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エクスカリバーはまき割用


なんやかんやで王宮から脱出(?)した宗介は再び森の中にいた。

勇者はお断り、と大見得を切った以上今更引き返すわけにもいかないだろう。


宗介「そういう事で今回は野宿だ。…家無いからな」


近場に湖もある、次は食料か。

まあこんなに広い森だ、探せば食えそうな木の実や果物があるだろう。


宗介「…そういや森の奥からいい匂いが漂ってくるんだよな…行ってみるか」


宗介が森を探索すると、小屋を一軒発見した。

どうも猟師が使っている小屋らしく、食事の準備をしていたようだ。


宗介「ふーむ…」


机の上に林檎によく似た果実が置いてあった。


宗介(この果実は食用っぽいな。…食えるよな?)


宗介は赤い果実を一齧りしてみた。

口いっぱいに甘酸っぱい味が広がる。


宗介「面白いなー見た目は林檎に似てるけど味は苺だ…食感も林檎なのに。たまげたなぁ…」


やはりこの世界は自分のいた世界とは違うという事なんだろう。

そう思いながら部屋の中を見回すと、机の上に本が置いてあった。


宗介「ん?この本…なになに、"初心者救済!アレンドル王国サバイバルガイド"?…天国じゃなかったのか、ココ」


独り言を言いつつ丁寧に装丁された本を開く。

…本のタイトルは安っぽいが、中身は意外としっかりしている。


宗介「おっ、さっき食べた果物は『アップロベリー』というのか。…意外とまんまだな」


更に読むこと数分。


宗介「『この世界では燃料が大事。どの家でも燃料である薪を切らすことはない』か。食事も貰っちゃったし、恩返しの意味でもまき割りしてみるか」


そう言いつつ小屋の外に出る。

小屋の裏手に大量に積まれた薪用の短い丸太とまき割りの台であろう切り株があった。


宗介「よし、モノはあるから…斧はっと」


少し周囲を見渡してみたがそれらしき物は無い。


宗介「うーん…小屋の中を探せばあるかもしれないが…しっかし、俺は異世界に来たんだよなぁ。何か、こう、"能力"的なものがあればいいよな。武器召喚とか」


宗介は右手を伸ばして叫ぶ。


宗介「"剣よ、わが手に!"…なーんつってな」


ははは、と笑う宗介の手には剣が握られていた。

刀身は白く輝き、柄と鍔には金のレリーフと宝石で装飾が施された見事な剣である。

刀身長は六十センチほど、分類としてはショートソードにあたるだろうか。


宗介「…マジかよっ!?」


宗介は剣をまじまじと見る。

刀身には汚れも一切無く、一片の穢れさえ感じさせないようだった。

よく見てみると刀身に『Excalibur』と刻まれているのが分かった。


宗介「エクス…カリバー?」


宗介が剣の名を呟くとそれに応えたのか剣は輝きを増した。


宗介「えー…マジかよ…俺が勇者だってのは本当なんだ…」


だからと言って勿論宗介は王宮へ戻る気はなかった。

勇者としてちやほやされたい気持ちは十分に分かる。

しかし、魔王を討伐して平和になれば勇者も無用の長物である。

せいぜい街にモニュメントが作られる程度で、あとは落ちぶれていくだけだ。

それを考えれば一般人として暮らしていたほうが遥かに良い。

小さな幸福があればいい…植物のように暮らしていきたいのが宗介の考えだ。


宗介「…んじゃま、試し切りといきましょうかね」


切り株の台の上に短い丸太を立て、両手で剣を構える。


宗介「せーのっ!」


宗介が剣を振り下ろすと熱したナイフでバターを切るように丸太はいとも簡単に割れ、下の切り株の台まで割ってしまった。


宗介「うわぁ…スゲー切れ味。だからって無暗に振り回すのはよくないし…せいぜいこうやって薪を割るのにしか使わないだろうが」


それから数十分。


宗介「ふう…こんなもんで良いかな」


とりあえず素人目に見ても大体三日分の薪は確保できた。

これぐらいあれば恩返しとしても十分だろう。


宗介「…そうだ、鍋が火にかかってたよな…焦げたりしてないだろうか?」


剣を手放すと剣は空気に溶け込むように消えた。

宗介がもう一度小屋の中に入ると…


?「あら…薪割りしてくれたのはアナタ?」


…少女が調理の続きをしていた。

烏の濡れ羽色をした肩まで届く髪と紅い瞳、胸元の―梅の花によく似た―花のブローチが特徴的だ。


宗介「あー…えっと、そうです。勝手にすいません」


?「ううん、いいのいいの。薪割りって重労働だし、おっくうだし。だけどそろそろ在庫が無くなりそうだなーって時だったんだけど」


宗介「そう思ってた時に俺が薪割りをしてくれた、と。恩返しはできたみたいだ」


?「恩返し?」


宗介「ああ、えっと…アップロベリーだっけか。その果物を一つ頂戴してしまったから…」


