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迷宮―5

 三人に階層主について説明をしながら、扉の前までやってきた。


 中から戦闘音は聞こえず、今は誰も階層主には挑んでいないようだ。

 このまま先へと進むか、それともここで引き返すか。迷宮の中を見れたから満足しているだろうから、今なら戻ると言えば従ってくれるだろう。

 だが、俺とキースがいれば、苦戦することもなく倒せる。俺だけでも、キースだけでも倒せるが、三人に見せるなら二人で戦う方が良いだろう。

 一層の階層主なら今後の予習にもなるから、ここで階層主を見せておくのも良い。


「この中に階層主がいる。一層の階層主だから強くもないし、そこら辺にいる雑魚を少し強化しただけだが、見て行くか?」


 どうせ楽に倒せるのだから、三人に決めさせよう。


「私は一度見てみたいわ。階層主では無くて、戦い方というやつを」

「そうですね。ただ剣を振るっていただけでは分からない、戦いのイメージのためにも見ておきたいです」

「同感」


 そう言えば、魔物との戦闘自体が初めてだったな。城の中にいた時は軽い模擬戦程度ならあったようだが、基本的には素振りや体力作りなどをしていたようだし。

 まあ、これから嫌というほど魔物を倒すことになるが、その前に一度見せておくのも良いだろう。


「じゃあ、倒してから戻ろうか。三人は後ろで待機。一応、武器だけは構えておくように」


 万が一すら起こさせるつもりは無いが、棒立ちしているくらいなら、武器でも構えておいてくれた方が良い。その方が気持ちも引き締まるだろうし、集中して敵の動きを見てくれるだろう。


「キースが前衛、俺が後衛で。すぐに倒さず、少し打ち合うようにしてくれ」


 一撃で終わらせてしまったら、見せる意味すら無くなってしまう。キースの実力は知らないが、新人では無い中堅以上の騎士なら、この程度瞬殺できるだろうからな。


「分かってるって。シーナに見せるなら、いつもの盾は使わない方が良いな。バックラーもガントレットも無いから剣で受けるとするか」


「それで頼む。俺は支援しながら後衛の動きをやる」


「育て屋は後衛なのか。後ろからの方が動きを見れるから教えやすいってところか」


「見やすいってのはあるが、俺は後衛ってわけでは無い。まあ、また今度話すから、さっさと倒して戻ろう」


 キースを先頭にして扉の中へと入る。

 部屋の中央で待ち構えるのはチーア。本来なら十層付近で出現する魔物だが、一層の階層主でもある。十層付近のチーアと強さは同じくらいだが、複数体で現れることの多い十層付近に対しこちらは一体のみなので戦いやすい。

 二足歩行で、遠距離攻撃を持たないチーアは、初心者には戦いやすい魔物だ。


「来るぞ! 下がってろ!」


 チーアの爪がキースへと伸びる。それを剣で受け止め、弾き返す。

 俺も動かないとな。何も無い空間に手を伸ばす。来いと念じるのは片手で持てる小さな杖。


「キャスト!」


 現れた杖を掴み、次は支援魔法の詠唱を始める。今は見せるためにも少し多めに魔法をかけるか。


「プロテクト。ストレングス! ヘイスト」


 三つ魔法を飛ばす。すかさず、攻撃魔法の詠唱へと移り、キースの出方を窺う。

 キースは受けに徹しているようで、攻撃を受けたり流したりを続け、攻撃をしようとはしない。

 ただ、チーアの動きはワンパターンなものが多いから、これ以上長引かせてもあまり意味はないだろう。


「フレア。キース、そのまま倒して」


 俺の魔法がチーアの足元に飛び体勢を崩させる。慌てて後ろに飛んだチーアの胸元に、キースの剣が追いつき貫く。


 ゆっくりと倒れるチーアの死体から素材を回収して、残りは魔法で燃やす。死体は放置していれば勝手に消えるが、死体が残っている間次の湧きが通常は起こらない。それに、ごく稀にだが、こんな階層の魔物でもアンデット化することはある。本来なら、もっと下の階層の魔力が多い魔物に起こりやすい現象だが、迷宮内の魔力が多いときなどにはアンデット化が起こることがあり、原因や条件は完全には解明されていない。

 初めての魔物の戦闘風景に呆然している三人を連れて、今日のところは迷宮を後にする。



 迷宮から出ても無言の三人を連れて家へと向かう。途中でキースに食事を買って来てもらい、リビングで食事を始めようとしたところでようやくシーナが口を開いた。


「私も……私達も、あんな風に動けるようになりますか?」


 魔物との戦闘をまともに見るのは初めてだったな。戦闘自体が同じく召喚された勇者達との模擬戦を少ししただけだ。

 自分があんな風に動けるイメージすらできなかったのだろう。


「さあ、どうだろうな」

「はあ!? あんた育て屋でしょうが!」


 面白いように望んだ言葉を発してくれるので、笑いそうになってしまいリコから視線を外す。


「シーナに合わせるようには言ったが、あれはキースの動きだ。同じような動きをするのはできるか分からないが、やる気さえあれば、あれと同じくらいの動きはできるようにしてやる」


 キースは基本的に剣で受ける選択をしていたが、あれはキースが普段は盾を使っていて躱すという選択肢をあまりとることが無いからだ。シーナの場合は剣で受けるよりは、もっと避けたり受け流したりしながらの戦い方がいいだろう。相手に密接して攻撃を引き受けながら捌ききる必要がある。


「明日からの予定も考えないといけないから、食事が終わったらそのまま会議を始めるから」


 嫌がる四人。いや、キースは帰っても良いが、残るつもりがあるなら残ってくれればいい。

 どうせ、しばらくは俺とキースは迷宮の中で子守りをするようなもんだから。どういう風に動こうとしているのか知っている方が楽だぞ。

 いつもなら、少し話をした後は家で考えてきてもらって、翌朝迷宮に潜る前にどうすることにしたのかを聞くが、せっかく一緒にいるなら話を直接聞いていた方が考えが分かるってもんだ。


「記憶が鮮明なうちにチーアとの戦い方だけでも考えるぞ。これからはチーアと戦いまくるからな。覚悟しておけ」

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