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西方・王国建国(59歳の未成年)

ウィンザーとアムネジアの出会いの話です

「・・・・・・グズ・・・ズズーッ」


「・・・おい、アム。いい加減泣き止めよ。そろそろ鬱陶しくなって来たぞ」


「だって・・・だって・・・グズ」


「確かにな、ありゃクソ不味かったけどな」


「そうですよー!!なんですかー?あれはー!?お肉自体が少ないうえに筋だらけで固くってー。おまけに硫黄臭くって全然美味しくなかったですー!!」


「まぁ・・・な。でもほら卵は美味かったじゃねえか」


「そーでしたー!!卵は絶品でしたー♪濃厚だけどーくどくなくてー幾らでも食べれそうでしたー。バシリスクさんやコカトリスさんの卵より美味しかったですー♪」


「あれだったら取りに行く価値はあるよな」


「はいーまた食べたいですねー」


 食い意地の張った話をしながら下山をしている2人であった。

 中州廃城までは後4~5kmと言う所まで来ている。

 順調に下山していると激突音が聞こえて来るようになった。

 金属音では無いから戦闘ではないようだった。

 進行方向だしその内に分かるだろうと呑気に歩いて行くと、そこには巨大な猪が罠に掛かっていて罠の繋いである木に突進を繰り返していました。


「で・・・でけぇな」


「大きいですねーお肉いっぱいですねー」


 その猪は体高2m程、体長は3.5m程ある巨躯だった。

 猪はウィンザーとアムネジアの存在に気付き突進の標的を2人に変えた。

 前足を蹴り、いざ突進をしたら、足に掛かった罠のせいで頭から突っ伏してしまった。

 しかも全力の突進をしたために罠がより深く食い込んでしまった。


「ウィンザー様ー、あれは私に食べて欲しがってますねー」


 向かって来る生物=食べて欲しがっている。

 結構長い間、行動を共にしているウィンザーも一向に理解しきれない感覚だった。

 最初の頃は冗談で言っているのだと思っていたが、向かって来る生物がいると毎回同じ事を言ってから仕留めて食べているので、本気で言っていると知った。


「アム・・・たまにお前の脳みそがどうなってるのか見てみたくなるぞ?」


「脳みそですかー?え~と・・・白くてブヨブヨしててグニグニしてると思いますよー?」


 なまじ生物の解体をしてきているので自分のも同じだと推測しての答えみたいだ。

 ウィンザーは頭痛がしてきそうな思いだった。


「そうじゃねぇんだけどな・・・まぁいい。あれは食えねぇぞ」


「な、何でですかー!あそこまでお膳立てされてるのに食べれない訳ないじゃないですかー!」


 普通に遭遇していたのなら、何の問題も無く仕留めて食糧としても良いだろうが、この猪は罠に掛かっている。


「こいつはな、罠を仕掛けた人の物だ。お前が好きにして良い物じゃない」


「罠を仕掛けた人は居ませんから、食べちゃっても分からなくないですかー?」


「アム・・・お前が仕掛けた罠に掛かってた獲物を誰かに持って行かれたらどう思う?」


「許しませんー!許せる訳がありませんー!」


「分かってるのか?お前がやろうとしてる事は、お前が許さないと言ってる事だぞ?」


「それはー・・・」


――こいつ俺より年上のくせして、まだまだガキなんだよな。


 この時、ウィンザーは21歳、アムネジアは59歳だった。

 ウィンザーは既に成人して独り立ちしているが、アムネジアはまだ成人していない。

 エルフの成人は100歳辺りからであってアムネジアが独り立ちするには後40年は必要となる。

 ここで1つ疑問が沸いてくる。

 未成年であるアムネジアが旅をするならば普通は同種のエルフとするものだろうが、なぜ他人種であるウィンザーと旅をしているか、だ。

 その理由はアムネジアの生い立ちにあった。

 アムネジアは生後間もなく忌み子であったために森に捨てられた。

 白氏族しろしぞくのエルフにとって忌み子とは育てるには値しない生き物だった。

 生き物と言う位だからエルフとして認めていなかった。

 捨てられたアムネジアがこうして生きていれたのは何個もの偶然が重なったからだ。

 産着すら着せられていない状態で捨てられたアムネジアは。

 たまたま獣に襲われる事無く。

 たまたま泣いた時に。

 たまたま人が近くに居て。

 たまたま泣き声に気が付いて。

 その人がたまたま忌み子でもエルフはエルフと言う考えの持ち主だった。

 と、言う訳である。

 白氏族にも極々少数だが忌み子をエルフとして見る人達が居る、かつてのロシア・中央アジア・東欧が水没して地中海・バルト海などと繋がったアラシア内海の沿岸の町に住み、交易を生業としている者達は多人種との交流で忌み子に対する考え方が変わったのだった。

