一話
選択肢は3が選ばれました。ご協力ありがとうございます。最低2人は死にます。
まどろみと言って良いのだろうか?
暗い、ただただ暗い。目を開けていないからだ。いや、それだけでは無い。目を閉じていても光は感じられる。
だが、今は一切の光も感じられない。
ならば、此処は暗い密室なのだろう。そうでなければ、これが死後と言う奴なのだろうか?
背中がごつごつした壁に寄り掛かっているのは感覚で分る。感覚が在ると言う事は、此処は死後の世界ではなく紛れも無い現実なのだろう。
心なし寒い。体が冷たいと感じている地面と壁、空気も湿気ている。そして、どこかカビ臭い。
(洞窟? 廃墟はこうじゃない。まだ、無機質だ。)
体中に広がる倦怠感が目を開く事を拒む。
少し、体を動かした。違和感だけが残る。身動ぎしただけだが、肩や腹、そして足に痛みが無い。有るとすれば痺れの様なモノが在るだけだ。
目を瞑ったまま体の点検をする。こういう訳が分らない時は自分の体の状態を把握するのに限る。嫌がろうにも現実が待っているからだ。
訳のわからない状態、状況で慌てると長生き出来ない。…碌でもない生き方をしていると糞度胸だけは付いていく。これが感覚のマヒだとすれば…緩やかな自殺なのかもしれない。
唯一、今まで感じた事の無い圧迫感が首に有る。自分の鼓動を聞き数えながらゆっくりと目を開ける。
案の定だが、何も見えない。だが、此処が洞窟と言うのは正解の様だ。近くに水脈が在る所為でこれだけ湿気ているのだろう。若しくは川の下を通っているかである。
また、難儀な場所で目を覚ましたモノだ。
手足は投げ出したまま、自分の鼓動だけを数える。
百数え、三百を過ぎてようやく目が成れ始めた。薄ボンヤリとなんとなく眼前が見える。
大凡の目算だが、横幅は4m弱、高さは5m程の空間だ。
(中々に大きな自然の洞窟か? それにしても…)
違和感が在る。
ゲリラに武器や物資を卸していた時も、こういう自然洞を使っていたが…此処はどうも人の手が加えられている様な感じがする。
それに気づいてしまうと嫌な予感が首筋を撫でた。思わず首に手を当てる。
其処でさらなる違和感に気づいてしまう。
感触が違う。
コートの袖で触ったのだからそうなのだろう。いやいや、待て、少し待て。
問題は其処じゃない。否、それも問題なのだが…手の感触が違う。
自分の体を弄る。靴を履けていない。ベルトの位置が違う。服の袖が長すぎる。
何よりも…あぁ、何よりも首を触れば三十路過ぎの男なら確実に在るであろう物の感触が全くない。
(おいおい、死んだと思ったら体が縮んでいた? 何年前のジャパニメーションだ。)
頭を抱えたくなるが、これが現実だ。今は悩む前に動かなくてはならない。この状況下で悩んで時間を潰すのはスマートではない。
(取りあえず、持ち物の確認をするか…やれやれ、ジッポは手放しちまったからなぁ。)
あぁ、一体何がどうしてこうなったんだ?
side out
無料奉仕。それは給金無き強制労働の別名である。
そんな事を思いながらウェインは偽・迷宮の探索と中に屯う魔物の間引きを行っていた。
それは他のパーティーメンバーも同じであり。適正と言われても気が抜けない緊張感の所為で精神的に疲れ初めて居た。
「あぁーもう。潜るんならDじゃなくてD-だろ…旨くないけどさぁ」
少々小柄な男が周りを警戒しながら呟く。
「しかたねぇよ。ギルド長…っても別の町のだけどよぉ。そんな立場の人間に言われたらやるしかないじゃん…これで食ってるんだし。」
同意しながらも仕方が無いと溜息を吐く腹が出始めている男が道具の確認を行いながら淡々と歩く。
「大体、あんた達が騒ぐからでしょうが!!」
怒鳴る白髪の女の声には呆れが混じり、パーティーリーダーであるウェインは苦笑いしながら
「まぁまぁ、過ぎた事は仕方が無い。今後はもう少し自重して貰うとして…どの道、間引きの時期も近かったんだから良いじゃないか。見つけたお宝は持って行って良いんだし。」
この四人は幼馴染であり冒険者だ。
そして、今この四人が居る迷宮は≪デミ≫と呼ばれる偽物の迷宮である。
このデミは古い砦や塔、或いは森等が迷宮化したモノであり単一種族しか存在しない異界である。
迷宮との違いはその広さだ。このデミと言うのは広くても上下合わせ100階層、狭いモノなら10階層しかない。
デミではなく本物として認識されている迷宮は最低でも上下合わせ200階層までは確認されている上に、魔物の種類も多種多様。勿論強さもである。
宝のランクも違うと言われれば違う。
が、冒険者達からすればどちらも潜れば最低限金に成る事は理解して居るから潜る。
旨く行けば財宝がっぽがっぽ。人の欲望は果てしないと言う奴だろう。
そして、ウェイン達が潜っているのは地上7層、地下7層、計14層のデミであり此処に生息している魔物はゴブリン族である。
