西方・王国建国(作戦会議)
中州廃城に向かう道すがらジャオロは現状について話していた。
「同盟軍は兵数でいったら圧倒的に不利だな」
同盟軍の総数は8000程。
シナト王国軍は国境警備人員も含めれば6万。
トルムナート王国は国境警備人員も含めて5万。
普通に考えたら勝ち目が無い戦争になる。
だが勝ち目が0では無いと言う。
まず、2王国が連携して攻めて来る事は有り得ないと言う事。
両国共に領土拡大を狙っているから自国のみで攻略しようとするのが間違いないと推測できた。
そして両国が未だに戦争中で戦力を大きく割いて同盟軍に当たるのは直ぐではない上に国王が共に同盟軍を舐めきっているので派遣兵数も同程度なはずだからだ。
指揮官にしても恐らくは戦功を与えたい若手の貴族辺りが選ばれると踏んでいた。
「・・・俺だったらさっさと潰して敵国に当たる作戦をとるけどなぁ。王の周りには参謀なり知恵者ってのは居ねぇのか?」
「いるぜ、シナトにはコーウェイン伯爵が、トルムラートにはロブション男爵がな。でもな、どっちもうちの両侯爵の身内だ進言はしねえだろうし、したとしても両王が受け入れる事はねえだろうな」
「でもなぁ、聞いてるとお頭の弱い王みたいじゃねぇか。予測出来ねぇ行動を執るかも知れねぇじゃねぇか」
「可能性は無くはねえけどよ、プライドだけはいっちょ前らしいしよ。ねえとふんでるんだわ」
ジャオロだけの見解では情報が乏しい。
他の見解も聞かないと現状と今後の展開の予測は出来そうにない。
ベストは両侯爵の見解を聞く事だがぽっと出のウィンザーが面会出来る相手ではない。
ならば侯爵に近い人物に話を聞ければ良いのだが。
「見えて来たぞ」
「結構立派な城じゃねぇか廃城には見えねぇな」
「遠目にはな、近くで見るとかなり酷でえぞ」
中州廃城は破損していたり崩れていたりはしていないために建築当初の姿を保っていた。
森を抜け、街道を歩いて近付くと放棄されて200年程の痕跡が分かるようになってきた。
屋根や壁に付いた苔。
苔から生えている雑草。
身窄らしい姿だった。
「きったねぇだろ?綺麗にしてえんだけどよー、他にやらないかん事が多くて手が回んねえんだわ」
城のある中洲をぐるりと高さ5m程の城壁は苔だらけだが修復の必要はない。
しかし8000名の兵士を城内に入れれる余裕はないので、城壁の外に森を切り開いて駐屯していた。
その駐屯地を囲む防御壁を急ぎ作っているところだった。
「ここってよぉ、城だけで町は無かったのか?」
「ここはな、竜王の抗争時分に造られた城なんだわ、統治目的で造られてねえしバリバリの軍事拠点だから民家も建つことは無かったらしいぜ」
地形だけを見るなら川の両岸は森になっていて、切り開けば大きな町を作る事も可能な程であった。
「あっ!!大隊長発見!!」
「んあ?」
「大隊長!会議です!みなさん既にお待ちです。」
「今日は会議の予定なんかねえだろ?」
「ルクナガルドの街から伝令が来たら会議の召集が掛かったんです」
「動き出したか?直ぐに行くと伝えてきてくれ。にいちゃん達も付いて来てくれや」
「いいけどよぉ、俺なんかが会議に出ていいのか?」
「いいんじゃねぇか?方針自体はとっくに決まってんだしよ。それよりな、にいちゃんみたいに傭兵参加は初めてなんだわ、どう扱うか聞かなきゃいけねえんだわ」
防壁を作っている陣中を横切り。
中洲への橋を渡り。
広場を抜けて城門を潜り。
会議の行われている部屋に着いた。
中から声は聞こえてこない。
遅れた事など意に返さずジャオロはヅカヅカと入室した。
「遅くなって悪りい、罠に掛かってた猪がやたらとでかくて手間取っちまった」
「お待ちしておりましたよ、ジャオロ隊長」
