西方・王国建国(ルクナガルト市街防衛戦・後編)
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「ルクナガルト侯爵・・・中の物を助ける事はできんのか?」
「・・・すみません無理です。中の指揮はウィンザー殿に一任していますし、彼の御仁は弱い者いじめを嬉々としてする輩が熱鳥の肉より嫌いだと言っておりましたので」
「熱鳥の肉?良く分からん例えだな」
「私も同じく思ったので聞き返したんです、そしたらば『あれより不味い物は無い!』と返されまして・・・」
「ふむ・・・まだ良く分からんが・・・価値の無い者と判断しておると言う事か?」
「恐らくは」
「そのウィンザーと言う物は何者なのだ?聞いた事のない名だが」
「テンビトロ伯爵も姓の方ならば知っているはずです。彼はカートライトの末裔です」
「カートライトだと!誠か?大丈夫なのか?」
「大丈夫かと思います。彼自身は強くなる為に戦に参じたと申してます。ですが、伝承にある様な事はないと思います」
伝承。
それは治まった戦乱が治まった後に西方各地で蜂起して多大なる被害を出し混乱に落とし入れ再び戦乱の時代に引き戻そうとした。
『約束された勝利』と言う栄誉と共に『戦いに酔いし者達』と言う不名誉な二つ名も持っている一族だったのだ。
ウィンザーも強さにこだわりを持ってはいる。
しかし、わざわざ騒動を自ら起こさなくてもちょっと足を延ばせば猛獣や魔獣が徘徊している場所があったりし、自分より弱い奴等の集団を倒したところで強くなれるとは思っていなかった。
実際、此度の戦闘でも引っ掻き回して正面からぶつからなければ何等問題無く対処できる事が分かった。
彼の家に伝わっていた『戦は強くなるには手っ取り早い』ってものはウィンザーには何かの間違いではないかとしか思ってなかった。
「・・・カートライトであっても1人ではどうのしようも無いだろうが、用心に越した事はないと思うぞ」
「えぇそれは分かっております」
その頃、当のウィンザーは侯爵邸宅前の跳ね橋で討伐軍と向き合っていた。
「なぁ、婆さん、どっちが多く殺れるか競争しねぇか?」
邸宅の壁の上に人狼の長老・ラキュアが見物していた。
「なんじゃ?お前さんの獲物をとって良いのか?」
「それがな、飽きてきた。こいつら弱すぎてつまらねぇ」
今ウィンザーに迫って来る兵士達は、竜人隊に追い立てられた者達に押されているだけなのだ。
ウィンザーを討ち取りたくて望んで進み出ている訳ではなかった。
すでに志気などは無く、死刑の執行の順番待ちをしている様なものだった。
「それによ、これ邪魔だっ!」
切り捨てた骸がかなりの量になり足場の確保に手間取る事態に陥りそうになっていた。
「それはあたしが何とかしてやるよ、競争ならあたしの孫達とやんな」
ラキュアの横で見物していた2人が壁から飛び降りた。
背丈はアムネジアと変わりない位で少々あどけなさの残る顔立ちをしていた。
顔立ちと言えば、2人は似通った顔立ちをしている。
「クロトとラキメアだよ。2対1だけど文句は無いよね?」
「へっ!ガキ2人に負ける俺様じゃねぇぜ!」
飛び降りた2人が子供と見るや、与し易しと思ったのだろう。
討伐軍兵士はクロトとラキメアにこぞって襲いかかった。
しかし。
クロトとラキメアは構えをとり獣化すると兵士達は二の足を踏んだ。
二の足を踏んだ所で後ろから押されてその場に留まる事などは出来なかった。
「バアちゃん・・・全力・・・OK?」
「こういう時は全力だけだよ。やっちゃいな。と、その前に」
ラキュアはウィンザーの横に飛び降り一閃。
下から振り上げた掌底で突風を起こし骸を討伐軍に向かって吹き飛ばした。
密集している討伐軍は避ける事もかなわず、まだ血の滴る骸を頭から受け止めた。
「婆さん凄えな!・・・なるほどなぁ下から掬い上げる感じか、それパクらせてもらうぜ」
「ふん、あんた貪欲だね。こんなババアの技まで盗むのかい?」
「何言ってやがる、年寄りの技ってのは実践経験に裏打ちされたハズレのねぇ技じゃねえか。 こんな感じか?」
風の魔晶から力を引き出し剣に乗せイメージを固めて打ち出してみる。
すると、地表から風の刃が生え前方に向かって討伐軍を刻みながら20m程進んだ。
「ほう、流石はカートライトだね。1発で盗んだかい、それはね1本じゃなく複数出すと効率良いんだよ」
「ふむ、こうか?」
再び剣を振り上げると今度は50cm間隔で横並びに5本の風の刃が生え直進した。
「あたしのとは違うイメージだね、あたしのは剣を起点に放射状に出るイメージだけど、前方を一掃するならそれも有りだね」
「放射状か・・・放射状ならこういうのはどうだ?」
何を思い付いたのかニヤリと笑みを浮かべたウィンザーは敵の中に駆け込んだ。
そして、逆手に剣を持ち徐に地面に刺した。
すると、ウィンザーを起点に8色の刃が生まれ8方向に直進し討伐軍を刻んだ。
「は、ははは、あんたのイメージには恐れ入ったよ、そいつはあたしも思いつかなかったな。しかし・・・8色かい・・・」
ラキュアでなくても8色の意味するところは理解出来ただろう。
ウィンザーが全属性に適性を持っていると。
そして、臆する事無く敵中に突っ込んで行ける無謀と紙一重の度胸と胆力を持っている、と。
――ありゃ放っといても成長する奴だね。さてさて孫共はどうかねぇ?