人の子供より少々大きいサイズの邪鬼科小鬼に分類される弱いが数が多い魔物である。
ゴブリンは弱い。
冒険者からしてみればだが。しかし数に囲まれると命の危険が増大するという厄介な魔物だ。
「…そろそろ、5層だ。今回は此処で引き返すぞ」
「そうね。全体でみればDランクだけど…此処から先は下級のCランクと変わらないって言うし」
ウェインとマリーはそう判断する。
「いや、もういっその事6層まで下りた方が良いだろう? ゴブリン程度なら数に気を付ければ逃げれるし、6層の地図までなら持ってきてる。」
「あぁ、何よりも其処らへんまで下りてかせが無いと赤字だ」
魔術師は金がかかるんだよ…と情けない事をムンド、腹が出ている男が言う。
「いや、まだ行けるはもう駄目だ。それが基本だろ? カンパしてやるから戻ろう」
ウェインはそう言う。
「いや、進もう。宝の臭いがするし…本当に赤字だ。前回分の報酬は有るが、そろそろ武器も防具も手入れの時期が来てる。ムンドなら姿隠しの魔術も使えるし、俺も気配遮断や危機感知のスキルを持ってる。」
ザックは真剣にそう言う。
確かに武器防具の手入れ…本格的な手入れが必要だ。前回の報酬では少々足りない…次のクエストの為の道具類を購入しなければ手入れは出来るが…
「………」
「ふぅ、ウェインの悩みは分るがカツカツ過ぎるのは良くない。後が無いって言うのは死に物狂いに成れる条件の一つだけどよ、焦ってミスして死ぬのは避けたい。だから、二手に別れよう。ウェインとマリーは先に帰ってギルドに報告。俺とムンドはもう少し探索して帰還する。」
ザックの提案にムンドが合わせる
「それが良いと俺も思う。俺とザックは隠れる術も逃げる術も持ってるからな。いざとなったら直ぐに逃げるさ。」
二分ほど考えウェインは
「そうしよう。簡易魔術書は?」
「ザックが二つ、俺が二つ。魔晶石は…後九回は使える。」
「それなら十分ね。ヤバイと思ったら直ぐに逃げる事、絶対よ? 遺品回収に来るなんて嫌だからね」
そう言って彼等は別れた。
side out
(あぁ~…碌なもんが無い)
俺がしたのは荷物の確認と服を着直す事だ。スーツのズボンは捲り上げて、ベルトに新しく穴を開けて居る。上着も略同じだが、コートは腰に巻いて更に其処から捲り上げた。
手持ちの荷物は軍用ナイフ、タバコ、予備のライター、食べかけの携帯食量にソーイングセット。
本当に碌なもんが無いな…まぁ、大分マシな部類か。水が無いのが痛いな。
(取り合えずは出口を探すか、無暗に歩いても拙いが…飲み水を探す事も考えて置いた方が良いな)
脱いだシャツを二等分に切り足に巻きつける。立ち上がり、余り違和感を感じなく成るまでソレを繰り返す。
違和感を感じなく成ったらソーイングセットから針と糸を出して縫い合わせる。
(足の裏を怪我するのは拙いからな…あん時はマジで死ぬかと思った)
一つ一つの行動が、過去からの失敗談を思い出させてくれる。コレはとてもありがたい。
今では考えられない様なミスをして死にそうに成った。
仲間のミスで死にそうに成った。
女にカマ掛けてたら殺されかけた。露はマジで怖い。
戦場でお産に立ちあわされた。女性は本当に強い。
(碌でもない事ばかりだな…)
まぁ、らしいか。薄いが濃い人生。今回の事でまた濃いく成ったな。
「さて、年甲斐も無く冒険と行きますか」
ライターに火を付けて一瞬だけ周りを確認し、壁に手を当ててゆっくりと歩き始める。
数歩歩いた所で首に在った圧迫感が強く成った。手を当てても何も無い。
(気のせい? いや…)
数歩歩く。首の圧迫感は変わらない。立ちしゃがみを繰り返してた所為かとも考えたがどうにもおかしい。
もう数歩歩く。圧迫感は変わらない。
また歩き始める。ジャリッっと音が成った。そして、首の圧迫感の正体が分かった。
(首輪? ソレに鎖?)
数瞬前まで無かった筈のモノが現れるこの魔化不思議な現象を、魔法と呼ぶのだろうが…
(マジか…)
それよりも、鎖がどこまで伸びているのかが気に成った。後ろを振り向き鎖の先を探る。
大人一人が余裕で隠れる大岩へ向かっている。
(爆弾とかに繋がってるとかは勘弁してくれよ…もう、赤と青の配線で悩むのはこりごりだ)
ゆっくりと近寄る。目測で九m弱…だいたい半分ぐらい進むと鎖も首輪も消えた…が、圧迫感は無く成らない。
慎重に近づく。鼓動が速く成る。
大岩に着いた。その下に鎖は続いている。丁度子供一人なら入れそうな窪みが在る…何かに追われているなら隠れられるなと、考えてしまった事に何故か笑いたくなった。
ゆっくりと中を覗いてみれば
「oh shit…」
何処の糞ったれだ!!
其処には白い布に包まれた赤ん坊が小さな寝息を立てて眠っていた。
それじゃ、仕事に行くかぁ