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西方・王国建国(決着4)

 辺りは静まり返っていた。

 数えるのが大変な人数が居るのに声を発する者が居なかった。

 ウィンザーが遠慮無く切り伏せると高らかに宣言しただけで静まり返ったのだった。


「んだよ!来ないならこっから行くぞ!?」


 するとシナト兵は後退ろうとしたが密に詰まった状態であった為に殆ど動けなかった。

 シナト兵はすっかり怯えていた。

 圧倒的な数的優位な立っているのに、誰一人としてウィンザーに向かう者が居なかった。


「あれがルクナガルトの街で数千を1人で殺った奴・・・」

「カートライトって、あのカートライトらしいよな?」

「あれとは・・・勝てねえ・・・」


 ポツポツと話す声が聞こえて来ると、全てがウィンザーに対する畏怖の言葉で、戦闘行為を放棄する勢いで士気が落ちていっていた。


「・・・クロ、婆さんに伝言だ・・・」

「分かりました、伝えてきます」


 シナト兵の反応を見て当初の策とは違う事を思い付き実行するかどうかの判断を背後の門内にいる年長者達に委ねる事にしたのだ。

 その策とは・・・


「坊主、行ってこい。ここはあたし等で守ってみせるさ」

「ふふふ、その策は面白いさね。一か八かはあたしゃ嫌いじゃないさね」

「子供等はどうする?付いて行くのか?」

「・・・行く」

「なんとなく大丈夫な気がするので行きます」

「なら、ラキとクロには背後を任せる。出来るな?」

「・・・りょ」

「努力します」

「それじゃ行くぞ!」


3人はシナト兵に向かって歩み始めた。

 武器を構えるでもなく無造作に歩みを進めるが誰一人として攻撃を仕掛けては来なかった、それどころか一定距離を保ち人が避けていっていた。


「婆さん、真っ直ぐ行くから柵をぶっ壊す!」

「好きにしな」


 愛用の大剣を構え風の魔術を発動させて一閃。

 前方に有った柵と打ち込まれた丸太を風刃ウィンドブレードで斬り倒し道を作り歩みを進めた。

 防壁門をくぐり外側へ出るとようやく掛かってくる者が現れた・・・が、またもや大剣に風の魔術を込め地面に打ち付けた。

 今度は風の刃が放射状に走り瞬時に十数名を吹き飛ばした。

 それを数回繰り返すと、またもや遠巻きに取り囲むだけで掛かってくる者が居なくなった。


「なんだかなー!こんだけ人が居んだから1人くらい強え奴が居たっていいんじゃねえのか!?」


 見え見えの挑発に乗って掛かって来る程に状況が読めない者は居らずウィンザー達は無人の野を行くが如く普通に歩いていた。


 同様の事を数回繰り返して敵陣に深く入り込んで行くと本陣まで苦もなく到達した。


「・・・こんな簡単で良いのかね?」

「・・・腰抜けだらけ」

「ボクも驚きです、もっと抵抗されて時間と体力が掛かると思ってました」

「だよな、逆に罠な気がしちまうな」

「罠?・・・どんな?」

「さぁな、地形を利用した罠じゃないのは確かだな」

「あるとすれば人材を使った罠ですかね?」

「そうだと良いな、腰抜けじゃない骨のある奴と死合ってみてえしな」

「・・・それで負けたら笑ってから帰る」

「あははっ!俺も同じ事をしそうだ!」

「そこまでだ、下郎共!」

「私、女、下郎じゃない・・・言葉の意味を知らない無知な奴?」

「ぷっ!ラキメア、使い分ける人はあんまり居ないから」

「そうなのか?下郎っつうのに女は入らないのか?知らなかったぜ、ラキは物知りだな」

「えへん!」


 等々と大いに脱線をして話し掛けて来た者を貶めながら無視をした。

 話し掛けて来た男は頭以外の全身を金属製の鎧で包んでいて、いかにも身分が高い事を強調していたが、素で


『身分が何だ?斬りゃあ死ぬんだろ?死ななかったら敬ってやる』


 と豪語するウィンザー、その台詞に激しい同意を示すラキメアとクロトである、そいつの怒りが頂点に達しようと意に介する事は無い。


「き、貴様等・・・下郎共のくせに無視しおって・・・皆のもの近衛隊の力を見せつけるのだ!」

「やる気みたいだな!・・・ラキ、クロ、2人でやってみるか?」

「・・・やる」

「ここに来るまで何もしてませんしね」

「分かった、存分にやってこい。婆さんの忠告は忘れるなよ」


 婆さん、ラキュアの忠告とは。


『いざと言う時まで変身はするんじゃないよ。変身しちまうと上達なんてしないからね。今の姿の方が上達するのは早いよ』


 だった。

 ラキュアの言葉を実感出来る程に成長をしていない2人ではあるが、祖母の忠告に素直に従っている。

 

