三話 先輩騎士と苦しみの少女
少女は困惑していた。
少女は自分の手を取って歩く男、オルザの背中をボーと見つめながら、今更ではあるが邪魔にならないようにオルザにペースを合わせて早足で歩く。
少女はペースを合わせるのに慣れてくると、先ほどまでの出来事を思い返していた。相手の言うことも耳に入らず、謝り続ける少女の姿。
(迷惑だっただろうなぁ)
少女は若干の気恥ずかしさを感じながらも、今思うと何であんなことしたのかも分からないような自分の行いを反省する。
――そして最後に割を食うのはあっちなのよ。
(……って、あれ? そんなことあったっけ?)
少女は自分の考えの中に違和感を覚えるが、記憶が無いのだから解決出来る筈もない。そして結局、少女の出した結論は今考えても分からないから後回しでいいや、というものだった。
考えるのをやめた少女は現実へと引き戻され、今まで意識していなかった手から伝わってくる温もりと自分の鼓動の高まりを感じていた。
(なんだろう……この気持ち?)
その答えを持ち合わせていない少女には、この心地の良い温かみが永遠に続くように願うことしか出来なかった。
そしてその反面、少女の冷静な部分が読み取ってしまう自分の手の先にいる男の感情も、何処かしらから感じる緊張も見えてしまいそうになるのを必死に堪えていた。
☆★☆★☆
「ほら、着いたぞ」
少女はオルザに連れられていくつかの教室を回った後、少女が試験を受ける予定になっていた教室に着いていた。
(あっ……)
オルザは目的地に着いたので手を離す。オルザにしてみれば当たり前の事であったが、オルザの考えを知らない少女には突然であった。
少女は空気中へと消えていく熱に寂しさを感じながらも、これまでを顧みて何か親切にされていたことは理解していた。
(お礼言わなきゃ……)
少女がそう思っても、先ほどまでの感情や今自分が置かれている状況の訳の分からなさがごちゃ混ぜになって少女の思考を乱す。
少女は焦燥感に駆られるが、焦れば焦るほど言葉が紡げなくなっていく。少女の呼吸は浅くなり、どんどん速度を上げていく。どれだけ呼吸のスピードを上げても息苦しさは消えず、一層強くなっていく。
そうこうしている内に、オルザは別れの言葉を告げ去っていく。
(言わなきゃいけないのに……)
こんなに簡単なことなのに言えない、少女は自分のままならなさに滞りを覚え、泣きそうになるのは迷惑になるから抑える。しかし、少女がお礼を言う前にオルザは少女の前から姿を消してしまった。
――ほら、あなたはいつだってそうなのよ。