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西方・王国建国(対極の将軍・4)

 とっぷり日も暮れて日付が変わる時間に足音を消して野営をしている者達に忍び寄る者達が居た。

 今宵は新月ではないので月明かりで、その姿は見えてしまっているが。

 全く音を出さないので発見が遅れる事が予想された。


 野営をしている者達も見張りを立ててはいるが、自分達の人数に闇討ちを掛けて来る者など居るはずもないと高を括っていたので緩慢な態度で見張りを行っていた。

 野営をしている者達は総勢1万人程の軍隊であり、まだ自国領にいるとあっては緩むのも仕方の無い事かも知れなかった。


 だが、夜襲を掛ける者、同盟軍の人狼隊はその緩みも予測の内だった。

 この夜襲は余程の事が無い限りは成功に終わるだろう。


「さってと、これくらい近付けば一気にいける距離ね」


「隊長、合図はまだっすかね?」


「慌てたらだめよ?あっちは正面から1人でだからねタイミングを合わせてあげないとね」


「うぃーっす・・・」


――さすがの私でも1人では断るなぁ





「そろそろ時間だなぁ・・・いっちょ暴れてくるか!」


「あんた、この先も戦闘はあるんだからね、引き際を間違えるんじゃないよ」


「お?ばあさんが俺の心配か?雪でもふるんじゃねぇのか?」


「あんたって奴は・・・殺しても死にそうにないね。分かった存分にやっといで。そのかわりこっちからの合図が有ったら必ず引く事、それは忘れるでないよ」


「おう、分かったぜ」






 月明かりに晒されない様に身をかがめて待って居る人狼隊の面々に、その音が届いた。

 今か今かと待ち侘びていた合図であった。


「皆、行く前に最終確認だよ。今回の作戦は死亡は絶対にダメ!危なくなったら直ぐに撤退する事。それともう一つ、殺る必要はない、より多くに怪我を負わせるだけでも良いって事を忘れないで、分かった!?」


