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星祭り!(6)







「さぁ!いよいよ星祭りも終わり間近!ここからはもっと盛り上がるぞぉぉぉぉぉ!!」


ウオオオオオオオオオっ!!


星祭り当日。これまでも問題なく進んでいる。むしろ例年よりも人は多いと聞いた。なぜ来たのかはあまり理解できていないが。


「それじゃ!星祭り委員会、ライブ担当!司会たのんだぜ!」


と言いメインの司会が壇上から去っていく。

わたし達は裏幕でマイクを受け取り、幕外へと出ていく。


「どうも皆さん!盛り上がってるかぁぁぁ!?」


いえぇぇぇぇい!!


高林の一言に会場が盛り上がる。


「これからはライブだぁぁ!!もっともっと盛り上がっていくぞぉぉ!!」


いえぇぇぇぇい!!


「じゃあ、まずはまさかの吹奏楽部がコミカルバンド!?普段見られない彼らの演奏を、どうぞっー!」


後ろの幕が開きスポットライトが楽器を照らし始める。わたし達もそそくさと逃げる。

正直、ライブの司会は高林に任せてある。だが、私と兄貴は前に出るだけで盛り上がるから、となぜか立っているだけでも一緒にやることとなったのだ。

ドラムから始まる演奏が始まりまたも会場が盛り上がる。

いい感じだ。前の学校での学園祭よりも断然盛り上がっている。


「よし」


思わず小声に出してしまう。

この調子で行けば星祭り自体は成功に終わるだろう。校長との約束も守れる。

だが、私はただ星祭りを成功させたいだけではないのだ。

私の真の目的を忘れるわけには行かない。


「次で最後だぁぁぁ!俺高林一押しのオススメバンド!なんとギターは無しの学生バンド!皆さん、どうぞご傾聴あれ!」


幕が広がり、壇上のピアノのみにスポットライトが照らし出す。

ピアノから流れ始める旋律。

先ほどまでの音楽とは違い、落ち着いた旋律。

先ほどまでの盛り上がる曲とは違う。

普通ならば学園祭。それにこれまでの盛り上がりから行けばこんなゆったりとした曲は場違いなのだろう。

だが、なぜだろう。ピアノの前に座る女の子、彼女から流れる旋律は心の中に入ってくるとでも言えばいいのか。心が拒否をしない。会場内も先ほどとは違い盛り上がりは消えていたが…カップルが手をつなぎ、友だち同士で目をつぶり、生徒外のお客さんの夫婦同士で感傷に浸っていたり…

盛り上がりはなくとも、会場内は1つになっていた。そう、思わせる。

ピアノの演奏が止まり、低いベースが鳴り始める。それに合わせドラムも静かに音を出す。ドラムのリズムが速くなるとピアノからの音も強く鳴り響く。

そこからは一気に盛り上がった。

会場内の雰囲気も変わる。ここまで盛り上がるものなのか。

そう関心しているとーー


「ご傾聴、ありがとうございましたー!!」


演奏が終わった。

会場内も拍手の嵐が巻き起こる。

先ほどまでのバンドに興味のなさそうにしていた少ない人も拍手している。もちろん、私も。


さぁ、ここからが本番だ。


「それでは、いよいよ最終イベントです!!星祭り最高のイベント!星の下で告白を!星祭り告白タイムです!」


先ほどの演奏もあった為なのか盛り上がりは最高潮を迎える。

高林は告白する。だから私が兄貴と2人で司会をしたいと言った。兄貴は高林が思いを伝えることは知らないが。


「えー、このイベントでは5回に分けて告白したい人を壇上に上がってもらい思いをつのらせる相手の名前を叫んでもらいます。もちろん名前を呼ばれた人は壇上に出てやってください。答えは、まぁ、適当によろしく」


兄貴が紙を見ながら読み上げる。

高林の告白は、私的には最後にしたい。


「5回しかチャンスはありません!もしフラれても、ここで告白した事は思い出になるはずです!もしもこれを逃してしまい、最後まで告白できずに卒業なんてしてしまったらそこに残るのは後悔です。私達は背中を押します!なので是非とも恥ずかしがらずにどうぞ前に!もう一度言います!5回までです!早めにしないと、あなたを選ぶことはできなくなります!」


