西方・王国建国(結末)
相変わらずの筆遅です
中洲廃城は静まり返っていた。
シナト国王を捕らえてから2日、未だに揚々としていても可笑しくはないのに静まり返っていた。
無論、国王を奪い返され攻防に負けた訳でもない。
国王は廃城の最奥の小部屋に軟禁中である。
ならば何故静まり返っているのだろうか。
原因はシナト国王の発した一言にあった、その一言のもたらした結果が今の廃城の静寂である。
「若きカートライトよ、暫しよいか?」
そこには武装解除し平服に身を纏ったバトラーと近衛隊長が立っていた。
他にも2人の見張り役のラキュア・ラキメア・クロトも居た。
「なんか用か?」
「陛下のあれは治らんのか!?」
「急くでない、それにあれは治りませんよ。若きカートライトよ・・・」
「それ止めてくんねえか?ウィンザーでいい」
「ではウィンザー、陛下をどうするつもりなのですか?」
「知らねえ、俺が決める事じゃない」
ウィンザーは一介の傭兵、決定権などは何等持ち合わせてはいない。
当初聞いていた通りにするのならば、怪我はするだろうが絶命に至る事はないはずだったのだが・・・現状のシナト国王には、当初の予定通りの事は出来ない。
「近付く軍勢有りっ!至急持ち場につけっ!」
シナト側ではない、トルムラート側だ。
シナトの軍勢は未だに川向こうにて集結しているが戦意は無く命令待ちの状態にあった。
トルムラート側もやって来るのは味方である事にほぼ間違い無いのだが万が一もある。
短期決戦と決めて戦闘を開始したが、予定通りに進んでない可能性もある。
未だに現地にて戦闘、または睨み合いをしているかもしれない。
睨み合いをしているならば、数の上で優位なトルムラート側が別動隊を仕立て廃城に攻め込んでくるやも知れないのだ。
「婆さん、そいつ等を頼むな。何もしねえだろうけど、不穏な事をしたら殺っちまってくれ」
「分かってるよ」
短い遣り取りの後で単身城門へ向かった。
橋を越え辿り着いた城門には既に守備兵が持ち場について緊張の面持ちで警戒にあたっていた。
「来たのか」
「一応な・・・敵の可能性もあるんだしな」
「シナト側は大丈夫なのか?」
「アムとオウバイの婆さんの2人でも大丈夫だろ?」
シナト兵達には宣言してあった、もしも不穏な行動をとる場合は魔術による攻撃をすると。
なので見張りの守備兵とアムネジア・オウバイだけで事足りると判断をしていた。
「で、どっちだと思う?」
「・・・進軍が遅い、どちらの可能性もある」
実のところ、進軍速度は関係無かった。
今現在は遅いとある、敵ならば理由としては楽に制圧できると踏んで歩が遅い、もしくは地理に暗く遅い等、多用の理由を付ける事ができる。
逆に早いとしても挟撃を警戒しての速攻であったり、シナトに先んじて制圧する為の速攻等、様々な理由が予想できる。
そして味方だった場合は、遅いのは短期決戦が上手くいき比較的疲労の少ない部隊を急ぎ向かわせたのだが、疲労が顔を出し速度が上がらなくなったのやも知れない。
早かったら早かったで、無理をしているだけとなる。
「結局、待つしかないか」
暫しの時が過ぎ向かい来る軍勢の旗印が明確に見える様になった、旗に記されているのはガムラミット侯爵家とルクナガルト侯爵家のものであるが・・・
「まだ気を緩めるなっ!旗を用意するなんざ簡単だからなっ!」
敵陣内に入る為に旗を偽るなどと言うのは初歩の初歩、誰にでも思い付く策略である。
普段であれば守備兵全員が理解して確信が持てるまでは気を抜いたりはしないのだが、シナト国側には20倍近い敵兵が健在である、味方の旗印を見て安堵したくなるのも仕方が無い事だった。
未確認の軍勢が城門前広場までやって来ると進軍を止め、数名が城門近くまでやって来た。
その面子は、ラグナリス・ファシリアス・バグラリア・ロダルグ・コーウェン・ロブションとウィンザーには見覚えの無い男が1人だった。
