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西方・王国建国(対局の将軍・6)

 森の浅い所にある切り株に彼女は腰掛けていた。

 仕事中の感情を殺した無表情とは違い穏やかで優しさが漂う表情をしていた。


 彼女の名はラシャス。

 ラキメアとクロトの母にして人狼族族長ラキュアの娘である。


 普段はガムラミット侯爵ファシリアスの側仕えをしている。

 そのファシリアスがトルムラートから反旗を翻し独立してからずっと気を張り詰め続けていた。


 そんな彼女にファシリアスから珍しく命令が下った。


『此度の人狼の作戦に参加せよ』


 100人を少し上回る人数で1万の軍勢を引っ掻き回す無謀な作戦。

 実戦から離れて久しい自分でも同族の生還率を上げれるのならと思い、その命令を快諾した。

 しかし、ファシリアス思惑は違った。

 移動中なり待機中なり気の休まる時間が少しでも出来るのではないか?

 彼女が休息を取れるのではないかと思い下した命令だったのだ。


 ファシリアス思惑通りに行った。

 敵を待ち伏せする地点までの移動中から現時点まで。

 ラシャスは母親に戻る事が出来た。


 ウィンザーの申し出を受けたのだ。


「よぉ、ねぇちゃん」


「ねぇちゃんは止めてくれないか。ラシャスだ」


「嫌か?悪りぃ。んじゃ、ラシャス、あんたに頼みがあるんだわ」


「頼み?」


「あぁ、この2人の修練の付き添いをしてくんねぇかなぁ。最短で2度目の襲撃までの間で構わないんだけどよぉ」


 この2人とはラシャスの娘と息子、ラキメアとクロトの事だった。

 確かに1度目襲撃で2人に出番は無かった。

 それにラシャスの出番も無かったのだ。


 ラシャスはウィンザーが率いる隊に配属されていた。

 人狼隊は編成が済んでいて入れる部隊が無かったのだ。

 よって人員に空きがあり戦力的にもバラつきの大きいウィンザー隊に配属されたのだった。


「いゃな、正直な所、こいつらは自分の目指すもんを見付ける事を優先させてぇんだわ、実戦はそれからでも遅くねぇと思うしよぉ」


「そう言うことか・・・私も初回は出番無しだからな。その役を引き受けよう」


 引き受けた最大の理由は実際は違った。

 移動中と2度目の襲撃までの間、任務中なのに子供達と過ごせる。

 しかも正式申し出だから、誰の目も気にする事が無く2人と居れる。

 この事がラシャスには何よりも嬉しく抗えない申し出だった。


 ラキメアとクロトも仕事中の母の事を知っているので、大はしゃぎとまではいかなかったが、普段は見せない表情をしていた。

 戦に参加するだけの強さがあっても、まだ10歳の少年少女なのだ。

 まだまだ母親に甘えておかしくない年頃なのだ。


 ウィンザーの申し出は結果としてラシャス親子が喜ぶものとなった。




 現在、任務遂行中に思わぬ親子水入らずの休暇となったラシャスは満ち足りていた。


 満ち足りているとはいえ。

 頼まれた事はきっちりこなしている。

 頼まれなくてもやる事柄であったのだし。


 子供達は成長する方向性が違ってきていた。

 双子とはいえ、あからさまに性格の違う2人である。

 目指す方向性が違って当たり前だと言う事にラシャスは今更ながら気が付いた。


――そうよね・・・2人を同じ様に教えてきたけど、同じ人ではないものね。

――それぞれの特性に合わせた教え方をしないとダメだったのね。


「よぉ、ラシャス、どんな感じだぁ?」


「あぁ、ウィンザーか、どうもこうもないな。2人共向かう方は見つけたよ」


「そっかそっか、ならそれを伸ばさねぇとなぁ」


「あっ!・・・ウィンザー・・・」「ウィンザーさんお帰りです」


「おぉ、お前らどうなりたいか決まったらしいな」