室内には大きい長机が1つ置かれていた、机には10脚の椅子が広めの間隔で備えられていた。
その座席には上座に2人の身形の良い男女が居た、この2人が侯爵達だろう。
上座から見て右側には老婆と皮鎧を纏った中年男が1人座っていた。
左側には壮年の男性が座って居た
各人の後ろには副官だろうか、1人づつ立っていた。
長机の上には中洲廃城を中心にした地図が置かれていて、その上にチェスの駒が配置されていて、いかにも作戦会議をしています。
そんな雰囲気だった。
「ウィンザー様、魔人種人狼と竜人ですよー。私、初めて見ましたー」
「ほぉ、俺も初めて見るぞ」
アムネジアは小声で伝えて来た、見抜眼によると。
老婆と女性侯爵ファシリアスの後ろに控える女性は人狼、壮年の男性と男性侯爵ラグリナスの後ろに控える青年は竜人と見えた。
ウィンザーも人狼と竜人に興味はあったのだが、それよりも地図上に置かれた駒の配置が気になっていた。
駒は廃城に繋がる街道の入り口に配置されていて、防衛を主においた作戦のように見えた。
「ジャオロさん、その2人はどなたかな?」
「同盟軍に参加したいっつう傭兵だな、ほれ傭兵ってのは初めてだろう?どう扱ったら良いのか聞くのに連れて来たんだわ」
両侯爵の付き人の人狼・竜人の表情があからさまに険しくなった。
時期が悪かった、敵の出兵が確認された日に傭兵志願してくる素性の知れぬ者などは怪しい以外の何物でもない。
しかもアムネジアはフードを深く被っていて怪しさの増加を手伝っていた。
「そっちの人狼の姉ちゃんと竜人の兄ちゃんが怪しむのはわかっけどよぉ、もっと早目に着く予定だったんだぜぇ。こいつが山の上にいた鳥が不味かったってメソメソしてたら遅くなっちまってよぉ」
「なっ!!私のせいですかー?ひどいですー」
自分達の正体を言い当てられて更に訝しむ度合いをましてしまった。
人狼も竜人も普段からそれと分かる姿をしているわけではない。 戦闘時などに変身するのであって、通常はそこいらを歩いている人と何ら変わりないのだ。
常人に見抜ける訳がないのだ。
「山頂の鳥?熱鳥の事か?あれは硫黄臭くて食えたもんじゃないだろ?」
「・・・不味かったです。あんな不味い鳥は初めて食べましたー!!」
人狼の老婆の問い掛けに答える際に、大袈裟に頭を振って不味さをアピールした。
その拍子にフードずれて面が割れた。
「む?・・・その髪と耳、白エルフか。・・・なるほど見抜眼か」
壮年の竜人はアムネジアの正体が分かると自分たちの種族がバレたのを理解した。
「白エルフ?初めて見ました、ホントに全部白いのですね」
「白エルフが森を出て来ただと?」
「嬢ちゃんは珍しい種族なのか?」
少しずれた事を言っているジャオロの事は放っておくにしても、面倒な事になるかもしれなかったので隠しておいたのを自分から晒すとは・・・
ウィンザーは溜息をつくしかなかった。
「ラシャス」
「ガフォード」
「「警戒は必要ない」」
「白エルフがどこかの国に仕える事は無い」
「白エルフは金で雇える種族ではない」
人狼の老婆と壮年の竜人は同じ様な事を言った。
人狼の老婆は長老で名をラキュア。
壮年の竜人は族長で名をマドラム。
2人は白エルフについて詳しいようだった。
「はぇー・・・・やっぱり私って珍しいんですねー、私なんかよりウィンザー様の方が珍しいと思うんですけどねー」
何の気なしに呟いた台詞にルクナガルト侯爵ラグリナスは反応し初めて口を開いた。
「エルフのお嬢さん、まだ名前を聞いていないので申し訳ない。それで、今なんと仰った?」
「私って珍しいですー」
「その後の台詞の方です」
「ウィンザー様の方が珍しいと思いますー、ですかー」
「では、貴殿がウィンザー・カートライト殿ですか?」