その見覚えの無い男とバルムンドは武装解除され、後ろ手に縛られていた。
「守備隊の皆さん、この通り勝って来ました。門を開けて下さい」
「・・・ミラ隊長を寄越せ。そしたら開ける」
どこまでも疑うのも礼を欠く事ではあるが、万が一にも策略だった場合を考えて開ける条件を提示したのだ。
「あたしを呼んだ?手短に頼むよ。この人を口説くんで忙しいんだからね」
そこにやって来たのは、人狼のミラと、かつてバグラリアの使者として中洲廃城にやって来た男だった。
どの様な因果が廻ったのかは当人達に聞かないと分からないが、ミラは甚く男を気に入った様だ。
「・・・ありゃ大丈夫みたいだな」
「うむ・・・捕虜となった者がする事ではないな・・・門を開けるんだ」
城門が開くと首脳陣を先頭に中へ入った。
中へ入った首脳陣は、あまりの静けさに違和感覚えた。
「無事の御帰還喜ばしく思います」
「マドラム殿も防衛御苦労様です。それにしてもいやに静かですが、シナト軍は如何されました?」
「終結しております」
「そうですか、御苦労様です。しかし尚更分かりません、この静けさは勝利した側の雰囲気ではないのですが?」
「それは・・・」
「捕まえた国王に会えば分かる」
「彼奴は、また何かやりおったのか?」
「あんたは誰だ?」
「無礼であるぞ、余はトルムラート国王であるぞ、頭が高い」
「・・・それ、止めとけ。あんなんが増えるのは勘弁だ」
シナト国王の現状を知る者は深く賛同し辟易した表情になった。
それを見た者達は各々違う想像をしたのだが、現状を正確に予見した者は居なかった。
「まあ何だ、見れば分かる。一番奥の小部屋に置いてあるから見ているきてくれ」
シナト国王の現状を知らぬ者達は、その言葉に従い廃城内へと歩き出した。
「ねえ、僕も見て良いかな?」
振り替えるとそこには少年が立っていた、年の頃はラキメアやクロト等と同じ呆気なさを備えた10歳位、黒髪に紫の瞳をしていた。
身形は素材の分からない紫の何かを削りブレスプレートに仕上げた物を着ていた、背には少年の身の丈よりも長い刀身をもつ両手剣を背負っている。
「見るのは構わねえが、夢に見るかも知れねえぞ?それよりも、坊主はどっから来たんだ?」
「今は西からだね、住まいは北にあるよ。で、夢?夢ねぇ、多分見ないから大丈夫」
「雷竜王様!」
声のした方に振り向くと、砂竜が人型で息を切らせて立っていた。
「雷竜王?」
「雷竜王様、このような場所にどうして?」
「様は要らないよ、君は僕の眷族じゃないんだからね。ここに来たのはねー、主の気配を察知してね。丁度近くに居たから来たんだけど、もう居ないみたいだね。後ねー、名付けをしてもらいたいって個体がいるのを思い出したからだよ」
ーー主?
「主様は居りました、勿体ない事に御言葉を賜りました」
「やっぱり居たんだねー、何をしにか知ってる?」
「はっ!それは戒めを・・・」
「あー成る程ねー、随分久し振りにやるから来たのか。なら、見る必要は無いか」
「あれが戒め?」
「そうだよ」
シナト国王は統べる者『統』の戒めを受けて、その姿を様変りさせていた。
「ほら、キリキリ歩け。そこいらの奴なら片手間で切り伏せる事は出来んだ、救出してもらおうなんぞ考えるだけ無駄だ」
「貴様!王に対する数々の無礼、後悔する事になるぞ!」
「んな事はどうだって良いからさっさと歩け!」
シナト国王を捕縛したウィンザー達は出来うる限り早急に廃城へ戻る必要が有った、シナト軍と戦端をひらき既に2時間近くが経過している。
その間、ラキュア・オウバイ・マドラムの3人は戦い詰めと言っても過言ではない、如何に自らを鍛え上げた者とは言え限界が訪れても可笑しくはない程である。
「ほれ、急げば死ぬ兵減るんだぜ、国民に優しい王をアピールするチャンスじゃねえのか?」
