関わり(4)
「ここは…?」
さぁね。夢の中、じゃないかな。
真っ黒な空間の中ただよう2つの体。
目の前には、もう1人の私。
「そうか…なぁ、俺はこのままどうなっちまうんだろうな」
そんなの知らないよ。天国か地獄にでも行くんじゃない?
「死ぬ…のか…」
…
「それも悪く…ねぇかも、な」
もう1人の私、さ。
「なんだよ…」
死ぬことが怖くはないのか?
「…あぁ」
未練…無い、のか?
「未練…なんかねぇよ。もう1人寂しい世界に。なんの未練も」
…
「…」
そっか。1人、か。
「…」
それは嘘、だね。
「…は?」
だって、私がいるじゃないか。
「ちょっと待て。どういう意味なんだよ…?」
恐らく君は昔弟を失い家族は壊れ今度は兄貴までも失った。最後の最後に、ラムまでも。それで孤独感を覚えたんだろう?
「そう…だよ…」
でも。私はまだいる。
「そんな…お前だっていずれ消えちまう」
出会いがあれば別れあるのも当然だろう?
「また…1人…今度は本当の1人になっちまうんだぞ…」
そうだ。
「なのに。なのに…」
あぁ。
「なんでお前の目はまだ俺に戦えって言うんだよ…!」
…そうだよ。だからこそ。君は立ち向かわなきゃならない。
「そんな…そんなひどいこと言わないでくれよ…」
まだラムの体も残ってる。充分戦えるはずだよ。
「嫌だ…あんな寂しい世界、帰りたくない…!」
なぁ。もう1人の私。
「…」
いや、本物の文太。
「…」
やはり私のような変態では、やはり君の家族…いや、友だちにすら…なれないのかな…
「違う!!!」
っ!?
「違う!!違う違う違う違う!!!!お前はいつも側にいてくれたんだ!!お前が馬鹿みたいなことをやってる時も!本当は凄く楽しかったんだよ!!お前がいたから!!俺は寂しくなんか…なかっ…たんだ…」
そう…か。
「それに…ラムだっていてくれて…ううっ、うあぁぁぁっ!!うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
泣く…なよ。もう1人の私。
「っぁ、ぁぅ、泣くなって…!っく、お前も泣いてんじゃんかよぉ!!」
なぁ…!っく、君のとって私は…唯一の存在で…いいんだよな?
「そんなこと一々聞くなよぉぉぉ!!当たり前だろうがぁぁ!!」
あり…がとうな…
「でも…もう消えるんだ…今頃あんな世界に戻っても…なんの意味もないんだ…だから…ごめんな…」
そっか。でも。私は君にお願いがあるんだ。
「なんだよ…なんにもできない俺に…なんの頼みがあるってんだよ…!」
あの世界に、戻ってくれないかな?
「っ!!」
唯一無二のこの私からのお願い…聞いて…くれるかな?
「あ、ぁあ、っく、ヒグゥっ!?」
大丈夫だ。君なら私がいなくても上手くやっていけるさ。
「なんだよそれ…!お前は…!お前はどうなっちまうんだよ…!?」
じゃあ、私を失望させないように。頼んだよ。
「い、いぁっ、いぁだ!!お、おい!!やめっ!!」
もう1人の私はこちらに手を伸ばしながらも、最後には消えた。
やれやれ、全く。
頑張れよ。神走文太。
あれ。
目の前には先ほどの白の霊体と青い霊体。
手元にはラムの体。
相変わらず体の自由は聞かないが、私はこちらにいる。
あれ。あれ?あれなんじゃないのだろうか。
このような場面では私はめちゃくちゃいい事を最後に言い残し感動的な別れになりそこからもう1人の私の新たな物語の始まりがあっ、おいあの霊体また霊丸を飛ばしてきてるではないか!!動け!!動け私の体!!!
ヒュン
おお動いた!!さすが私の体!!って…おかしいぞ?私は右に避けようとしたはずなのに…なぜ左に避けたんだ…?
「この声…と言うか思考…お前…なんだな…」
っ!!
相変わらず私の体は言う事を聞かない。だが、確かに動いた。その後相変わらずの口調を残しながら。
「よかっ…良かった…!お前は…無事だったん…だな…!」
っ!!
そうか…私は、帰ってこれたのか…!
「そうだよっ!!ありがとう!!帰ってきてくれて…ありがとうな!!」
私の体は涙を流しながらも大きな声で言ってくる。
「今度は独り言か…どこまでも、どこまでも舐めおってぇぇぇぇぇ!!」
そういえば存在を忘れていた霊体が逆上し始める。
なぁ。もう1人の私。
「あぁ」
感動的な再会はまた後だ。
「今は」
奴を倒す!「奴を倒す!」
白の霊体は何やら地面に触れる。
地面から伸びてくる霊体から発せられる白い霊力のようなものが私の体の周りを取り囲み、膜を張り私の体を覆いこんだ。
「クフ、クフハァッ!死ねぇぇぇぇ!!」
霊体の咆哮とともに私の体のまわりの霊力のようなものが小さくなってくる。
ピキンッー!
が、すぐさまその霊力のようなものは壊れる。
「ムッ!な、なに!?」
「今まで相手をしなくて悪かったな。もう終わらせてやるよ」
私の体はニヤリと笑いながら霊体に言う。
「まずは…お前からだ」
私の体はラムを鞭のように伸ばし青い霊体に巻き付かせる。
「な、なんだこの技は…!やめっ、貴様!!やめろぉぉぉ!!」
元々小さかった青い霊体はすぐさま消え去った。
「ほう…先ほどとは全く違う闘志だ…だが、貴様ごときに負ける私ではないわぁぁぁぁ!!!」
白の霊体は言い放つと私の体に向かって飛び込んだ。
いくつもの霊丸を飛ばしながら。
バシバシバシバシッ!
なんなく全てを弾き返す私の体。
「ウオアアアアアアアアアアアアアッ!!シネェェェェエエエ!!」
ザッ
大きな音とも微かな音とも言える音が鳴り響き周囲に煙が立ち込める。
「な、なぜだ…なぜいきなりそんなにも強くなった…」
地面に倒れ込む霊体。
「お前ごときに負けている俺なんかじゃ心配かけちまうからな…それじゃ、さよならだ!!」
私の体は再び鞭のようにラムを霊体に巻き付け、霊体を取り囲んだ。
「グアァァっ!ま、まだだ!!まだだぁぁぁぁ!!!」
白の霊体は小さくなっていく。
が、
ピキンッ
「っ!?」
!?
結界が壊れた。
「フハ、フハハ!!覚えておけ!!必ずや私は!!ウオアアアッ!!」
小さくなった霊体は鞭の縄から逃げだした。
「ま、待て!!待てぇぇぇ!!」
私の体は追いかけようと走り出そうとするが
バタッ!
倒れ込んでしまった。
「く、くそ…くそぅ!!」
大丈夫だ。良くやったよ。
「でも逃げられた…!」
あそこまで小さくなったんだ。もうあの霊体にはなにもできないさ。
「でも…!でも…!」
いいから。それよりも、よく頑張ったな。
「…っ、そっか、俺、頑張れてたか?」
あぁ。そりゃもう。かっこよかったぞ。文太。
「やめろよ。お前も文太、じゃねえか…」
言い残すと共に、私の体は意識を失った。