 拾われて生き延びたアムネジアはアラシア内海沿岸の町で成長するのだが、そこは白氏族の町。

 数多くのイジメや悪意だけの言葉の中で生活してきた。

 毎日の様に泣いているアムネジアに養父は。


『忌み子だから仕方ない』


 とは言わなかった。


『お前はエルフだ。忌み子だろうがエルフだ。エルフとしての自信を持て、誰に何と言われようと聞く耳を持たなければ良いんだ』


 そう言って聞かせた。

 アムネジアも何度も言い聞かせられている内に気にならなくなっていった。

 だが1つ誤算があった。

 アムネジアは懐いた人の言葉以外は聞かなくなっていたのだ。

 自分を忌み子として扱わない人以外は心配をして忠告したりしなかったから、その時はそれで良かった。

 ある時、養父は思った。


『成人して独り立ちする時に今のままで良いのか?』


 と。

 忌み子であるアムネジアに白氏族社会では職に有り就けないだろう。

 白の森を出るにしてもコミュニケーションがとれないのは致命的だ。

 どうすれば敵意の無い者の話を聞くように出来るか思案に暮れている時にウィンザーが現れた。


「おーい、そこのー」


 その日は昼間だというのに誰も外を歩いて無かった。

 それもそのはず、ウィンザーが町に着くのが今日だと前もって知れていたので排他的な白エルフは家に籠もって経過を監視していたのだった。

 アムネジアも聞いてはいたのだが自分には関係無さそうだから聞き流していた、なのにガッツリ絡まれた。

 一瞬ビクッとしてしまったけど、アムネジアはいつもと同様に無視をした。


「あぁ!テメェ気が付いていて無視するとはいい度胸だ!喧嘩売ってんなら買うぞ、ゴラ!!」


 産まれてから初めてかもしれない、言葉に詰まりどもる程に驚いたのは。


「あ、あ、あの、わ、わた、わた、私は」


「あ゛あ゛ん?言い訳かー!聞いてやる!気の利いた事を言えや!」


「えっ?きの、き、き、気の、利いた?」


 そんな事が言える訳が無かった。

 気の利いた台詞なんぞ言った事は勿論、聞いた事すら無いのだから。

 それでもウィンザーが怖いから何とか捻り出そうとあれこれと考えていたら。


「ぷっ!ぁっはっはっは!人ってやつは心底テンパるとそうなんのか!面白れぇもんが見れたから許してやる!」


 アムネジアは考えながら


『気の利いた、気の利いた』


 と、ブツブツ呟きいていた。

 そして一言呟くたびに目が前後左右に動いていた。

 それが時間の経過と共に動くのが早くなっていきウィンザーが笑い出す頃にはグルグル目玉が回っていた。


「ところで、だ!ここの町長の家はどこだ?」


「え?あ、はい・・・あ、案内します」


 その場所から町長の家まではほんの数分の所、場所さえ教えれば何も言われなかっただろうが、完全に委縮してたから家まで案内する方が良いと思っていた。

 それに気になった事を言っていた。

――人?エルフじゃなくて、人?

 他人種の居ない町で暮らしているせいか、エルフが人種ひとしゅという大きな括りの1人種であるという風に捉えた事が無かったのである。

 アムネジアにとっては目の覚める様な考え方だったのだ。


「こ、ここです」


「ふ~ん、普通の家なんだな」


「余所はちがうんですか?」


「全部じゃねぇが、やたらとデカい家に住んでる奴が村長とか町長をやってる所もある」


 それも初めて知った。

――普通・・なんだ。

 町長の家は就任した時に応接室や客室などを増築していたので他より大きい家なのだ。

 決して立派とか豪華な家ではないけど白エルフの基準だと、これより大きな家は白氏族の纏める役職に就いている者の家くらいと聞いている。


「ん?アムネジアが連れて来たのか?」


 ノックを聞いて出て来た町長の開口一番の台詞がそれだった。

 町長も養父と同じく忌み子を素気無すげない扱いをしない人だったのだけど、普段のアムネジアを知っているから出て来た台詞だった。


「そうか、お前がか。・・・ご苦労様」


「・・・それじゃ、私はこれで」


「そっか?サンキューな~」


 その場を去ったアムネジアには漠然とした疑問がいくつかあった。

 いっぺんに複数の疑問が出来た事など無かったので、頭の中が混乱してしまっているので何が疑問なのか分からなくなっているのだけど。

――このモヤモヤっとしたのは、あの人とまた話せば分かるのかなー?

 アムネジアが初めて自分から他人に興味を持ったのだった。

 早速踵を返して町長の家に向かった。




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