 普段の2人は年相応の10才児にしか見えないが、その実力は雑兵などとは比べるまでも無く、一段二段は上を行っていた。

 しかし此度の相手は近衛隊、雑兵の中でも頭角を現した者のみが就けるポストである、実力的には同格レベルにはあるはずだ、もしかすると多少上回っているかも知れない。


 実際その通りだった。

 2人と対峙した近衛隊員は最初子供と見下し1対1で相手をした、見下した隊員は直ぐに考えを改める事になる。

 最所に相い対した隊員の実力がどの程度だったのかは分からないが、剣を一振りした後に頭部へ一撃を喰らい2人共意識を刈り取られたのだ。


 そして今は二重三重とラキメアとクロトを囲み攻撃をしていた。

 全方から来る剣戟は苛烈で全てを避ける事は出来ていなかったが、致命的な一撃を喰らってはいない2人は称賛に値する。

 だがそれは回避についてのみであった、回避に気をとられるあまりに攻撃の機会を見出だせずいた、ただただ体力を消耗しているだけだったのだ。


「ラキ~クロ~どうする?」

「・・・じり貧・・・」

「避けるので・・・いっぱいいっぱい・・・です」

「まだやってみるか?」

「止めて・・・おきます、消耗して致命傷を受けるのが末路でしょうし」

「不愉快・・・でも道理・・・」

「そうか、なら、跳べ!」


 言い終わると同時に風刃ウィンドブレードを放ち2人を囲む近衛兵を数人両断し退却する隙を作り出した。

 

「ご苦労さん。自分の課題はわかったか?」

「課題は全部です。何から何まで足りてません」

「・・・同意、中でも経験が一番足りてない」

「まぁな、実戦なんてのは早々積めるもんじゃないからな。近々、西方南部に行ってみる予定だから、そこで魔獣なんかと闘って経験を積むのも良いんじゃねえか?」

「南部・・・火猿かえんの領域?」

「火猿?」

「聖獣火猿です。世界各地を守護する存在の1つです。知りませんか?」

「初耳だな・・・強いのか?」

「聖獣とは闘うの駄目。護るものが居なくなる」

「護るものが居なくなるとわざわいが蔓延すると言われてますので、闘うのは止めましょう」

「禍ね・・・具体的に、って立て直しやがったか」


 話し込んでいる間に近衛隊は負傷者と死亡者を運び終え、再び構えて隙を伺い始めた。


「もう、良いのか?次は待たねえからな」

「ふん!小賢しい!それはこっちの台詞だっ!」

「どうだか・・・ラキとクロに手子摺る程度の奴等なんぞ敵じゃないぞ?」

「大言壮語も大概にしろ!高が3人に何ができる!」

「高が3人で前線から歩いて来たが?」

「ふんっ!光魔術でも使ったのであろう、我等近衛隊には姿眩ましの術は効かぬわ!」


 認めたく無いのは同感出来る。

 しかし、ラキメアとクロトの実力を見ているのを忘れた発言である。

 もしかすると、子供に伸された隊員が居る事を恥と思い無かった事にしているのかも知れない。

 だとしても、その後の複数で囲んでの事やウィンザーの一撃で数人を斬り囲いを脱した事を無かった事にまでしているのは如何ものなのか?

 自身に都合の悪い事柄を無かった事に出来てしまうのは、ある種の技能ではあるだろうが如何ものなのか?

