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やさぐれ英雄と深き森の中

その森は、暗く深く、道らしき道は見当たらなかった。

しかし全身を鎧に包んだガドルードを先頭に、その後ろをカイトがついていく。

ガドルードのすね当てがガシャリ、ガシャリと音を立て、落ち葉と土とが混ざり合った大地を踏みしめた。

「目星はつけたんだ、あとは足で稼ぐしかないだろ。」

カイトは言ってのけたが、この二人で見知らぬ森に踏み入れるのはほとんど命知らずな行動と言ってよかった。

カイトも森に踏み入れることがどれだけ危険かを知らなかった訳ではない。

しかし……。

しかし、現実問題としてこの先に進むにしても、森の近辺を通っていくしかないことをわかっていたのだ。

路銀だけではなく、不案内な土地を通る必要もあることを考慮に入れていたのである。

だからと言って、真っ暗な森をあてどもなくさまようのが賢いというわけではなかったが。


ガシャリ、ガシャリ、陰鬱な森に金属のこすれる音が響く。

「本当にこれで見つかるのですか。」

ガドルードがさすがにうんざりという顔でカイトを振り返った。

「さあな、だが尋ねてきてくれたヤツがいるようだぜ。」

カイトがガドルードではなく、前の方を見ている。

ガドルードが目を凝らすと、木々が揺れているのが見えた。

いや、木々が揺れ動いているのではない、木々の間から、歩み出てくる者があったのだ。

角のようにそびえた木の枝で作られた髪飾り、木の皮や葉から作られたと見えるドレスは、自然の色合いながらも

流麗な印象を見るものに与えた。何より纏っているその人が何よりも美しく感じる。

切れ長の目に、白い肌は森の中に紛れるために緑色の“化粧”が施されていたが、透き通るようだった。

耳が切れ長であるところを見ると、エルフであることが分かった。

手足はすっと長く、体つきもほっそりしている。

しかし、胸元の様子から、その人は女性であると思われた。

「“我ら”の森に何のようだ?客人よ。守られた森に意味なく足を踏み入れるほど無能というわけでもないようだが。」

落ち着いた、しかし険のある声で二人へと告げた。

「ドルイドだ。森で暮らし、自然を守る僧だ。」

困惑顔のガドルードにカイトが答える。いや、それが訊きたかったことだろうか、わからない。

「旅の二人組だ。良ければ森を案内して欲しいんだが、君みたいな美しい人ならなおさらだ。」

カイトが彼女へ向かって言う。歯の浮くような台詞だが、彼女は眉ひとつ動かさなかった。

「戯言を。旅するものが鎧をまとっているものか。」

ガドルードの全身鎧は明らかに旅装とはかけ離れていた。彼女は手に持っていた杖のようなトーテムで大地を打つ。

カイトとガドルードは肩をすくめる。

カイトは彼女の方へとにじり寄りながらさらに口を開く。

「この森はドルイドが守る森なのか?……ずいぶんと鬱蒼としてしまっているが。」

「お主らが関与するところではあるまい?」

彼女は取りつく島もない。

「名を名乗ってなかったな、オレはカイト、こっちのデカ物はガドルードだ。」

ここにきて彼女は明らかに逡巡を見せた。しかし、しばらくトーテムを握りしめた後に口を開いた。

「……ディーナ。ディーナ・エルキンシア。」

彼女、ディーナはしぶしぶ自分の名前を二人に告げた。ガドルードは軽く頭を下げる。

「逆に聞くが……。」

カイトがいぶかしげな顔をしてディーナに言う。だしぬけの質問にディーナは眉をひそめる。

「なんだ」

「ドルイドの森ならドルイドが一人だけというのはおかしい。大抵ドルイドは集団生活を共にし、森全体を守るはずだ。」

「先ほどからお主の話を聞いておると無闇に事情に詳しすぎやしないか。」

「いや……」

ディーナの質問にカイトが逆に逡巡を見せた。ディーナは胡散臭げな様子を隠しもしない。

ガドルードが口を開きかけたその時、カイトが沈黙を破った。

「オレは森育ちなんだ。」

森育ちって。それで説明がついてしまっていいのか、その線で押してしまって大丈夫なのかとガドルードが思ったとき。

「森育ちでは仕方ないな。」

ディーナは納得した。それで納得してしまっていいのか。ガドルードは逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

カイトはため息をつくと、しぶしぶ先を続けた。

風が吹き、木々の枝が揺れ葉がさざめく。森の空気が変わっていく。

「近くに村があってな、そこはゴブリンの襲撃に悩んでるらしい。それでオレたちが来たんだ。ゴブリンどもを全滅させに。」

「お主らが?」

「そうです。この森のどこかに潜んでいるはずです。」

ガドルードがここにきて初めて口を開いた。ディーナがガドルードをひと睨みすると、再びカイトを見る。

「だとしても、お主らの手におえるとも思えないがのう。」

「そうかな。」

カイトが肩をすくめて見せた。ディーナは今度はカイトを睨むと続ける。

「わからんか、ケガをしないうちに森から出ていけと言っておるのだ。」

「そうはいかない。約束しちまったんでね。それと、ウロウロ歩いてるだけのドルイドが役に立つとも思えんし。」

カイトは逆にディーナを睨みながら言った。ガドルードは冷や汗を流している。このドルイド僧を挑発してなんになる、無謀だ。

「このドルイドを愚弄するか。森の守護者たる。」

ディーナは肩をいからせ、カイトへ厳しい声を上げた。

「森の守護者がゴブリンみたいなのさえ手を焼いていると見える。愚弄はしないが、役に立つとは思えないね。」

カイトはさらに言葉を続けた。ディーナの手はトーテムを強く握りしめ震えている。

「おのれ、これ以上の暴言は許すまいぞ。命乞いしても遅かったと後悔するがいい。」

ついに<エルフ>は持っていたトーテムを掲げ、構えを取った。ドルイドは二人と戦う気だ。

カイトは肩をすくめ、口の端を持ち上げる。

ゴブリンではなく、森の守護者を名乗るドルイドと戦うことになってしまった。

ガドルードは困惑しながら、大盾を引き上げ持ち直した。

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