☆9☆ ヤンデレ幼女
日の出の暖かな光が窓から差し込んできて、その光によって徐々に意識が覚醒してゆく。
あれ?昨日は何があったんだっけ?
あぁ。そうか。そう言えば変な腹黒幼女と出会ったんだっけ?
それにしてもさっきから何か手に温かくて、微かに柔らかい感触がするんだが……。
目を開けてみると、長い黒髪の幼女が目と鼻の先でスヤスヤと眠っていた。
この娘の慎ましやかな胸を無意識の内に揉んでいたらしい。
元々この幼女は目鼻立ちが大層整っており、まるで森にいる妖精さんのようだ。
ただ、今の体勢が少しだけ特殊だ。
この幼女はいつの間にか、俺のベットに忍び込んでおり、俺の手がこの幼女の胸を揉んでいるという体勢になっている。
しかもこの幼女は何故か現在、全裸だ。
俺はいつの間に裸の幼女を自分の布団に引き入れて寝る変態になってしまったのだろうか?
それよりも、
これ人に見られたらヤバイんじゃね?
「おっはよーだぞっ!!バカ執事!!」
あっ…………。
「えっ…………。」
気の抜けた声を出しながら王女メロアの顔が愕然とした表情に染まる。
「お、おはようございます!王女!」
俺は爽やかに、一糸纏わぬ幼女を布団の中で抱きかかえながら爽やかに挨拶をしてみた。
抱きかかえたら、王女にはバレないかな?とか思ったけど、やっぱダメだったらしい。
「なっなっなっなななななななっ!」
おっと、これは、いやぁぁぁぁぁとか言いながら走り去って行くパターンか?
もしくはこちらに殴り掛かって来るパターンか?
ドキドキ。反応が楽しみだぜ!
布団の中で裸の幼女を抱きかかえながら、それを目撃してしまった幼女の反応を喜々として見守っている俺は真性の変態なのかもしれない。
ちなみに俺は真性の包茎ではない。
仮性包茎だ。この違いはとても大きい。
が、そんな事はどうでも良い。
「わ、妾も今日からアルシュと一緒に裸で寝るから!そんな変な幼女に妾、負けないからっ!!」
バタンっ!
王女はそうディアナに宣言して部屋を出て行った。
予想外の切り返しだったな………。
なんかとんでもない事を王女は言っていた気がするが、
ライバル?宣言された当の本人であるディアナは気持ち良さそうにまだ寝ている。このまま寝かさせておいてやるか。
その前に服を着せておかないとな。
そう思って、俺はこの幼女を持ち上げてベットに移そうと、手をのばした。
〜サイドチェンジ〜 (視点変更)
(アルシュレット→昨日の夜中のディアナ)
あれ?私…寝てた…?
朧げな月明かりに照らされて、目が覚めてしまった。
身体が、12歳の幼女の身体になってしまってからは、どうしようもなく身体全体がだるい…。まだ1日も経ってないけど。
私は本来19歳だったのだから7歳程若返ったのだ。そう考えると、忌まわしき”あいつ”に身体を小さくされたのは良かったのかもしれない……。いや、良くは無いか。
その魔法のせいで私は魔法が使えなくなった上に、”あいつ”の名前を口にできなくなり、挙句の果てには、心の中でさえも”あいつ”の名前を思い浮かべる事が出来なくなってしまったのだ。
そして、私の知っている過去は全て魔法で口封じされていて、日常会話も、思っている事と正反対の言葉か、嘘紛いの言葉しか吐けなくなってしまうという呪いを”あいつ”にかけられているらしい。
昨日、アルシュ達が夕食を食べている間に紙に過去に私が経験した事を書こうと試みてみたが、それもダメだった。
下手したら無意識の内に”あいつ”に言葉を操られている可能性もある。
そんな、思い浮かべる事も出来ない”あいつ”の事を考えながら、ディアナは斜め45度下の床で、布団を敷いて眠っているアルシュレットをチラリとみた。
はぁ。まぁ地道にアルシュに”あいつ”が誰かを探って貰うしかないか…。
アルシュなら何とかしてくれる!
今は記憶喪失して、自分自身の事を忘れているようだけれど…。
アルシュが今仕えているクソ王女とか、周りのバカで弱そうな仲間達は別にどうでもいい!
