一話 見えたものは
少女は一人で荒れ果てた地の上に立っていた。何かを考えることもその場から離れようとすることもなく、立ち尽くしていた。
それからどれだけの時間が経っただろうか。少女には声が聞こえた。それが少女に向けられたものだったのかなんて、少女は考えなかった。
『ここには何もない。誰もそう思わなくてもただただ広くて暗くて悲しい場所。あなたはここに何を求めているの? どうしてこんな所にいるの? どうして……』
少女はその言葉が最後まで紡がれることが無いと確信してから少しだけ微笑んで、あなたは? と問いかけた。
しかしその問いに答える声は無く、再び辺りは静寂に包まれた。
しばらくしてから少女は、聞こえているかも分からない声の主に慈愛と優しさに満ちた声で話し掛けた。
「……目的は無いのね。それとも忘れてしまったのかしら? だったら私の願いを分けてあげる」
そこで一拍置いて少女は反応を伺い、何の返答もないのを確認すると再び口を開く。
その時の少女の顔は何もせず佇んでいた時や、先ほどまでの慈愛に満ち溢れた様なものでもなく、むしろ自分の将来の夢を親に語って聞かせる時の子どもの様に無邪気な笑顔だった。
「私の願いはね――」
☆★☆★☆
「――おい、おーい? 聞こえてますかー?」
何とも言えない呑気な声が少女の意識を覚醒させる。意識がはっきりしてきた少女は慌ててブンブンと頭を振り回して周りを見ても、誰も居らず自分に話しかけてきている事を理解すると、少し俯いてマフラーで口元を隠して考え込む。
(な、なんで話しかけられてるんだろう……。もしかして何かやっちゃったのかなぁ?)
しかし、当然いくら考えても答えなんて出ない。だってどこにいるのかも分からないし、自分が何をしていたのかも覚えていないのだ。
理由も分からず、この場を切り抜けられるような術も持ち合わせていない。
(どうしよう……)
少女は途方に暮れる事しか出来なかった。しかしそんな中、少女は頭でピンと何かが弾けたような感覚を覚える。
それがいつ、どこでの記憶なのかを少女には見当もつかないがそれでも今はこの記憶に頼るしかないと、判断してその閃きに身を任せようとする。
(もうこれしかない! ……気がする)
そう決意したものの、少女は既に訪れてしまった沈黙を覆す勇気がなく、なかなか切り出せずにいた。
しかし、少女の中にある葛藤を知る由も無いのにそれを破る者が現れた。というよりも少女をこの未曾有の窮地へと陥れた男本人だった。痺れを切らした男が再び話しかけてきたのだ。
「あー、えっと、その……なんだ。大丈夫か?」
その言葉を聞いて男が怒ったりしているわけではないと分かれば、少女が今からしようとしていることがどんなにトンチンカンで場違いなものなのか理解できた筈なのだ。
……その筈なのだが、生憎既に覚悟を決めてしまっている少女にとって男の発言は
(今が好機だ!)
という風に少女に思わせるだけの、沈黙を破るための道具に成り下がってしまったのだから皮肉な話である。
そして少女のとった行動は、
「あの……ごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!」
という少女の息が切れるまで続いた意味不明な謝罪連弾であり、その結果は――
「…………はぁ?」
――男を困惑させるという結果を生んだだけだった。
この作品をご覧いただき、ありがとうございます。誤字脱字やここはこうした方が良いよとか、こんな話が見たいとか、こんなキャラがいたらいいなぁとかありましたら、書いていただけると作者のやる気やネタにつながりますので、出来ればお願いしますー。