西方・王国建国(マンイーター)
昼間が凄く忙しくなってしまいました。
元々遅い投稿ペースが更に遅くなってしまいますが、最低でも週1での投稿は維持したいと思います。
同盟軍の首脳陣はトルムラート軍に対してもルクナガルトの街で使った作戦を実行していた。
ガムラミットの街並みはルクナガルドとは違ってはいたが、作戦を実行するのが難しくなる程ではなかった。
実行してみて驚いたのが、まんまと上手く嵌ったのだ。
シナト軍がどういう経緯で敗北したのかを知らないのだろうか。
もし知らないのなら、情報を軽んじる軍隊は敵とはなり得ない。
だが、ここで敵を侮っては敵方と同様になってしまう。
「両国の先鋒は副将が経験の不足した浅慮な輩だったから上手く行ったのだ、次も同じと思って掛かると痛い目を見るのは我々になる。皆、気を引き締めるのだ」
トルムラート軍を下した後の勝鬨でファシリアスは宣言した。
実際、敵を侮れる程の戦力が無かった。
2度の戦闘で戦死者約600名、負傷者1500名出ており現状6000名でこの後の戦闘を切り盛りしていかなくてはならないのだった。
メヤ公国での傭兵募集の許可を貰うべく交渉をしているが色良い返事が来る可能性は低い。
同盟軍が敗北した場合に傭兵募集の許可を出していた事が露見するとメヤ公国の立場は非常に不味くなる。
他にもアラ=ラム騎馬族に協力要請の使者も出してはいるが、条件の折り合いをつけるのが難しいと推測している。
アラ=ラム騎馬族に国王は存在せず大族長なる者が多くある部族の取り纏めを行っているが命令権は存在せず、出来ても賛否を問う族長会議の招集である。
それならばと、有力部族に助力を頼むとなると間違いなく足元を見られるので考えものなのだった。
勿論、自領での徴集などは論外である。
工作員や間者が紛れ込むのは間違いない。
他にも、人狼や竜人の伝手を使い増援の要請もしているが、その伝手と言うのが遠方にあるために増援として見込むわけにはいかなかった。
使者が着き要請に応えるかどうかを決めこの場に来るまでに早くても後一ヵ月はかかるであろう。
そんな不利な状況でも僥倖と呼べるものがあった。
それは、人狼と竜人に戦死者はなく、負傷者も完治すれば戦線に復帰する事が可能だったことだ。
今後はこの2隊の使い方が勝敗を左右するものとなる事を首脳陣は理解していた。
しかし、有用な方法を見出せないでいた。
人数が少ないのと、なぜか仲が悪いのだ。
反目しあうとまではいかないが、協調しようという気はお互いに持っていなかった。
今、この場でも実に下らない事で諍いが起こっていた。
資材を運ぶ手伝いを頼んだ時の断り方が気に入らない、との事だった。
「なぁ、あんたさ断るにしてもその言い方はねぇんじゃないか?」
「断るものを『断る』と言って何が悪いのだ?」
「断るのはぜんぜん良いよ、その断り方がどうなんだって言ってんだよ。俺はあんたの友達でも知り合いでもねぇ、初対面の相手にその言い方は有りなのかって聞いてんだ!他の言い方はねぇのか」
「ないな」
「はぁ~ん、なるほどね、そんなんだから他の種に竜人は嫌がられのか。それとも、そんな言い方すんのは、あんただけなのか?」
「貴様!我等を愚弄するのか!」
「我等って事はよぉ、竜人ってのは人を見下した偉そうな物言いしか出来ねぇって事で良いのか?」
一触即発、互いに剣を抜き斬り合ってもおかしく無い状況に呑気に近付く人影が有った。
同盟軍で呑気な人物と言えば2人しか居ない。
「喧嘩ですかー?斬り合いになって刃傷沙汰になったりしますかー?」
アムネジアだった。
しかし、呑気を通り越した質問をしている。
頭に血が登ってる当人達は気が付いていなかったが、周りで見ていた者達にはその質問に違和感を持った。
「この野郎しだいだ!」
「こやつしだいだ!」
