雨の中の会話
あれから2日後。
朝から怪しい雲行きだったのだが、とうとう降って来た。
僕は尚華ちゃんの家から戻る途中で雨に見舞われた。
濡れるのを嫌がって足を速める事も無く、降って来た雨に立ち止まって打たれていた。
段々と強くなる雨に打たれて居るのが何故か心地よかった。
嫌な事を全部どっかに流してくれそうで・・・
「ジン君!?どうしたの?ずぶ濡れじゃないの!」
背後から蒼麗お姉ちゃんが声を掛けてきた。
お姉ちゃんは用意が良いな、ちゃんと傘を差してるよ。
「なんか、雨に打たれているのが気持ち良くて」
「気持ち良くてもダメよ?風邪ひいちゃうからね」
隣に来て傘に入れてくれる。
入れてもらったけど、何らかの反応をする気力がわかない。
「さ、帰ろう。結構濡れちゃってるから早く着替えないとね。本当に風邪ひいちゃうよ?」
「うん・・・でも、風邪ひいてもいいかな」
本心だ。
何か、全部がどうでもいい・・・
自分も。
他人も。
自分が起こす事。
周りで起きる事。
全部がどうでもいい・・・
隣で困った様な悲しい様な顔している蒼麗の顔を見ても・・・どうでもいい。
普段なら、そんな顔を見たら何としても笑顔に戻そうと躍起になってるはずだけど、そんな気になれない。
「ねぇジン君?お姉ちゃんを困らせないで欲しいな?心配で学校に戻れないよ?」
そうだった、1週間の田起こしの休暇で一時帰宅してるんだった。
今日で4日目だから3日後には街に行っちゃうんだった。
心配させっぱなしで行かせるのは良くないよな・・・
心配させっぱなしってのは最低だよな?
空元気・・・空元気も元気の内って言ったっけか?
「それの原因は尚華ちゃん・・・でしょ?」
空元気ってのを出してみようと思ったその時、唐突に聞かれた。
蒼麗の方を向くと、いつになく真剣な顔付きをしていた。
黙ったまま頷く。
「昨日ね、私も心配だったからお見舞いに行ってたの。一昨日は全く眠れなかったみたいでね、少し弱ってた。今もお使いの帰りに寄ってみたんだけど、限界が来て寝てるって言ってたよ。でもね、限界が来て寝てるのにずっと魘されてるって・・・おじさんがジン君に何て言ったかは知らないけど、今の尚華ちゃんにはジン君は悪い状態にしちゃう人なのかも知れないの。だからね、尚華ちゃんが自分で外に出る様になるまで会うのは待ってあげれないかな?」
「・・・うん・・・そうだよね、僕が行ったら余計に悪くなっちゃうよね」
「多分、今はね。でもね誤解はしないで欲しいの!尚華ちゃんもジン君が頑張ってくれたから無事だったって思ってるのよ?ジン君にお礼を言わなきゃって言ってたもの。でもね・・・どうしても怖くって言いたいのに言えないんだって・・・」
そうなんだ、頭で分かってても心が拒絶しちゃってるのか。
心に傷を付けちゃったのか、心の傷は下手をすると消えないから、もう会っちゃダメなのかもな。
あの力の怖さってのは持続しちゃうんだ、それとも尚華ちゃんだけなのかな?