「はい、僕は速さを生かして手数でやるのが好きです」


「ほぅ、ラキは?」


「まどろっこしいの・・・キライ・・・一撃必殺」


「ほぅ、力重視って事か・・・なるほどな、分かった2人共その方向で頑張れや」


「・・・勿論」「はい」


 2人は返事をすると、木を相手に試行錯誤を繰り返す事に戻って行った。


「綺麗に別れたな」


「そうですね、2人が特化したいとは思っていなかったよ、今までの教え方は間違っていたみたいだ」


「そんなこたぁねぇだろぅ?バランス重視で教えてきたんだろ?ばあさんみたいになるようにって」


「えぇ、母さんは人狼の完成型みたいな人ですからね」


「なら間違ってねぇと思うが?」


「なぜそう思うのです?」


「 バランス重視って事はよ、下地作りって事だろ?最初から特化で教えてたら弱点が色濃く出ちまうだろ、だから間違ってねぇだろ。下地作りは大事な事だぜ」


「・・・」



「それによぉ、自分がどうなりたいか何てのはガキの時分はコロコロ変わるんじゃねぇのか?あれ位の年齢になってから決めさせるのが良いんじゃねぇのか?」


――なるほど、基礎作りをし、ある程度の年齢に達したら、教える側からアドバイスをし本人に向かいたい方向を決めさせるのか。

――そこで、教える側の思惑と違う方向を選ぶ可能性もある事を忘れてはいけないな。


「しかし困ったなぁ」


「どうした?」


「俺じゃ教える事ができねぇ。俺が重視してるのは瞬発力だからな」


「ほぅ、瞬発力か・・・なるほどな。クロトになら私が教える事が出来る。ラキメア・・・パワースタンス・・・ミラさんか・・・」


「ミラ姉さんじゃダメなのか?」


「ダメって訳じゃないんだけど・・・性格的に・・・ね」


「そうかぁ?自分に正直で良いと思うけどなぁ。それにラキもかなり正直な方だし気が合うと思うけどなぁ」


「それが心配なのよっ!気が合ってミラさんみたいになっちゃったら・・・私卒倒しちゃうわよ」


「男漁りの事か?」


「・・・えぇ」


「あの人さ、そう見せてるだけじゃないのか?聞いた限りだと実際に実行ないだろぅ?なんだかんだと理由を付けて何もしてない。違うか?」


「・・・言われてみれば、確かにそうかも知れない」


「だから大丈夫なんじゃねぇか?」


「・・・よし!決めた!ミラさんに頼んでくる。・・・あとハルちゃんに監視役も頼んでくる」


「監視役?」


「保険よ、ほ・け・ん」


「良く分からねえが、一安心って事か?それで、どうする?」


「どうするって?」


「明日の奇襲に連れてくか連れてかないか、どうする?連れてくなら今まで通りのスタイルでやらせる事になる、連れてかないなら俺達の隊は、ばあさんと待機だ」


「スタイルの変更が決定した今、前のスタイルで行動させたくはないですね」


「分かった、なら次回の出番は無しだ。現地で待機だな。つぅかよぉ・・・暫くは出番無しだな」


「ハハハ、子供達の為に我慢してください」


 ウィンザー隊は人狼に戦闘不能な程の欠員が出ない限りは今回の作戦で出番はほぼ無くなった。

 ウィンザーは戦闘狂では無いが仲間と認めた者達が戦っているのを見ているだけと言うのは歯痒い状況ではあるが。

 今回の待機の発端は自分のアドバイスから来ているので文句は言えなかった。




 ウィンザーが歯痒く思っている同日、シナトとトルムラートの両国内で今後を左右する事が起こっていた。

 それは同盟軍がなにかしたわけではなく、両国の王と側近達の失策であった。

 その失策は両国の戦争と離反をした侯爵達との戦争に決着をつける要因となった。

 

ラシャスの口調が途中から変わってるのは素に戻ったからです。


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