三話 翻弄 〜ホンロウ〜 「人をあちらこちらへと振り回すこと」
遅刻しました!ごめんなさい!
新しい話を書くので一生懸命で……。
そのうち投稿したいと思ってます。
(大原)
『谷本先輩!?』
そこにいたのは谷本 小夏先輩だった。もう六月ともなると小夏先輩の神出鬼没っぷりには慣れてきたけど、やっぱり突然の登場には驚くよ。
小夏先輩は二年生の(自称)編集長的な役割で、私たちにとっては……うーん、振り回してくる先輩、かな。
「えぇ、皆様の谷本ですよ〜? 皆、元気だった? 昨日会えなくて寂しかったよぅ」
よよよ、と目元をおさえる先輩。アップダウンが激しすぎて私たちは既にグロッキーになっている。そんな谷本先輩と会話を成立できるのが、我らが誇る藤宮君。
「谷本先輩、こんにちは。最近あまり会ってませんでしたね」
「む、それは悠真クンが総務委員会とか、料理部とかディベート部行ってたからだよー。もう! このフットワーク軽すぎ男め!」
「ハハ、確かにその通りなんですけどね。そういえば坂内さんが谷本先輩に出てこい、って言ってましたよ」
「うーん、めんどくさいんだもーん」
「来ないと嫌がらせが襲い来るとも」
「よし、明日行こう!」
会話だけでついていけなくなる。小夏先輩って天才なんじゃないかな、他人を振り回すという意味で。でも小夏先輩、対人取材はすごく上手いんだから、本当よくわからない。
坂内先輩というのは確か、合唱部の部長さん。小夏先輩は合唱部と兼部してて、ものすごい上手だって話。藤宮君情報だったかな、「高山高校の歌姫」だって。キャラはかなり違うけど。
壁新聞部に本腰を入れててあまり合唱部には行ってない。
というか、今日は行かないんだ……
「あ、今、今日は行かないんだ、なんて思ったでしょ」
ビシリ! という擬音語がぴったりくる仕草で人差し指を私に向けてくる先輩。
……この人の心を読むテレパスめ
「そうそう、皆にお知らせがあるんだべ」
「……お知らせ?」
突っ込まない菅原君。さすが、面倒嫌い。
「うむ、結構重要なお知らせだから、ちゃんと聞くのじゃぞ」
『……』
誰も何も言わない。というか、言えない。突っ込んだら最後、目まぐるしく繰り出される口撃になす術もなくやられてしまう。ちなみに藤宮君が前に粘ったけど……小夏先輩のテンションにはついていけなかった。
恐ろしや小夏先輩。
「なんだなんだ、反応ないと私、悲しいよぅ」
『……』
「それでですね、お知らせというのはこれなんです」
いきなりお淑やかな雰囲気を出し始めた先輩が見せたのは、一枚の紙。A4版の紙に大きく「学校の怪談」と書かれている。
何これ。
声に出しそうになって慌てて耐える。声を出した瞬間、先輩のターゲットが私になるに違いない。そしたら私……生きて帰れるかしら。
「てってれー、学校の怪談〜」
何でもそういう風に言えばヒミツ道具になるというわけでもないよ? ネコ型ロボットに謝れ、冒涜だよ。
「夏といえば怪談でしょう? だからぁ、私達壁新聞部も、それで特集を組もうかなぁって」
天然風小夏先輩。もうなんでもアリになってきているような。ここは演劇部じゃあないんだけどな。
「まぁ、私が指揮をとってあげるから、貴方たちはただ従ってやればいいの。感謝しなさいよね!」
ツンデレ、かな。もはや内容は頭に入ってきてない。とっくに私の処理能力を大きく超えている。
「というわけで、俺も頑張るからさ、萌々菜、お前も一緒にやってくれないかな?」
あざとく頬をかく先輩。とうとう性別まで超え始めた。ってあれ? 萌々菜って私?
