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西方・王国建国(決着2)

 ここは天変地異以前はサハラ砂漠東部の南端に位置していた場所。

 今は当時の面影などは全く無く、西と北に万年雪を頂くラーホル山脈、東にはラモネズ川の流れる渓谷、南にはダカラ湾まで続く丘陵地帯となっており、砂地のすの字も存在しなかった。


 この地は今や穀倉地帯となっており、西方北部域には無くてはならない重要な土地だった。

 

 その穀倉地帯はもう暫くすると収穫の時期を迎える。

 天高く薄雲が張りラーホル山脈から吹き下ろす乾いた風が吹く事が多くなって来たのが証拠だ。


 しかし、収穫を無事に迎える事が出来るのかは疑問となる。

 何故ならば、ここには今数多の人が2つに別れ対峙していたのだ。


 南側に陣取るのはバグラリア侯爵率いるトルムラート軍、方や北に陣取るのはのはルクナガルド侯爵とガムラミット侯爵率いる反乱軍。

 2つの軍は対峙をして丸1日が経過しようとしていた。


「報告します、後方10キロ程に軍勢を確認、陛下の率いて軍と思われます」

「報告します、敵軍に動きあり、仕掛けてくる可能性が高いと思われます」

「両名共ご苦労」


 後方に軍勢が確認にされた事によって慌ただしくなって来ていたが、バグラリア侯爵にとってはやっと到来した行動の時であった。

 

 敵を目の前にして待てを命じられていたのだから当然だ。


「南の軍勢に伝令を出す。此方が戦闘を行っていても急がず通常行軍で接近し、突撃距離になった後に参戦するように、と」

「承りました」


 伝言を聞き数名の兵士が駆けて行く。


「閣下、急ぎ合流して頂いた方がよいのでは?」

「陽が落ちてからならばそれでも良いだろうが、日中は駄目だ」


 夜なら良くて、昼は駄目な理由とは?

 至極簡単な事であった。

 敵方に動きありと言う事は敵方も後続を確認したのだ、合流されては数的優位を覆される事になる。

 今まで連戦連勝を重ているとは言え士気の下がり兼ねない事態になる。

 とすれば、合流される前に我が軍を弱体化させる為に動くだろう。

 それを遠方より確認した見方は助勢しようと無理をして急ぐはずだ。

 しかし、それでは助勢にはならない。

 無理をして疲れきった兵士など戦闘中の高揚した兵士の敵になり得ないのだ。

 ならば、我が軍が壊滅的な損害を被ってよいから、急がずに行軍し疲労した敵に当たって確実な勝利をしてもらいたかったのだ。

 バグラリアの率いる軍は捨て駒にになると言っていたのだ。

 

「さて、反乱軍だが・・・見る限りでは正面切っての作戦に見えるが・・・」

「油断は禁物かと」

「そうだな、奴等は後続とも戦わねばなんのだ、何等かの策を企んでいるはずだ」


 反乱軍の陣容は前面に2人持ちの長槍を配した保守的な攻撃陣形。

 通常ならば、そのまま突撃して来て初回の激突による兵の消耗を防ぐ策だ。

 反乱軍にはトルムラート国とシナト国の知恵者が居る、セオリー通りの事をするだけで済むのだろうか?

 否、ここは何かしら奇抜な事をしてくると見た方が良いだろう。

 

「よし!敵の策が何なのかは皆目見当もつかんゆえ、監視と警戒を怠らずセオリー通りに対応する。皆頼んだぞ!」 

「報告します!賊軍が動き出しました!」


 


 反乱軍が前進を始めトルムラート軍は一斉に緊張が走った。

 連日連夜時間を選ばず行われていた人狼による奇襲は一昨日現地点へと到着してからは鳴りを潜めていたが、神出鬼没な人狼がいつまた仕掛けて来るか分からぬ故に十分な休息をとれていなかった。

 

 対する反乱軍もシナト側でロダルグ公爵を撃ち破ったのは3日前である。

 勝利の後に中州廃城に帰還して直ぐに休む間もなくトルムラート側へと行軍を開始していた。

 疲労の度合いを言えば、どちらかが有利ということはなかった。


 強いて言うならば、戦闘を行っていないコーウェン伯爵とロブション男爵旗下の兵がいる分、反乱軍の方が有利であるやも知れない。

 反乱軍先鋒は、その2卿の兵だった。

 反乱軍首魁の肉親であるとは言え2卿は新参になる、その新参が古参兵の後ろでのうのうとしている訳には行かない。

 自分達が役に立つ存在である事を証明しなければならないのと共に、母国を裏切った事をも証明しなければならなかった。

 

 両軍が長槍での戦闘を開始するまで後5メートルとまで接近した時である。

 突如として反乱軍の長槍が矢の如くトルムラート軍を襲ったのだ。

 トルムラート軍の先鋒は突如飛来した長槍を回避する術が無く次々に串刺しとなっていった。


「見事じゃな」

「なに、人狼あっての策です。あの膂力がなければ不可能な策です」


 反乱軍の長槍の攻撃は人狼によって蹴り出されたものであった。

 長槍の持ち手の2人は只の支えであり射出の方向を調整する役目だけの存在であった。

 その2人を先頭に反乱軍は長槍が射出された直後に抜剣しトルムラートに躍りかかった、しかしその中に人狼はいなかった。

 人狼は蹴り出した後、後退し別の場所へと移動を開始していた。

  