 少なくとも、多数を指揮する立場の者が備えていてはならぬ技能なはずである。


「あんた・・・面倒な奴だな。相手をするのも鬱陶しい」

「同感ですね、あれはまるでお婆様の言っていた盆暗と言う者のようです」

「・・・それ、当たり!」

「だとさ、隊長さんよ。相手をする価値もねえとさ」

「き、き、貴様等!どこまで愚弄するっ!!」


 果てまでも愚弄したい気持ちではあったが、そこまで付き合う程に暇ではない。

 今こうして愚にも付かない遣り取りをしている間にも、廃城へ至る橋では死闘が繰り広げられているのだ。

 

「皆の者、陛下より生かしてと言われたが構う事は無い!切り刻んでやれ!」

「ほう、国王は居るって事でいいんだな。あのデカイ天幕ってとこか」

「なら、早いところ済ませちゃいましょう」

「盆暗、あたしがやる」

「それは譲れねえな、一応は隊長だ他の奴等よりは強ええだろうから俺がやる。時間は盆暗に使い過ぎたから掛けたくねえ、本気で行くぞ」


 その後の戦闘は一方的且つ速やかに終了した。

 素質がありその他大勢よりも強かったとは言え高々兵卒上がり、猛獣やら魔獣やら自分より大きくリーチのある生物を相手に技量を高めてきたウィンザーに敵う訳も無く迫り来る者は一刀のもとに斬り捨てられて行った。


 ラキメアとクロトも本気となれば修行の枷を取り払い獣化する。

 当然、近衛兵では太刀打ち出来なかった。

 

 10分と掛からずに近衛隊員を30人強を戦闘不能にしていた。

 その現実を突き付けられた近衛隊長は、心此処に在らずといった表情をして半ば呆けて現実逃避をしていた。


「バカな・・・近衛隊が手も足も出ないだと?・・・これは夢か?・・・夢に違いない!ならば・・・しかし・・・やはり・・・思うに・・・


 今回の現実の螺曲げは時間が掛かりそうだ。

 螺曲げが終わるまで待つ必要はない。

 一思いに首を刈る事も考えたが、無視をして天幕へ向かう事にした。


 その行く手を遮らねばならないはずの近衛隊なのだが、完全に萎縮してしまっていて、隊長の指示を待っている状態であり剣を構えるだけで何かをなそうと自ら行動を起こさなかった。

 あまつさえ道を空ける者までいた。


 ウィンザー等3人は警戒を怠らず移動し天幕へと辿り着いた、天幕の入り口には戦場には似つかわしくない燕尾気味の衣装を纏ったバトラー(執事)が待っていた。


「ようこそ、若きカートライト」

「・・・あんた・・・何者だ?妙な雰囲気をしやがって」


 そのバトラーは年の頃は初老で痩せた体躯をしていて戦闘とは無縁な印象を受けるのだが、その佇まいには隙が無く、何事かが起こっても対処出来そうであった。


「ウィンザーもあんな感じ」

「そうです。雰囲気は同じですね」

「人狼ですか、嗅覚は流石ですね。私もカートライトです、貴方とは別氏族ですが」

「へぇ、お袋以外の同類に出会したのは初めてだぜ。で、あんたは強いのか?」

「どうですかね、貴方の氏族次第でしょうか」

「氏族?・・・確か、お袋はヒンドゥーとか言っていたな」

「ほぅ!ヒンドゥーですか。ならば私では相手になりません、なにせタオですから」 


 カートライト家とは、西方を拠点とする神人かむと達の事を言う。

 神人とは、かつて神を名乗った者達の子で、親同様に神を名乗るには能力の足りなかった者達を指す。

 しかし、能力が足りなかっただけで他の人種ひとしゅなどと比べると段違いに高い能力を有している。

 そんなカートライト家内にも優劣は有った。

 

 ウィンザーの氏族のヒンドゥーは、北欧神話と並ぶ武門の系統。

 一方、バトラーのタオは研究開発や自己研鑽を得意としている系統である、自己研鑽を得意としてはいるが、やはり他の人種を凌駕する能力は有している。


 だが同じカートライトと比べるならばタオではヒンドゥーには敵う事はない、年を経て経験を多く積んだバトラーならばと思うけれども、良いところで数分持てば御の字と言った感じだろう。

