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西方・王国建国(対極の将軍・3)

 ここはトルムラート王国中央部付近に有る小高い丘の上。

 眼下にはバグラリア侯爵率いる約1万の軍勢が隊列を成して進軍している。


「1万の軍勢ってのは思ってた以上に多いんだな」


 ウィンザーが軍勢を見た感想はそれだった。

 1万人と言えば城壁を備えた小規模の街の人口に匹敵するのだから少ない訳がない。

 その人数が隊伍を組んで進軍している様は中々に壮観であった。


「おや?ビビったのかい?意外と小さいねぇ」


「ばあさん何言ってやがる、1人であれ全部って言われりゃぁ尻込みするだろうけどよぉ、そう言う訳じゃねぇんだからビビらねぇよ」


「そうかい?それでも1人100人は殺らないとダメなんだがねぇ」


「あん?人狼ならそれ位できるんじゃねぇのか?」


「できるだろうけどねぇ・・・人狼は市街地や森みたいに遮蔽物のある所での戦闘を得意としてるからねぇ、多少の不安はあるんだよ」


「はっははは、なんだ、ばあさんの方がビビってるんじゃねぇか、でもよ今回はガッツリ正面切ってやる訳じゃねぇから何とかなるんじゃねぇのか?」」


 今回の作戦、それは敵地に入り込み先手を打ち時間を掛けて敵を疲弊させるのが主な目的だった。

 会議で万全な倍近い人数を相手取っては勝つ算段がほぼ無いと結論付けされたのだった。 ならば万全の状態でなくすれば良いと安直な提案が採用されてウィンナーと人狼隊100人が攪乱作戦を実施する事になったのだった。


 その作戦会議なのだが。

 当初は会議として集まったのではなく、ウィンザー主催の焼肉パーティーだったのだ。

 その席での会話がいつの間にか今後の軍事行動についてに変化していって、後にあれは会議だったと位置付けられたのだった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「お!やっと来たかぁもちっと遅かったらアムの奴が全部食っちまう所だったぞ」