私の声も普段より強くなる。

フフン。私ほどになってしまうと司会もできてしまうのだ。どや。


「はい!俺行きたいです!」


会場の中から1人の男子が手を上げる。

勢いを失いたくない。


「はい!それではそこのあなた、壇上に!!」


1人の男子が壇上に上がる。

途中、花束を渡す。バラの花束だ。もう、相手にもどうすればいいかはわかるだろう。


「3-Bの後藤拓磨です!」


会場の中から拍手が起こる。


「3-Cの荒川友梨香さん!お願いします!」


男子は大声で、照れくささを隠すように言い放った。

呼ばれた女子生徒だろう。周りの女の子に押されながらも壇上に上がっていく。


「俺、1年で一緒のクラスになってろくでもない俺の世話を見てくれて…2年からクラスが変わっても思いは変わっていません!あなたがいなければ今の俺はいません!これからも俺の隣にいて欲しいと思っています!好きです!付き合って下さい!」


男子生徒は頭を下げ、花束を両手にもって前に出す。

静まる会場内。

一瞬の沈黙の後に壇上に上がっている女子生徒が手を伸ばした。


「はい、よろしくおねがいします」


ウオオオオオオオオオオッッッ!!


「よし!」「しゃあ!」


思わず私も兄貴もガッツポーズをとってしまう。って兄貴も?そんなキャラじゃないだろ。

兄貴と目が合うと、思わず笑いあってしまった。

そこから、2人、3人、4人と男子生徒が壇上に立ち女子生徒を呼び、みんな成功した。

これは、完璧な流れだ。ずるい気もしなくはないがこれで断る空気は無くなっている。高林も成功するはずだ。


「それじゃあ、最後の人!挙手をどうぞ!」


高林の方を見る。緊張しているのか、ガチガチだ。だが、手を上げている。


「よし!それじゃあ」


と、ここで兄貴に肩を掴まれる。


「なに?」


「あ…いや…わりぃ」


「すみません!噛んでしまいました!」


空気を無くさないよう、すぐさまフォローする。


「おいおいー」「なにやってんだよ司会はー」


などと会場内に笑いが起きる。

良かった。雰囲気は壊れていない。

高林、お前の告白は成功させるからな。


「それでは気を取り直して、我らが星祭り委員会の高林!どうぞ壇上に!!」


「ちょっと待ってくれ!!」


いきなり、兄貴が大声を出した。

私も思わず、圧倒されてしまう。


「今まで告白してる奴らは男だけだ!女も告白したい奴がきっといるはずだ!なら、そいつも告白させるべきじゃねーか!?」


兄貴の真剣な表情に圧倒されてしまう。

空気が壊れる…壊すわけにはいかない。


「それじゃあ、最後は2人行きましょう!何、5回と言っただけで人数は言ってません!1人くらい先生も許してくれるはずです!」


「適当な司会だなー」「おい今の先生を敵に回したぞー」


なんとか会場内の雰囲気を取り戻す。

兄貴の思惑は分からない。

だが、今それに構っている暇じゃない。


「それじゃあそこの女!お前だ!」


と言い、小さく手を上げている女子生徒を兄貴は指名した。私は女子生徒も一応見たがさっきは上げていなかったはずだ。これまでに兄貴は指名なんてしていなかったのに。わからない。なぜそこまでする。

高林の方が心配になって見てみるが、壇上の上で未だにガチガチだ。

この状況を理解できていないように。


「あ、あの…本当に、ありがとう…」


一瞬、兄貴に呼ばれた女の子が兄貴に向かってお礼を言ったような気がした。

なぜ、なぜだ。なぜ兄貴はここまでやった?なぜあの女の子をすぐさま指名した?

女の子の方を見てみる。なにやら高林の方を見ている…?

一瞬で私の頭がフル回転する。

まさか…!