捕らえたとは言え、まだ敵陣内に居るのだから、間違っても急ぐ本当の理由を漏らす事はない。
廃城を陥落させればシナト側が有利になるのは間違い無いのだから。
「陛下ー!貴様っ!陛下に何をするかっ!」
「んあ?見ての通りだ。捕まえたから連行してんだよ」
「無礼な奴だ!皆の者!掛かれ!」
近衛隊長の号令一下、近衛隊及び一般兵もウィンザーに襲い掛かったが、ウィンザーが先程豪語した通り並の者等では敵いはしなかった。
両手剣を片手で振り回しシナト兵を一切寄せ付ける事はなかったのだ。
「無駄死にするだけだぞ?止めとけ」
「何をしておる!余を助け出せば恩賞は勿論、出世も約束されておるのだぞ!」
「し、しかし陛下、其奴が相手では・・・」
「個で勝てぬのならば一斉に伸し掛かり動きを封じるのだ!」
「被害者数が甚大になってしまいます」
「構わん!貴様らの代わりはいくらでも居る!余の代わりは居らぬのだ!余が無事ならばシナトが負けた事にはならぬ!貴様等とは違い余は死してはならぬ者なのだ!」
国王が放った台詞は周囲の雰囲気を一変させた。
一変したのだが・・・それは兵達がさせた訳ではなかった、その源は・・・
「えらい久し振りに出やがったな。久し振りだから俺が直々に来てやったぜ」
膝丈ズボンにアロハシャツと言う場違いな格好をした青年であった。
「あんたは確か・・・」
「おっ!3位じゃねえか。ちったぁ強くなったか?」
「いや、まだまだだ」
「そうか、あっちは結構強くなって来たぞ。それでもまだまだお前が上だけどな」
「・・・暫くは行かねえ、この戦争で上に居る奴等に追い付くまではな」
「ふぅ~ん、お前より上なんぞこまんと居るからな、あいつの親父にも勝てねえだろうな」
「・・・・・」
ウィンザーが此度の戦争で得た物は、自分はまだまだ弱いと言う事、そしてそれは自分がまだまだ上に行ける可能性が多いにある事の2つだった。
上に行くには、こんな戦争には早々に蹴りを付けて人種などではなく地力の有る魔獣や猛獣の居る危険地帯へと赴き底上げを行いたいと考えていた。
「き、貴様だれじゃ!無礼なるぞっ!」
「あー?無礼?・・・無礼ねぇ」
「へ、陛下、その御方は恐らく・・・」
「ん?お前も神人か?」
「は、はい」
「お前の一族か?エルフに薬のレシピを渡したのは?」
「申し訳有りません。私は存じ上げません」
バトラーは『統』に話し掛けられるなり片膝を着き畏まった態度へとなった。
バトラーの一族には伝承として『決して統べる者に刃向かう事なかれ、例えそれが言い掛かりだとしても』と伝わっていた。
「そうか、なら良いわ。お前等の開発した薬な、売っていいぞ。エルフに許可を出して神人に出さねぇのは俺の主義に反するからな」
「ははっ!後程長老に通達致します」
「好きにしな。んで・・・用があんのはお前だ」
「余は貴様何ぞに用は無い!」
「陛下!口を慎んで下さい!この御方は・・・」
「あー気にすんな。時期にまともに喋れなくなるからな」
「そ、それは・・・」
「なぁ、この世界のルールは知ってるか?たった1つなんだがな」
「他人の定めたルールなぞ知る必要はない、ルールは余が創るのだ」
この台詞には誰もが驚いた、それこそ場の雰囲気を一変させた。
何せ世界のルールを知らぬ者は存在しえないからだ。
産まれ落ち、言葉を覚え、自らが考えて行動を始める頃までには記憶に刷り込まれるまでに教え込まれるのが普通なのだ。
それを知らぬと言い放つ者が居るなどとは誰一人夢にもおもわぬ事だった。
「・・・お前みたいなのが出てきても可笑しくない時期って事なんだろうな。知っていようがいまいが、やる事は1つだ。準備は良いか?久し振りだからってとちるなよ?」
『統』はそちらを向き誰かに命を下したようだが、そこには誰も居ない。
しかし、言葉を言い終えて直ぐにシナト国王の回りに得体の知れない何かが張り巡らされた。
その何かは目視できる訳でもないのに誰しにも分かった。