「族長!あれだけで良かったんですかい?俺達もあのまま行ったって良かったんじゃないすか?」

「あっこからは正規兵の領分さね、あたしらはあたしらの領分を全うするんだよ、さぁ行くよ!」


 移動を開始した人狼達は発見されぬように大きく迂回しトルムラート軍の後方へと向かった。


 一方、バグラリア侯爵は反乱軍の勢いに圧され劣勢を覆すのに必死になっていた。

 初撃の長槍による攻撃は思いもよらぬ攻撃だったために、動揺した兵士を鼓舞できず立て直しに時間が掛かっていた。


「仕方ない、直衛500を全線に回せ!それでも無理なら前衛を後退させよ!」


 直衛を投入後、幾分はましになったが働きとしては弱い。

 押し込まれじり貧になる未来しか予測できず、後詰めの部隊が中央より割って入り前衛が左右より後退しようとしたその時、反乱軍の東側が突出してきた。

 竜人部隊である。

 竜人部隊は後退を始めた部隊への止めを刺す役を担っていた。

 これで、トルムラート軍前衛部隊の役半数は無力化された。




「ばあさん、いがいと早かったな」

「まぁね、そこのババアに手柄を占められるのは癪に障るからね」

「言ってくれるね。あたしらは参戦が遅かったんだ占めたって良いじゃないか」

「そうだが、気分的に嫌なんだよ。で、どうだい?」

「伝令らしき輩を3人程捕まえただけだね。平和なもんさね」

「ふぅん、で、情報は?」

「喋る気は無いようだから、ふん縛って投げてあるさね」

「大体の予想はつくからな」

「そうかい。なら、合図まで待つかね」

「待ちたかったところだが、合図だっ!いっちょ派手に行こうかっ!」

 

 反乱軍本陣のある方角から、とんでもなく大きな爆発音が発せられていた。

 アムネジアの光魔術によるものだ。

 アムネジアは竜人部隊が戦闘を開始したら光魔術を使用しトルムラート軍

後方にて待機する人狼・人狐部隊及びウィンザーの別動隊に合図を送る為に1人本陣に居たのだった。

 

 合図を確認した別動隊はトルムラート軍に後より襲いかかった。

 しかし、その攻撃は一見苛烈に見えたのだが大きな被害を与えていなかった。

 その攻撃は奇襲同様、只の陽動だったのだ。

 人狐部隊200人が増えたとは言え高々300人の部隊、大きな戦果を期待をする方が間違いである

 それは人狼・人狐の人種ひとしゅより身体能力に長ける者達の集団であったとしてもだ。


 その点については別動隊全員が納得していた。

 恐らくは、無理をすれば敵本陣まで到達し壊滅状態にする事が出来るはずだが、実行した際の被害は多大な事になる。

 それに、人狼・人狐の族長等は戦闘における名声を欲している訳ではない、戦闘において助力したと言う実績だけが有れば良かったのだ。

 

 

 開始より1時間程経過した時である、優勢に戦闘を進めていた反乱軍本陣に1人の伝令が駆け込んで来た。

 その伝令のもたらした言伝ては本陣を混乱させるに足る重要な事柄だった。

 この事はガムラミット侯爵の副官として本陣に居たラシャスによって別動隊へも知らされた。


「そいつは・・・」

「敵も中々やりますね」

「どうする?ばあさん共」

「どうしたもんかね」

「やるしかないんだろうがね」

「だな、なら俺に考えがある」

「ほう」

「あたしは乗るよ」

「まだ、何も言ってねぇぞ?」

「何となくさね、あんたの策は面白そうだ」

「ふん、なら本陣に行くぜ。ばあさん2人と俺の3人でだ。ここの指揮は他の奴等に任せる」

「ラシャス!ミラ!頼んだよ!」

「トウオ?出来るね?」


 2人に指名された者達は力強く了承し別動隊の前線へ行こうとした。


「ミラ姉さん頼みがある」

「?」

「こないだ来た奴の顔は覚えてるよな?」

「こないだ?・・・あぁ、あの使者かい?覚えてるよ」

「彼奴をなるべく無傷で捕虜にしてくれないか?」

「・・・理由は?」

「彼奴みたいに強い奴を知らないからだ」

「強い?ひ弱な感じがしたけどね」

「腕っぷしはな、だけど、ここの強さは並みじゃねえ!」


 ウィンザーは左胸を拳で叩きながら言った。


「剣1本だけで敵陣に来るなんざ並みの奴にはできねえだろ?」

「そんなもんかねぇ。まあいいさ、分かったよ努力するわ」

「恩に着るぜ」


 ウィンザーの言う強さ、それは胆力の事だ。

 軽装で腰より剣を下げただけでやって来て、門番に凄まれ起きた騒ぎで敵兵に取り囲まれても尚飄々と受け答えが出来た者だ。

 確かに賞賛に値するだろう。


`ーー気持ちだけは一人前以上ではあるね・・・ふふふ、似てるね。


 ミラの死亡した夫は、狩の最中にミラを庇い死んでいた。

 ミラ自身は、その時に庇われなくても回避できたのだが、夫はそうは思わず咄嗟に身を呈したのだった。


 ーーあの人も、弱いくせに度胸だけはいっちょ前以上だったからね・・・ふふふ、そうゆう強さもあるんだったね、すっかり忘れてたね・・・いっちょ口説いてみるかな。




本陣に入った別動隊の3人が見たのは、本陣が思っていた以上に混乱を来している状態だった。

 