クロトとラキメアは変則ヒットアンドウェイで次々と討伐軍を血の海に沈めていっていた。
速さを生かして片方が敵の目前まで駆け寄り直前でバックステップで後退する。
自分に向かって来ているのだから当然武器をかざし奮う、しかしバックステップで居なくなってしまうので空振りとなってしまう。
その空振りをした所に直後から迫っていたもう片方に止めを刺されてしまう。
止めを刺した後は直ぐ様バックステップで遠退き、着地と同時に次の獲物に向かって駆け出す。
この戦法も長い間は使えない、対処法が簡単だからだ。
武器を奮わなければ良いのだ。
しかし、奮わなければ駆け寄った方に止めを刺されてしまう。
奮っても奮わなくても狙われたら骸になる事が決定してしまっていた。
――あれでも良いんだけどねぇ。
ラキュアは少々不満だった。
折角の乱戦なんだから一突一殺でなく一突数殺をしてみせて欲しかった。
――課題だね
課題は残ったが3人の奮戦は凄まじく討伐軍は残り数十人となってしまっていた。
その中には、ボルジューヴァ男爵とコドラカル男爵の姿も有った。
「お!下衆でヘタレな卑怯者共の親玉か?」
数百人の竜人と3人人狼とウィンザーに取り囲まれてすっかり怯えてしまっている生き残りの中から指揮官の2人を見つけ出しヅカヅカと歩み寄る。
圧倒されて破れかぶれすら起こせなくなっているところを進むのは容易だった。
「き、貴様!貴族に剣を向ける意味が分かっているのであろうな!」
「けっ、貴族の役目を忘れた野郎が貴族を名乗るんじゃねぇ!それどころか役目とは真逆を嬉々としてやる盗賊と変わりねぇだろうが!そういう奴は嫌いなんだわ」
唾を吐きかける勢いで言い放った。
そして、胸倉を掴み剣の腹で殴打した。
何かを言おうと口を開きかけたボルジューヴァ男爵に返す剣で再び殴打。
数度繰り返すと涙を流しながら止めてくれと懇願し始めた。
「ふん」
ボルジューヴァ男爵を投げ捨てると次はコドラカル男爵にも同じ事をしようと歩み寄った。
矛先が自分に向いて動揺を隠せない男爵はとうとう土下座して謝罪し始めた。
尊厳だ矜持だとほざいていた者と同一人物とは思えない行動だった。
その行動をみて呆れた上に興味を無くした。
「もういいか・・・」
その台詞に助かったと思い顔に笑みが生まれた。
それも長くは続かなかった。
「始末しちまってくれ」
「わ、我等を殺すと言うのか!」
「あぁん?生かすと誰が言った?」
驚愕と失意と疑念の入り混じった表情をして背後から槍で貫かれ両男爵は死んで行った。
「これで終わりか?ふぅ・・・なんとも詰まらねぇ戦いだったな」
「こうも見事に嵌っちまうと仕方ないさね。まぁ何はともあれ勝ちは勝ちさね」
「まぁ・・・な」
言った後で戦闘終了の合図として上空に閃光を放ち、その場に座り込んで剣の手入れをし始めた。
「どうやら終わったようです」
「もうか・・・凄まじく早いな、3000を殲滅させるのに1時間掛からんのか?倍する兵が居てももう少し掛かるものだぞ?」
「・・・中に居たのは竜人隊と人狼隊ですので・・・」
「竜人までおるのか・・・最初から敵う陣容ではなかったと言う事だな」
「・・・テンビトロ伯爵、参りましょう」
城内へ催すルクナガルト侯爵に続き歩を進めている時。
――コーウェイン伯の言った通りだったのかもな。
コーウェイン伯爵は国王に。
『早期終結を望むのならば敵を侮らず倍以上の戦力を持って当たるべきです』
その進言に耳を貸す者はいなかった。
離反した侯爵の肉親の言う事なのだ、何らかの魂胆があると疑ってしまうのは道理である。
その言に魂胆が有ったのだとしても吟味して、その魂胆を推測するべきであったと後悔していた。
城内に入って見ると。
邸宅まで続く道は骸で埋め尽くされており足の踏み場もなかった。
足の踏み場がないのだ、骸を踏みしめて邸宅の跳ね橋まで来ると。
「よぉ侯爵さん、あんたの勝鬨で終了だ、頼んだぜ」
「ええ、そうですね・・・」
「偉そうに頼むぜ」
「皆の者、此度の戦いご苦労であった、我等の勝利だ!後はゆっくり休んでくれ!」
「「「「おおー!」」」」
同盟軍は初戦を最小の被害で勝利を収めた。
戦後調査で。
討伐軍戦死者3654名、重傷者661名。
同盟軍戦死者421名、重傷者487名。
であった。
特筆すべきは、城内戦闘で重傷者が21名戦死者0名と言う事であろう。
種としての有利もあるだろうが、それ以上に作戦が見事に上手くいった事で異常な数字になったのだった。
西方・王国建国はまだ続きます。




