■19■ 絶望の宴の開催者
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明かりと呼べるものが蠟燭3本しか無く、太陽の光が差し込まない地下の薄暗い部屋の中で、男女の声が響く。
金髪碧眼の男がその女に語りかけた。
「どうしますか、殿下?後二日で生誕祭は幕を閉じます」
その男はその女に対して冷静に敬意を払いながらそう言った。
「そうねぇ、やっぱり最終日に色々とやっておきたいから、今から手を打っておきましょうか?」
と、撫子色の髪をした女が妖艶な微笑みと共に答えた。
「”ヘノシディオ”、は生誕祭最終日に行うのでしょうか?10年前もそうなさっていたと思うのですが」
”ヘノシディオ”スペイン語で虐殺という意味だ。
「えぇ、そうね。ヘノシディオは最終日に行いましょう。その為の布石を今日中に仕掛けておくわ。そうすればザナディア帝国は憤って、軍隊の準備を整えてから最終日辺りに攻め込んで来るでしょう」
「そう……ですね」
男は多少の罪悪感でも感じているのだろうか?少し沈んだ顔で、女に対して相槌を打った。
「あははっ!そんなショボくれた顔しないっ!私には今、圧倒的に他人の絶望が足りないのよ。10年に一度の機会じゃない?アルシュレットに毎晩、魔法で悪夢を見せる事によって得られる絶望だけじゃあ全然満足出来ない。はやく愚かなザナディア帝国の兵士を皆殺しにしたくてしたくて堪らないの。このままだと退屈すぎて死んでしまうわ、あっ、ぶっ殺すのは別にザナディア帝国の市民でもいいわよ?」
その女は愉快そうにしながらツインテールの髪を揺らして言った。
「具体的に殺す人数は如何程にしましょうか?」
「はぁ?それ位自分で考えなさい。相手がキレるぐらいの人数よ。100人か1000人位?ていうかたまんないのよねぇ、最初憤慨しながらノコノコとこの聖カタリアナ王国に攻めてきて無様に死んでいくのを城の頂上で寛ぎながら観察するのは。あんなゴミ帝国がこの王国に勝てる訳がないのに」
「はははっ!御趣味の悪い事で」
目鼻立ちの整った顔をしたその金髪の男は、10年前のヘノシディオ(虐殺)を思い出して、呆れながら軽い皮肉を女に対して放った。当時その男は8歳だったが、あの一方的な虐殺を今でも鮮明に覚えている。
「皮肉はいりませーん、欲しいのは絶望オンリーでーす、あっ!それと、ディアナ=セレスティアに対する布石も今日打っておくから」
と、緑色の眼をキラキラさせながらその女は言った。
「承知致しました。殿下」
そう言い残して、金髪の男は去って行った。
その直後、薄暗い部屋に一人取り残された王女は長々と思った。
ディアナ=セレスティアを今日捕らえて、2日後の生誕祭の最終日にアルシュレットの前でぶち殺せば、アルシュレットは私にどの位の絶望を与えてくれるのだろうか?
まぁ、アルシュレットに10年前の記憶を返してあげてから、ディアナを殺すのもまた一興。恐らく発狂する筈よ。
あぁ、でも”また”アルシュレットの記憶を改竄しなきゃいけなくなるな……面倒くさい。今まで何回アルシュレットの記憶を改竄して来たのだろうか?
ザナディア帝国の民を虐殺する度にアルシュレットだけが”王女っ!それは間違えてますっ!!”とか何とか言って歯向かってきたから、その度に記憶を”編集”するしかなくなっちゃったのよね……。
もう、ホント、アルシュレットは可愛いんだから。毎回、毎回、毎回、
毎回、絶望しながら私に歯向かってきたりして。
今年で326年生きた事になる私にとったらアルシュレットなんて高が21年しか生きていない若造。あの純粋さが良いっ!
