○18○ 郷愁
生誕祭3日目
朝食にて。
「やっぱりシェフの料理は最高ですね」
テリアが口一杯にベーコン&エッグ詰め焼きパンを含みながら言った。
「あぁ、そうだな」
と、俺はテリアに同意した。
「ははははっ!有難うございます。お口に召したら幸いです」
と、シェフは嬉しそうに微笑んだ。
シェフ、56歳、独身、男性だ。
ちなみにこの前の婚活は失敗したらしい。
可哀想に。
「それにしても今日で生誕祭も半ばですなぁ、今日は何の祭でしたっけ?」
とシェフが呟くと、
「今日は恋人祭ですよっ!」
と、フレイアがどこか嬉しそうに返答した。
恋人祭。
国の繁栄は、領土の拡大、富を増やす事など色々あるが、まずは人口が少ないと話にならない。
要するに国作りは子作りからはじまるのだ。
別に上手い事を言ったつもりはない。
まぁ、そういう訳で今日の祭は恋人(子作り)祭なのだ。まぁ恋人的イベントとかは全く無いが。名前だけは恋人祭だ。
世の中の人はその恋人祭という名前をかりて、キャッキャウフフするのだ。
この件に関して一言だけ愚痴を言わせて貰うと、人前で見せつけるかのようにイチャコリャし始めるカップル程ウザイもんはないですよねぇ…。
大抵、公衆の面前で過度なスキンシップを始めるカップルは、oh,fuck.的な感じの奴らが多い。羨ましすぎて、俺もoh,fuckしてしまった。
それにしても、
前世では朝から新宿駅の真ん前でキスし始めるカップルをよく見たものだ。
本人達にとったら幸せかもしれないが、残業明けの俺から見てみたら、もはや殺意の湧く光景でしかなかった。殺意が湧きすぎて俺はoh,fuckしてしまった。
まぁ幸せなのは良い事だと思うけどな、うん。
そう過去を軽く懐かしんでいると、フレイアに話しかけられた。
「ねぇ、今日は私と一緒に恋人祭まわらない?」
(ねぇ、今日こそは私と子作りするでしょ?)
「どうしたんだ?急に?」
フレイアがどこか落ち着きがない。
「ね、いいでしょ?もう準備してるの」
(もう睡眠薬と注射器の準備してるの)
「あ、あぁ。まぁ別にいいけど」
「そう。なら良かった。じゃあ正午にフェーストの中心部にある白い噴水の前で待ってるわね」(貴方が来なくてもずっと)
そう言い残してフレイアは去って行った。
なんか唐突だな………
俺がそう思っていると、次にディアナが声をかけてきた。
「チン○ス」
なんか唐突だな………
どうしたんだろうか?気になったので俺は続きの言葉を待った。
「……………………………」
ディアナはこちらをまじまじと見つめながら黙ったままだ。
???
「生誕祭……アルシュレットと一緒に…」(行きたい)
「?ディアナも一緒に行きたいのか?」
と俺が意思確認すると、ディアナがコクリと頷いた。
流石はモノホンの幼女だ。仕草は可愛い、うへへっ。
まぁ、ディアナはフレイアのことが好きだからな………。
俺とではなく、フレイアと一緒に遊びたいのだろうが。
「うんっ!フレイアと一緒に行きたい!」(うんっ!フレイアを真っ先に蹴落としたい!)
「そっか、なら一緒に行くか!」
できれば王女も連れて行きたかったのだが、
朝ごはんの前に王女を起こそうとすると、”いぃやぁぁぁ!”とか言って腹パンされてしまったので置いて行く事にした。
別に仕返しとかそういう訳では無い。
根に持っている訳でもない。
☆
そして現在昼。
待ち合わせの場所らへんに行くと、噴水の前に御粧しをしたフレイアの姿が目に入った。
「おーい、フレイアーっ!」
周りが祭のおかげで騒がしいのでこちらに気付いてくれるかどうか分からなかったが、どうやら気付いてくれたようだ。が、徐々に顔が青ざめて行く。
「!!、アルシュ……レ…ット」
(なん……で?)
