰が『無がそこに在る』と決めたの?




 クリムゾナは決して『解』の出ない無限後退に陥った。

かといって乱数理論や絶対神論を暗に否定したからといって何も真理が見えるという訳ではないのだ。




 ならば自分も『9999』の領域に至ればいいではないか。クリムゾナはそう考えた。



 そうやってひたすらダメージの極致のみを追い求めてきた。様々な禁呪にも手を出した。

国を偽り欺き追われ天使にも狙われ、白き羽根が降臨する度に退けた。神に対しても堂々と正面から背いてみせた。


 かつて魔王の裏にいた、というのもそういう理由があっての事だった。

そしてやっと次元の魔王との戦いで、『9999』が実現可能な域にまで到達したのだ。


 ここでそのチャンスを逃すわけにはいかなかった。


クリムゾナにとっては世界を次元の魔王から救うなど、己の知的欲求を満たす事の二の次だったのだ。




 とにかく、なんとしても『9999』を――!



 さすがのクリムゾナも禁呪の二連詠唱に大きく魔力を消耗していた。

肩で息をするがその眼はまだ何も諦めていない者の目。



「あとダメージ500っ! まだまだぁぁぁ!」



 フワッと宙に舞い上がるクリムゾナ。両手をかざして詠唱を開始する。



『おお爆炎の帝王よ――!汝の憤怒は焦炎の揺らぎ、焦熱猛きに地は恐れ、狂渦は理さえも焼き尽くす――。


今こそ此処に汝が大いなる力を示さん! 禁忌の究極灼神の戦鉄槌イグニート・パニッシャー!!』



 凍り付いて身動きが取れない次元の魔王の頭上に、空中庭園と見紛うが如き超極大の灼炎のハンマーが顕在した。

激しい業火の軌道を描きながら振り下ろされる禁忌の究極灼神の戦鉄槌イグニート・パニッシャー




UGOOOOOOOOOO――!!




 次元の魔王は氷ごと吹き飛ばされて甚大な爆発に慄いた。




「ダメージは……9748! ああああああああああ!! 惜しいっ!」



 とうとう次元の魔王がガタガタと震え出した。その目にはうっすら涙が浮かんでいる。


もうやめてあげて――。誰かが叫んだ気がした。でもクリムゾナの耳には届かないし、届いていてもたぶん聞き入れはしない。



 次元の魔王は己の死を覚悟した。



「ハァハァ……。 さすがにあたしの魔力も尽きてきたわ……」



 クリムゾナは激しく消耗していた。禁呪をこれだけ連発すればそれは仕方のない事だった。



「でも、これが最後よ……。 これでビシッときめるっ! 9999よ! 来おおおおいっ!!」




 クリムゾナは最後の禁呪の詠唱を開始するのであった。




『至高の神翼集いし終焉、神の言霊は裁きの矛と成りて光臨せし――不毛の大地よ至上の祝福に悦べ――!


汝らの咎、今こそ裁かれん――! 最終神の極光剣エクセリオン・キャリバー!!』


 満を持して顕在された圧倒的で絶対なる、最終の力。究極の輝きを誇る四対の神の剣。

それは世界に四つの影を落とすか如く巨大だった。

 

 次元の魔王に四度突き刺さる神の(つるぎ)

突き刺さるというより、もう押し潰していた。その刀身があまりにも巨大すぎて。


 一点に集中して交わった(やいば)は眩いばかりの閃光を放つ。

巻き起こる光の奔流が次元の魔王の肉体を滅びへと(いざな)った。



「ダメージは……9996!! って!? ああああああああああああああああああああ!! あと3って嘘でしょおおおおおおおおッ!?」



 ギリギリ『9999』に至らず、頭を抱えて泣き叫ぶクリムゾナ。

そして普通に痛すぎて泣き叫ぶ次元の魔王。



UGAAAAAAAAA――!!



 とうとう【HP】が尽きたのか、身体を塵に変えて四散していく魔王。



「ちょっと待って! 9996てすっごい気持ち悪いっ! ゴメン、もっかいやり直さしてぇっ!」



UGAAAAAAAAA――!!