ま、私の見た目だけは14歳の純粋そうな幼女?の姿なんだけど。
私は前世からの記憶を引き継いでいるから、精神年齢は326歳どころの話ではない。
まぁそんな事はどうでも良いか。
私にはやることがある。私がこの国の全権力を握っているからだ。
王は?とか思うかもしれないが、この王国に王とか存在しない。アルシュレットは、”女王陛下を殺した奴を暴いてやる”とか思っているっぽいが、そもそも女王という存在も元々存在しなかったのだ。
記憶を改竄されたアルシュレットの戯言。
今、実質、この王国の王となっている奴は、ザナディア帝国出身の奴だ。確か名前は………、忘れちゃった♪
趣味の拷問をする為に、ザナディア帝国の、妻子持ちの市民をテキトウに捕まえてきて、それから、
”見逃してくれっ!僕には守るべき者がいるんだっ!”
と、クサくてウザい事をほざき始めたので、バラバラ死体にした、そいつの妻と子どもをみせたら、気が狂っちゃって、ギャーギャーうるさかったから殺して、それからテキトウに記憶を埋め込んで、私がその死体を操っているのに過ぎないのだ。
要するに今の国王は、ザナディア帝国出身の、妻と子どもを無惨に殺された、哀れな市民の死体であるのだ。
ただの私の人形。
この事は”アルシュレット以外”、”皆”知っている。まぁ、勿論この王国の国民とか、そこらへんのモブとかはこの事を知らない。
聖カタリアナ王国の国民も、趣味のために結構殺したが、その遺族は、ザナディア帝国の仕業だと思いこんでいる。
昔、私の教育係をしていた鍛冶屋の爺さんは、この王国の真の有様の事を知っていたが、今は色々あったので、あいつの記憶を改竄した。(1回爺さんは既に殺している。)
だが、何故か本来の記憶を取り戻しつつあったので、私は理由をつけて城を抜け出して、鍛冶屋”inferino”に侵入し、爺さんをもう一度殺して、テキトウな記憶を埋め込んで、操れるようにしておいた。
何故わざわざ、あんな回りくどい事をしてまで、城を抜け出したかというと、爺さんが大層、ルシア以外の者達から慕われていたからだ。例を挙げるとすれば、グスタフ将軍などの強者達の事だ。
流石にそんな慕われている奴を実質殺したとなると、そいつら(グスタフ将軍達)から怨まれる事となる。これだけは避けたかった。
だからルシアに協力して貰ったのだ。
怨まれずに爺さんを殺したければグスタフ将軍達の記憶を改竄すればいいじゃないかと思うかもしれないが、一般人には殺さないと記憶の改竄が効かないのだ。
流石にグスタフ将軍達を殺すのは私にとっても損害を被る事となる。
あいつらはあいつらだからこそ、利用価値がある。
まぁ、一般人の事はどうでも良いのだが、生きたまま記憶の改竄が効くのは何故かアルシュレットだけなのだ。
その点から考察してみると、恐らくアルシュレットは私の把握していない何らかの力を持っている筈だ。
私はアルシュレットの10年前の記憶を奪ったものの、その中身を探る事には”ほぼ”失敗してしまった。要するに、アルシュレットの10年前の秘密を探るには、記憶を元に戻してやって、その様子を観察するしかない。
最後にアルシュレットの記憶を改竄したのはいつだったかな?
確か……1ヶ月位前よね?
その時に、丁度、ザナディア帝国の生きていた捕虜(女か男かはもう忘れた)の両目の眼球を一つずつ取り出して潰し、腹をカッターで切り裂いて大腸を徐々に引き出してウヒャヒャヒャっ!て、楽しんでるとこをアルシュレットに見られたんだっけ?
そしたらアルシュレットが震えながら
”あの悪行を重ねたザナディア帝国の兵士だとしても!これはやり過ぎですっ!”
とかなんとか言って歯向かってきたから記憶を改竄してやった。
その後からずっとアルシュレットの前では純粋な性格であるという演技をしていたのだ。
生誕祭の最終日に全部アルシュレットにネタバレして、より酷い絶望を鑑賞するために。
この一ヶ月は物凄く耐えた。本来の気性をアルシュレットに隠すという事に。途中で、疲れ過ぎてボロを出しそうになった気がするが。
まっ、それはともかく、嗚呼、生誕祭の最終日がとても楽しみだわっ!!
