五話 決闘日和
実力試験は一対一で勝ったら次、負けたら終わりのトーナメント方式で初戦は何ペアも同時に行うが、勝ち進めば一度に戦うペアの数は減り、何度も試合が出来る分だけスカウトの目に止まりやすいというものだ。
そしてスカウトというのは学校関係者だけでなく、現役の騎士達もである。つまり、将来有望な者に目星をつけたり、スカウトして若い内から見習いとして経験を積ませようとしている人が見ているということだ。
そういう人たちに見込まれた人は当たり前といえば当たり前だが、これからの騎士を引っ張っていくような人に育っていく者なのである。
だからこそ、この実力試験は当に自分の将来を決めるものと言っても過言ではないのだ。
……なんて話を昼休みの間、永遠と繰り返し聞かされた少女は少々うんざりした気分であった。
(あぁ、お腹が重くなってきちゃったよ。……ただの食べ過ぎかもしれないけど)
そんなこんなで順番待ちしていた少女だったが、遂に順番が来たのだ。
(あーあ、どうやったら痛くないように負けられるのかなぁ)
周りは緊張に包まれているにも関わらず、少女はそんなことを呑気に考える。
どーれ、自分をボコボコにする相手の顔ぐらい見ておきますか、ぐらいの軽い気持ちで対戦相手の方を向く。
その対戦相手は、――レインだった。
(あ、レオン君が相手なら良かった-。痛い思いをしなくてもすむかもしれないし、お昼ご飯の恩もある――)
「……君が相手なんだね、何か不思議な縁を感じるけど」
レインはそこで一拍置くと、再び淡々と話し始める。少女にはその姿がお昼ご飯の時とは別人のように感じられた。
「――容赦はしないから。君からは気負いも闘志も感じられないけど、本気で来ないと……」
殺しちゃうかもしれないよ?
レインはそこまでは喋らなかったが、少女はレインの言わんとする事が理解できた気がした。
全力で、本気で戦わないようなふざけた真似はするなと。ご飯の恩も、知り合いであることも忘れて戦おうと。
少女は息を呑む。自分の甘い考えを見透かされた気がしたからだ。
後ろを向いてしまったレインの表情は、少女からは見えないがなんとなく見えてるかのように分かってしまった。
「分かってるよ。……最初からそんなつもりなんてないから」
少女は息を吐くように言葉を発した。その言葉を聞いてレインは驚いた顔で此方を振り向いてきたが、それ以上にその言葉を発した本人である少女が驚いていた。
レインは満足そうに微笑んで言った。
「そっか、安心したよ」
少女は後悔しながらも、期待を裏切らないようにせめて一太刀浴びせてやろう、そう決意した。