「待てっての、滅ぶな魔王! あんた相手じゃないとスキル補正が下がるのよぉぉッ!? ちょっとシロナ! 早く次元の魔王に回復魔法をっ!」



「全力で拒否させて頂きます……!」



「うがあああああああ! この役立たずのクソ聖職者がぁぁぁぁぁ!」



 シロナに掴みかかって首を絞めるクリムゾナ。怯えて号泣するシロナ。

慌てて止めに入るヴェイン。慌てふためく妹ナナハ。


 その光景を見た勇者ソーマが真顔になって、呆れていた。




「世界は救われたのに、なんか変な眩暈がしてきた……」



「ごめんね、ごめんね……。 うちのおねーちゃんがまたみなさんにご迷惑を……」



 陳謝するナナハをソーマが無言で制して、優しい眼差しを送った。



 妹はこんなに慎ましやかなのにあの姉ときたら――。







 次元の魔王が最後の力を振り絞って語り出した。



『よくぞ我を退けた。 見事だ、異界の勇者達よ……。 だが我を倒しても、一年後にはまた別の次元魔王が再びあ……』



「うるさいっ!! あああああああああああ!! ああああああああああ!! あと3、あと3だったのにぃぃぃぃ! バカァァァァァ!」



 最後の決め台詞を言い終える事も許されずに魔王は塵となって消滅した。




「終わった……のか……?」


「結局アホが勝手に1人で暴走して、勝手に1人で倒しちまったけどな……」


「でも魔王を倒したあれは禁呪ですっ! こんな結末、神は絶対に許しませんよ!」



 各々感想を呟く勇者パーティー。シロナだけがワナワナと肩を震わせて叫んだ。




 次元の魔王を倒した事により勇者パーティーは更なる限界突破を果たす。

神の声が勇者達の祝福の内容を告げていた。



≪ ソーマのレベルが151にあがった! ヴェインのレベルが153にあがった! シロナのレベルが149にあがった! ≫


≪ クリムゾナのレベルが152にあがった! ナナハのレベルが86にあがった! ≫







≪ クリムゾナは【スキル】四倍虚数術を習得した。 INTが異常値を検出。 オーバーフローしました。 レベルを1に戻して再計算します ≫



「はっ? えっ?」



 彼女はこれまで闇の禁呪を用いて無理矢理魔力の限界を突破させてきたのだ。

そのツケが次元魔王との戦いを経て、ようやく巡ってきたのだろう。



≪クリムゾナのレベルが1になった! 誓約の鎖に連動したナナハのレベルが1になった!≫




クリムゾナ

Lv1

HP 15/15

MP 1/1


【STR :1】

【VIT :1】

【AGI :1】

【DEX :1】

【INT :88】



【スキル】

人間投擲

宿命の怨嗟

誓約の鎖・ナナハ

授与する絆

四倍虚数術



「はああああああ!? なんじゃこりゃあああああ! あたしのMPさんどこさいっただぁぁぁ!?」



 辛うじて【INT】を88の値をは維持しているが、他が悲惨な事になっていた。しかも肝心の【MP】が壊滅状態である。

魔法使いから【MP】を取ったらただの村人と変わらない。しかも清々(すがすが)しいまでのレベル1。



 慌ててナナハの【ステイタス】を方眼鏡を用いて確認するクリムゾナ。



ナナハ

Lv1

HP 35/35

MP 9999/9999


【STR 3】

【VIT 43】

【AGI 1】

【DEX 2】

【INT 2】



【スキル】

不条理の薄幸

誓約の鎖・アイリィ

搾取する絆




「あたしのMPさん、そこにいたあああああああッ!?」



「なにこれぇ。 どうしよ? おねーちゃん……」


 色んな意味でナナハの【ステイタス】が異常値を示していた。特に【MP】の値が大きく狂っていた。

よく見るとスキル『授与する絆』と『搾取する絆』までもが入れ替わっていた。


 クリムゾナの身体が。胸が。みるみると縮んでいく。艶のあった髪、白肌から滑らかさが失われる。

それに反するかのようにナナハが美しく妖艶に変化していく。



スキルが入れ替わることによってクリムゾナが搾取される側、ナナハが搾取する側へと変わってしまったのだ。



「お、お前。 その姿……。 わっはっはっ! なんだよそのチンチクリンは!」



「あんなに偉そうにしていたクリムゾナさんがまるで貧相な幼女のように……プッ」



「ぐぬぬ……。 うるさいっ! うるさぁーい!」



 無残にも妖艶な美女から貧相なロリっ子へと変化してしまったクリムゾナ。

その珍妙な様相を見たメンバー達が彼女を嘲笑した。




「ちっちゃいおねーちゃん……。 かわいい……」




 ナナハだけが目を輝かせて幼くなった姉を見つめていた。




ふつつかな姉妹ですが応援よろしくお願いします。


少しでも、面白かったり、いいなと思ってくださったのなら、

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