剣術の修練
僕の住んでる村には名称がない。
天元(囲碁盤の中央にある点の事、中央・中心って意味がある)南部にある国に所属してない城塞都市・燕楼に所属する村の1つだ。
燕楼は東と南に≪海竜の育児場≫と呼ばれる入り海、北には≪ロドロマ山≫、西には広大な丘陵地帯がある。
≪海竜の育児場≫はその名の通り海竜の幼体が多数生息している。
多数生息しているが燕楼は南方との海路による交易が盛んである。
海竜は黒海と呼ばれる黒色の海域内に生息しており黒海以外では船舶を攻撃したりはしないのである、だから黒海に入り込まなければ安全な海となっている。
≪ロドロマ山≫は標高は1000m程の山で木々が生い茂った豊かな山。
しかし、風属性の竜王の寝床があると言う伝承がある、『でっかい緑の竜が飛んでた』などの目撃情報もあるので山に入り込む人は先ず居ない。
丘陵地帯には燕楼以外の都市も点在しており、それらの都市との交易も活発に行われている。
また、丘陵地帯には魔獣のナワバリ・風属性の竜族・飛竜(ワイバーン)の巣なども有り決して安全な場所ではないが、それらの行動範囲は確認されて街道が整備されている。
そんな燕楼の北側唯一の名も無き村に住んでいる数えで10歳の少年ジンは週6日通っている剣術の稽古場に到着した。
「ジン!遅いぞ!」
鍛冶屋の息子・剛義だ。
「そんな事はないでしょう?ほら、時間前じゃないか」
僕は集会場の時計塔を指差して言った。
天変地異後の世界にも時計はある、腕時計の様な小型の物は部品を作る技術がなくなってしまった為に小さいサイズは大きめの壁掛け時計が限界である。
「1番最後に来たから遅いって事だよ」
「ちょっとまて、僕の家が1番遠いんだから仕方ないだろう。剛義が1番遅く来るんだったら問題だけどね」
ここは剛義の家の裏なのだから絶対にあってはならない事だと思う。
「揃ってるな、んじゃ始めるぞ」
いつの間にか来ていた剣術の先生・銀おじさんが言った。
「まずはいつも通り攻防の基本10セットからやってくれ」
「「「「はーい」」」」
今、剣術を習っているのは僕・剛義と1つ年下の双子の4人だ。
僕はまず剛義と修練を始めた。
攻防の基本は攻め手と受け手に分かれて、上段振り下ろし・右袈裟斬り・左袈裟斬り・右薙ぎ斬り・左薙ぎ斬りの順に攻め手は繰り出し、受け手は防ぐってのを10回繰り返したら攻防を交代するってやり方。
基礎修練だけど慣れてくるとスピードが段々速くなって全く気が抜けなくなってしまう。
僕と剛義は2年やってるので傍目には乱取稽古をしてる様に見えるらしいんだ。
2年も同じ相手とやってればそれ位にはなるとおもうんだけどな?
3分もかけずに10セットを終わらせると。
次は相手を換えてまた10セット、今度は剛義じゃないから速度を緩めないと当たっちゃう。
そんな感じで10セットを相手を換えながら10回程やった後は。
「おーし、乱取いくぞ!いつも通りジンと剛義は双子相手の時は防御優先でやるように」
「「はーい」」
やっぱり最初の相手は剛義。
修練は木剣でやるとはいえ当たるととてつもなく痛いので乱取は気が抜けない、特に剛義は勝ちにこだわってるから打ち込みが激しい。
僕は修練とは言え相手に怪我をさせるのがイヤなので、防戦一方になってしまう・・・甘いってのは分かるんだけど打ち込もうとすると身体が拒否して動きが止まってすまうのだ。
暫く剛義の打ち込みを防いでいると先生が。
「剛義!闘気法は使うなっていってるだろうが!」
「でも・・・」
「でもじゃない!しかもなんだその選択は、力気じゃジンには当たらねえぞ」
「なんで?」
「闘気法を使わなくても当たらないのに速さを犠牲にする力気を選択する奴があるか」
闘気法ってのは、戦闘を有利に進める為の能力の底上げの技法だ。基本が力気法・速気法・硬気法の3つ。
それぞれ長所と短所があって。
力気法は力が上がって速さが下がる。
速気法は早さが上がって硬さが下がる。
硬気法は固さが上がって力が下がる。
闘気法は最終的には力・速さ・硬さ全部が上がる方法がある。
「防御を弾き飛ばせば当たると思ったんだもん」
「・・・は~・・・防御を弾き飛ばす程の力気が使えるなら飛竜も1撃で殺れるわ!」
心底呆れてるみたいだ・・・
「それにだ!身体が成長しきるまで使うなっていってるだろ!何でだかは覚えてるよな!?」
「うん・・・」
闘気法ってのは身体の成長に影響を与えるらしく、それぞれの長所と短所が顕著に表れるそうだ。
剛義がこのまま力気法を使い続けて成長すると、力ばっかりの鈍間のゴーレムみたいになるのかな?
「次に闘気法を使ったら、3日間飯抜きだ!分かったか!」
「はい!!」
ぷっ!すっごい真面目な顔になった。
「それから・・・ジン!」
「はい」
「隙を見つけておいて攻撃しないのは何でだ?攻撃しないのは相手に成長させないって言ってるのと同じだぞ」
僕もダメだしが来た。
「良いか?攻撃も防御も隙が無くなって1流なんだ、そこに隙があるると教えてやらないと変に自信を持って寿命を縮めるだけなんだ。」
「でも、僕は攻撃を当てようとすると身体が固まっちゃって・・・」
「攻撃を当てる必要はない、当たる直前に止めればいい。ジンにならそれが出来ると思うんだが?」
直前に止めるのか・・・それなら出来る・・・かな?
「やってみます」
その後の剛義との乱取で試してみたけど、難しい!
止めるのが早いと攻撃とみなされないし。
止めるのが遅かったらきっと当たるし。
途中で止めるって当てるよりずっと難しいんじゃ?
その後も相手を換えて直前で止めるのをやってはみたんだけど、まったくダメダメだ!
止めるのが早すぎて、隙が出来ちゃって面白い様に攻撃されまくった。・・・僕は面白くないけど!
修練が終わって家に昼食と食べに帰ると。
「今日はボロ布みたいになって帰って来たわね~、何を始めたのか知らないけど頑張りなさいね~」
と、にこやかな笑顔でお母さんは言った。
なぜだろう?この人には生涯敵わない気がしてしまった。
書こうと思ってた所まで書くと長くなりそうだったので
ここで一区切りにします