ハーベスト休み
今日から1週間ハーベスト休みに突入です。
収穫自体は1~2週間前に終わってるはずなんだけど。
学校の休暇に合わせて村でもこの週に祭りが行われる。
只今、村に向かって移動中です。
いつもの3人。
ジン・剛義・蒼麗に加えて、尚華・ウェン・ウェザも同行している。
尚華は実家が村にあるから同行ってのとは少し違うけど。
実家に戻るの事態がほぼ3年振り位になるのであったから、あえて同行と言った。
剛義は武術大会本戦の2回戦で受けた怪我が痛むのか足取りが少し重そうだった。
その怪我を負わせた張本人の蒼麗はニッコニコの満足笑顔をしている。
何でも尚華が村に戻るのが心底嬉しくて仕方ないと言っていた。
その2人の試合なんだけど・・・
今日から3日間、武術大会の本戦が行われる。
場所は武術科の屋内修練場だ。
この3日間はより多くの人が観戦できるように修練場の壁を3面取っ払っらう。
地方巡業の相撲の土俵みたいな感じになっている。
1面だけ壁が残っているから少しばかし違うのは愛嬌と言う事にしよう。
さて試合の対戦相手を決める方法なのだが、方法も何もなかった。
第一試合1年vs4年、第二試合2年vs5年、第三試合3年vs6年と言うのが初戦は最初から決まっていた。
2回戦も第一試合勝者vs第三試合勝者と第二試合勝者vs前年度優勝者となっていた。
前年度優勝者が卒業していた場合は、優勝者に一応召集を掛けて来た場合のみ行う。
だから2年生・5年生は2勝すると優勝となる事もあった。
毎年このやり方なので2年生・5年生はチャンスの年だった。
そしてこの日になるまで蒼麗が学年代表になっていた事を全然知らなかったので驚いてしまった。
蒼麗の実力なら代表になってもなんら不思議ではないのだけど、大会に興味を持っているとは思わなかった。
ここは端折ってしまうが初戦は剛義も蒼麗も危なげ無く勝ち進んだ。
そして2回戦・・・剛義vs蒼麗だ。
剛義は木製のロングソード。 蒼麗は弓と大ぶりのダガー。
因みに獲物は予選からずっと木製を使用している。矢は鏃ではなく膠で固めた砂が付いている。
剛義じゃ蒼麗に勝てるわけない。
と言う訳でもない。
試合場は広さに制限がある、その広さは弓を使用するには狭すぎるのだ。
なので一気に詰め寄る事が出来れば剛義に勝機は十分ある。
しかし、3年生予選と1回戦の6年生に弓で見事に勝利している蒼麗を甘く見る事は出来ない。
全ては剛義の初動にかかっている。
「姉ちゃん。今日こそは勝って見せる!」
「剛義君に出来るかしらね?」
開始の合図が出された。
開始と同時に2人も動いた。
剛義は一気に蒼麗に詰め寄ろうと全速で前進した。
蒼麗は番えた矢を放った。
その矢が普通の矢であったなら剛義は易々と詰め寄っていただろう、しかし矢は十数本に拡散して剛義に襲い掛かった。
剛義は止む無く地に伏して躱すしかなかった、その間に蒼麗は間合いを取り弓に有利な状況を作り出していた、蒼麗の方が1枚上手だった。
「剛義君?矢は1本だけしか放てない訳じゃないのよ」
僕も剛義も、そして観客も矢は1本だけと言う固定観念に囚われていたのは間違いない、蒼麗は見事に固定観念を覆してくれた。
「それじゃ、まずは手始めにこれはどうかな?」
そう言って放った矢は2本だった、どういう訳なのか同時に放ったはずなのに片方が遅れて剛義の所に届いた。
「影矢は防げるのね、それじゃこれは?」
蒼麗は剛義にではなく照準を左右と上にずらして3本の矢を射た。
するとその矢は全てが弧を描いて剛義に向かって行った、上に向けて射た矢などは大きな弧を描き背後から迫っている。
「あら?・・・曲矢も防ぐの、へぇ、防御・・・上手になったね」
「あぁ、姉ちゃんに言われてから毎日、攻守逆転でも稽古したからな」
「そう・・・なら私もちょっと本気出しても良さそうね」
「え?」
そっからの蒼麗はフルオート砲台と化した。
矢を番える腕が見えないのだ。
拡散・影矢・曲矢をランダムに放ち剛義の四方から襲い掛からせている、雨霰の如くって言葉がピッタリ当てはまる、収納の魔晶にどれだけの矢が入っているのか計り知れない。
「そう言えば剛義君?ジン君にあの力を使って勝負しろって迫ったんだって?」
「え?・・・うを、・・・確かに・・・頼んだが。おぉっと」
矢を防ぎながら良く返事が出来るな。
「私のジン君を困らせちゃダメでしょう?」
――ん?またサラッと『私の』って言ったな・・・誰か突っ込んで欲しいんだよな・・・
「力を使ったジン君ならさ私はもう負けてると思うよ?この程度の攻撃は簡単に避けちゃうんじゃない?」
どうだろう?
