西方・王国建国(暴露)
ラモネズ川下流域西岸を北上する部隊があった。
ファシリアス率いるガムラミット侯爵軍だ。
魔術により発生していた霧を抜け1km程移動すると停止命令を出した。
――ここから最初の山場。
将兵に事の詳細を話て味方になって欲しいと、お願いをしなくてはいけない。
ファシリアスの心臓は緊張と不安で動悸が早くなっていた。
――少し息苦しいな。
意を決して皆を前にして話し始めた。
「これから私の話す事を聞いて皆に決断してもらいたい。私は決して強要したりはしないし、それぞれがした決断を尊重します」
息を整える為に言葉を一旦止めたが動悸は早まって行くばかりだった。
将兵等も何の事だか分かっていない様子だが。
これから話す内容が重大な事だと言う事は理解してくれたみたいだ。
「私は、ガムラミット侯爵家はトルムラート王国から離脱する。そしてルクナガルト侯爵と手を組み討伐隊の防衛に当たる」
ファシリアスの言葉に将兵たちは騒然となった。
無理もない。
普通に考えても正気の沙汰ではないのだから。
しかも手を取り合うのが同国の領主でなく他国の領主だと言う。
いくら近い位置にあるとは言え、これも常軌を逸していた。
「皆、聞いて欲しい。これから理由を説明する」
前列の方から徐々に聞く体制に戻っていく。
あらかた静かになるとファシリアスは話し始めた。
此度の戦争の原因について。
その原因で領民である皆に命を掛けろと命を下すのがこの上ない苦痛で有る事。
そしてルクナガルト侯爵も同じ思いで離脱すると言う事。
それらを包み隠さず正直に話した。
「私は生き残る勝算が有ると踏んで離脱するこを決意しました。だけれども、皆の意見は違うと思います。だから皆に今後の事を自分で判断してもらいたいのです、勝ち目は無いと思うなら遠慮なく去ってくれてかまいません。この離脱は此度の戦争の原因と変わりない事だと思っていますから・・・無理強いはしたくないのです」
言い終えて直ぐに頭を下げた。
――私の言う事を聞いては貰えた。だけど・・・ 私の言葉を・・・勝算があると言う事を信じて貰えるのか。私事の身勝手に命を懸けて付き合ってくれるのか。
不安から来る胃の痛みを通り越し吐き気がして来た。
――私は強くない・・・皆の手前気丈に振舞ってはいるけれど、私は弱い。
1人でも良いから付いて来てくれる人が居る事を願っていた。
ファシリアスは自分の事が世間知らずの小娘だと認識していた。
親の跡目を継いだだけの、何の実績も無いただの小娘。
そんな小娘の言う事を真に受けてくれる人なんて多くは無いだろうと思っていた。
「侯爵様!俺は付いてくぜ!その勝算ってのに乗っかる!」
「俺もだ!国王の道具になる位なら侯爵様に付いてく!」
彼方此方でファシリアスに賛同する者達が名乗りを上げた。
思って以上の数の人が居た事に驚いてしまった。
「本当に良いのですか?勝算が有ると言っても詳細は話せないし厳しい戦いになるのは間違いないのですよ」
皆の顔役なのか古参らしき中隊長章を付けた者が答えた。
「俺は口が悪いのが治らねぇんだ、そこんとこは勘弁して欲しい」
「それくらいは構いません」
「スンマセン、それじゃ。勝算の詳細ってのは作戦だろ?作戦の詳細をあかせねーのは当然だ、逆に聞き出そうとする奴は信じちゃいけねー」
「はい、肝に命じます」
「そんでな、厳しいのは当然だろー、さっきまで居た所の奴等全員が敵なんだろ?あれ全部を潰すのは流石に骨だぜ!それによ、侯爵様にゃあれを潰す算段が有るんだろ?」
「えぇ、あります」
「なら良い。こっからは俺の意見だけどな、国王の子供の喧嘩みてぇな事に他人様を巻き込む根性が気に入らねぇ!その程度の事はテメェの拳でなんとかしやがれってんだ!」
本当に口が悪い。
フォシリアスはここまで口汚い言葉を初めて聞いて呆気にとられていた。
と同時に、なぜか可笑しかった。
所々で笑いそうになるのを堪えていた。
「それとなぁ・・・侯爵様、あんたみたいな貴族には初めて会ったぜ。前の侯爵様も兵士の事を考えてくれてたけどよ、あんたみたいに一兵卒の怪我にまで気を配る貴族は見た事も聞いた事もねぇ。しかもだ、命令するんじゃなく頭を下げてお願いだと?有り得ねぇだろ?」
――そうなんですか?私事をお願いするときは下げるものなんじゃないんですか?
