依頼―2
馬車に揺られること五日。
ようやく王都までやって来たが、数年来なかっただけで随分と変わった気がする。
感傷に浸る時間も無く城を目指して進む馬車には、俺以外にキースともう一人騎士のヨルドが乗っている。御者役にもう一人騎士がいて、残りの騎士は先に城に戻り、俺が依頼を受けたことを報告に行っているらしい。
依頼の内容は異世界から召喚された勇者の育成。召喚された勇者というのが一人では無く二十人ほどいたようで、騎士団と魔導師団がそれぞれ有望そうな勇者を引き抜き、残った勇者を探索者達に育成させようと依頼を出すことにした。
依頼は大手クランにまず声をかけていき、マインベート以外の街ではすぐに決まったようだ。報酬が良いので、大手クランともなればそれなりの自信もあるため断るという選択肢はなかったのだろう。ただ、マインベートだけは大手クランの全てが断ったそうだ。
マインベートで育成を頼むなら"育て屋"以上に育成ができる者はいないと。
俺としては評価されて嬉しい反面、期待されすぎて辛い。
だが、そのおかげで、これほど報酬の良い依頼を手に入れられたのだから有難い。
普段の育成依頼の五倍近い報酬。そして、育成に失敗してもお咎めなし。さらに、勇者が功績をあげればそれに応じた追加報酬あり。
これが国からの依頼じゃ無ければ胡散臭すぎて、速攻で断って逃げるところだ。
「城に着きましたよ。今から大臣の元へ案内しますので、詳しくはそこで聞いてください」
馬車から降りるように促され、ようやく長い旅が終わった。どうせ、勇者と会ったらマインベートまでもだろないといけないから、実際には工程の半分を終えただけだが。
馬車から降りれば見上げても上の方が見えない石造りの壁。これが城を守る壁か。これほど近くで見たことは無かったから、その大きさに唖然としてしまう。
「大丈夫ですか?」
見上げたまま立ち止まっていたせいで心配されてしまった。慌てて思考を戻し振り返る。
「大丈夫です。案内よろしくお願いします」
城の中に入るが、普段よりましな恰好はしているが、探索者としてはマシなだけなので場違いな感じが半端ではない。装備をしてもいいなら鎧でも着けていた方がここでは合っているかもな。
そのまま案内してくれているキースの後ろを逸れないようについていくと、一つの扉の前で立ち止まった。
「勇者の教育者を探していたキースです。マインベートの育て屋を連れてきました」
少しの沈黙の後、部屋の中からこちらに向かってくる音が聞こえる。
ゆっくりと開かれたドアの中から少し小太りの疲れた表情をしたおっさんが出てくる。
「よく来たな。説明は中でするとしよう」
俺の全身をさらっと見て中へと戻っていくおっさんに椅子に座るように促される。
キースと共に中へと入り、椅子へと座ればいつ嗅ぎつけたのかメイドがお茶を持って部屋へとやってきた。
「わしは王の補佐をしている大臣のワーランだ。この度は勇者の育成依頼を受けてくれてありがとう、マインベートの育て屋よ」
「こちらこそ勇者の育成なんて大任に選んでいただきありがとうございます。マインベートでは育て屋とも呼ばれている探索者のヘイレンと申します」
さすがに大臣に無礼はできないので、しっかりと返させてもらえば、意外だったのか少し驚いた表情でこちらを見てくる。
その後、少し気まずそうな表情に変わり視線が一瞬逸れた。
「ゴホン。どこまで話は聞いておるかな?」
「私が大体のことは説明させていただきました。後は勇者についてと依頼の内容について再確認していただければ」
「それなら話が早い。まず始めに言っておく。申し訳ない」
唐突に謝れたせいでどう反応すれば良いか困っていると、すぐに大臣が続きを話してくれる。
召喚された二十二人の勇者のうち、五人は騎士団と魔導師団が担当することになった。
残りの十七人に対して、有名なクランや武術家に声をかけ、五つに分けようと動き出した。マインベートは迷宮のある町ということで有名クランが多くいる。声をかけに行ったが、マインベートと王都は片道で五日程。
さらに、マインベートのクランに声をかけれど有名クランには育て屋に任せると断られて時間がかかってしまった。
つまり、他の声をかけられた奴等は先に王都に来た。そして、俺がここに来る前にそれぞれ勇者を選んで連れて行ったのだ。
今残っている勇者は余り物という訳だ。残ったのは三人。どれもスキルは勇者としてはハズレの部類に当たるスキル。
「育成が上手くいかなくても報酬は払う。だから、出来ればこのまま勇者の教育者として契約してもらいたい」
報酬はかなり良い。育てるのを失敗しても良いというのは、かなり気が楽だ。
追加報酬を貰える可能性は少なくとも、デメリットなんて殆どありはしない。
「良いですよ。それに、育て屋の名を舐めてもらっては困ります。ハズレ勇者だろうと使えるようにはしてみせますよ」
「ありがとう。それは心強い。では、まずは三ヶ月後に成果を見せて欲しい」
三ヶ月後ね。それだけあれば十分だろう。才能のある子ならば一ヶ月もかからない。トーキ君やシュベット君はそうだった。
才能の無い勇者だったとしても、最低限ならば三ヶ月もかからない。
「では、君が担当する勇者には城の門の前に荷物を持って集まるように言っておいた。城の設備が使いたければキースに言えば良い」
俺としては文句を言うようなこともないので、そのまま部屋を後にした。