そんな自信ないけどな。
「だ・か・ら。剛義君があの状態のジン君に挑戦するのは私に勝ってからね。分かったかな?」
と言った後、さっきまでと違い溜めの長めの一撃を放った。
放ったと思った瞬間。
轟音と共に剛義が吹っ飛んだ。
そして会場が静寂に包まれた・・・
矢1本で人が吹っ飛ぶ?
何て威力なんだ?
鏃だったら身体を貫通していたんじゃないだろうか。
「剛義君、私、弓以外にも奥の手は有るんだからね?頑張って私に勝ってね」
剛義には聞こえていないだろう。
さっきの凶悪な一撃で気を失っているみたいだから。
言いたい事を言い終わった蒼麗は鼻歌混じりに退場していった。
剛義は医務室に直行されていった。
その後の決勝も蒼麗は危なげなく勝ち優勝した。
「ほぅ、この辺りまで来るとロドロマ山が大きく見える様になるのう」
「村までもう少しですからね」
「あそこが風竜王の住まいか・・・」
「そうですね、でも今は居ないみたいですね」
「なにっ?分かりおるのか?」
「んー・・・ホントだ居ないみたい。先生?山頂にうっすらと雲が掛かってるでしょう。風竜王が居る時は雲一つ山頂には掛からないんですよ」
「ルナードさん居ると雨雲も掛からないもんね」
「なんと!?誠かっ!?」
「あれ?先生知らなかったんですか?街からも掛かってないの見えましたよ?私、街の人達も知ってると思ってました」
「それと、ウィルさんが居る時ってのも分かりますよ」
「そうなの?・・・それは知らなかったなぁ」
「船乗りさん達もそれ知らないんじゃないかな?お爺ちゃんの家、海運ギルドの近くだから顔見知りになった船乗りさんが居るんだけど、そんな話は聞いた事ないよ?」
「そうなの?・・・ここからじゃ良く分からないけど。多分今は居ないよ」
「ジン、居ると何が変わるんだ?俺は海を結構見たりしてるけど変化に気が付いた事ねぇぞ」
「黒海の境界がね沖に行くんだよ」
「それは不思議じゃのう。水竜王が居るのなら黒海も広がりそうな感じがするのじゃがのう」
「確かにそうですね。じゃ今度聞いてみましょうか?」
「誠かっ!?」
「はい。誰かに黒海の境界まで船を出してもらって呼んでみましょう」
「いゃいゃいゃ。そんな事する船乗りいねぇから」
「そっか・・・じゃ街に呼ぶ?」
「いかん!!それはいかんぞ!!大混乱必至じゃ!!」
「あはははは、冗談です。それに呼び出すなんて事は出来ないですから」
しかし、剛義が静かだ。
――そんなに痛むのかな?
胸に拳大の痣が出来ていて歩く振動でズキッと来るとは言っていたけど。
「剛義?痛むのか?」
「ん?あぁ少しな」
強がりな剛義が少しって事は相当痛いって事だ。
「村に着いたら父さんに痛め止め作ってもらおうよ、材料のストックは有るはずだから直ぐに出来るよ」
「そうだな、おじさんの薬は効くからな」
「ジンの実家に直行すんのか?」
「と言うより、尚華ちゃんも姉ちゃんも家が近くだから同じ方に行くよ」
「ほー。なら俺も付いて行くかな」
「ウェン君、ジン君家に行くの?行くんなら・・・絶対に言ったらいけない一言があるんだよ」
「そんなのがあるんか?」
「うん・・・もし、その一言を言ったら、私は遠慮無く逃げるから!」
「俺もだ」
「・・・私も」
「・・・」
僕から言う事は何もない、事実母さんを恐いと思った事が無いのだし。
「そ・・・そんなにか?・・・で、その一言ってのは?」
「「「おばさん!」」」
3人がハモった。
「それは絶対に禁句よ!言ったら最後」
「身も心も・・・命さえ凍る体験が出来るね」
「俺、まだレイさんって言い慣れて頃『おば』まで言った事が有るんだが・・・一気に気温が下がった気がしたぞ」
「ジ、ジン・・・お前の母さんは何者何だよ?」
「普通の人だよ?母さんより・・・僕は怒った姉ちゃんの方が恐いよ?」
「ジン!それは違うぞ!姉ちゃんはレイさんの足元にも及ばないぞ!」
「・・・剛義君?レイさんに言いつけちゃうぞ?私だったらお仕置き対象だよ」
「あー・・・多分大丈夫だよ。母さんなら多分『あらあら、私は最強だから当然よー』って言うと思うし」
「あっ!・・私、笑いながらそれを言ってるレイさんを想像出来ちゃった」
「俺もだ・・・姉ちゃんはレイさんを目標にした方が良さそうだな」
「何それ?今の私じゃダメだって言うのかな?剛義君!」
「お、おぅ。レイさんみたく笑って返せたら最強だろ」
「あらぁ?私が最強になっていいの?剛義君、ますます勝てなくなっちゃうわよ?」
「うっ・・・そ、それは・・・」
やっぱり母さんは凄い。
存在だけで話がこんなに弾むんだから。
「ジン・・・ホント何者なんだ?お前の母さんは?」
「あはははは、すまん、さっきの普通ってのは取り消すよ。最強の人だ」
裏設定ですが
尚華とまた仲良くなってジン君は冗談を言う様になりました。




