西方・王国建国(アムネジアの決断)
「あ、あの・・・」
「ん?おーアムネジアだったな?お前の事は町長に聞いたぞ」
「えっ?・・・はい」
自分の事を・・・忌み子と知ってウィンザーが態度が変わって他のエルフ同様になってしまうのではないかと思い緊張してしまっっていた。
「忌み子?よく分かんねぇけど、なんか大変みてぇだな」
変わらなかった。
それどころか忌み子の事を知らない。
「あの、忌み子の事を知らないんですか?」
「んぁ?知らん」
疑問がハッキリした。
白の森の外は忌み子の事を知らないんじゃないか?
だったら忌み子であっても接し方が素気無い事がないんじゃないか?
忌み子であっても人として接してくれるんじゃないか?
全部聞いてみた。
「ん~・・・俺もそんなに沢山の街に行ってる訳じゃないから分からんが、白エルフって事で珍しがられても忌み子って事で何か言われる事はねぇと思うぞ」
――やっぱりそうなんだ。
疑問が晴れ今度は願望の様なものが生まれた。
外の世界に行ってみたい。
必然的に生じる願望だろう、居心地が最悪な所に住んでいて、それが此処だけであると知ったなら誰しも思うに違いないのだから。
しかし、アムネジアは即断できなかった。
大きな期待も有るが大きな不安もあるからだ。
物心ついてから50数年この町から出た事が無かったのだから当然だろう。
それに養父の事もある。
最近老化が始まったと言っていたし、自分から我儘を言った事が無かったので告げた時の反応を想像できなかったのだ。
「ところでよぉ、ここいらで野宿できっとこはねぇか?」
「野宿ですか?」
「あぁ、ついでに釣りが出来る所が近いといいなぁ」
「釣りが出来る所ならわかりますけど、野宿は分からないです」
「んじゃ、その釣りの出来る所へ案内してくれ」
以前養父に町の北にある岩場では多様な魚が釣れると聞いた事があった。
そこに向かう途中でウィンザーに色々と聞いてみた。
ウィンザーはイベリス国から黄の森を抜けやって来たと言う、そして2~3日この町で逗留して更に北上して北方の大地を眺めに行くのが目的との事。
日数にすると片道半年はかかる旅の途中だ。
この町では食料の補充をしたかったそうだ。
野菜の類は町長に快く売ってもらう事が出来そうなのだが、肉と魚は在庫があまりないから断られたそうだ。
「エルフは肉と魚はたまにしか食べないですから」
「そうなのか!?」
「はい、生態系ってのを壊さない程度にしか狩りは行わないですから」
「畜産は?」
「ちくさん?ってなんですか?」
「食べる為に牛とか豚とか飼う事だ」
「やってないですね」
「そうなのか・・・」
アムネジアは畜産をやらない理由を知らなかったが、畜産も生態系を壊しかねないのでやっていないのだ。
飼料の調達を森からするなら、それを食料としている生物が減る可能性がある、資料を栽培するにしても森を開墾しなくてはならない、開墾によって住まいを追われた生物が森に混乱を起こすかもしれない。
そういった理由で畜産は行われていないのであった。
「それでか、森で狩りをしないでくれって言ってたのは」
狩りは止められた様だ、その代りに魚については好きに捕って良いと言われたのだった。
魚に関しては白の森を流れる川魚は漁獲の制限をしているが、アラシア内海で捕れる物については関与にていなかったからだ。
だけども、漁獲の制限と言うのが白エルフには当然の事だった為に、この町の住人も関与していないアラシア内海の魚も漁獲を決めて捕っていた。
だから在庫が少ないのだった。
「ここかぁ・・・野宿も出来そうだな、案内ありがとな」
「あの、また来ても良いですか?」
「ん?おう、魚釣ってるだけだしな、暇潰しに付き合ってくれるならいいぞ」
アムネジアは別れを告げ急いで家に帰った。
そして養父に色々と話した、ウィンザーの事、外の世界の事、外の世界に行ってみたいという事まで。
養父は静かに聞いていた、アムネジアが熱弁を奮うのを初めて見たからである。
――何かに興味を示したのは初めてだな。
しばし考えた後に。
「お前の言いたい事は分かった、お前が何かをそこまで話すのは初めて見たから何とかしてやりたいが即決はできない、少し考えさせてくれ」
養父も外の世界に行かせる事は考えた。
しかし、自分が気に入った人の話しか耳を貸さないアムネジアではやっていけないと判断していた。
その判断は間違っていない、実際ウィンザーの事も最初は無視したのだから。
まず1人ではやっていけないだろう。
養父が付いて行くのも良いのだが、老化の症状が出てきてしまっていた。
老化の症状が出てくると、早くて数年、長くても30~40年で死に至るのだ。
こんないつ死ぬか分からない状態では自ら付いて行くのは足手まといになるだけだ。
ならば。
――ウィンザーとやらに頼んでみるか?