「それじゃそれじゃ、どっちか死んじゃったら私が食べちゃっても良いですかー?」
「はっ?」
「へっ?」
「えっ?」
「嬢ちゃん・・・今、何て?」
「えー?だからー死んじゃったら食べても良いですかー?」
人狼も竜人も人種である、それを食べるなどと言う事はこの場にいる誰もが1度も聞いた事が無かった。
正に誰もが己の耳を疑う一言をアムネジアは発したのだった。
「私、狼さんと飛竜さんと野槌さんは食べた事が有るんですけどー、人狼さんと竜人さんは食べた事がないんですー。人狼さんは狼さんと親戚ですよねー?竜人さんは飛竜さんと野槌さんは親戚ですよねー?味って違うのか気になるじゃないですかー」
「いやあのな嬢ちゃん、俺とか竜人とか人種なのは知ってるか?」
「知ってますよー、でも狼さんと飛竜さん達の仲間ですよねー?」
「お嬢さん、近い存在ではあるが違う生き物だぞ」
「そうだぞ、俺達は会話できるだろ?だから同じじゃないんだぞ?」
2人はアムネジアを説得しようとしてはいるのだが、食い気が表面に出てきているアムネジアを説得するには少々弱かった。
「でもー狼さん達は狼さん達だけに通じる言葉を持ってますよー?飛竜さんが話してるのは見た事がないから分からないですけどーきっと喋ってると思うんですよねー」
「そ、それはだな・・・」
「だ、誰かこの嬢ちゃんに倫理ってもんを教えてやってくれねぇか?俺じゃ無理っぽい」
「倫理ってなんですかー?美味しいんですかー」
「だ・・・だめだこりゃ」
「お嬢さん、侯爵様に倫理について聞いてみたらどうですか?」
「侯爵さんは倫理って知ってるんですかー?分かりましたー聞いてみますー」
一触即発だった2人は全てを侯爵に丸投げして事無きを得た。
そして、アムネジアの見えない位に斜め上にぶっ飛んだ質問に毒気をスッカリ抜かれていた。
冷静になった2人は、どうにも自分達が言い合っていた事柄が実に下らない事だったと反省していた。
「・・・世の中には予想も想像もつかない事を考ええる人がいるんだな」
「ええ、そうですね・・・ところで、私はあなたに謝罪します。確かにあの言い方は無かった」
「あ~・・・なんだ~・・・悪かったって思ってくれたんなら俺はそれでいいよ」
「私達竜人は他種族ととの接触を進んでやってこなかったので、どう対応して良いのか分からない所があるのです」
「なるほどなー、分かった。それについては皆に言っとく人付き合いが苦手って言い方でいいか?」
「それで構わないです」
アムネジアのぶっ飛んだ質問の末に待っていたのは人狼と竜人の仲を取り持つ結果となった。
これも怪我の功名と言って良いのかは分からないが、結果だけを見ればアムネジアのお手柄だった。
そのアムネジアだが。
侯爵に面会し倫理について講釈を受けたのだが理解できていなかった。
分からないまま夜を過ごしてあくる朝にウィンザーに呼ばれた。
「おはよーですー何か用ですかー?」
「ん、あぁ、おはよう。・・・アム、お前マンイーターって言葉は知ってるか?」
「まんいーたー?」
侯爵に事の次第を聞いて荒治療が必要と考えが至ったウィンザーであった。
これから行う事で理解も納得もしないようならば、斬って捨てても良いとすら思っていた。
マンイーター、食人鬼など放置する訳にもいかないし、生み出す訳にもいかないのだから。
「マンイーターってのはな、人種を食う生物の事を言うんだ。猛獣・魔獣それに人種もな」
「はいー?」
自分の話をされていると、いまいちピンと来ていないようだ。
「マンイーターってのはダメな存在って事は知ってるか?」
「いいえー、何でダメなんですかー?」
――こいつ・・・根っからダメなのかも知れん。
「1つ質問だ。お前が10人隊に居たとする、その10人隊の中にマンイーターが間違い無く居る、そんでお前を食おう狙ってるとしたら、お前はどう思う?どうする?」
