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迷宮―2

 人の熱気と喧騒。

 扉を開けた途端に押して寄せ来るその圧に、目の前にいる三人の少女達は体をびくりとさせ、足を止めてしまう。


 これはまた難儀な時に来てしまったな。

 一際威圧感の強い場所を見ると、今から大物を狩りに行くと言わんばかりの装備のパーティーが幾つか目に入る。

 普段なら探索者ギルドの中もこれ程熱気も威圧感も無いのだが、たまたま下層に潜るパーティーが幾つかいる時に来てしまったのか。

 可哀想だが、探索者としてやっていくのなら、このくらいで気圧されているようじゃ、大型の魔物を目にしたら足がすくんで動けなくなる。


 一番最初に一歩踏み出したのはカノン。驚いたことに一番気弱だと思っていたカノンが最初に動き出したので、呆気にとられてしまった。無口なのは気弱とかではなく、ただ話すのが面倒なのか、会話だけが苦手なのだろうか。

 ほんの少し遅れてリコとシーナも動き出す。全員が中へと入ったところで、こちらへと向いていた威圧感が和らぎ、変わりに視線が俺へと集まる。

 数人がこちらに近づいて来ていたが、後ろに見えた俺の姿に、進むのをやめて元の場所に帰っていった。


「どういうこと? 中に入ったら急に落ち着いたんだけど」


「新人への歓迎の儀式みたいなものだよ」


 いつからあるのかは知らないが、俺が探索者になるためにマインベートに来た時には既に行われていた。

 大抵の新人は中に入る前に、入って良いのかと扉を開けて中を見る。その時に気づいた奴が合図を出してプレッシャーをかけるわけだ。

 それに対する反応で、その後の扱いが変わる。立ち止まったまま動けなかったり、逃げていく者はそのまま放置される。少し驚いたりしたくらいで、その後自力で中へと入って来た者は歓迎される。

 今回は後ろに俺がいたことで、歓迎に関しては無かったが、何人かこっちに来ようとしたってことは、三人とも合格ってことだ。

 もし、俺がいなかったら、あのまま案内すると言って近づき、情報を探りに来られる。

 そして、スキルや能力的に良さそうであればスカウトされるってわけだ。この段階でスカウトされるのはよっぽど稀有なスキルか、スキルの組み合わせがかなり良かったりしないと難しいが。


 探索者達の視線が俺と前の三人を行ったり来たりする。

 何人かは俺の前にいる三人が勇者候補だと知っているようだ。大手ギルドには声をかけたと言っていたから、情報が漏れていても仕方ないことだろう。


「あの睨んできてる奴らは何なのよ」


 ほんのり眉間にしわを寄せているが、慣れていないのか全然上手くできていなくて怖さの欠片もない。

 本人は負けじと睨んでいるつもりであろう視線の先には、酒を片手に朝っぱらから真っ赤な顔をした男達がいた。

 少しでも狩場を確保するために、夜から迷宮に潜っていたのだろう。朝になって人が増えてきた段階で狩りを切り上げて戻ってくるのは上層で狩り効率を上げるためには悪くない手だ。


「あれは才能の無い探索者の成れの果てだよ。上層でなら狩りはできるけれど、中層に行く力も勇気もなく、探索者以外になることもできずに、毎日その日使いきりそうな収入で何とかやっている。だから、育て屋と一緒にいるお前達が羨ましくて憎いんだ」


 上層での収入なんて、あの酒代と宿代でほとんど消えて行くだろう。装備を整えることも、金を貯めることもせずに、ただ同じ毎日を繰り返しているだけだ。

 上層で夜中に狩りをしないといけないということは下に行くこともできずに燻っているわけだ。上層の中でも下の方ならそこまでしなくても狩りはできるはずなのにそれをしないということは、まともに訓練もせず戦闘の反省や組み立てもしていないだろう。

 あんな奴らは、まともな指導者がいれば大成できたかと言われても、難しいとしか言えないがな。少しでも効率を上げる戦い方を考えもせず、ちょっとした勇気を出すこともしない。教えたところで、それ止まりの奴らじゃ、今より少し良い程度で終わりだろう。


 探索者というのは、若くしてなることができて、上手くいけば名を上げたり大金を手にできる。

 若くして探索者の道に飛び込んで、結局落ちぶれた奴っていうのは、他の道を知らず、他の道に行くための知識も技術も持ってない。

 だからこそ、ああやってその日暮らしの毎日からも抜けられずに、自分より待遇の良い奴を妬んで生きている。


「ああはなりたくないわね」


「お前達にやる気と前に進む勇気さえあれば、あんな姿にはなりはしないさ」


 そのための育て屋なんだから。


 三人を連れて奥へと進む。登録をしなくても探索者にはなれるが、登録をしておいた方が後の手続きが楽だし、依頼や情報を回してくれることもある。

 渡された注意事項の書かれた紙を読み、登録用紙に記入している間、俺は暇になったので顔見知りの受付に声をかける。


「何組勇者候補がマインベートに来たか分かる?」


「本当は探索者の情報は規則としては言っちゃいけないんだけれど、さすがに分かりやすすぎて皆知っているから教えてあげる。三組よ。一番早かったのが、ヘイレンが王都に向かった翌日に来たわ。後の二組は五日前と三日前ね」


 内情を知っている奴らからすれば、この時期にマインベート以外の拠点からやってきた中堅以上の探索者と装備だけ良い新人なんて組み合わせを見れば一発で分かるだろう。

 それにしても、五組の内の四組がマインベートに集まったか。

 王都から一番近い迷宮はアンデットばかりの迷宮だし、その次に近いのはトラップの多い迷宮で育成には向かない。

 迷宮以外だと、鳥系の多いガードナ平野や毒虫が時折湧いて対策が面倒なリステアの森も育成には向かない。


 それより遠い場所に行くならマインベートに行くのも大きな差はない。そうなると、マインベートに集まってくるのは仕方のないことか。

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