「それと・・・だ」
中隊長は人が悪そうにニヤリとしました。
悪戯心を持つと皆がなるんだな・・・この顔に。
「これからの戦に勝ち抜きゃ、侯爵様は想い人のルクナガルトの侯爵と一緒になれるんだろう」
「え? な、なにを? え? そ、そんな事は・・・」
「ガハハハハ、隠さなくたって良いって、ガムラミットに住んでる奴等は皆知ってるぜ。もしかすっとルクナガルトの奴等も皆知ってるかもな」
「え?・・・えぇー!?皆ですか!?余す事無くですか!?それじゃ・・・お父様やお母様も?」
副官のラシャスに聞いてみた所・・・
「はい、ご存知です。それどころか『どうしたものか?』と苦悩なさってました」
顔が真っ赤になり俯いてしまった。
――顔から火が・・・火が出てる、きっと。・・・顔が凄く熱い。
流石に火は出ていなかった。
頭部から立ち昇る熱気で向こう側が歪んで見えている様な感じではあったが。
「ガハハハハ、俺達の活躍で結ばれる人が居るなんてのはな、一生自慢できる話なんだ、一生自慢できる話を体験するなんざ滅多にねぇ事だからな、それだけでも手助けする甲斐が有るってもんなんだぜ。兎に角だ、俺達に任せとけ!」
「・・・はい、お願いします」
その後の事はあまり覚えていない。
領内の人に・・・両親にバレていた事で頭が一杯になってしまい他の事を考えれなくなってしまっていた。
再行軍の指揮はラシャスがとってくれていた。
ファシリアスは正気に戻るまで3時間程要した。
街に戻ったら同じ話を領民にしなくてはいけない。
両親には潤沢な資金を持たせて避難してもらわないと。
領内を出て避難する人に護衛も付けないといけないわよね?
部隊の編成はラシャスや中隊長さんに任せても大丈夫かしら?
意外とやる事が多く思案に暮れていると瞬く間に時が過ぎていった。
3日後の昼。
ガムラミットの街に到着した。
ファシリアスはすぐさま両親に事の詳細を話、メヤ公国に避難してもらう様に説得するが。
両親は一向に縦に首を振らない。
『何て事をしたんだ!』
と、責めて来る事も無かったが領民を危険にさらして自分たちが避難するなどと言う事は有り得ない。
そう言って聞かなかった。
兵は1箇所に纏めるのでこの街に防衛の兵は置けないと言っても。
「やりようは有る、ガムラミットの意地を見せてやるまでだ」
と、今までファシリアスが見た事の無い凄味のある顔付きをしてみせた。
「もし私達がそれで死んでも、お前のせいではない。お前はお前の道を行け!復習に囚われるでないぞ」
「私は・・・死んで欲しくないから・・・避難して欲しいのです」
「ふん!それで娘の窮地を遠方から指を咥えて眺めて居ろと言うのか?冗談では無いぞ!そんな事をするくらいなら娘の為に、この命を使って敵諸共散ってくれるわ!」
「お父様・・・分かりました・・・もう何も言いません。この街の事をよろしくお願いします」
「うむ!任せておけ」
父の気迫に負けてファシリアスは退室した。
その後、執事長のテウシスが。
「主よ。一族に召集を掛けようと思うが如何か?」
「ふむ・・・テウシスとラシャスの2人では荷が重すぎる様だし、頼めるか?」
「はい、我等一族が再び表舞台に出るには丁度良いかと」
「・・・そうだな。だが、かつて有った凶行は謹んでくれよ」
「凶行に及ばぬ対抗策は出来ております」
テウシスの一族は北に有るラモネズ川の源流でもあるホルビス山に集落を築いている。
この地に集落が有る事を知る者は殆どいない。
昔この一族から無差別に住民を殺害する者が続出したために周りから迫害を受けたのだ。
当時の領主は一族の一部の凶行で根絶やしにするつもりなど無かったが、このまま街に居させる訳にもいかなかったので族長と会談してホルビス山に匿う事になったのである。
その一族が凶行への対抗策を引っ提げて再び歴史の明るみに出る事になった。
ガムラミット侯爵は切り札と呼べる戦力を手に入れた。
中隊長に名前を付けようかと思ったのですが。
中隊長のままの方が良さそうなので止めました。(笑)




