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狩り―3

「ぐだぐだしてらんないわよね! 次、探しに行きましょう」


「そうだね。まだ一体倒しただけだもんね」


 やる気があるのはいいことだ。

 次を探しに行こうと歩き出そうとする二人を止めて、チーアの死体を指差す。


「せっかく倒したんだから放って置くのは勿体無いだろ。金になる素材だけでも取っておくのと、ついでに練習にもなるから解体してみろ」


 三人に解体用のナイフを一本ずつ渡す。本当にやるのかと顔を見合わせて、なかなか手を出さない。


「キース。解体の仕方を教えてやってくれ。少し俺は探し物をする」


「はいよ」


 俺が教えても良いが、いっぱい戦いたいようだから、少しでも時間を伸ばせるようにキースへ頼む。この三人には解体をしっかり覚えてもらう必要もないから、価値が落ちない程度に素材を回収するだけの技量があれば良い。それなら、しっかり教えなくとも、経験さえ積んでおけば大丈夫だろう。


 部屋の中を外側からぐるっと見て回る。魔力の濃度は問題ない。この部屋に続く通路からは魔力の流れを感じないので、おそらくさっきのチーアはこの部屋で出現した。魔物の出現位置については予測を立てられるだけの研究結果は出ていないが、魔物の出現条件についてはある程度分かっている。


 通常の魔物のようなランダム出現の場合、出現条件としては再出現までの時間など色々あるが、出現位置の魔力濃度という絶対に必要な条件がある。

 トラップ型だったり、階層主のような固定出現だったりには適応されないが、通常湧きの場合は魔力濃度がある程度濃くないといけない。だから、魔力に敏感、もしくは可視化できるようなスキルを持っていれば、出現位置の予想は少しできる。

 とは言っても、前回の出現から時間が経っていないと出現しないし、出現可能でもひたすらサイコロの目を外し続けるような運を引けば出てこない可能性だってあるのだが。


  そして、もう一つ。

 出現した魔物は、探索者や獲物なんかを見つけない限りは、魔力の流れに沿って行動する。

 だから、この部屋に通じる魔力の流れが無ければ、さっきのチーアはこの部屋で出現したことが分かる。


 分かったところでどうなるんだって話だ。再出現可能時間を過ぎるまではこの部屋に寄らないという結論しか、普通ならば出てこない。


「とりあえず、素材は取ったぞ。で、次はどうするんだ?」


「まあ、最初にしては十分だろう。じゃあ、部屋の入り口で待機してくれ」


「何かしようってわけ? 何もないなら早く次を探しに行きたいんだけれど」


「次? 次なら探す必要はない。今日はここで終わりだ」


「なにふざけたこと言ってるのよ……」


 溜め息を吐いて次へ向かおうとするので、さっさと魔力を練り始める。

 俺が探索者になろうと思った理由。そして、魔物の狩場探しが大変だと言うのに育て屋をやろうと思った理由。どちらもたった一つのスキルによるものだ。

 探索者以外には不要なスキル。そして、下層に行けば役に立たないスキル。


「武器を構えろ。これから特訓の開始だ」


「あ、あんたが相手ってわけ? それでもいいわよ。訓練になるならね!」


「俺が相手をするにはお前らはまだまだ雑魚すぎる」


「はあ!? ゴールドランクか何か知らないけど、舐めてもらっちゃ困るわ!」


 その元気はどうぞ魔物にぶつけて。

 実際問題、俺と今のお前達じゃ勝負にならない。一人一人の実力もまだまだで、仲間同士の連携も中の下ってところだろう。それだと、どれだけ三人の戦闘スタイルが違うと言えども、俺が相手だと分が悪いな。