アルシュだけがいてくれればそれで良い!
あぁ、アルシュレット大好き。愛してる。
あぁ、なんであなたはアルシュレットなの?
あぁ、なんであなたはそんなに強いの?
魔法力だって、本当は、ザナディア帝国有数の魔法の使い手とかなんとか、謳われている私の魔法力なんかより遥かに上。
貴方がたまに劣等感を感じている仲間なんて、貴方の強さに比べればみんな、私と同レベルのカスよ?それこそゴキブリ以下。
でも貴方は覚えてないのよね?貴方自身の事を。そして私の事も。
記憶喪失しちゃったのよね?
あぁ、もう自分の思っている事全てを貴方に伝えたい!!
でもあのクソ野郎の魔法のせいで嘘まがいな事か、思っている事の正反対の事しか伝えられない!!
でも大好き!唐突だけど!貴方の名前を心の中で呼ぶ度に心がワクワクしてくるわ!
この身体になって直ぐは、本当に記憶が混濁していて何も覚えてはいないけれど、貴方と城へ帰っていく所からはハッキリと貴方との会話”だけ”を覚えているわ。
他の奴らが何言ってたかなんて正直、記憶の欠片も無いけど。
緊張したのと、後は”あいつ”の魔法のせいで今日はキツく当たっちゃったけど、ごめんね!
あぁ、もう大好き!アルシュ!
ハァ、ハァ…。なんかアルシュレットのかわいい寝顔を観てたらなんか興奮してきたかも。ちょっとだけならいいよね?ちょっとだけなら!
そう自分に言い聞かせながらディアナは服を静かにそっと脱ぎ、全裸になって熟睡しているアルシュレットの布団に入ってそのまま抱きついた。
そしたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
☆
そして、朝。
……なんか……身体が温かい…。
背中に自分のよりもずっと大きくて温かい掌の感触がする………。
そして、愛しい声が聞こえてくる。
「それにしても何で全裸でこの娘は寝てたんだ?しかも俺の布団で……。」
んっ?
あっ………これは……ヤバイかも…
(全裸で抱きつきながら寝てしまっていた事が)
バ、バレた?
ちょっと抱きつくだけのつもりだったのに!アルシュの体温を直に感じてたらいつの間にか寝ちゃってた!!
段々と昨日の、もしくは今日の淫らな行為の事を思い出してきて、冷水を掛けられたかのように頭が冴えてきた。
しかも服着せさせられてるし!
いっ、一応、言い訳ぐらいはしておこう。
「お、おはよう。アルシュレット。」
そう私が言った瞬間、ビクッとアルシュの体が震えた。
「うわわわわわわっ!ディアナ!起きてたのか!悪い!俺、別にディアナの裸を見るつもりはなかったんだ!ただ、裸で寝てたから、布団だけで眠ってたら風邪引くだろうと思って!!服を着せとこうかなと思ったんだ!冷静に考えたら布団被ってるだけでも風邪は引かないよな!すまん!」
あぁ、なんて優しいの!アルシュ!
貴方は悪くないのに!
だが、あの魔法のせいで本心とは裏腹の事を口走ってしまう。
「本当にそうよ。アルシュレット。貴方、バカじゃないの?」
あぁ、もう!そんな事欠片も思っていないのにっ!
「で、ところでディアナ、何であんな格好で寝てたんだ?しかもあんな所で…」
と、アルシュレットは少しだけ頬を染めながら、疑わしそうに言った。
ギクッ?
「べっ別にあれよ、あれ。寝相よ。寝相。私、寝相がものっそく悪いの。後、暑かったのよ!」
我ながらにこんな言い訳は通じないと思うけど、これしか無い!
「ふぅん。そうだったのか。俺がなんかしちゃったのかと思って結構心配したんだが、それなら良かったよ。」
!?
はぁ…。そうだったらどれだけ幸せな事か……。
「そんな訳ないじゃない!もしそんな事になったらショックで自殺しちゃうわ!ホント、地獄の鬼のような想像するわね!アルシュレット!」
また、要らない余計な一言を言ってしまった…………。
「そっか、そうだよな…。じゃあ、朝食に行こうぜ。」
よっ、よかった…。何とか納得してくれたみたい。記憶喪失したアルシュが鈍くて助かった。
でも、朝食に行くという事は、朝から
精(液)でカタリあおうぜアナるごみ王国(聖カタリアナ王国)のクソみたいなメンツの顔を見に行くということよね?王国の名前からして卑猥だもの。
そんな胸糞悪い光景を朝から見るのは嫌だ。
朝から晩までずっとアルシュの超、超、超、ちょーーーーーーっ
カッコいい顔だけを眺めていたいっ!