気づくと小夏先輩は私の椅子の前に跪いて手を胸に当てたりなんかしてる。駄目だ、小夏ワールド全開だ。こうなった先輩は止まるということを知らない。
「要するに、怪談系の話を書くんですね?」
一閃。まだまだ続きそうな小夏ワールドを破ったのは菅原君。ナイス、ナイス過ぎるよ菅原君! 今日のMVPは誰がなんと言おうと彼に決定だ。
いつも笑っているような目をさらに面白そうに細めているのが藤宮君、私と同じように苦笑いしながら何となく聞いていた奏に、オロオロと目を白黒させている、いつも通りなのは沙穂。
菅原君は自分のこと、平凡平均と思っているっぽいけど、それは違う。ただ、何事に対してもやる気が無いだけ。かなりのハイスペックなのは間違いない。
運動もある程度しか力を出さないから普通、テストは勉強をしないから普通。容姿に関しては……本人は知らないだろうけど、密かに数人、恋心を抱く女子はいる。全く、私の友達がそうで、色々と聞かれるからたまったものじゃない。
そんなハイスペック男だから、菅原君を本気にさせると大抵解決できる。
本気にさせるには菅原君の嫌いな「面倒なこと」に入るようにすればいい。
今回は小夏先輩の止まらない話に「面倒」と思ったんだよ、きっと。
(藤宮)
おっと。直樹が動くなんて……想像してたけどね!
谷本先輩は多重人格なんじゃないかなって程にクルクルと話し方とか性格とかを変えて話す。それぞれの性格に対してしっかり理解を持ってないとできないと思う。僕には真似できないね。
これでも僕は自分を好いているんだ。この性格や、態度、それに伴う結果まで。だから他の人になりきるなんてことは表面上でしかできない。ボロが出ておしまいさ。
「ん、その通りだよ、なおくん。皆にも怪談に関する記事を書いてもらいたいんだ」
依然として誰なのかわからない口調だけど、もう気は収まったのかな、振り回す感じはしない。そこで口を開いたのはやっと白黒していた目が黒に定まった千歳さん。
「でも……怪談のお話なんて、どう書けばいいんでしょうか」
確かにね。怪談なんてものはこの高山市にはそれこそ星の数程ありそうだけど、それをどうやってまとめるのか、何かコンセプトはあるのか。それによって大きく変わってくる。
「それは」
短くそう言うと谷本先輩はまたもやビシリ! と人差し指を向けた。──先輩がどう答えるのか興味深く耳を傾けていた僕に。
「これはやられたよ」
「ごめーん、よろしく、藤りん」
今まで誰にも呼ばれたことのないあだ名をつけつつ、手を合わせて拝む先輩。
谷本先輩はまだ考えていないのだ。それで困ったから僕に押し付けた、と。へー、こうやって改めて考えてみると、僕が他の人に振り回されるのはほとんど谷本先輩ぐらいだよ。全く、困っちゃうなぁ。
なーんてね。別になんてことはないさ。こういうアドリブには強い自身があるんだ。
「了解です」
「ありがとう!! 考えるのは任せた!」
さて。ディベート部の方に顔を出そうかな。
(名原)
あれ、悠ちゃんが荷物をまとめてる。てっきりすぐに怪談の方に取り掛かると思ったんだけどな。
「悠ちゃん、どこか行くの?」
「うん、ディベート部に顔を出してくるよ」
鼻歌を歌いながら教室を去る悠ちゃん。それを呆然と見つめる一同。
だって、たった今、記事を書くのに一番重要で大事な指針を決めるように任命されたのよ? 一年生じゃ、こんなこと普通はない。なのに、直後に違う部活に行くなんて……。まぁ、悠ちゃんらしいといえばらしすぎるけど。
ちなみに悠ちゃんは壁新聞部、ディベート部、料理部に総務委員会にまで入ってる。
うちの学校は委員会の仕事が多いから、総務委員会なんていう何でもやってる委員会は忙しい。他の部活だって馬鹿にならないんだから、それを掛け持ちしてやりくりしている悠ちゃんは本当に楽しさ一直線といえる。
でも悠真ちゃんに限らず、壁新聞部って仕事多いのに兼部率が高い。私だって茶道部に所属している。
逆に一年生で兼部してないのは菅原と萌々ちゃんぐらい。菅原はただのぐうたらだけど、萌々ちゃんは違う。
萌々ちゃんは家が小さな牧場を営んでいて、趣味は乗馬というカウガールだったりする。だからすぐ家に帰って愛馬と遊んでるんだって。
……先輩が少し危ない。
「ふふふ……さすがは悠真君。私の予想を超えるなんて……ふふふ」
読んで下さってありがとうございます。
文章を綺麗に書こうとするのって、すごく難しいですね……。