「えーそんな人が居る訳ないじゃないですかー」
まともに取り合おうとしないアムネジアに掛け値なし本気の威圧を込めて凄んでみた。
「誰がそんな事を聞いた、聞かれた事に答えろ」
長くはないが決して短い付き合いではない。
ウィンザーが本気で威圧する時は甘えや言い訳を聞き入れてくれない事は分かっていた。
そして嘘を吐いても何故か分からないが、いつも見抜かれてしまっていた。
そこまでされてやっと話している内容が重要な事柄であると分かった。
「・・・私ならきっと隊員を皆殺しにするかも知れない」
「ふ~ん、殺すのか、ならお前も殺されても文句はねぇな」
物騒な事を言って直ぐ収納魔晶から愛用のバスタードソードを取り出し片手で無造作に持ちアムネジアにゆっくり近付いて行った。
「な、なんで!?」
「お前はマンイーターになると昨日言ったそうじゃねぇか、ならお前がするマンイーターへの対処をやられても文句を言えねぇよな。違うか?」
「そ、それは・・・」
「なんか最後に言い残す事はあるか?この戦が終わったらおっさんに報告に行ってやる」
「わ、私は人狼も竜人も食べません。他の人種も食べません」
アムネジアにとっては偽りのない言葉であったがウィンザーには俄かに信じれなかった。
食べる事に関して前言を覆した事が一度も無い人物の初めて覆す言葉を真に受けろと言うのが無理な話だったのだ。
「食う事の話で食わないって台詞を俺に信じろって言うのか?」
「私、食べる事で嘘を言った事は無いです」
「・・・」
前記の通り食べる事に関しては有言実行をしてきている。
それに、アムネジアが嘘を吐いたと思っている事をウィンザーは嘘を吐かれたと捉えていなかった。
稚拙な上に荒唐無稽だったために冗談を言っていると思っていたのだった。
よってウィンザーからすればアムネジアが嘘を吐いた事が無いという事になる。
――確かにその通りだが食うと言った事実は消えねぇ。
言って良い事と悪い事があることを分からせる意味でも、何らかの事をしなくてはならない。
ウィンザーが選択したのは・・・
胴薙一閃。
来ると分かっても反応するのが難しいレベルの速さで振り抜いた。
といっても何かを斬るためではなくあくまでも威嚇だ。
「分かった信じてやるが今回だけだ」
威嚇の一閃でへたり込んでしまって返事は出来なかったが、アムネジアは何度も頷いていた。
「おいおい、剣なんぞぶら下げて物騒じゃないかい、何かあったのかい?」
「まぁちょっと灸を据えてたってところだな」
「ふ~ん、そうかい」
突如として現れた体を装っているが人狼の長老のラキュアは最初から見ていたとウィンザーは推測していた。
ラキュアの方もそう思われるためにタイミング良く出て来た節があった。
「で、ばあさんは何か用なのか?」
「用って程の用ではないけどね、お前さんに頼みたい事があってね」
「俺に?」
「うちの孫を鍛えてやってくれないかね、あぁ稽古って意味じゃないよ、暫くの間あんたの元に置いてやってくれないかね」
「はぁ?なんで俺の所に?」
「そりゃ決まってる、お前さんが一番キナ臭いからだよ」
キナ臭い。
ウィンザーの元に居れば向こうから争いがやって来て必然的に修行になると、そう言っている。
それと、同じ人狼と居るよりも他種族と居る方が何かと勉強にもなり1回りも2回りも成長を遂げる可能性があり大化けするやも知れないと期待もしている。
これからの人狼族には今までの概念とは違う見方が出来ないと先がないと見越していたのだ。
なのでラキメアとクロトの2人の孫に世の中を見て回ってこさせようと目論んでいたのだった。
「別に良いが、どうなっても責任は取らねぇぞ」
「それで良いさね、ただ、死んだ時は報告してくれれば良いさね」
「わかった、その時は報告する。アム、その2人はこれからは旅の仲間だ仲良くやれよ?」




