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一日目は終わり

 時折休憩も挟んだから、迷宮に潜ってから二時間と少しが経ったくらいだろう。

 未だに戦い続ける三人には、疲労がかなり見えている。反応が鈍くなり、少しずつ攻撃をくらう回数が増えてきた。カノンも魔力回復のポーションをすでに五本は消費しているので、魔力も厳しいだろう。


「そろそろ終わりにするか?」


 心配そうにキースが尋ねるが、三人は大丈夫と告げて武器を構える。

 だが、再出現しているため疲労のないチーアの攻撃は、最初と変わらない威力で放たれる。反応が遅れたせいで、受け流すこともできずに剣で受け止めようとするが、疲労で力が入ってないシーナでは受けきれずに剣が弾き飛ばされる。

 慌ててリコがサポートに入り、剣を取りにシーナが下がる。

 大きく距離を取ったチーアをリコがそのまま追おうとするが追いつけない。弧を描くようにリコを無視してカノンを狙いに行くチーアに、カノンが迎撃すべく魔法を放つ。

 魔力消費を抑えるために単発の魔法を選んだのが仇となり、体を屈ませたチーアの頭上を火の玉が通り過ぎた。


「言わんこっちゃねえ!」


 このままでは大怪我になると判断してキースが間に入り攻撃を受け止める。俺はカノンの体を持ち上げ、攻撃の当たらない位置まで下がっていた。


「今日はここまでだな」


 キースがチーアを両断したのに確認して、終わりを告げる。


 46体。初日にしては三人がかりとは言え、悪くない数字だろう。

 普段、俺のもとには、探索者になろうと自分で決めてマインベートに来て、そこでクランのスカウトに目をつけられた奴がやって来る。少なからず、良スキルを持っていたり、ある程度体を鍛えたりしている奴らでも、最初は50体前後なのだ。

 一部おかしな奴もたまにはいるが、そいつらは単に才能とそれまでの経験によるものだ。


「ま、まだいけるわよ」

「私も、いけます」


 剣を握りしめて反論してくるが、ただ剣を握っているだけの腕が疲れで震えている。

 やる気は買ってやるが、限界を見極めれないと、探索者としてはやっていけないぞ。


「今のは俺もキースもいなかったら、完全にカノンがやられていた状況だ。そして、そのまま動揺して、二人のどちらか、もしくは両方がやられていたかもしれない。死んだら全てが終わりだ。その見極めは、探索者として生きるのなら、いかなる時も忘れるな」


 ゆっくりと剣を下ろす二人にお疲れ様と声をかける。本当に限界だったのだろう。倒れこむように座るので、持ってきていた水を渡す。


「師匠、私たちの戦いはどうでしたか?」


「悪く無いと思うぞ。まだ始まったばかりだから、細かい部分はこれから鍛えれば良い。家に戻ったら今日の振り返りをするから、戻るまで各自で自分の動きを思い返しておけ」


「はい!」


 まだ消えていないチーアの死体を解体して素材を回収しておく。途中で回収した分を含めれば、今日のご飯代くらいにはなるだろう。


 迷宮石を渡して迷宮の入り口まで戻るように伝える。キースが先に転移し、残りの三人が転移したのを確認して、俺も迷宮石を使う。


「何やってんの?」


 迷宮の入り口で倒れているリコとシーナ。キースが苦笑いでそれを見つめている。


「た、立てません……」

「起き上がろうと思っても体に力が入らないわ」


 限界ぎりぎりまで戦い続けていたからな。迷宮から出て気が抜けてしまい、興奮によって隠れていた疲労が襲ってきたのだろう。

 カノンは立ってはいるものの、ふらふらとして今にも寝てしまいそうだ。


「キース。カノンを頼む」


 二人に触れてエアライドを発動させる。エアライドは重力を無視する訳では無いが、発動時に触れている物を僅かだが軽くする効果もある。


 俺も鍛えていない訳では無いので、小柄な少女が更に軽くなった状態であれば持てないことはない。乱暴に肩へと担ぐとリコが騒ぐが、それを無視して少し浮き上がりスライドを始める。


「……何でもありだな」

「魔力消費も激しいし、重いものは重い。立っているだけで良いからましってくらいだ」

「お、重いって何よ! 重いって!」


 さすがにエアライドの補助があったとしても、一人30kgはあるんだぞ。重いに決まっているだろうが。それと、そんなに騒ぐ元気があるのなら、自分で歩いて帰れ。


 すれ違う探索者に見られるのが恥ずかしいのか、騒ぐことをやめて黙って顔を隠しているので少し持ちやすくなった。

 どうせ家に向かう途中に買取所があるので、途中で寄って換金する。


「今日のでどれくらいの稼ぎなの?」

「五人で普通の食事を一日分したら宿代が残るくらいかな」

「あれだけやって、たったそれだけ!?」

「半分以上は解体もせずに迷宮に吸収されていったからな」


 合間合間に俺とキースで解体をしていたが、俺達もいつでも助けに入れるようにしていたから解体は死体が近くにあるときしかしていない。全部を解体していれば、数日遊べるくらいの金にはなったが、それでも数日だ。


 上層しか探索のできない探索者の収入なんてそんな程度しかない。それも、今回はポーションも迷宮石も俺の持っていた物を使ったから、それのお金も考えると今日の解体した分だけだと赤字だ。


「明日からは解体もしてもらうから、金も手に入る。今日はぶっ通しだったが、戦闘と戦闘の間に少し休息を挟めばポーションの使用量も減るだろう」

「が、頑張って師匠の分まで稼ぎます!」


 金は国から貰ったから、それを考えれば今のペースでも数ヶ月は黒字なんだけどな。

 自分の分の金は自分で稼ぐのが良いと思うから、頑張るのは構わない。


 買取も終わり帰るために、もう一度二人を担ごうとしたところで、見覚えのある奴に声をかけられた。


「お久しぶりです。それが噂の勇者ですか」


 袋にパンパンに入った換金素材はさすがとしか言えない。外で待っているのはグランシーカーでも上位の剣士だから、最下層の攻略に行っていたのだろう。本当に若者の成長速度は凄いな。


「そうだよ。三人とも疲労でぐったりしているけどね」

「仕方ないですよ。初日は調子に乗ってこうなるのは、先生に育てられた探索者の殆どが通る道ですから」


 自分のことを思い出しているのだろう。トーキ君も初日は動けないと言って、数時間ギルドの酒場でテーブルに突っ伏していたもんな。その状態で一人にするのは可哀想だと思い、俺が酒を飲みながら待っていたから、少し回復したら家へと帰って行ったが、翌日寝坊してきたことも忘れない。

 トーキ君はそれでも比較的ましな方だとは思う。酷いのだと、ギルドまで連れて帰ったのはいいが翌朝までそこで寝ていた奴や、何とか家に帰って行ったが翌日動けなくて集合場所に来れなかった奴もいた。


「今日は最下層に行っていたのかい?」

「ええ。まだまだ攻略には時間がかかりそうですけれど。今日は最下層で問題なく戦えるか試して終わりでした」


 まだ階層主の居場所も分からないから、しばらくは探索が続くだろう。そこから、階層主に挑むために作戦を立てたり、装備を揃えたりとするから、早くても半月はかかるな。犠牲を減らし、確実に突破するのを目指すならば、一月は余裕でかかる。

 スイとザイザラなら確実に突破する方を選択するだろうから、しばらくは良い報告は聞けそうにないな。


「無理はしないようにな。スイもザイザラも、仲間が死ぬことを嫌う。二人のことを思うなら、危険を冒すのはやめておけ」

「はい。肝に銘じておきます」

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