西方・王国建国(対極の将軍・5)
「ウィンザーさまーお帰りなさいですー」
「おぅ、ただいま・・・アム、あれはやり過ぎだ、あれじゃ突撃を仕掛けた俺達が霞んじまう」
アムネジアの放った魔術は敵陣に突撃をした101人と同等の被害を与えていた。
しかし、被害以外のところ。
インパクトと言う意味では魔術の方が圧倒していたのだ。
基本、人狼はその素早さを駆使して目標に目視されずに1撃を与えていく手法なので派手さはまるでない。
一方でアムネジアの放った形状を変化させた【土壁】は暗がりでも派手な音をさせるし、いきなり地面が隆起して見た物に衝撃を与えるのである。
それを、至る所に数えきれない位に発動させるのだから、やり過ぎと言われても仕方の無い事だった。
「でもーあれくらいやらないとーほんの1部でしか混乱状態にならないと思いますよー」
「そうかも知れねぇけど、やり過ぎだ」
「まぁそうお言いでないよ、規模の指示を出していなかったのは、こっちの落ち度なんだしね。しかし・・・軍に魔術師を置かないってのが暗黙の了解になってるのが分かったね」
西方は勿論、天元、東方、南方でも軍に魔術師は居ない。
その理由はアムネジアが放った土魔術の初歩【土壁】がもたらした結果を見れば分かると思う。
魔術は強力過ぎるのだ。
下手をすれば適性値の高い魔術師1人で1万の軍勢を壊滅に追い遣る事が可能だろう。
適性値が低くても魔術師が数十人居れば・・・
そうなって来ると一般兵の存在はどうなるのか?
攻撃は魔術師のみで事足りる訳だから魔術師を守る肉壁となってしまうのではないか?
仮にそうなってしまうと兵士になる者など居なくなる。
無理に徴集するしかなくなるのだ。
無理に徴集などしなくても良いのではないのか?
戦争など魔術師に任せておけば良いだろう?
そう思うかもしれないが、魔術師は世間離れした思考や価値観を持っている者が多い。
特に好戦的になればなるほどにその可能性は高くなる。
そんな者に国を支える柱の1つを任せるなどと言うのは正気の沙汰ではない。
もし任せたとして軍部の専横だけで満足するだろうか?
自己の欲望を満たすために政治に首を突っ込みだす可能性は多大にある。
思考や価値観のずれた者が行う政治、予想や想像が出来るだろうか?
出来たとして、それが市井に受け入れられ賞賛されるような政策なのだろうか?
普通に考えれば、そのような一か八かの賭けをする施政者など存在はしないだろう。
国政を司る者達は王族・貴族であり魔術師ではない。
魔術を使える者も多数いるが、魔術で政治は出来ない事を施政者は知っている。
魔術は生活を楽にする技法であって統治する技法ではないのだ。
それを知っているから、可能性を虱潰す為に暗黙の了解として軍に魔術師を置かないのだった。
「っち・・・朝一で謝罪の矢文を持ってくか」
「それが良いだろうね、その文にこの子に攻撃をさせない事も書いとくんだよ」
「あぁ・・・ったくめんどくせぇ。・・・で、そっちの方はどうだったんだ?」
「なんとも詰まらない戦闘だったと報告を受けてるよ」
「やっぱりかぁ、俺も同じ意見だ。でもまぁ明日からは警戒も強くなるから、ちっとは手応えがあると思うんだがな」
普通に考えて夜襲が今回だけと考えが至る指揮官も兵士も居ないだろう。
ならば警戒を強め哨戒兵や夜番を増やす事はするだろう。
そうなれば夜襲をかけて詰まらないなどと言う感想が出る事はないだろ。
「どうだろうねぇ、夜はあたしら人狼の時間だしねぇ」
「そん時は諦めるしかねぇだろう?それはそうと、あっちはどうなってるんだろうな?何か連絡はねぇのか?」
「何も連絡はないね、でもまあ族長のマドラム自身が前線に出てるんだし、こっちより阿鼻叫喚模様を見せてるかもしれないよ」
「あのオッサンは融通利かなさそうだからなぁ、容赦なんぞねぇだろうなぁ」
今回の作戦はシナト・トルムラートがほぼ同時期に軍の編成を終え出発したために、2方面を相手取らなければなくなった。
しかし、同盟軍には分散して相手取るだけの兵数は無かった。
