第1話
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
今週分です。
次話は後れを取り返せるよう、早めに出す予定です。
よろしくお願いします。
本日も楽しんで読んでいただけると幸いです。
第一章 国立魔装士育成学校
二十年前、突如空に大穴が開き中から無数の魔物、後に創魔神と呼ばれる生命体が出現した。
創魔神は次々と人間を襲い、殺戮の限りを尽くしてゆき、世界を混乱へと導いた。
やがて世界は闇に包まれ人類の半分が滅亡し、この世の終わりだと誰もが人類の終焉を諦念したとき、そこに五人の英雄が現れた。
彼らは精霊と呼ばれる別の種族とともに創魔神と戦い、長き激闘の末、自らの命をもってすべての創魔神を撃退した。
生き残った人々は彼らを魔装士と呼び、英雄としてたたえ、日々の生活を取り戻していった。
それ以降、国は魔装士を育成する教育機関を作り、いつ創魔神が再び出現してもいいよう対策を進めていったのである……
そして時は現在、ここ琉劫国。
世界に五つ存在する国の中でも魔装士の人数の最も多い、ツカサと結衣の住むこの琉劫国では、16歳になると魔力を持っている者は国立魔装士育成学校、通称―勝神学園―に入学することが義務づけられている。
魔力とは、いわば霊力のようなもので、その強さ、保有量は人によって異なる。
また魔力を有しているものと、そうでない者がおり、魔力を有している者にしか魔装士になることはできない。
この琉劫国では人口四千万人に対し魔力を持っている者はわずか千人しかおらずまた全員が大人になったときに魔装士になるわけではないため、せめて緊急事態に少しでも人員を確保できるようにと、ある程度の戦闘力と知識を身につけさせるため国は勝神学園への入学を義務化している。
ちなみに勝神学園という名は学園理事長の勝神総一郎の名字からとったのが由来である。
そして今日、桜舞い散る暖かい春の日。
篠崎ツカサと幼馴染の咲波結衣は国立魔装師育成学校―勝神学園―の第十八期生として入学式を迎える予定だったのだが……
「もーーっ!! ツカサがのんびり準備なんかやってるから! なんで前もって前日にやっておかないのよこのバカ!!」
二人は入学式のある今日、初日から遅刻し、長い長い住宅街の道を全速力で走っていた。
時刻は八時四十分。
入学式が始まるまであと十分しかない。
「お前なぁ。さっきからバカバカってそれしか言えないのかよ。学校の帰りによそ見して電柱にぶつかったり、買い物に来てるのに財布忘れたり、テレビ見たままうたた寝して、翌日風邪ひいて学校休んだりするお前のほうが、よっぽどバカだろ」
ツカサは呆れたように言い返す。
そう、ツカサともう十年の付き合いになるこの咲波結衣という少女は、いつもどこかがぬけている。
いわば天然なのだ。
一緒にいるとハラハラさせられることばかりでとても心配になるのだが、普段はとても優しい性格で、ツカサが悩んでいたり、つらい思いをしているときはいつだって傍にいてくれる。
ツカサにとってそんな結衣はまぁ大切な存在だ。
恥ずかしくて本人には到底言えないが。
「やっ、そっ、それとこれは別でしょ! ツカサだって私が買って来てって頼んだプリンを間違えてヨーグルト買ってきたじゃない!」
「はいはい。すみませんでした」
と、たわいもない言い合いをしながら、二人は走り続ける。
そうこうしているうちに、目的地である勝神学園の象徴ともいえる、大きな時計台が見えてきた。
ツカサはその大きな時計台の存在を確認すると
「ほら結衣、行くぞ!!」
と声をかけるなり、ラストスパートをかけ、さらに速度を上げる。
「もー! 待ってよー!」
結衣はもう限界と言わんばかりの顔で前を走るツカサの背中を追いかける。
途中、通行人からいくつもの視線を浴びせられたが二人は気にせず走り続けた。
その後、全速力で走った甲斐あってか、二人はなんとか時間前に校門をくぐることができた。
まだちらほらと着いたばかりの生徒が何人か窺え、二人そろって安堵の息を漏らす。
―――国立勝神学園―――
敷地面積八十万平方メートルを誇る、世界最大級のこの学園では、一年生から三年生までの計三年をかけて授業や実戦を通して一人前の魔装士を育成する。
全校生徒はおよそ三百人。
一学年に約百人が在学している。
桜の並木が続く正門から中に入ると、まず目に入るのが巨大な噴水である。
噴水の中央には二十年前、創魔神と戦い世界を救った五人の英雄の像が建てられ、その周りから、きれいに透き通った水が天へと向かって噴き出している。
噴水の向こうには、体育館と学生たちの学び舎である本校舎があり、さらに奥には学生寮、また広大なグラウンドが広がっている。
しかしなにより、大きく存在を主張しているのが本校舎の横、長いテラスの先にある数々の演習場、そして大戦闘アリーナである。
演習場は日々の実践的な戦闘の訓練や授業に使われ、大戦闘アリーナは年に1回ずつ行われる個人での校内序列決定戦と、小隊での序列決定戦に使われている。
どの施設も最新の設備が整っており、生徒たちはなに不自由することなく生活することができている。
これらは、毎日厳しい訓練に励んでいる魔装士候補生たちのためにと学園長が配慮してくれたもので、そのおかげか学園長の生徒からの人気は高い。
「やっぱりすごい規模だな。学園を1周するだけでも半日はかかるんじゃないか?」
二人はそれらの立派な建物を見渡しながら、入学式の会場である体育館へと歩みを進める。
「ツカサ、ほらあそこ」
体育館の入口に近づいたところで結衣は走りだし座席表と思われる張り紙が貼ってある大きな掲示板を眺めた。
「どうだ? 席見つかったか?」
結衣に追いついたツカサは後ろから声をかける。
「うーん、私は舞台側から見て左後ろで、あんたは真ん中の前の方ね。」
「真ん中か。昨日は少ししか眠れなかったから、居眠りしないか心配だな。位置的にそこだと目立ってしょうがない」
「ツカサが夜更かしなんて珍しいわね。普段規則正しい生活してるのに。何かあったの?」
「単純に今日が楽しみで眠れなかった」
「なによそれ、子供みたい」
結衣は白い歯を見せながら、かわいらしい笑みを浮かべた。
「じゃあ、ここからは別行動ね。寝るんじゃないわよ。じゃあね!」
結衣は元気な明るい声でそれだけいうと、受付で手続きを済ませ足早に自席へと行ってしまった。
「それじゃ、俺も行くか」
ツカサは自身も受付で手続きを済ませ、席を確認した後、走って乱れた制服を整え人の集まる式場の中へと進んでいった。
ありがとうございました。




