西方・王国建国(我慢の限界)
違う場所での出来事です。
3~4話連続すると思います。
寄宿舎の自室で武術大会の参加申請を剛義に勝手にされた事をジンが抗議している頃。
西方では大きな戦闘が開始されようとしていた。
両陣営はラモネズ川を挟んで対陣している。
川の西側にはトルムラート王国軍3万。
東側にはシナト王国軍3万3千。
戦力的には拮抗していると言ってよい。
西方における常道としては夜明けが開戦の合図となり進軍が始まるのだが今朝は霧が濃い。
ラモネズ川下流域は大方水深20cm程の深さではあるが。
底が砂であるために主流域の場所が一定ではない。
この深い霧の中進軍を開始しては深みにはまり戦う前から兵を消耗してしまうかもしれない。
なので両軍共に進軍の機会を窺っていた。
「ええぃ!忌々しい霧だ!さっさと蹴りを着けてしまいたいと言うのに!」
シナト国国王ルセチウス・ロム・シナトは霧に対する苛立ちを隠さなかった。
苛立つ国王に対して宥める事をするものはいなかった。
ルチセウスは暴君では無かったが、機嫌が悪くなると八つ当たりや無理難題を押し付けるところがあった。
とばっちりを受けたい者など居る訳も無いので王の周りで口を開く者は居なかった。
そんな中、参謀長を務めるコーウェイン伯爵が辺りの様子見から戻り天幕に入って来た。
「王よ、もう暫くは霧が晴れる様子は御座いません」
「なんだと!進軍はまだ先になると言うのか!忌々しい霧め!!何とかならんのか。コーウェイン伯よ!」
「恐れながら申し上げます。夜も霧も同じに御座います」
「なに!?同じと申すか!」
「はっ。どちらも視界が悪く見通しが利かない上に見通しが良くなるのは徐々にと言う共通点が御座います。なので同じかと愚考致します」
「ふむ・・・一理あるな、して奴等はどう動くと考える」
「恐らくロブション男爵も来ていると思われますので霧が晴れるまで目立った行動はしないかと思われます」
「ロブションか・・・しかし奴等も貴公が来ていると推測しておるのではないか?裏を掻くと言う可能性はないのか?」
「御座います。なので斥候を通常の倍放ち奇襲を察知する対処をしてきました」
「ふむ・・・そうか、ならば霧の晴れるのを今暫く待とう」
「はっ!」
王はコーウェイン伯の対応に納得し苛立ちを鎮めた。
――やれやれ王の守役も楽ではないな。
一礼し天幕を出たコーウェインは自軍へと戻って行った。
コーウェインは参謀長を務めていたが王の出陣する戦場では肩書のみで1軍の将として指揮をする。
そもそも王自らが出陣するのは西方のみの風習である。
西方でもその風習は段々と廃れて来てはいるのだが、勝敗の行方を決めかねない戦いでは王が戦地に赴き戦意の高揚に努め勝利を得ようとするのであった。
この戦はそれだけ重要な一戦なのであった。
自陣に戻ったコーウェインは各隊隊長に命を下していた。
そんな中で面会の申し込みがあった。
甥のラグリナス・ルクナガルト侯爵からの申し出であった。
――なんの用だろうか?
「お通ししろ」
ラグナリスは姿を見せるなり矢継ぎ早にこう言った。
「叔父上!相談と頼みと通達が御座います」
「おいおいラグ坊、穏やかじゃないないったいどうした?」
「叔父上・・・一応、私も侯爵ですのでラグ坊は止めてもらいたいのですが・・・」
「はっはっは すまん。つい癖でな。で、どうたんだ?」
「はい。話す前に人払いを願っても良いですか?」
「構わんが・・・おい聞いていたな?暫く頼む」
コーウェンがそう言うと近習達は話し声が聞こえない位の距離を取った。
「で、何が有ったんだ?」
「叔父上、此度の戦争をどう思われます?」
「実に下らないな」
コーウェインの下らないとは開戦に至った経緯の事である。
此度の戦は両国国王の子供じみた見栄と意地の張り合いが原因で起こった。
それは・・・
両国の近隣のメヤ公国公子の婚姻の式の時に起こった。
俺の贈答品の方が高価で大きい。
お前より俺の肉の方が良い部位みたいだな。
お前の部屋から見た景色より俺の部屋から見る景色の方が断然いい。
そんな事を国王同士で言い合ってお互いに腹を立てて戦争に至ったのである。
コーウェインの言う通り、実に子供じみていて下らない理由であった。
「ならば何故、叔父上は此度の戦に出るのですか?」
「何故と問われれば王命だからだ」
「しかし・・・しかし私は私怨の為に兵に命を掛けろと言うのが辛いのです」
「気持ちは分かるが・・・な」
「なので私は決めました!」
「何をだ?」
「王国から離反します!」
「なんだと?正気か?」
コーウェインには甥が狂ったのかと思ってしまった。
だが、その目は狂った人の目ではなく強い決意をした者の目だった。
――こいつは本気でやる気だ・・・
「正気です!なので頼みと相談です」
「待て!地方侯爵が離反した所で潰されるのが落ちだぞ」
「その点も考えました。侯爵単体ではなく複数ならどうですか?」
「なに?近隣に侯爵家など・・・まさか!?」
「そのまさかです」
ラグリナスは不意に口笛を吹いた。
すると霧の向こうから2つの影が近づいて来る。
「彼女はガムラミット侯爵です。もう1人は侯爵を私の元まで連れて来た者です」
ガムラミット侯爵とはトルムラート王国の侯爵、つまり敵方の侯爵だ。
その侯爵共々国を見限り離反するのだと言う。
――確かこの2人は・・・
ルクナガルド侯爵領とガムラミット侯爵領はラモネズ川上流域で街道で結ばれた隣同士である。
両侯爵家の関係は両国王に遠慮して関せずを決め込んではいたが決して悪くはなかった。
国王に遠慮をしなければ良好な関係を結んでいたのも想像に難くない。
そんな2人侯爵は同い年で同じ年にメヤ公国に留学している。
その際に面識を得て恋仲になったとの噂もあった。
――なるほど・・・噂は誠であったか。
「初めまして。ファシリアス・ガムラミットです。以後お見知り置きをお願い致します」
もう1人の人物は黙ったままだ。
――喋る気がないと言うよりも・・・
「コーウェイン伯爵様?貴方様の懸念は最もです。私が推察しますに・・・」
ファシリアスはコーウェインの懸念の大半を言い当てた。
目の前に居るガムラミット侯爵は本物なのか?