「それではっー」


ここで兄貴から肩を掴まれる。

おそらく、先にあの女の子に告白させるために。


「ごめんな、兄貴ー」


兄貴に向かってそう言うと、兄貴は困惑した表情となる。

本当にごめんな、兄貴。

おそらく高林のことがあの女の子は好きなんだろう。その事を兄貴は知っていた。だから、誰かに告白して成功してしまったらどうすることもできなくなる。

だからあれ程真剣になったのだ。

高林にあの女子生徒に告白させるために。


でも。私はやはり高林には本当に好きな人に告白をしてもらいたい。


肩を掴まれた腕とは反対の左手でマイクを掴み、叫ぶ。


「それでは、高林から、どうぞぉぉぉぉぉ!!」


マイクのスイッチをきったところで、兄貴に胸ぐらを掴まれる。


「お前…分かっていて…!!」


「ごめん。ごめんよ、兄貴。多分、全部分かってしまったよ。兄貴もあの女子生徒を高林に告白させようとしたんだね。でも、ごめん、私はやっぱり高林の告白を、成功させたかったんだ」


「文太ぁぁぁ…!」


私を掴む兄貴の力が強くなる。

私より、兄貴は強い。喧嘩なんかしたら負けるだろう。ここは、大人しく殴られよう。それほどのことをしたのだ。


「に、2-Aの、た、たた、高林千です!」


高林の緊張しながらも言い放った言葉に会場内は盛り上がる。私と兄貴を除いて。だが、兄貴は高林の方を見ており私の胸ぐらを掴む力も緩んでいる。


「さ、3-Dの、立花紗希さん!」


そこまで言って、高林は下を向く。顔色は真っ赤だ。

だが、壇上には誰も上がってこない。

まさか…失敗、したのか…?

頼む。上がってきてくれ。高林もここまで勇気を出したのに…


「え、えっと…はい」


小さく手を上げる女子生徒。

既に壇上に上がっている、兄貴が指名した、さっきの女子生徒。


「「へ?」」


私も兄貴も思わず目を点にしてしまう。

なんだこの兄貴の顔。ほんとに点じゃねえか。


「お、俺…立花さんのことが好きです!付き合ってください!」


すごく簡単な告白。高林は花束を前に頭を下げる。


「わ、私も…高林君に告白しようと思っていました、こちらこそ…よろしくおねがいします!」


女子生徒は花束を受け取り、涙を流した。


ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!


割れんばかりの歓声。

えっと、あの…


やれやれ、全く。


元々両想いだったのかよ。









「なぁ…文太」


星祭りも終わり、片付けの中兄貴に話しかけられる。


「なんだい?」


「いや…その…本当に悪かったな」


「あぁ、気にしないでくれ」


告白イベントの時の胸ぐらを掴んできた時の事だろう。


「わりぃな。それと…こんな時に言うのもなんだけどよ」


「ん?」


兄貴は手に持っているダンボールを置いてこちらを向いてくる。


「前から言おうとしてたんだけどよ、もし俺が連絡も無しにいなくなっても心配しないでくれ。それだけだ」


「えっ…それって…?」


「おーい!文太ー!」


私が兄貴に聞き返そうとした時、高林がこちらに駆け寄りながら呼んできた。

後ろに担任、校長までもがいる。


「お、おお、高林。どうかしたのかい?」


「いや、改めてお礼をしようと思ってね。文太。ありがとうな」


照れくさそうに笑いながら謝礼をしてくる高林。


「いや、良かったね。高林。おめでとう」


思わず私も笑顔になる。


「いやはや、本当によくやってくれました。文太君も、強心君も」


「え…?」


さりげなく去ろうとしたのか、後ろを向いていた兄貴が目を見開き驚いた様子で校長を見る。


「いや、俺より…コイツの方が」


兄貴は私を指さしながら言ってくる。


「いえいえ、確かに文太君も学校外の住民に署名活動をするなど素晴らしい行動を起こしましたがそれはあなたもです。生徒たちにアンケートを取って迷っていた私の心と井口先生の心を一押ししたのは貴方ですよ」


「あぁ、そうだよ。強心、ありがとな!」


校長に続いて言う高林。

兄貴はそれでもなんとなく納得できていない様子だった。


「おい、神走。いや、強心。お前の活躍を認めてくれる人たちがこんなにいるんだよ。お前は良くやった。それだけだ」


担任が後押しするように兄貴に言う。


「ヘヘッ」


兄貴は少し、確かに照れくさそうに笑った。



やれやれ、全く。


不器用な兄貴、だなぁ。

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