どっちにしてもダメだよな、女の子を怖がらせちゃ。
「・・・あのね、ジン君?」
「・・・なに?」
「あのね・・・あの時のジン君は、いつものジン君と同じジン君だったの?」
「・・・それってどうゆう意味?」
「あの時のジン君ね、凄く怖かったの・・・別の人みたいに怖かったの・・・だから、教えて?あの時のジン君もジン君なの?」
「僕はいつでも僕だよ?あの時も誰か来るまで僕が頑張らないとって思ってただけだよ?」
「・・・そっか・・・そっか、よかった~」
蒼麗は、微笑みながら安堵の溜息を吐く。
蒼麗の安堵と共に、なんとなく漂っていた緊張感みたいなものが消え去った。
あの時の雰囲気が何時もと余りにも違い過ぎて僕が僕じゃなくなった様に思えていたのか。
・・・ある意味、前の僕ではなかったのだけど。
それは少しだけ300年前の記憶を思い出しただけ。
自分でも不思議なんだけど、性格や人格は300年前も同じだったみたいだ、思考や行動が変化したようには自分じゃ思えない。
生活様式も水準も両親も違うのに同じって、不思議だ。
「お姉ちゃん?・・・僕ってダメだよね?」
唐突に言わないといけないって思った事が出来たので言ってみる事にした。
「何がダメなんだろ?」
「女の子をさ・・・守る相手を怖がらせたりしちゃうのがかな?」
「あぁ、尚華ちゃんの事ね」
「え?尚華ちゃんもだけど、お姉ちゃんもだよ?」
「え?・・・わたしも?」
「そうだよ?お姉ちゃんも女の子だよ?そうでしょ?」
「いや、でも、私は男の子みたいだし・・・女の子っぽい所なんて無いし」
「何を言ってるの?いっつも僕や剛義や尚華ちゃんの面倒を見てくれてるお姉ちゃんだよ?男の子みたいなのだって、僕や剛義のする馬鹿な事を止めたり叱ったりするんで、そうなってるだけじゃない?」
「でも・・・でも、私は女の子のするような事をするのは似合わないよ?」
「それは、お姉ちゃんがそう思ってるだけでしょ?知らない人から見たら可愛いとか綺麗な女の子だって分かってる?学校でも言われるでしょ?」
そうなのだ、蒼麗は格好良い系の美人なのだ。
ほんの少し吊り気味のパッチリ開いた目、太過ぎず細すぎず主張はしっかりしてる眉、唇も厚いって言われない太さだし、輪郭も顎のラインは細く頬骨も出過ぎてないけどふっくらしてる感じだ、健康的で活発な印象を受けるルックスをしている。
好みかどうかは別としても10人居れば10人皆が美人と認めると思う。
そういえば、おばさんも夜徳さんも美人とイケメンだよな・・・生まれるべくして生まれた容姿って事なんだな。
「ふぇ!?・・・なっ!?・・・可愛い?・・・綺麗?・・・い、言われないよ~そんな事は初めて言われたよ」
・・・何で赤くなってるんだろ?
変な事を言って怒らせちゃった?
「あっ!分かった!ジン君は私を揶揄ってるんでしょ!?うん、そうだ、きっとそうに違いない!」
揶揄ってはいないんだけどな・・・
でも、何か自分を言い聞かせようとしてるな。
これ以上は止めた方が良いのかな?
「だからね、お姉ちゃん!怖がらせてごめんなさい!」
「え?あ・・・うん。いいのよ謝らなくて。私もまだ言って無かったね。ありがとう、ジン君」
自分を言い聞かせようと躍起になっていた蒼麗は僕に謝られて我に返った。
そのあとは2人共黙って歩いた。
降り続く雨はさっきよりも強く降っている、少し肌寒い位だ。
それなのに蒼麗は暑そうにしている。
やっぱり余計な事を言ってしまって少し怒らせちゃったのかな?
家に着きお母さんと少し話した後、蒼麗は帰って行った。
レイさんに『雨が強くなって寒くなって来たから、早いとこ帰って温かくするのよ』と言われたけど、寒いどころか暑い位の蒼麗は。
女の子・・・
私が女の子か~
そんな事を言われたのは初めてだな~
エヘヘ、剛義君と一緒になって危なっかしい事ばっかりやって私に怒られてたジン君が、私の事を女の子って見てたんだ、知らなかったな~。
しかも、綺麗な女の子?
何か照れちゃうよね。
学校の皆も、もしかしてそういう風に見てたのかな?
・・・それはどっちでもいいか。
それにしても・・・女の子か。
女の子、エヘヘ。
思ってたよりも長くなってしまった。
女性の顔の詳細の表現の仕方って難しい(>_<)