 それ程に戦闘におけるヒンドゥーの強さは尋常ではないのだ。


「そうか?俺はまだまだ強くねえぞ?こいつらの婆さんには勝てねえし、人狐の婆さんや竜人のおっさんにも勝てねえ」

「人狼、人狐などの魔族、竜人や鬼人などの一部の人種ひとしゅは修練を積み重ねますと神人をも凌駕する力を有するものです」

「なるほどな、俺の修練が足りないって事か」

「そうなります。しかし、貴方は若い。それ等の者を越える事も可能でしょう。して、本日はどのような御用件でしょうか?」

「ん?シナト国王が居るんだろ?そん中に」

「国王への面会ならば御断りしています」

「そうか、なら力ずくで通るまでだ」

「そうですか、及ばぬとは言え全力で相手をいたしましょう」

 

 バトラーは両手を後に回し再び前に出した。

 その手には後に回す前には持っていなかった細身の短剣が握られていた。


「短剣2刀か・・・」


ーー厄介だな、早さ勝負だと分が悪い。


 言わずもがなではあるが、ウィンザーの獲物は両手持ちの大剣。

 スピードよりも一撃の威力に重点を置いている、その理由も単純なもので対人を主としていないからだった。

 ウィンザーにとり大概の人は素手で制圧する事が出来、武器を使う必要がないからだった、武器を振るう相手は猛獣・魔獣などである。

 猛獣・魔獣等は手負いになればなる程に凶暴性を増す、如何にして少ない攻撃で致命傷を与えるかにかかっているのだから一撃の威力に重点を置く事になる、すると必然的にスピードを最低限まで度外視する事になるのだ。


「では、行くぞ・・・

「騒々しいぞ!ゆっくり昼寝が出来んではないか!」

「へ、陛下」

「ラキ!クロ!」


 ウィンザー等は一斉に行動に出た、ウィンザーはバトラーの動きを封じる為に、ラキメアとクロトは国王に迫る為に。


 国王に気を取られたバトラーはほんの瞬時に対応する事が出来ず、ウィンザーの斬撃を回避するので精一杯でラキメア・クロトの行動に対して抑止になることが出来ず2人を国王に接近させてしまった。


「な、なんじゃ!?余を誰じゃと思っておるのだっ!」

「国王・・・諸悪の根元」

「僕が聞いたのは下らない理由で人を死地にやる暗愚、ですね」

「なっ!・・・子供のくせに生意気を言いおって!打ち首にしてくれる!」

「・・・どうやって?」

「今、首を跳ねれるのは僕らの方ですよ?」


 2人は左右から駆け寄り国王を挟んで立っていた。

 無論、獣化した人狼の姿で。


「陛下!」

「一応は殺さないで捕らえろと言われてるけどよ、危害を加えるなとは言われてねえからな。死なねえ程度に痛め付けるのも有りだ、どうなるかはあんた次第だ」

「よ、余は国王だぞ!」

「知るかっ!俺からすりゃ敵だ、その辺の兵士と変わらねえ」


 その一言で頭に血が上り初めて国王だったが・・・


「陛下、カートライトにとり地位などは些細な事なのです。両脇に居る人狼にとってもそうです。斬れども死なぬ、これだけが敬意を払う対象なのです」

「そ、そのような輩は人ではない!居る訳がないだろう!」

「居ります。我等カートライトの始祖は未だに存命です。統べる者により何処へかに凍結され封じられています。始祖達ならば、斬っても死にはしません」 

「なんと!?その者達を軍門に加えれば無敵ではないか!」


 確かに存在する、とある場所にて意識を残し眼球のみが動かせる状態で凍結されている。

 しかし、彼等が神を名乗っていた頃の力を有してはいないはずだ。

 彼等の力の大半はスキルに依るものだった、今の時代にスキルは存在しないので全てに於いて一般人と変わらない可能性の方が高い。


「確かに無敵かもな。だけどよぉ、今は自分の命の心配をしたらどうだ?大人しくしねえなら手足を切り落としたって良いんだからな」

「陛下、ここは従うしか御座いません。わたくし1人では如何様にもできません」

「こ、近衛隊はどうしたんだ!」

「あいつ等程度なら幾ら居ても無駄だぞ?」

「隊長が使えない」

「ええ、隊長があれでは機能しませんね」


 未だに国王の天幕に来ていないのは、自身に都合良く事実の捻曲げが済んでいないからだろう。

 今更到着しても出来る事はなにも無いのだが。


「んで、どうすんだ?」

「わ、分かった降伏する」

「了解だ。ラキ、クロ、後ろ手に縛れ。縛ったら帰るぞ」

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