ディアナに呪いをかけて、最初の布石は打った。そして今から次の布石を打つ。
最後には最高の絶望を私に頂戴。
アルシュレット=マクレアス
何か特別な秘密を持つ者。そして私の一番のお気に入り。
私は貴方の絶望にベタ惚れしているの。
昔は豪華に装飾をされ、光り輝いていたであろうが、今になっては古ぼけてしまっている椅子に座って、肘をつきながら、冷え切った笑みを浮かべている、
” メロア=カタリアナ”
は、どこか、悪魔を従える女神のような雰囲気を醸し出していた。
さてと、布石を打っておきましょうか。
そう独り言を言ってメロアは、
あぁっ!!助けてくれっ!足がっ!足が無いんだっ!
嫌よっ!もう嫌っっ!!右眼だけはとらないでぇっ!!
ああああああああああああああああああああああっっっ!
…聖カタリアナ王国の兵士によって拷問されるザナディア帝国の無実な民の悲痛な叫び声を聴きながら地下牢の奥にある部屋を出て行くのだった。
この程度の絶望じゃ足りない、そう思いながら。
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■これまでの伏線解説■
(伏線は自分で見つけるぜっ!という方は、見ないようにすっ飛ばしてください)
◎主人公が起きる場面には必ず王女メロアがいた。
(メロアは、毎晩アルシュレットに悪夢を見せて、その苦しむ寝顔を楽しんでいた。第1部の冒頭の主人公の夢は、メロアが悪夢を見せ終わった後の夢である。基本的には真夜中に、メロアは毎晩主人公の隣にいたという事です。)
◎第4部の、ルシアと王女の行動は、全て本人達が仕組んだ上での行動です。一見ほんわかしたように見えますが。
あの後メロアは鍛冶屋の爺さんを殺しに行ってます。殺した後は、爺さんの死体に回復魔法をかけて別の記憶を埋め込んで操り人形にしています。
軽くホラーですね(笑)。
◎第5部
ディアナが小さくされ、呪いをかけられる直前に、メロアがいなくなった。
→メロアがアルシュレットの見えない所からディアナに呪いをかけた。
◎
”ザナディア帝国は非道な事をしている、悪の国だと聖カタリアナ王国の国民は認識しているが、実はその事は、
聖カタリアナ王国上層部の自作自演だった。
◎第5部の、爺さんが連絡を寄越さなかった理由→メロアに殺され、別の記憶を埋め込められたから。
◎いつもやたらと出て来ていた、”あいつ”
勿論、あいつ=メロア
◎第6部、ディアナ”5階”の空き部屋
→アルシュレットの”誤解”と、かけている。(第20部で色々あって、アルシュレットは、無実のディアナに対して、不信感を抱いていきます。)
◎第1部、あいつは市場に何しにきてたんだ?のシーン
→フレイア(病んじゃってる)は、アルシュレットの誕生日プレゼントを探しに来ていた。
結局、自分の血液を混ぜたチョコを渡す事となった。
◎第12部、メロアの様子がおかしかった理由→自分の性格とは正反対の純粋な性格を演じる事にさすがに疲れてきた。
◎第17部、メロアがやたらと城に帰りたがっていた理由→あくまで、好きなのは絶望であり、生誕祭の賑やかな雰囲気に耐えられなかった。
などなど、結構伏線を張っていましたが、気づいて頂けたでしょうか?まぁ、まだ回収していない分かりやすい伏線とかが残っていますが。後々に回収します。
これから、物語が加速的に進み、主人公の絶望&決断によって、プロローグが終わります。
段々タイトルが重くなって行きますが、御了承下さい。
プロローグが終わり、主人公達が旅に出る頃には、またタイトルが多少軽くなります。
それと最初、主人公は、鈍感なパッパラパーですが、これから徐々に変わっていく予定です。重たい雰囲気は続けていきませんが。
ちなみに第18部で、朝にメロアが主人公に対して腹パンをしたのは、単にメロアが眠くてイライラしてたからです。
まぁそんなこんなはどうでもいいですが、まとめると、聖カタリアナ王国がゴミ王国だった、という事です。
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