そして国王に変化が訪れた、まるで誰しにも分かったのが合図だっかのようだった。
国王の変化は得体の知れない何かとは違い見て取る事が出来た。
それは、胸の中央辺りで何かが飛び出ようと衣服を押し上げていた。
衣服の耐久が限界をむかえ出てきたそれは血塗れの蛇の様であったが蛇とは違った、それには目が無く口のみが存在していた、その口は砂漠に住む魔獣・大口喰のものに酷似していた、大口喰の口は上下左右の四方向に開き捕獲範囲が広いのだ、加えて噛む力は規格外に強く岩などは簡単に粉砕してしまう。
国王の胸部らか出てきた大口喰に酷似したものは50センチ程胸部より離れると胸部へと向きを変え戻って行くかに思えたが・・・
「ぐあぁぁぁぁ・・・あ、あぁぁ」
酷似したものは向きを変えて直ぐに、その口を最大限に開き国王の胸部に喰らい付いた。
そして、皮膚・筋肉・骨・内臓を喰らい、背中を突き破り再び外へと出た。
再び外へと出た大口喰は先程と同様に、50センチ程離れると向きを変えて国王に喰らい付くを幾度となく延々と繰り返し始めた。
何度となく身体を喰われ貫通されているのに、国王から血が流れ出る様子はない、なぜなのか?
良く良く観察してみると。
国王に喰らい付いた瞬間、大口喰は国王の身体と同化していた。
同化はしているが、大口喰が動きを止める事は無く、喰らい付いた反対側が盛り上がり大口喰の形を作り再び喰らい付く、出血をするはずも無い状態だった。
しかし、しないのは出血だけで喰らい付かれた場所は大口喰が通過すると無くなっていた。
無くなった部分は大口喰が最初に出た場所に溜まっているようだ、回数を繰り返すうちに、その部分が段々と肥大化していき歪な球形を成していたのだ、その球形も重みに耐えられなくなり垂れ下がっていった。
この頃になると国王はほぼ原形を留めておらず、遠目には歪な球形の上に頭部が乗っている様にしか見えない。
だか国王はこの様な状態になっても生きていた、食らい付かれる度に絶叫してはいるが生命活動に支障を来していなかったのだ。
これが統べる者『統』の定めた唯一のルールを破りし者への戒めだった。
「主様」
「ん?竜種?竜種が人種の戦に参加してるのか?・・・俺が兎や角言う事じゃねえな。で、何か用か」
「地竜王金剛に代わり御挨拶に参上致しました」
「金剛?ここいらは彼奴の縄張りか」
「それと1つ御伺い致したい事があります、宜しいでしょうか?」
「ん・・・金剛なら戻らねえぞ」
「左様に御座いますか・・・」
地竜王金剛は300年前の竜王同士の争いに敗れてから行方知れずになっており、その眷族達は帰りを待ち侘びている。
名無しの砂竜も願わくば地竜王に名付けをしてもらいたく、畏れ多いとは知りつつも金剛の行方を聞く為に統べる者『統』の前にやって来たのだ。
「俺はそろそろ帰る」
「ちょっと待て!これはどうすんだ?」
これとは勿論、変わり果てたシナト国王の事だ。
頭部以外が肉塊と化し、等間隔で奇声とも悲鳴ともつかない声を発する存在の処遇を決めかねていた。
「好きにすれば良いだろ?因みに、そいつは、そいつの寿命が来るまでは何をやっても死なねえからな」
そう言うと、来た時同様にいつの間にか居なくなっていた。
「・・・とりあえず・・・廃城に持ってかえるか・・・」
肉塊となった国王の首辺りにロープを括り付けていると。
「貴様!陛下に何をするか!」
「・・・んじゃ、てめえが担いで持って来い!」
「え、いや・・・それは・・・」
「だったら黙ってろ」
その後は剣先からロープを吊るし力任せに持ち上げて移動をした。
その移動は肉塊を前面に晒していた為に遮る者も無く行きよりも楽だったが、気分は滅入るばかりだった。
城門に着き協議の結果、対処を侯爵達に丸投げする事に決まり、廃城の奥に放置する事になった。
次話でウィンザーの話は取り合えず仕舞です。




