スイッチチェンジキャラクター!(8)
時間は午後10時。
どの部活や委員会も活動を終えており学校の中は静寂につつまれていた。
先ほどから何度か警備員が見回りに来ている。だがくまなく探しているっていう訳ではなく教室内をライトで照らし目で見て判断で終了のようだ。
私は掃除用具入れのロッカーに入ってやり過ごしていた。
一瞬教室内がライトで照らされる。
が、特に何もない、と言わんばかりに去っていった。
カラカラカラカラ
と思ったが入ってきたようだ。
私の読みを外したなんて…貴様。やるな!!
まぁ最悪バレたら殴り倒せば平和的に解決するだろう。気絶したところを仮眠室にでもつれこんで座らせて置けばいつの間にか眠っていたと勘違いするだろう。頭が痛いのも眠いせいだと思うだろう。うむ。平和的だ。
と、思ったが入ってきたのはさっきの放課後の女の子の様だ。
こんな時間にどうしたのだろう。あの子もまた、警備員の巡回をどこかに隠れてやり過ごしていたのだろうか。
どうにも辺りを気にしている様子だ。
キョロキョロしている。
この子になら見つかっても問題無いだろう。
ロッカーの扉を開ける。
「ひっ!!!!」
またも本に顔を隠し怯える。
だが、逃げる様子は見られない。
「やぁ、どうも。こんな時間に何をしているんですか?」
女の子は本から目をだし、こちらを見て目を見開いた。
「えっ、なんであなたが…!?」
どうやら私がいるとは思わなかった様だ。
「すみません。私にも用事がありまして。ここは危ー」
「だ、だめ、にげて!!」
私の話を遮るようにこの女の子からとは思えない様な声量を出してくる。
同時に、世界が変換。
教室内の景観はそのまま周囲の色が暗めになる。が、それぞれの物質にわずかな紫の発光が始まり十分周りの様子を可視することができる。
「おい文太!来るぞ!!」
ラムが姿を現し警戒するようにと大きな声で言う。
「ハーハッハッハッハッ、まさかまたも獲物がくるとはなぁ」
高笑いとともに1つの霊体が姿を表す。
「に、にげ…逃げて…!」
女の子が私を押そうとしたのか駆け寄ってくる。が、霊体の力なのだろうか。すぐさま女の子は倒れ込んだ。
「フフフ…なぜ拒む。いいではないか。こんな時間にいるコヤツが悪いのであろう」
「ち、ちがっ…この人は…関係ない…私が残るから…この人だけは逃がしてあげてぇ!」
「霊体に人間からの言う事を聞けと?たかが人間ごときが何様だぁ!!」
「ぁぁぁぁぁぁっ!!」
突如女の子が空中に浮き苦痛の表情をあげる。
「貴様にとってもコヤツはもはや人には見えていないだろうが!!なぜだ!!なぜ守ろうとする!!」
女の子を動けない様にして尋問か。全く。いい趣味してるな。
「なぁ…そろそろ私も話していいでしょうか」
すると女の子が何かから開放された様に床に落ちる。
「ほう…貴様は我が身を見てビビってしまい動けなかっただけでは無さそうだなだが、それも時間の問題だ」
突如。私の体が言う事をきかなくなり倒れさる。
「クフフ…体が言う事を聞かずに怖いだろう…次に、これだ」
私の体が持ち上がり、先ほど女の子がいた場所を見させられる。そこにいたのは女の子ではなかった。
「ククク…さぁ、貴様には何に見える…!」
「やめてっ!!その人は関係ないじゃない!!やめてよおおおおおおお!!」
私の目にうつっているのはやはり先ほどの女の子の様だ。
「…おい、なんだ。これは」
さも不思議そうに見ている霊体。
「なんだって、なにがですか?」
「だから!貴様に見えるこの前の女は何者だ!!」
「あぁ…お母さんですよ。それも部屋にあったエロ本を見つけたお母さん」
「は?」
「だから、お母さんですって。えろ本バレた時の」
「はぁぁぁ!?」
心底呆れた様な霊体の声。
「さてと。金縛りにポルターガイスト。それと他の人間をその人の1番怖いものに見せるってとこですか。どうやら最後のは結界外でも効果は持続するようですねぇ」
「むっ?」
「ラム。お願い」
「任せろ!」
ラムは私の体の中に入り込む。すると体に自由が戻る。
「なんだと…!?」
霊体は自分の呪いが解かれたことに驚いた、というような表情をしている。
「私は実は霊体にもう取り憑かれちゃってるんですよ。なのであなたくらいの呪いなら解けてもらえるんです」
「い、いやまさか…貴様、契約書か!」
「そのまさか。ですね。そろそろお話はここまでにしましょう」
「たかが人間ごときが!!なめるなぁぁぁ!!」
「ラム」
私の前にラムが行く。私は手に神経を集中させ、「気」を高める。そしてそのままラムにむかって拳を振り下ろす。
ラムの体に穴が空き、空いた部分の体が飛んでいく。
「ぐわぁぁぁぁ」
「ラム、次」
次に両手に集中。ラムを両手に持ち形をイメージする。牙。上下に生える、鋭い牙。
「や、やめ、やめろおおおお」
「うおおおおおおお」
霊体に近寄り、手にできた牙で喰らう。
「ああああああああ」
どんどんと霊体が私の体に取り込まれ、最終的には消えていなくなった。
残ったのは元の教室の景観と、放課後の元の姿の女の子だった。
「さて、見苦しいところをお見せしました。怪我は無いですか?」
女の子の方を向いて笑顔で話しかける。
「えっ!?あっ、はい…!」
「よかった。その様子なら、私のことも普通の人間に見えますね…?」
「はい。はい。見えます…」
女の子の顔には1つの涙の道。
「今まで怖かったでしょう。家族も友だちも、何もかもが怖い中。よく絶望せずに強く生きました。あなたは、よく頑張りました」
「うっ、うぅ。ううぅ…」
いつからなのかはわからないが。
自分にとって最も恐ろしい者に見える世界。
周囲の人が。友だちが。家族が。好きな人が。なにもかも姿を変えて周囲を動く。
襲ってこなくても外見が怖いというだけですら一般人にはおぞましく、恐怖するものだったであろう。中には、死んでしまいたくなる程に。
女の子の長く苦しい呪いは解かれたのであった。




