狩り―4
「三人とも悪くねえな。初めてにしては動きに戸惑いが少ない」
「訓練はしていたようだからな。それに、今の彼女らにはこれしかないんだ。やるしかない人間ってのは、想像以上に強いものだよ」
「違いないな」
探せば他の道など幾らでもあるだろう。国も結果を問わないと言って送り出している以上、勇者としての結果を残さず他の道に逃げたとしても、お小言くらいはあっても糾弾することはないはずだ。
だが、こうして用意されたことによって、彼女達はこの道しかないと思っているのだろう。三人とも、こうやって探索者として迷宮に潜るのは嫌じゃなく、むしろ楽しんでいるから、今は別の道に逃げるつもりなんて無いだろうが。
一体だけのチーアならば問題なく戦えている。隙を見つけて攻撃を繰り出して堅実に倒す。そして倒されたらすぐにチーアを再出現させる。いつ終わるのかすら分からない状況でも、しっかりと相手を見ているのは良いことだ。
「これが、育て屋の裏技ってやつか」
何度も再出現してくるチーアを苦笑いしながら見るキース。知識がある奴ならばそうなるよな。人がこれだけ近くにいて、そして時間をおくことなく湧き続けるなんてありえないはずだ。
「中層程度までしか役立たないスキルだけれどね。だからこそ、下層攻略をやめ、こうやって育て屋になったんだから」
下層の魔物なんて再出現させてまで連戦できるような相手ではない。それに、下層にまで行く探索者が少ないから、下層で魔物を必死に探すことも少ない。レア出現の魔物ならば、話は別だが。
そうなると、下層まで行くと俺の三つあるスキルの一つが完全に役に立たない。エアライドは足場を気にせず戦えるのは利点だが、必須スキルではない。さらに、最後のスキルは戦略の幅を広げるだけのものなので、俺の火力は下層組の中ではかなり低い方だ。
はっきり言って、一撃の重さだけを言えば、もう少し鍛えたらシーナに抜かれるだろう。シーナの無慈悲なる一撃と一点集中を組み合わせた火力は馬鹿にならない。反動により硬直時間が発生するが、倒し切れるタイミングや硬直時間以上にひるませることができれば問題ない。パーティーなら、別のやつが盾役になってもいいのだから、あの火力は魅力的だ。
「最後のスキルはリコちゃんと同じようなスキルか?」
「ああ。器用貧乏って言ってな。訓練すれば大抵のものは使えるようになるが、極めることはできないスキルだ」
リコとの違いは、育てやすさと上限の差だ。
俺の場合は、剣の訓練をして使えるようになったら魔法の訓練をして、と言った感じに一つを育てて、育ったら次を育てることができるが、代わりに他人の八割程度しか習得できない。
リコの場合は、一つを育てるのではなく、並行して育てないといけない。最後のスキルの取捨選択のおかげで、使わないと決めたものに関しては育てなくても良いが、普段から使うものに関しては並行する必要がある。代わりに、全てを鍛えることができれば、全てにおいて極めることができる。
これは大きな差だ。俺が頭打ちしても、リコはまだまだ強くなれるのだから。
とは言え、その境地に辿り着くことが相当な難易度になるのだが。
「育て屋ねえ。天職みたいなスキル構成だな」
「違いない。エアライドが指導に使えるスキルだったら完璧だった」
再出現により魔物との戦闘を繰り返せる。器用貧乏により、どんなスタイルの戦い方でも自分が練習して習得さえすれば教えることができる。
これほど指導者向けのスキル構成は無いだろう。
下層に潜るよりも、命の危険がほとんど無く金を稼げるのだから悪くは無いよな。
自分の限界を悟った時に、育て屋になろうと思った。まだ俺を必要としてくれていたパーティーを抜け、この町で育て屋をやると決めた時に、一番最初に依頼をくれたのが俺が抜けたパーティーの残りのメンバーだった時は、自分の都合で抜けた俺を恨むこともなく応援してくれたことに涙したのは忘れない。
その後も、俺より先に抜けていたパーティーメンバーも含めて三人がそれぞれクランを作ったから、そこからの依頼を熟しているうちに育て屋の知名度は上がり、今の俺がいるわけだ。
選択が正しかったのかは分からないが、俺は育て屋に、残りの皆もクランマスターとして活躍しているから、悪くない結果になったとは思う。