ウィンザーに頼むのも一抹の不安はある。
話を聞く限りだと礼儀は知っているようだが粗暴さが目立つ。
粗暴な他人種は約束事を簡単に破棄する傾向が強い。
それが、長年交易を通じて他人種と係わった養父の印象だった。
だが他に当てはない。
――会ってみるか。
アムネジアが直ぐに懐いたって事で養父もウィンザーに興味があったのだ。
粗暴さが目立つだけの人物ならアムネジアが懐くとは思えなかったし、挨拶に来てエルフの流儀に従うのも粗暴以外にも何かあるからだろう、それを自身の目で判断する事にしたのだった。
次の日、アムネジアを伴いウィンザーの元へ赴いた。
「いよぉ!来たのかぁ。ん?そのオッサンは?」
「私の父です。彼方と話がしてみたくなったそうです」
「ふ~ん。何にちっと待ってくれっか?釣った魚を干しときたいんでな」
日の出から釣り始めて小さいのはリリースしたのにも関わらず100匹近く釣れたと言う。
「ここは入れ食いだな!全く警戒してねぇみたいだぜ」
その通りだろう。
釣りをする白エルフは居ないのだから。
「ほ~中々手捌きが良いな」
「まぁな、ガキの頃からやってるからな、そうだ、あんた等昼飯はまだだろ?これ食ってかねぇか?」
「ん?良いのか?備蓄するんだろ?」
「大丈夫だろ?こんだけ入れ食いなら直ぐカバーできるって」
そう言うと6匹を串に刺し塩を振って遠火で炙り始めた。
――釣りたての魚は久しく食べてないな。
狩って来た物はほぼ塩漬けにして保存に回すために生肉・生魚を食べる事はまずなかったのだ。
暫くの間ウィンザーの作業を見ていると、アムネジアがそわそわし始めた。
これもまた初めて見る仕草だった。
「どうしたんだ?」
「え?・・・なんか、この魚凄く良い臭いがする」
「・・・塩漬けを炙るのと同じじゃないか?」
「そんな事ないと思うけど」
どこが違うのか全く分からなかった。
使っている塩でも違うのだろうか?
しかし、塩の焼ける臭いに違いなどあるんだろか?
焼き上がって食べたが、塩漬けを炙った物との違いは有るけども極端に違うとは思えなかった。
だけれどもアムネジアは目を輝かせて感激していた。
「これ、すっごく美味しい!こんな美味しい魚は初めてたべた!」
「そうか?普通に焼いただけだぞ?」
「こんなに身がフワフワな感じで魚の味がハッキリ分かるのは初めてですー」
「・・・同じ様な気がするんだがな」
養父もウィンザーも塩漬けの魚とのハッキリとした違いが分からなかった。
試しに生肉も塩と香草をまぶして食わせてみる事にした。
「ふぉおおおおお!これはまた全然ちがうですー!」
目のキラキラの度合いが増した、と言うか光線放ってないか?
これも塩漬け肉を塩抜きをしっかりやれば遜色ないはずなんだけど、アムネジアには違う物に感じる・・・と言うか違う物らしい。
「生肉は手持ちが少ないからこれだけだ、よっく味わえ!」
「はいー!」
それのどこが味わってるのだろうか?