「「「「了解」」」」」


「んじゃ、突撃よ!」


 十人隊隊長ミラの号令を合図に5部隊が突撃を開始した。


 ミラは十人隊の指揮するのは9人の部下だったのだが、その実力と人望は同盟軍に参加している人狼達に支持されていた。

 ならば何故に十人隊の隊長止まりなのか。

 実力や人望は長老にも認められる実力者なのだが。

 性格と癖にやや難点があった。


 奔放で窮屈に耐える事があまり出来ないので指示通り動かなかった。

 癖の面では夫と死別してかなりの年月が経ち、娘も嫁に行ける年齢になってから自分好みの男を手込めにしようと色々物色していたのだった。

 ミラの眼鏡に適った者は未だに存在はしていないので、今夜も作戦実行中に物色も同時に行うだろうと長老のラシャスは睨んでいたが・・・


 しかしラシャスはそれを許可した。

 勿論無条件でではない、その条件は至って普通の事なのだが物色を優先させないためのくさびとするために付けた条件だった。

 それは。

『生きて帰還する事』

 たったそれだけであった。

――それだけなら余裕だし楽勝なんだけどねー


 追加で言われた事が有ったのだ。


『お前の指揮下の誰かが死んだりしたら、男漁りにかまけて色々と放棄したって思われるだろうね、わたしゃそこまでは知らないからね』


 簡単に言うまでも無いのだが、隊の誰かが死んだりしたら物色に気を取られて指揮を疎かにした愚か者と言うレッテルを貼られる。

 そういう事だった。


 そのレッテルがミラにだけ貼られるなら全く気にもしないのだが。

 娘のハルにまで愚か者の娘と言うレッテルを貼られる可能性が大いにあるのだ。

――そんなレッテル貼られたら嫁に行くのが難しくなっちゃう。


 1人娘は可愛い。

 幸せになって欲しい。

 その想いは普通の親となんら変わらないのだ。

 ならば悪いレッテルが貼られない様にするしかない道しか残ってはいなかった。





「止まれっ!何者だっ!」


 そう問われても立ち止まる事なく夜営地に近付いて行く。


「貴様!止まれと言うのが聞こえないのか!」


「聞こえてるぜぇ。何でテメェの言うことを聞かなきゃいけねぇんだ?」


 その言葉を聞いた歩哨は敵襲の合図の笛に手をやった時。


「その判断は間違ってねぇな」


 その男は、いつの間にか後ろに立っていた。

 その事に混乱気味になりはしたが、敵襲であることに確信を持ったのだった。


 歩哨は男から離れつつ笛を吹こうとした。

 しかし吹く事は叶わなかった。

 身体は男から離れはしたが、頭がその場に転がっていたのっある。


「残念だったなぁ。んじゃ行かせてもらうぜ」


 その男、ウィンザーは夜営地に向かい走り出した。

 走りつつ犬笛を力いっぱい吹き人狼に夜襲の合図を送った。


 敵軍に犬科の人種ひとしゅは居るだろう。

 それらにはバレてしまうが、笛の音の確認をとっている間に夜襲は開始され混乱の最中さなかへと陥るから、バレた所で問題は無いとしていた。


 実際、犬科の人種ひとしゅは気が付き同僚に鳴った事を確認していた。

 その確認の答えを聞くと同時位に喧騒が聞こえて来たのだった。



 夜襲が開始され人狼隊は外周付近を襲い、中心部から増援が来たら撤退する手筈となっていた。


 ウィンザーは単騎にて敵本営まで進み敵指揮官に警戒心を強く持たせる、と同時に中心部からの増援を遅らせる事が役目であった。


 ウィンザーの役目は無謀の一言で済ませられる内容だが、本営に辿り着きさえすれば帰路は楽になる手筈となっていた。


 楽な帰路を辿るためにも本営まで行かなければいけないと意気込んでいたのだったが。


――なんだかなぁ・・・緩みきってやがる


 ウィンザーが本営に向かっている際。

 敵兵から抵抗らしい抵抗は受けなかった。

 ここは自国領、戦地はまだまだ先と思っていた兵達は夜襲が有るなどとはチラリとも考えておらず帯剣すらしていない者が殆どであった。


 これは、棒を持った子供が背の高い草を殴って歩くのと何等変わりなかった。 草が兵に変わっただけなのだから。


――つまらねぇ、戦争で強くなるってのはホントにガセなんじゃねぇのか?


 なんの苦労も無く敵本営に辿り着いたウィンザーは総指揮官・バグラリア侯爵と対峙した。


「あんたが指揮官か?俺はウィンザーってんだ。在り来たりな言い方だけどよぉ、あんたの敵だ」


「その敵が何の用だ?敵陣深くまで来てただで帰れると思ってるのか?」


「帰りも何とかなるだろう?それと用はねぇ。あんたをこのまま殺っていっても良いんだけどよぉ、上の方針で今は殺れねぇんだわ。だからここが折り返し地点ってだけだ」


「折り返し地点・・・か。まぁいい、反乱軍は随分と卑怯な手を使うのだな」


「夜襲・奇襲は卑怯か?俺には常套手段に思えるけどなぁ。それにだ、うちの侯爵さんの伝言は聞いてるだろぉ?」


「あぁ、聞いている。手段を選ばぬとはこれも含まれていたのだな」


「まぁな、あんたは指揮官としてちょっと厄介だからよぉ出鼻を挫いとく必要が有ったって訳だ」


「ふむ・・・評価されていると言う事か」


「そういうこった。んじゃ俺はそろそろ行くぜ。機会が有ったらまたな」


 ウィンザーは再び犬笛を吹いた。

 2度目の合図は撤退の合図と本営に到達した事をラシャスに知らせる意味があった。


「あんたの相棒は本営に着いたみたいだよ。撤退の手助けをしてやんな」


「はいー、私が何かしなくても無事に撤退は出来ると思うんですけどねー」


「思ってたより早く合図があったから、かもしれないけどね。作戦は作戦だ、やってやんな」


「はいーでは、いっきまーす」


 アムネジアの役目、それは帰還するウィンザーの手助けなのだが・・・

 その手法はかなり滅茶苦茶だった。

 ウィンザーの進路付近で地面から槍状に変化させて起伏する【土壁アースウォール】をランダムに数えきれない程発生させていた。


「あいつ・・・派手過ぎるだろう?夜襲した意味がねぇ位にやってどうすんだよ」


 しかし、アムネジアの魔術により敵陣内は混乱状態の度合いを増し、ウィンザーは行く手を塞がれる事がほぼ無く離脱出来ていた。


 人狼隊も中心部からの増援が来る前に撤退の合図が有ったので死者が出る事なく退いていた。

 無謀な作戦は予定通りに遂行された。

 

 しかし、ただ1人だけ不満を抱いていていた。


――あんな簡単にいくなら、しっかり物色しとくんだった。


 

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