「限界が来たら言えよ? 余力が残っているようなら止めないけれど。さあ、存分に戦え」


 何だか悪役みたいだ。これもリコが突っかかってくるからだ。俺は悪くねえ。


 魔力を込めた手を前にかざし、スキルを発動させる。

 少し目を逸らしたくなるくらいの光が視界を覆う。光が弱まれば、そこには先ほど倒したばかりのチーアがいた。


「なっ!? このタイミングで湧いた?」


 驚き立ち止まったままのリコに向かって、今度はチーアが駆け寄る。

 一度怯んだ体はすぐには動かせない。チーアの爪が迫るが、リコは避けることも防ぐこともできずに、ただその攻撃を見ていた。


 もう避けられないという所まで攻撃が来た時に、リコとの間にシーナの左腕につけられたバックラーが伸びて来た。


「っ!? シーナ! 大丈夫!?」


 チーアの攻撃はバックラーに阻まれたが、シーナの腕を衝撃で弾いた。弾かれた腕がリコの肩に当たるが、リコのダメージはそれほど無かったようでシーナを支え距離を取る。


 骨や関節は問題なさそうだ。ただ、伸ばした腕に攻撃を受けたせいで少し痺れたような感じがして、力が上手く入らないのだろう。


「……ここが私の聖域。私の場所」


 カノンが身の丈程ある杖を、地面に突き刺すかのように力強く取り出し構える。


「私の仲間はこれ以上傷つけさせない」


 二種類の魔法が放たれる。一つはシーナへ、もう一つは次の攻撃を繰り出そうとしているチーアへと。

 シーナへと放たれたのは回復魔法であるヒール。カノンのスキルにより強化されたヒールは、腕の痺れ程度なら一瞬で治す。

 チーアへと放たれたのは火属性魔法のファイアアロー。強化されたファイアアローは、チーアの胸を貫きその命を一瞬で奪い取る。


 さすが。と言ったところか。

 魔法特化。それも、固定砲台専用であるカノンの魔法は、威力と発動速度だけを見ればすでに中層クラスだろう。

 問題はそのスキルのデメリットだ。カノンの持つ"聖域"と"不動なるは大木が如し"この二つは最高の組み合わせだろう。


 自分の指定した範囲では、魔法の威力が上がる聖域。

 スキル発動時、動かなければ魔法の詠唱速度と威力が上がる不動なるは大木が如し。


 聖域のデメリットは、発動中魔力消費が微量ながら発生することと、指定した範囲以外では効果がないということ。

 不動なるは大木が如しのデメリットは、発動中に動くと魔法の発動がキャンセルされるということ。

 この二つの組み合わせは、結局聖域のデメリットを無くすようなものだから問題は無い。


 だが、最後のスキルである"常時発動"。これによって、デメリットがかなりの縛りになる。

 聖域に関しては、指定範囲さえ狭めていれば魔力消費は問題にならない程度だからいいが、不動なるは大木が如しのデメリットにより移動中の魔法発動が一切出来なくなる。


 強制的な固定砲台化。


 それが、カノンの最大の欠点だ。避けながらの攻撃が出来ず、また"動く"というのは杖の移動を禁止するという意味のようで、杖による防御も出来ない。

 動かせるのは杖を持っていない方の手と顔だけ。安全地帯で戦えるのなら良いが、いつ攻撃が飛んでくるか分からない状況で戦うのは相当難しい。


 それを補えるだけの近接戦闘の力があれば良かったが、カノンには厳しいだろう。

 ソロでは絶望と言っても過言ではない。だが、パーティーならばやりようはある。


 カノンと魔物を結ぶ線状に、シーナかリコのどちらかが必ずいる。カノンに直接攻撃がいかないように、攻撃は避けずに受けるか受け流すように戦う。

 攻撃のチャンスができた時は、攻撃の手を休ませないことで、チーアが反撃させる暇を奪えばいい。


 悪くはない連携だ。リコとカノンが補助魔法を発動しているのもあって、チーア程度なら崩れる心配はなさそうだ。

 後は、どれだけ体力が持つかと、疲れてきた時に同じように対応できるかどうか。

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