2口で食ってしまった。
「あの・・・」
「もーやらんぞ、俺の分が無くなる!」
「そうじゃなくて・・・私も旅に付いて行っちゃだめですか?」
「はぁ?何言ってんだお前?だいたい何のために旅に出るって言うんだ?」
「自分の居場所を探すためです。この町に居場所なんて殆ど無いですし、いつか出て行くのは決まってる様な事ですし、それがずっと先か彼方とかの違いだけですし」
養父は黙って見ていた。
アムネジアの決意の程を確かめたいのと、自力でウィンザーを説得出来ないならこの先やっていけないと考えていた。
それに何を言うのか楽しみでもあったのだ。
「それに守ってもらおうとか思ってません。魔術も使えますし自分の身を守る位なら出来ると思います。それに白の森を抜けると大型の魔獣が増えると聞いています。私の魔術も役にたつと思うんです。」
「いや、しかしなー」
「もし、死んでも文句を言うために思念を残したりしませし、暫く一緒に旅をしてダメだと思ったら言って下さい、残念だけど別行動をしますので、お願いします!」
「えー、あー・・・そこまで言うなら良いけどよぉ、おっさんはそれで良いのか?」
「俺は構わんよ、愛情が無い様に見えるかも知れんが、この子の言う通り街に居続けるのは得策じゃないからな遅かれ早かれこうなるのは必至だったからな。それにな俺も老化が始まったから先が長くないからどうしようか考えていたところだしな、君さえ良ければ頼みたい」
「んじゃ、分かった。無理だと思ったらそこでオサラバで守ってやったりもしない。それで良いなら付いてこい。それとだ、目的地は俺が決めるぞ?それでも良いならだな」
「それで構いません、外の事は殆ど知らないので・・・」
「決まりでいいかな?流石にタダで頼み事をするのは気が引けるからな・・・君の扱う武器は何だ?」
「俺はこれだ、バスタードソードだな、それがどうした?」
ウィンザーが収納の魔晶から取り出したバスタードソードは数打ちの量産品だった。
手入れはそこそこしてある様だが、お世辞にも良い物ではなかった。
白の森の先に出る魔獣と渡り合えるかどうか疑問の有る出来栄えだったのだ。
養父が収納の魔晶から取り出した精霊鋼\(黄)で作り上げたバスタードソードとは比べるのも失礼だった。
「おい!おっさん!これは・・」
「礼だと思って受け取ってくれ」
精霊鋼(黄)は光の精霊の力を込めて鋳造した金属で発動魔晶が無くても光魔術を発動する事が出来る。
養父の出したバスタードソードは鍛造の段階でも光の精霊の力を込めてある逸品であった。
普通に市場に出たのなら金貨2枚、銀貨にしたら2000枚程の値段となる。
値段としては普通よりも高いが、精霊鋼は普通の鉄で作り出せる物なので大した値段ではない。
神鉄鋼・金剛鋼などに比べたら特価値段である。
「よっしゃ!取り合えず北方の大地を見たら、ここに戻てくる。それがお試し期間ってところだな。そん時ダメだと思ってたら剣とこいつは熨斗付けて返す!」
「それで構わんよ。その前に・・・その剣の使い勝手を後ろに居るので試してみたらどうだ?」
「んぁ?」
そこにはこっちに向かってくるチェスナットクラブが居た。
チェスナットクラブはその名の通り甲殻が毬栗の様に長さ30cm棘状になっている、体長は2m程の魔獣だ。
攻撃的な性格では無いのだが焼いた肉の臭いを嗅ぎつけたのかまっしぐらにこちらに向かって来ている。
「おいおい、ありゃ固そうだな」
「まぁ固いは固いが関節部分を狙って足を切り落としてしまえば難しい相手ではないな」
「簡単に言うけどな棘で関節が見え難いぞ」
「そこを何とかするのが腕の見せ所じゃないのか?」
「・・・あれは美味しいんですかねー?私食べた事ないですー」
「・・・お前な・・・」
「私も頑張りますからやっちゃいましょう」