「どうしたんだ?急に顔色が悪くなったぞ?」
「いや、ディアナいるんだな〜と思って………」
「いるよ〜、えへへ」
(フレイアの分際でアルシュとお近づきになれると思うなよカスが、ザマァえへへ)
と、ディアナが猫被りながら言った。
こいつは俺以外には猫被りながら話すが、俺にはその意図が全く分からない。
周りには無邪気で可愛い自分(上司に向かって、係長ぉぉ〜〜☆このシャーペン重すぎて持てません〜〜☆
ふぇ〜ん☆と、訳が分からないが、取り敢えず不思議系&ひ弱系キャラをメイクし、上司に媚びる、そこそこ顔がいけてる職場の嫌われぶりっ子OLみたいな感じ)を演出しているが、俺には物凄く辛辣だ。この娘は。
「すまないな、ディアナが一緒に行きたそうにしてたから」
俺は便宜上なんとなく謝った。
「いや、べつにいいわよ♪」
(ディアナコロス♪)
良かった。もしかしたらダメかなとも思ったんだが、どうやら気に障らなかったようだ。
まぁフレイアとディアナはいつも仲がいいしな。まるで姉妹のようだ。この2人はどこかよく似ている。
「じゃ、行くか」
そして俺達は賑やかで、色取り取りの紙吹雪が舞う都市をいつもの調子で歩き出した。
☆
そして、俺達は1、2時間屋台や、演劇をしている舞台などを回っていると、
偶然演劇を見に来ていたテリアと出くわした。
ちょうど男女の恋について語っている演劇だった。アクエ○オンみたいな雰囲気の演劇だ。テリアは意外とピュアで、そういうものを好む傾向にある。
創○合体が好きかどうかは知らないが。
そのあと、普段引きこもりで一人行動が好きなテリアに、”たまには一緒に遊ばないか?”としつこく誘っていると、”分かりました分かりました、行きますよ”と折れてくれたので、一緒に行動する事になった。人数は多ければ多い程楽しいのだ。
そう思っていると、また顔色が悪くなったフレイアが、屋台で新しく買った包丁を血走った目でエヘヘッアハハハハハッエヘヘッと掛け声をかけながら、研ぎ澄ましていた。
こんな時まで自分の武器に対して気を使う事が出来るという事に、リーダーとしてフレイアには感服してしまう。
「ホント、武道に熱心だよな!フレイアは。マジで尊敬するよっ!」
「………………………………………」
フレイアが唖然とした顔で此方をみてきた。そして何故かディアナが機嫌良さそうにニヤニヤしている。
「あははははははっ!褒めてくれてありがとう、………アルシュレット」
(あははははははっ!やっぱり死体にした方が良さそうね………アルシュレット)
フレイアの青い眼が黒の絵の具を混ぜたかのようにダークに染まっていく。
どうしたんだろうか?
…………………まぁいいか。
俺は気持ちを切り換えて、さっきから笑顔なディアナに声をかけた。
「ところでディアナ、何か欲しいものないか?」
「!?わたし?」
「あぁ。欲しい物があればなんでも言え。俺が買ってやるから!……出来る範囲で」(一度は幼女に何かを買い与えるっていうのをやってみたかったんだよな!)
「………………」
ディアナは黙ったまま、ある物に指を指した。
「この人形が欲しいのか?」
ディアナがコクリと頷いた。
何かデジャブを感じるが、幼女らしくて可愛い。
ていうか、ディアナが無言の時は基本的にいつも素直な気がする。
「すみませんっ!このぬいぐるみ下さい!」
「おうよ、ほい、にぃちゃん、いや欲しいのは嬢ちゃんか」
ごつい、いかにも強そうな色黒のおっさんがそう確認しながら、その凶暴そうな見た目に反して、人形を労るようにそっと渡してくれた。
オレンジ色をしたウサギの人形だ。
古ぼけていて、片耳がちぎれていた。
なぜだろうか。なぜかその人形に対して、俺はある種の郷愁を感じた。
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