「いや、私は行かない。あんたが、朝食をここに持って来なさい!朝からあんたと一緒に朝ご飯なんてたべたくないしっ!」
そんな事思う訳ないのに、そう言われたアルシュは少しだけ寂しそうな顔になった。
「そっか……。分かった。持ってくるよ」
いやぁぁぁっっっ!そんな顔しないでっ?!
そして、アルシュは部屋を出て行った。
はぁ、まぁ代償は大きかったけど、アルシュに朝食をもってきて貰えるならそれでもいいか……。
そう思いながら、アルシュを待つ事、数十分後。
コンッ、コンッ。
やった!アルシュが来た!
「おーい、入るぞー?」
あれ?声が女?
ガチャ。
扉からピンク髮のツインテールで、エメラルドのような瞳を持ち、悔しいけど可愛くて、守りたくなるような雰囲気を醸し出す少女が朝食らしきものをトレーにならべて、それを持ったまま部屋に入って来た。
アルシュじゃない………。
そう思った瞬間、
軽い絶望感によって、今まで軽かった体が嘘だったかのように重くなる。
「なぁ?お主がディアナ?っていうやつなのか?あのバカ執事に”朝食をディアナ持って行ってやって下さい”。と頼まれたので、持ってきたんだが?」
「そうだよ!私がディアナだよ?朝食ありがとう!おうじょ様っ!」
なにアルシュの事をバカ執事呼ばわりしてんだこの雌豚?
あぁ、主なら私が一番、相応しいのに!!いや、私がアルシュの主なんてそんなのおこがましい!
私なんてアルシュの首輪付き奴隷肉便器が一番相応しい!!
なにそれ!?なんかドキドキするっ!
「ははっ、感謝するが良い。それと、あのバカ執事と一緒に寝れたからといって、調子に乗るでないぞ!今日から妾も一緒に寝るからな!」
なんなの?こいつ……。友達的ライバルかなんかなの?
それともアルシュの肉便器?
こいつ超馴れ馴れしいんですけど?
「うん、今日は一緒にねようね!おうじょさま!ところで、アルシュレットはいま、どこなの?」
「?アルシュならもうとっくに仕事に向かったぞ?テリアとフレイアと一緒に?」
アルシュに群がるあのハエ共か……
昨日、一目見た瞬間あいつらは害虫だと判断が付いた。早く駆除しないと、アルシュが汚れてしまうっ!
この王女達ぶっ殺したらアルシュ、私に付きっきりになったりするのかな?
あははははっ!
「そうなんですか!わかりました。」
「では、妾は失礼するぞ。書類の整理や見定めなどがまだ残っているからな!」
「えぇ!ありがとうございます!おうじょさま!」
こんな、アルシュをバカ執事呼ばわりする肉便器でもちゃんと仕事をこなしてはいるんだな。と、ぼぉっとクソ王女を見送りながらそう思った。
私もちゃんと本音が言えて、アルシュに好意を示す事が出来れば、ちゃんと好きだって伝えるのに…。
まぁ相手にとったら、まだ知り合ったばかりの私に告白されても迷惑だろうが。
私は
”私が生まれたときから”
彼の事を知っているけれども。
告白しようにも、
”あいつ”のあの魔法のせいで、真反対の事か、嘘紛いの事しか言えやしない。
幸か不幸か、感情だけが純粋に顔に出せるのだが。
「はぁ………。」
私は誰もいない部屋で、誰にも聞こえない溜息をついた。
そして、気分転換にアルシュのにおいが染み込んだ布団に潜りこんで、スーハースーハーしようと思い、ディアナはベットから立ち上がった。
☆
ディアナがこんなことをしている間に仕事は順調に進み、
生誕祭準備期間2日目、
3日目
4日目
と、過ぎ、生誕祭3日前の、準備期間5日目のことだった。
アルシュレットにとって、とても重要な事が起こる事となる。