?「それだけで薪割りをしてくれたの?…ありがたいけど、アップロベリー一つと薪割りじゃ釣り合いがとれないわね」


宗介「いや、いいんだ。俺が勝手にやったことだし」


?「…今日はもう遅いし、ここに泊まっていきなさいな」


宗介「それはありがたいが…いいのか?」


?「いいのよ。一人住まいだから話す人がいなくて退屈だったの。…だから、ね?いいでしょ?」


宗介「…元々野宿のつもりだったし、寝床が確保できたのはいいことか」


?「ええっ?この森で野宿するつもりだったの?」


少女の目からは驚きが見て取れる。


?「この森には魔物がウヨウヨしてるのよ。そんな森で野宿だなんて…」


宗介「…人に会えてよかったってことかな」


?「そうね。とても幸運だと思うわよ。…まあ私、人じゃないんだけど(ボソッ)」


宗介「ん?何か言ったか?」


?「う、ううん!何でもない!」


宗介「…そういや自己紹介してなかったよな。俺は櫻庭宗介。君は?」


?→カトレア「私はカトレア。カトレア・ヴァールハイト」


ヴァールハイト。

その名に少し覚えがあった。


宗介「ヴァールハイト…?」


カトレア「あ…やっぱり気づいちゃうか」


宗介「確か、さっきの本に書いてあったような」


先ほど読んだサバイバルガイドのページをめくる。


宗介「ここだ。"最も強い魔族の家系『ヴァールハイト家』…魔王を幾人も輩出している超有名家系であり、魔法の能力も超一級"…つまり、君も魔族?」


カトレア「うん」


宗介「そっかぁ」


カトレア「…うん?…意外とリアクション薄いのね」


宗介「俺、やっぱり死ぬんだな…」


カトレア「生きませんか?生きましょうよ!」


宗介「生きてえな…」


カトレア「じゃけん今世生きましょうねー」


宗介「おっ、そうだな」


カトレア「というか魔族って分かっただけで何で死を覚悟するのよ?…一応私次期魔王だけどさ」


カトレアは溜息をついて宗介に問う。


宗介「いや、だってさ…魔王だろ?」


カトレア「そうよ」


宗介「魔術も使えるんだろ?」


カトレア「そうね」


宗介「力もあるんだろ?」


カトレア「まあ、女性とはいえ魔族だからね」


宗介「勝てる要素が一つも無いんだが」


カトレア「いやいや…」


宗介「あー平穏な人生これで終了かー『くぅ~w疲れましたw』とかいう暇も無かったなー」


カトレアは宗介の言葉を聞いて不思議そうな顔をした。


カトレア「平穏な人生?」


宗介「そうだよー"人並みの幸せ"って奴かな?結婚して定職に就いて…何でもないけど小さな幸せを幸せと思える、そんな人生かなー」


カトレア「なんだ、私と一緒じゃない」


宗介「へ?」


宗介の口から気の抜けた声が発せられる。


カトレア「私もね…家系ってのが嫌になってこの森に逃げてきたの。周りの超エリート達と比べられるのが嫌になって」


宗介「魔族にもやっぱりエリートってのはいるのか」


カトレア「うん。私はそんな実力社会の中で生きていくのが嫌になったの。私はどっちかというと学者肌だから」


宗介「実力社会か…人間と同じなんだ」


カトレア「だから私も平穏な人生に憧れてるの。こんな場所に小屋も作ってね」


宗介「帰りたくないのか?」


カトレア「家族の顔を見るぐらいならいいわ。けど、次期魔王になるのは真っ平御免よ!」


そういって笑うカトレアの姿は宗介には輝いて見えた。


宗介「…とりあえず確認しときたいんだが、殺す気はないんだな?」


カトレア「当たり前じゃない。薪割りまでしてもらった人をわざわざ殺すなんてメリットも無いわよ」


宗介「そうか…良かった」


カトレア「じゃあ誤解も解けたし、ご飯にしましょ!」


宗介「もうそんな時間か」


カトレア「外も暗くなってきたし、出歩くには不安しかないわ。…宗介さえよければ、ここを住居にしても構わないわよ?」


宗介「ありがたいが…カトレアの住居は?」


カトレア「何言ってるの?私と同居するのよ」


宗介「同居…ってマジ?」


カトレア「大真面目よ。私としてもお話ができる相手が出来て嬉しいし」


宗介「…分かった。遠慮なく住まわせてもらうぞ」


カトレア「勿論色々と働いてもらうけど、いいわよね?」


宗介「勿論。働かざる者、なんとやらってな」


カトレア「じゃ、決まりね!明日からよろしく、宗介!」


宗介「こちらこそよろしく頼むよ、カトレア」


こうして出会った自称一般人の勇者と次期魔王。

普通なら絶対に良い関係になるとは到底思えない二人だが、果たして…?


次回に続く…

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