「皆さんお戻りになられたのですね、正直な所思案に暮れていました。皆さんの知恵を拝借いたしたいのです」


 いつも気を使い腰が低めのルクナガルド侯爵のラグナリスだったが、今は更に腰が低い様に見えた。


「悪いが詳細を聞いてからだな。俺達はシナト軍が廃城に至る登山口に突如現れたとしか聞いてないからな」


 そう、反乱軍に混乱をもたらした出来事はシナト軍の襲来であった、しかも、行軍をしているのを誰一人として見掛けた者が居なく、突如として現れたのだ。


「あれは昔陛下に話した作戦を実行したんだ」


 その作戦とは。

 兵を分散行軍させ現地にて同時集合すると言うものだった。

 作戦的には相手を驚愕させ防備の整わぬ内に戦闘へと持ち込み勝利するのを容易くする策だった。

 しかし、これを実行するのは綿密な計算と精密な情報が必要だった。

 分散と言うことは行軍ルートが部隊毎に違うのであるから、どのルートも集結地点まで掛かる時間を算出しなければならないし、人数による時間の増加も考え出発時刻を変えなければならない。

 更に、災害等による通行不能がないかを事前に調べねばならないのだから、実行するには課題の多い作戦だったのだ。

 その作戦を実行し上手くやったシナト国王は称賛に値した。


「なるほどな、なかなかやるじゃないか。それで、どうするのか大体の方針は決まったのか?」

「それが、真っ二つにわれています」


 1つは、バグラリア侯爵との戦闘を早急に征して全軍をもって廃城の防御に当たる。

 片や、動員していない兵を廃城に早急に向かわせ本陣到着まで持たせる。


 どちらも穴の多い策ではあるが、他に手が無いようにおもわるので仕方のない事だった。


「その2つはどっちも廃城で両面戦闘をしなくちゃならないな」


 その通りである。

 トルムラート軍後方より迫る増援を放置し廃城に向かう事になる。

 これでは、勝ちの薄い状況を自ら作り出す事に他ならない。


「そんな事をすんならよ、賭けちゃみないか?」


 ウィンザーが切り出した策は確かに賭けの面が強かった。

 だが、その策が上手く機能すれば廃城に立て籠り両面戦闘をする事は無くなる。


「勝算はあると踏んでおるのか?」

「んー・・・反則すりゃ失敗は有り得ないんだけどな・・・それじゃ面白くねぇ」


 どこでどうなろうとウィンザーである、負けるのは嫌だが勝敗は拘りがない。

 負ける時は負けると割り切っていたのだ。


「やっぱ反則は無しだな。ヤバそうな気配がしたら伝令を飛ばす、そしたらあんた等で判断してくれ。だが、伝令が来るまでは、こっちに集中してくれ。こっちで負けちゃ意味がねぇからな」

「了解しましたわ。此方は我々で勝ってみすます」

「こっちも了解だ。マドラムのおっさんと砂竜のおっさんもこっちを手伝ってくれ」


 廃城に戻り防衛に当たるのは、ウィンザー・アムネジア・ラキメア・クロト・ラキュア・オウバイ・マドラム・名無しの砂竜の8名だ。


「シナト軍が廃城に着くのは早いとどれくらいだ?」

「発見した時は未だ待機中だった様です。その後直ぐに行軍を開始したとして・・・2時間前後で廃城付近に着くはず」

「そうか、こん中で2時間以内に廃城まで行ける奴は?最短だとどれくらい時間が掛かる?」

「あたしなら飛んで行けるからね1時間前後さね」

「全力で走って2時間さね」

「本来の姿に戻れば1時間強」

「私は1日ですー」

「お前には聞いてねぇ」

「あっ!なんか扱いが酷いー」

「2時間以内にっつったろが!」


 飛行出来たり身体能力に長けるならば2時間以内に到着する様だが、時間ギリギリでは不味い。

 肉体の疲労は時間経過でしか癒されないのだから。


「砂竜のおっさん、本来の姿とやらになったら全員を運べるか?」

「可能だ、しかし時間は少し掛かるぞ。・・・ここで本来の姿に戻るのも、不味い気がするな」


 戦場にて突如竜種現る。

 混乱の元でしかない。


「街の近くまで行ってからの方が良さそうだ」

「んじゃ、それで頼む」


 ウィンザー一行は首脳陣に出発する事を告げガムラミットの街へと向かった。


 




 

 

 

 

 

 

 

 

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