よって、どちら側かを先に潰す事になったのだった。
会議の末に。
個々は強力だが統制が整っていないシナト側を先に潰す事になったのだった。
統制されていない軍などという物は、いかに個々が強力とて烏合の衆と何ら変わりがないとの結論に至り、統制に重きを置いている上に個としても強力な竜人達を前面に押し立てて対峙する事となったのだった。
対してトルムラートは個の勇よりも統制に重きを置いている。
統制がとれた部隊同士の衝突は基本的に数の多い方が勝つ。
数の不利を覆すには策が要る。
その策が人狼隊による夜襲だった。
夜襲によって、兵士の緊張感を長期化させて精神的に疲弊させ弱体化を図る。
一見すると卑怯な作戦の様だが古来より度々戦乱の時期が有った地域では普通に行われていた戦法だった。
それを卑怯と罵るのは無知の証であった。
天変地異の後でも廃所と化した建物から書物として発掘されて解読して戦記物として一般に販売されているのだから、知らないと言うのは尚更に自らの無知を晒している事になる。
「さってと、今夜は寝るか」
「ここでかい?」
「まさか。野郎は知恵が回りそうな印象を受けたからな、直属の部隊を偵察に出してもおかしくはねぇ。もっと離れた所でに決まってるだろう」
「ここででも問題はないでどねぇ。あたしらは夜目も利くし鼻も利く、誰かが近寄って来れば直ぐに分かるんだけどもね」
「鼻は風下から来られたらダメだろぅ?それにだ次の奇襲までは時間が有るんだしよ、ゆっくり出来る所まで離れるのが良いと思うんだがなぁ」
次の襲撃の予定までは丸1日以上時間がある。
初日の予定は上手くクリアした。
夜襲が有るぞ、と認識させる事が目的だった為に派手な行動はとらなかった。
最初から派手に殺りまくれば良かったのでは?
と思うかも知れないが、初回から多数の被害を出させて援軍の要請をされても困るし、準備不充分と判断されて撤退されても困るのだった。
撤退する分には困らないのでは?
そう思うだろうけども、シナトとトルムラートに戦力差が出来て一方が衰退する事になる可能性が有る。
なぜ片方が衰退すると困るか。
片方が衰退すれば同盟軍に多数の兵力を向ける事が可能になる、もしそうなった場合に勝てる見込みが大幅に減ってしまう。
両国が睨み合って同盟軍に向ける兵力を小出しにして、同程度で衰弱していくのが同盟軍にとって一番好ましい展開なのだ。
そういった事情からウィンザーに敵指揮官バグラリア侯爵の眼前まで行かせても首を取る事はさせなかったのだった。
眼前まで行かせたのは警告。
いつでも首を取りに行ける事を示唆するためだった。
しかし・・・
「アムに魔術を禁止させるって事は、俺も使っちゃマズいって事だよなぁ」
「そうゆう事になるね、はっはっはっ自信無いのかい?」
「そんなんじゃねぇよ、ただな・・・」
「ただ、なにさ?」
「単独行動をするのを控えなきゃいけねぇと思ってな」
「かもしれないねぇ、あんたは剣技も上々だけど単独だと危ないかも知れないね」
「そう思うか?なら・・・ラキとクロが必要だな」
「ウィンザーさまー私はー?」
「お前は使えなくなっただろうが、それとも何か?武器を手に取り近接が出来るっつうのかぁ?」
「えっ・・・それはー・・・」
「無理だろぉ?だからお前は連れてけねぇ。お前の役目は皆の戻って来る場所の確保だ、確保する為になら魔術の使用は制限しねぇ、バンバン使え」
「・・・いいんですかー?」
「責任は俺がとるから気にすんな。ばあさんもそれで良いよな?」
「自己防衛の為なら良いんじゃないかい」
「・・・ラキとクロ、ばあさんから見てどうだ?自分の特徴を捉えて来てると思うか?」
「さぁねぇ、本人に聞いてみるんだね。あの子等も自分で考える事は出来るんだし、自ら進んで探してる様だからね。そろそろ方向性位は見つけてるんじゃないかい」
ラキメアとクロトはウィンザーに言われて以来、自分好みの戦闘スタイルを模索していた。
今は隊から少し離れた森の中で母親と共に修練がてら狩をしている。
――明日見に行ってみるか




