☆5☆ 黒髪のテレポ幼女
「大丈夫ですか?王女様?」
「あー、アー」
王女は現在、軽くアイデンティティクライシスらしい。最早言語を成して居ない。
そして目が酷く死んでいる。
普段は澄んだ緑色の緑柱石の様な眼が、今は緑色の鼻水の様に濁っている。
警備兵とルシアに探しに行かせたが、彼奴らはこういう事に関しては果てし無く無能だ。戦闘とかなら彼等の得意分野なのだが。
結局約3時間かけて俺一人で、鍛冶屋に籠っていた王女を見つけ出した。
あのジジィ、王女と長く居たいが為に俺達に何も連絡を寄越しやがらなかった……。どれだけ俺が王女を探したことかあのジジィに思い知らせてやりたい。
そしてあの入れ歯と共に今すぐ墓に葬ってやりたい。
辺りはすっかり暗くなりポツポツと街の黄色い街灯が点き始める。
いつの間にか空には街灯の灯りに負けずに光り輝く無数の星が浮かび上がっていた。そう言えば久し振りかも知れない。こうしてちゃんと星空を見上げるのは。
「…(星が)綺麗ですね…王女様。」
「へっ!?わたしっ!?」
……。まさかこう切り返してくるとは……。
「そうです!王女様、とてもお綺麗です!!」
「えっ?あっ!いやぁぁぁぁぁ!」
……。どうやら言葉を間違えてしまったらしい。
王女はまたもや顔を真っ赤にして夜道を走って行ってしまう。ていうか、王女のキャラクターが崩壊してないか?
そう思いながらも俺が王女を止めようとした時、その声は突如に聞こえてきた。
”随分と聖カタリアナ王国第3王女と仲睦まじいようね、アルシュレット=マクレアス。”
「!?……。誰だ?」
これは……魔法か?頭の中に直接声が響いてくる。
”さぁ?誰でしょうね?ふふっ。”
「まぁ誰でもいいか。」
何故俺の名前を知っているのか、などいくつか疑問に思う点はあるが。
”!良くないでしょ!?なんか詮索しなさいよ!?”
「うっせぇな〜。誰でもいいだろ?生憎俺は今忙しいんだよ。オレオレ詐欺か宗教勧誘なら余所を当たってくれ。」
そう俺が歩きながら言った瞬間、
ドゴォォォォォッ!
俺のいる数十cm先から2メートル丈のタケノコが地面から勢い良く(俺を刺し殺す勢いで)生えてきた。
「?!危ねぇぇぇぇぇぇ!!!死ぬっ!」
”聞きなさいって何度も言ってるでしょ!”
いや、言われてませんけど!?
「死ぬ所だったじゃねぇか!?殺す気かごらっ!?ラリってんのかごらっ!」
通行人から見ると、一人で”殺す気かごらっ!?”とか叫んでいる俺の方がラリっているように見えているだろうが。
”早速だけど本題に入るわ。わざわざ言葉を貴方の頭にトランスさせて話しているのよ?その上、私には時間が無い。心して聞きなさい。”
唐突に何言い出してんだ?こいつ…。最早訳が分からないんだが。
んっ?ちょっと待てよ………。
…”トランス”?
こいつ…トランサー(空間転移者)か?
トランサーはこの世界にほとんどいないはずだ。トランスはあの忌まわしきザナディア帝国が組み上げた魔法であり、よってザナディア帝国の民にしか使えない。その上にその魔法を使える者が限られている。
「お前、ザナディア帝国の人間か?」
そう気付いた瞬間に心臓の心拍数が段々あがっていくのを感じる。
”ふふっ、そんな事はどうでもいいわ。”
「すぐに失せろ。」
少しマズイかも知れない。このままこの謎の女と絡んでいるのは。
”あら?随分と嫌われたものね?折角忠告しに来たのに?”
「………………。」
俺はその言葉を無視してそのまま歩き出す。
”まぁいいわ。言うのは2度目だけど、もう私には時間がないの。あと少ししか”このままの状態”で話せない。だから勝手に単刀直入に言っとくわ。
貴方はもう時期私達の味方につく。
そして、私達の中でトップの座に立つの。この事はもはや確定事項。貴方はそうなるの。だから、貴方には私達のために行動して貰わなければならない。■■には気をつけなさい。あいつは本当にとんでもない奴なの。
分かった?”
全くわかんねぇ…。その上に■■の部分が全く聞こえない。なにをいっているんだ?
”くっ!あいつの妨害魔法か…?もう時間がない。じゃあね。アルシュ。また”元の状態”で会える事を願ってるわ…。”
「どういう事だ?」
唐突に色々と話されて、今頭の中が混乱している。
「ふにゃわっっ!!」
「!?」
さっきから頭に鳴り響いていた声が幼くなったような声が突然後ろから聞こえてきた気がする。気のせいか?試しに俺は後ろを振り返ってみた。
すると後ろには、長い黒髪で、髪にはウサちゃん髪飾りを付けており、体型は大層小柄な、紫と黒が混ざったアメジストの様な瞳を持った少女が立っていた。
7才くらいか?さっきから俺にダークな大人の女性?っぽい喋り方で語りかけていたのはこの娘か?
「ひゃ!?なんかあの人が後ろ見てるよ?がんみされちゃってるよ?ていそう の きき をかんじます!テレポ!テレポ!あれ?トランスできない!!」
……………………。此奴か。
「あのー、君何才だい?迷子になっちゃったんだね?」
「テレポ!テレポ!テレポ!テレポ!テレポ!テレポ!テレポ!テレポ!テレポ!…
「…………。おーい?」
「テレポ!テレポ!テレポ!テレポ!テレポ!ヤバイ!できない!」
「とりあえず、大丈夫か?」
「大丈夫だしっ!トランスぐらいできますしっ!」
なにか困ってそうだが、この娘は恐らくザナディア帝国の人間だ。だが幼女なので危険度は低い。はずだ。幼女に悪は無い。が、…助ける価値など無いな。うん。帰ろう。いや、だが……。しかしな?
そう迷っていると、前方から腹が空いた時に鳴る音が少女のお腹から聞こえてきた。
ぐうぅぅぅぅぅ、きゅるるる。
「お腹へったな……。朝からなんにもたべてないな……」
うん。かえ、
「このまままた”のじゅく”か…変なおじさんにおそわれたりしないかな?でもいいや。もうこんな生活なれてるもん!」
うん、
「そして、アルシュはこうかいしました。そのいたいけな少女を見捨ててしまった事を。あの時おれが救っていれば、あの娘は生きていただろうに……」
「クソっ!分かったよ!!俺がお前を連れて帰ったら良いんだろ!?」