「遅かったですか?」「日頃の夕食がこのくらいなのですが?」


「食い意地の張った奴と食べ盛りが全部で3人居るからな待ち切れなかったんだよ。スマンスマン」


 同盟軍では夕食は18時なっている。

 2人の侯爵はその時間を目安にして砦3階にあるテラスに赴いた。

 ウィンザーもそのつもりで17時から2脚トカゲの下拵えを初めていたのだが。

 アムネジア・ラキメア・クロトの3人は待ち切れないと言った様子で焼き上がっていく肉の前から離れなかった。


 17時半には侯爵以外に招待した2人の大隊長・人狼の長老・竜人の族長などは揃っていた。

 その4人が肉の前から離れない子供3人を見て。


『侯爵様まだ来てないけど、あんまり待たせるのも酷ってもんだから食べさせてやろう』


 と、言うので先に食べさせる事にしたのだが・・・

 その勢いが凄まじく、10分とかからないで1匹分の肉を食べ尽そうとしていた。


 今日は7匹2脚トカゲを狩っていて、この夕食で3匹を提供しようと考えていたのだが、子供3人は1匹分を食べているのに食べ足りない様相をしている。


「お前等はまだ食う気か?」


「まだ腹半分位ですー」「・・・食う」「もう少し食べたいです」


「・・・そうか、ならそっちで別に火を起こせ、それをお前等専用にしてやる、それと俺からは後1匹だけやる。それでも足りない時は自分のストックを焼いて食え」


「はーいー」「・・・りょかい」「分かりました」


 やけに素直に返事をした3人組に多少の違和感を覚えたが、納得したのは確かなので気に留めない事にした。

 何かを企んでいるにしても子供らで仲が良くなるのなら、ある程度は許容するつもりでいた。


「しかし、あいつらは良く食うな、俺も食う方だったけどよぉあそこまでは食わなかったぜ」


「あたしも知らなかったよ、あの子等があんなに食べるなかんてね」


「がははは、食わんよりはずっと良いだろーが」


「そうだけどよぉ、あのペースで食われると食費がなぁ・・・っと、こっちのも食べ頃みてぇだな」


 食べ頃の台詞を聞いた3人組が一斉に大人組の方を向いた。

 なるほど、3人組は大人組の肉を狙っていたようだ。


焼けた肉に向かいゾロゾロと歩き始めようとした時。


「こっちのを食いたければ銀貨10枚出せ、そしたらくれてやる」


 剣を構え敵と対している時の如くの威圧感を込めて言った。

 威圧感に恐れを成したのか。

 流石に厚顔過ぎると諦めたのか。

 3人組は大人しく自分達の分が焼けるのを待つ事にしたようだ。


「最初からそうしてろっつの。ほれ、侯爵さん方とりあえず良い方の肉だ」


「はい、ありがとうございます」

「おぉ、ありがとう」


 ただ塩とハーブで焼いただけの切り分けた2脚トカゲの肉を取り皿に貰い早速食べてみた。


「これは美味しいですね、色々調理されていないので肉の味がハッキリ分かりますね」

「2脚トカゲとは美味いのですね」


「だろぅ、血抜きをちゃんと済ませた肉は美味いんだよ」


 2脚トカゲなどの狩猟で手には入る肉は貴族は滅多な事では口にしないのだった。

 親族に狩猟を趣味としている者が居たりするなら話は別なのだが。


 貴族は普通、専用に飼育場を持っていて、そこで飼育された物を食べるのが普通なのである。


 そして、飼育場以外で入手した食材に対して質の劣る物と見下す傾向にある貴族が多かった。

 だが、同盟軍の2人の侯爵は機会が無かったから食べた事が無かったが、根っ子が改新的なので色々な事にこだわりに類する事柄が極端に少なかったのだ。


「次は不味い方だ、とりあえずは首と尻尾だな」


 不味い方と聞いて固唾を飲み覚悟を決めて肉を口に運んだ・・・

 味は悪くない、けど筋張っていて脂肪分も無く固さが目についてしまう。


「不味くはないと思いますが・・・食べ難いのは間違いないですね」


「がははは、首とか尻尾は焼いて食う部位じゃないですからね、燻製にしたり長時間煮込むもんだ」


「そうなのか?ウィンザー殿も人が悪いですね」


「肉も人も適材適所って奴だよ。そう、適材適所で思ったんだけどよぉ、水軍の指揮官が1軍の指揮なんぞ出来るんか?こいつ『等価の情報がないと教えません』とか言いやがってよぉ」


「ふふふ、最もな事ですね。以前直接聞いたのですが、1部隊を1船と考えれば問題無いと言ってました」


 船1隻には戦闘員は多数乗っている、陸戦も1部隊には多数いる。

 すなわち戦略的には水軍も陸軍も変わりないと判断できるのである。

 しかし、穴もあった。


「ふーん・・・付け入る所はそこになるんだろうなぁ」


「そうであろうな、大前提として理路整然としていなければいけないだろうからな。・・・ラキュア殿の部隊の活躍の場やも知れん相手な気がする」


「うちのかい?・・・無茶苦茶にしろってんならあたし等かもね」


「おい、今のは等価になるか?」


「えっ?」


「だから、何か情報寄越せって言ってんだ」


「んー・・・提督は不測の事態に対処出来る指揮官を育成してます。今の情報ならこんなところですかね?」


「うーむ。次のシナト側の指揮官も夕刻判明しました。ロダルグ公爵です。侯爵とは正反対の人物ですね。個の武勇を重視し総突撃を行って蹂躙する御仁なので戦略などは無視します」


「極端な奴なんだな。・・・シナトも決まったって事はよぉほぼ同時期に押し寄せるって事かぁ?」


「恐らくはそうなるでしょう。シナト側の兵数などはまだ分かっていませんが前回を下回る事はないでしょう」


「トルムラートの方も・・・いや、教えて貰えますか?おおよその兵数を」


「対価の情報はありましたので教えます。おおよそ1万ですね」


「1万かい、シナトも同じ位と予測しても良さそうだね」


 シナトとトルムラートは依然交戦中であった。

 よって前線から引っ張って来れる兵数は同じ位になる。

 後方に控えている兵数も似たようなものなので、同盟軍に向ける兵数は両国とも同等になるのだ。


「同時に相手取るのは愚かでえすね、どっちかに先手の掛けないと駄目ですね」


「・・・その辺は今は決めたらダメだろぅ?こいつ居るんだしよ」


「だなーそこは明日にでも会議を開くって事だなー」


「そうですね、そこまでの情報を払って対価として貰える情報は有りませんしね」


 同盟軍の方針の話はファシリアスの一言で終了となった。

 そこからは普通に交流を深める会話で食事をしながら時が流れた。


「2脚トカゲの首肉は燻製にするのが美味いんだよ」

「尻尾の肉は長時間煮込むとその本領を発揮する」

「骨からとる出汁、これを忘れてはいかんぞ」

「知らないのかい?鱗を剥いだ皮を炙ると中々美味いんだよ」


 などなど、獲物の調理法が主な話題だった。



多人数参加の会話は一応どれを誰が言ってるかと言うのはありますが、誰が言っていてもおかしくはないので追及しないでおきます。

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