本物だとしてガムラミット侯爵の本意は何なのか?
そして、ラグナリスを陥れる策謀ではないのか?
「大体はそんな感じだな。ラグ坊は馬鹿では無いが権謀術数に向いている方では無いのでな。伯父としては心配なのだ」
「そうですね・・・私が本物の私かどうかは信じて頂くしかしかありません。本意・・・本意ですか・・・」
そう言うと顔を赤くし始めた。
「本意なのですが、自分でも良く分からないのです。此度の戦争の理由を聞き国王に呆れてるのは勿論ありますが・・・分からないのです」
更に赤くして俯き加減になっている。
――こりゃ、聞くまでも無い理由のようだな。
コーウェインの思った通りの理由なら策謀の可能性は無い。
「分かったガムラミット侯爵の本意は、俺の推測通りであると願いたいな。して・・・其方の方はどうなんだろうな?」
今まで黙って一言も発していない男とも女ともつかないフード付きの貫頭衣を着た人物に問い掛けてみた。
「私の出番か?私はヴァルシュエル言う。私の目論見は2つだ」
謎の人物の目論見とはいったい何だろう?
皆目見当もつかない。
ただヴァルシュエルから受ける印象は穏やか感じはしない。
真逆の禍々しい印象を受ける。
――こやつの目論見とやらがラグ坊を破滅へと誘いそうなら2人を拘束してでも止める!
コーウェインは決意を固めた。
「ある男を強くするためだ。それには戦場に出すのが手っ取り早いのだ。より多くの戦場を与えるには、この戦争が長引いて貰わないといけない、なのでこの2人に手を貸す事にした」
2人の目的とヴァルシュエルの目的が合致したと言う事か。
確かに離反をすれば弱小ながら第三勢力となる。
弱小とは言え両国王がそれを許すとも思えない。
間違いなく討伐に軍を差し向けるだろう。
しかし、弱小と侮るのは火を見るよりも明らかなので多くの兵を出すとは考えられない。
この2人は、これまでの小競り合いで将たる才能が有るのも示されている。
ラグリナスは正面からの衝突戦や防衛戦に長けていた。
ファシリアスは隠密行動からの奇襲攻撃に長けていた。
この2人が互いの得意を駆使して当たるなら倍数位の討伐隊なら撃退可能と判断出来る。
しかしそれは片方の国の討伐に対してなら、である。
両国が足並みを揃えて討伐に向かうなら間違いなく討たれるであろう。
両国が足並みを揃えるなどと言う事は、まず有り得ないので考慮から外しても良いだろう。
なにせコーウェインはその提案を国王にするはずが無いのだから。
トルムラートのロブション男爵もしないと推測できる。
ロブション男爵はファシリアスの祖父なのだ、孫を確実に討伐する提案など本気でするはずが無い。
――本腰を入れて討伐を行うのは3度目辺りだろうな。
1度目は同兵数で適当な指揮官に任せて負ける。
2度目は有能な指揮官に任せはするが兵数に変わりはない、そして敗退。
3度目が国王自ら・・・と言った所か。
――クソ真面目なラグ坊の事だ此度の戦争に至った理由を民草に教えるだろうな。
国中に戦争理由が行き渡る頃が3度目の討伐時期と重なりそうだ。
そうなった場合・・・
国王側の士気は最悪な状態になっているだろう。
下手をするとルクナガルト侯爵同様に離反する者も出るかもしれない。
――ふむ・・・綱渡りだが勝算は有りそうだな。
3度目の討伐隊を撃退すれば泥沼とまでは行かなくとも長期化するだろう。
ヴァルシュエルがそこまで見通しているかは分からないが、勝算有と読んでいるのは間違いなさそうだ。
そして、討伐隊を撃退する鍵となるのが強くしたい男という訳のようだ。
「その男と言うのは誰だ?」
「それを聞いてどうする?」
「参考までにだ」
「男の名はウィンザー・カートライト」
「ウィンザー・カートライト・・・カートライト?カートライトだと!?まさかあのカートライトか!?」
「伯爵が言うあのかは分からんが、かつて西方であった動乱を再び起こそうとした一族の数少ない末裔だ」
「あのカートライトなのか・・・」
「末裔と言うだけはある、強さに対する執着は中々のものだ。だが、薄まった血のせいか自ら争いを起こす気概は無くなっっている。強くなれる場を求めて旅をしている」
以前の西方ではカートライトを1人でも味方陣営に置くと言うのは【約束された勝利】と言う意味が有った。
それ程にカートライトは凄まじい働きをする。
以前と比べて血が薄まったとは言え強さを追及しているのなら勝率は跳ね上がるのでは?
しかし、カートライトを御する事が出来るのか?
諸刃の剣になるのではないか?
疑問や懸念は数多あるが、カートライトが居るのならば。
綱渡りが板渡り位には最低でもなりそうだ。
――ならば、頼みとやらを聞いてやってラグ坊の懸念を晴らしてやるのも良いかも知れん。




