西方・王国建国(対極の将軍7)
トルムラート軍は夜襲のあった次の日は行軍する事が出来なかった。
夜襲によって負傷した者の手当てや、死亡した者の搬送などが手間取り夕方近くまで時間が掛かってしまったのだった。
仕方なく同じ場所で夜営をする事にしたのだ。
当然、今夜も夜襲が有ると想定していたので3人1組で歩哨を立てていた。
陣内でも3交代で睡眠をとらせ夜襲があった際に対応出来る人数を増やしていた。
「この謝罪文にあるウィンザーとは何者なのだ?」
「何者なのかは分かりませんが、あちらの侯爵や部隊長などと親しげに会話をしていましたので、それなりの人物かと思います」
「『一族の名にかけて』とあるが・・・名の通った一族にウィンザーなど言う輩が居る所を儂は知らんのだがな」
「彼の場合、聞けば答えてくれると思いますが」
シナト王国側にはウィンザーの一族名は伝わっていたのだが、トルムラート王国側には伝わっていなかった。
これは、故意ではなく偶然の事であった。
ウィンザーの事が伝わっていたか、いなかったで両国の方針が大きく変わった。
シナト王国は個の武に対するは個の武と結論付け、指揮官の人選を行っていた。
対して。
トルムラート王国は少数精鋭の軍には統率された軍により徐々に削る作戦を立案し実行できる人物が指揮官として選ばれた。
そうして指揮官に任命された指揮官・バグラリア侯爵だったが、その精鋭に自国内に居る間から翻弄される事までは予測していなかった。
奇襲が予測されては奇襲にならないので当然なのだが。
昨夜の夜襲は効果的だった、事態の収拾に昼近くまで掛かってしまっていたのだ。
そして、この先も夜襲があるのは日を見るよりを明らかなので警戒を最高レベルまで引き上げて対応する事にしたのだが・・・
ガムラミット領までは順調に行って後10日は掛かる。
その間ずっと現状の警戒レベルで対応していると兵士の疲労がどれだけになるのか予測がつかない。
戦地での警戒と違い昼は行軍をしなければいけないからだ。
それが敵の思惑なのだ、疲弊による弱体化をすれば寡兵であっても勝利を得る事ができると判断されていた。
そこまで分かってはいる、だが警戒を強くする以外の対策が浮かばないのだった。
「今夜も来るだろうな」
「警戒態勢を継続させるためには止めに1回やっておきたい所です」
「そう思うか・・・ならばこのまま警戒態勢を翌朝まで維持だ」
バグラリア侯爵の指示は間違っていない。
しかし夜は長い・・・いつ来るか分からない夜襲を待つのはたまったものではなかったが兵士達も自分の命が掛かっている。
指揮官の指示は間違ってなどいない、それをちゃんと理解して警戒にあたっていた。
厳重な警戒態勢だったからなのか、今夜は襲って来る者が現れなかった。
トルムラート軍は朝を迎えようとしていた。
東の空が白んで来たのだった。
「今夜は来なかったな」
「そうだな、こんだけ厳重に見張ってりゃ来ないのも当たり前なんじゃないのか?」
「だな」
などと話合っている兵士などもいた。
しかし・・・
まだ夜は終わっていない、白んだだけで陽が登った訳ではないのだ。
その証拠に白んで来た空を背にして走る1団があった。
同盟軍の人狼隊は警戒心が1番減衰する夜明けを夜襲の時として行動していた。
暗いうちは人狼も躊躇したくなる程の警戒網だったが、空が白み始めると警戒網があからさまに緩み始めた。
周囲を見る事が楽になり監視の目が移ろう様になって来ていたのだ。
そうなるともう気の緩みは加速度的に早まり隙だらけになっていった。
「ねえねえハルー、あそこの見張り『俺達に恐れをなして』とか言ってるけど強い人いるのかな?イケメンいるかな?攫っていいかな?」
「かあさん・・・それラキメアちゃんの前で言っちゃダメだからね」
「い、言わないわよ!あのラシャスちゃんが愛娘に教えてやって欲しいって頭下げて来たんだから、するわけないでしょ!」
「ならいいんだけど」
「そんな事したらラシャスちゃんに殺されちゃうわよ」
――そこまで分かってて止めないのか・・・全くこの人ときたら。
「ほら、そろそろ合図がある時間だから切り替えて気を引き締めなさい」
「かあさん、そっくりそのまま返すよ、その台詞」
「なんだろう・・・ハルちゃんが最近お母さんに厳しい・・・ブツブツ」
――ホント、どこまで本気なのか分かんない人だ。
その時、西の方から遠吠えが聞こえて来た。
合図だ!
奇襲を仕掛ける人狼隊員は、ちょうど顔をだした太陽を背に一気に走り出した。
顔を出した太陽は思いのほか眩しく隊員たちの姿を光の中に隠した。
これで成功しない訳がない。
しかし、前回と違い警戒の度合いが違ったので発見は早かった。
そして敵発見の合図を受けた兵士達の対応も早かった。
臨戦態勢をとり、戦闘に入り前回とは違う様相をしていたが変わっていないところもあった。
人狼の速さに付いて行ける者が圧倒的に少なかった。
ほとんどの者は武器を構え眼前で消える人狼に翻弄され負傷していくのが関の山で負傷者が増えていくだけだった。
今回も人狼に蹂躙されて終わるものと思われたが、人狼の動きに対応できる者を中心とした部隊は負傷者も少なく逆に人狼を負傷させていっていた。
「負傷した者が出た部隊は度合いに関係なく引くんだよ」
負傷は可、だが死亡は不可、人狼隊が申し付けられた絶対の優先事項であった。
人狼は戦闘に入ると多少の負傷などは無視して戦闘を続行するところがある。
そして負傷を重ね退き際を誤り死亡に至るので、この申し付けがなければ数を激減させていた事は間違いなかった。
負傷者が増え、戦闘続行する部隊が目に見えて減った頃にミラは総員撤退の遠吠えをした。
今回の奇襲の戦果は芳しくはなかったが、戦果を上げる事が目的ではないので早々と引き上げていった。
「なによー!全然強くないじゃないの!しかもイケメン居なかったし!嘘ばっかし!」
「・・・かあさん、ホントそれが無かったらラシャスさんも迷わず頼みに来たと思うのに」
「なによ!良いでしょ、あたしはあたし、変える気は有りませんからね!」
「あーはいはい。お好きにどーぞ。私も結婚する気なんてぜんぜん無いから、どーぞご自由に」
「・・・なんでそこで結婚が出てくるの?」
「あのねー・・・いや、やっぱり自分で考えてちょうだい」
「なによそれ、教えてくれたって良いでしょー何でなのよー」
などと言う不満はあったが。
それはさて置き。
2度による奇襲。
時間もいつかは分からない。
これは受け手からすれば24時間気が抜けない状況にはまったと言っても過言ではないやも知れぬ。
実際、兵士達は行軍中も周囲を警戒しピリピリ張り詰めていた。
夜になり夜営中の警戒当番でなく休まないといけない時であっても、奇襲の事が頭から離れないので殆ど休めていなかった。
人狼は人狼で警戒心が薄まる辺りで奇襲を仕掛けて来るので手に負えない。
そんな事の繰り返しをしながら日は進みトルムラート軍はガムラミット領に入った。
領内に入った次の日。
トルムラート軍は反乱軍と対峙した。
トルムラート軍は人狼隊の奇襲により数を減らしたとは言え、まだ9000の兵がいた。
対する反乱軍・・・ガムラミットとルクナガルト同盟軍は13000の兵を揃えていた。