ラグリナスに問われて、今度はウィンザーが怪訝な顔をする番だった。
「・・・そうだけど、何で俺の名前を知ってんだ?」
「ヴァルシュエル殿より聞いております」
「ヴァルシュエル?・・・誰だ?アム知ってるか?」
ウィンザー同様に聞いた事のない名前を聞いて小首を傾げていたアムネジアは問い掛けに首を振った。
その森の小動物みたいな仕草にファシリアスは瞳を潤ませていた。
『何あれ?可愛い!飼いたいっ!!』
と言ったところだろうか。
「仲間ではないのですか?フード付の黒い貫頭衣を着た御仁でしたが」
ますます心当たりがなく眉間に深い皺が出来てしまっていた。
「あっ!分かったー!ほらー森で会った人ですー。ここで戦争が起きるって教えてくれた人ですー」
「あぁっ!あいつかっ!ヴァル?・・・ヴァルなんとかって名前なのかぁ」
確かに会っていたが森に長居していた時なので、さっさと出ていけと勧告しに来た奴くらいにしか思っていなかったのだった。
「ウィンザー殿は我らの軍に参加してくれると言う事でよろしのですか?」
「あ・・・う~ん・・・」
「如何なされた?」
地図を指差して。
「俺は戦略とか戦術ってのは分からねぇんだけどよぉ、それって防戦するって事だよな?」
ウィンザーの問い掛けに頷くラグリナス。
人狼の長老のラキュアと竜人の族長のマドラムは渋い顔をした、今回の作戦に納得がいっていないのだろう。
「それってさぁ相手の思うつぼじゃねぇのか?敵もこっちの兵数が少ないから攻撃的にはならないって読んでるじゃねぇのか?それとだ、何日目に勝つ予定なんだ?時間かけてたらトルムラート側も攻めて来て挟撃って事になる事もあるだろ?そうなったらジリ貧じゃねぇのか?」
「それは・・・」
「あとよぉ、そこの街には誰もいねぇのか?いねぇなら良いんだけどよぉ、いるなら守らなきゃダメだろ?勝つのを前提で言っちまうと、住民や街を犠牲にして勝つ非情な奴らって言われねぇか?」
侯爵達は言い返す言葉がみつからず黙ってしまっていた。
恐らくは誰しも脳裏を過ぎってはいたのだろうが、誰もその事を口にしないのでスルーしていたのではないか?
改めてウィンザーに言われて痛感したようだ。
「しかし我等には兵力が有りませんよ?」
「んな事はねぇだろ?人狼に竜人ってのは相当強ぇだろ?それに正面からぶつかるだけが喧嘩じゃねぇだろ?」
ウィンザーはガキの頃にやった喧嘩について話した。
規模は比べようもないほど小さいが状況的には似通うところがあった内容で、それをベースに出来ないかと思っていた。
「ほう、それは面白いな」
「なるほど、やってみる価値は大いにあるな」
ラキュアとマドラムは乗り気のようだ。
しかし、ラグリナスは決心しかねているようだ。
「し、しかし上手くいかなかったらどうするつもりです」
「侯爵様よぉ・・・上手くいかない事を心配すんなら反旗なんぞ翻してんじゃねぇよ。そっちの方が巻き添え喰う奴等が多いだろうが!」
ラグリナスはその事に気が付いていなかったようだ。
不意にビンタを喰らった幼子のような顔をしていた。
そしてようやく腹を括ったのか失敗どうこうな破壊的な事は言わず少しでも成功率を高める建設的な意見を出すようになった。
ウィンザーの案を煮詰めて、改良して、隙間のない様に議論を3時間に及んで重ね作戦の概要が決まった。
「侯爵さんよ、これでやってみようぜ!」
「そうですね、皆さんよろしくお願いします」
「それ、違う!ここはもっと偉そうに命令するところだぜ」
「!・・・では、皆早速準備に掛かってくれ」
それぞれ作戦準備の為に各持ち場に戻って行った。
その部屋に残ったのはウィンザーとアムネジアの2人だけだった。
2人の処遇をどうするか決めていなかったのだ。
「・・・肉・・・炊事担当に届けるか」




