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狩り

 窓の外から聞こえる元気な声。

 剣でも振っているのか、力を込めるために吐き出す息とともに漏れる声が真剣さを伝えてくる。


 もう昼前か。通りであんなに頑張っているわけだ。昨日は結局戦わずに見ていただけだし、戦闘方法に関しては夜に話しておいたからな。早く戦いたいが俺がいないと行けないし、せめて体を動かしたかったのだろう。


 部屋を出ていつも通り洗面所に向かおうとして違和感を覚える。

 物の配置が少し変わってる?それと何だか綺麗になっているような。


 考えても仕方がないので着替えを済ませれば、今度はテーブルの上に食事が置かれているのを発見した。

 あいつらがやったのか?勝手に済むことが決まったが、意外と役に立つじゃないか。初日から、掃除も食事の用意もしてくれるなんてな。


 用意されていた食事をゆっくりと食べ終え、ホットミルクで一息ついていると、三人がキースを連れて戻って来た。


「おはようございます、師匠」


「おはよう」


「ようやく起きたのね。早く用意しなさいよ」


 シーナとカノンに挨拶を返し、リコにはゆっくりさせろと視線で訴える。

 焦らなくとも、しっかり鍛えてやるさ。もう無理と言いたくなるくらいには、今からでも狩り時間は十分にある。


「もう何時だと思ってるの? 外で鍛錬している間に、どれだけ探索者らしき人を見かけたと思ってるのよ」


 狩場の確保の為にも、特に上層組は朝早くから迷宮に入っているからな。

 中層近くまで行ける探索者でも、稼ぎが悪いと迷宮石と呼ばれる迷宮の指定階層に転移できるアイテムを買う金を用意できないことはよくある。そうなると、狩場まで寄り道せずに駆け下りても数時間ロスすることもあるから、狩り時間を伸ばす為にも早くから出ていることが多いのだ。


「迷宮石は余裕があるし、狩場には困らないから、急ぐ必要なんてないさ」


 グランシーカーから大量に迷宮石は仕入れているから、無駄に五往復くらいしても大丈夫だ。


「あー……狩り効率が……」


 ネトゲならありえない。なんて呟きながら肩を落とす。そんなに狩りがしたいなら、させてやろうじゃないか。効率効率と言うが、俺にとっては些細なことだ。もう嫌だなんて言ったって、終わらせてやらないからな。



 四人とも準備はできていたようなので、すぐに迷宮へと向かう。

 迷宮に行くのにギルドに寄る必要は無い。ギルドで依頼や買取額を確認して迷宮に行くことで稼ぎを増やすことはできるが、俺は金にはそれほど困っていないのし、狩る魔物も決まっていて、素材回収はするつもりもない。というよりも、今日は最終なんてしている余裕はないだろうから、そのまま迷宮に入っていく。


 迷宮石を全員に渡して俺が代表で発動させる。迷宮石は一人一つ消費するが、六人までなら代表者が指定した階層へと移動できる。そのため、迷宮探索は六人以下のパーティーで行われることが多い。絶対にそうでないといけないわけではないので、特に階層主や大型の魔物を倒しに行くときは人数を増やすが。


 迷宮石が光り輝き、視界が白く染まる。それを知覚した時には、周囲の景色は違うものに切り替わっていた。


「……すごい」


「これが、転移なのね」


 そういえば、三人がいた世界では魔法が無かったとか言っていたな。この世界でも転移なんて、迷宮石を使ったものか、迷宮内にトラップとして存在しているものだけだが、迷宮を活動範囲にしている探索者にとっては珍しい物ではない。


「ここは何層ですか?」


「八層だ。今日から数日はこの層で訓練する」


 下の層に行けば行くほど、同じ魔物でも強くなっていく。三人の装備を考えると、この辺りがちょうど良いだろう。

 それに、チーアは一層の階層主としているが、通常出現階層は四~十五層で、九層以降だと群れでいることが多い。

 上の階であればあるほど探索者の数が多いと考えれば、八層が一番良いのは言うまでもない。それに、八層以降はちーあの出現率もかなり高いからな。


「倒すのはチーア。これは昨日散々説明したからもう何も言わない。移動の際は、先頭をシーナ、次にリコ、そしてキースでカノンの順番だ」


 並び順を変え、武器を手にして四人が立ち止まったままこちらを見てくる。


「で、どこに向かえば良いのよ?」


 まるで、俺がどこに行けばチーアに出会えるか知っているかのような聞き方。

 いやいや、知るわけないじゃん。魔物の出現位置を完全に特定できるのなら、その理論を発表するだけで一生遊んで暮らせるだけの金を手に入れることだってできるぞ。


「いや、探せよ」

「は?」


「だから、探せって。魔物の出現位置なんて知っているわけないじゃん」

「はぁ!? ……探すわよ!」


 ズカズカと歩き出すリコに合わせてシーナが隊列を守ろうと慌てて動き出す。キースは苦笑いしながらついて行き、カノンはゆっくりと俺の横を歩く。


「さっきのは本当?」


「本当だ。確定で現れる場所はあるが、そんな場所は取り合いになっているから、結局効率は悪い」


 順番待ちしている時間は無駄だからな。それでも、普通に狩るのと同じかそれ以上の効率が得られるから、並ぶ奴がいるんだが。


「何か、はあるみたいだね。それならいいけど」


 それだけ言って、駆け足で自分の位置へと向かう。俺も離れすぎると何かあった時に間に合わなくなるので少しスピードを上げて後ろへと着く。

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